病院に寝泊りする研修医約1名

国家試験に合格すると,医師免許を習得し,はれて医者としての第一歩を歩み出すこととなるわけです。果たして,幾多の難関を突破した若者達には,バラ色の人生が待っていると思いきや,医者としては全くのドシロウト。免許を持った暴走族まがい(何をしだすかわからないという意味,ポリシーを持っていらっしゃる暴走族のみなさんごめんなさい)と言ってはあまりにも無毛な気がするが,しょうがないと言えばしょうがない現実がある。

先輩先生方の診療や,患者さんに直接接しながら,技量としての医学を学んで行く,それが研修医と呼ばれる期間だと思う。

聞くところによると,日本での研修医の扱いはまだいい方だそうで,アメリカなんかじゃあ,夜も寝れない,家にも帰れないというのが当り前らしい。それこそそんな辛い思いをしながらでも自分の目指す理想の医師像を追及していくのだ。

僕も研修医の頃は,当直でもないのに病院で寝泊りをして,当時の先輩先生(実は当時の教授)に「帰りなさい!毎日病院にいたらいかん!家庭を大事にせにゃならん!」とえらい剣幕で怒られたことがある。でも僕の本当の気持ちは「家に帰ったって誰も待ってないし…」とかえってさびしい気がしたものである。

最近の若者は根性がないとよく言われるが,うちの若い(くもない?)研修医の一人はそれこそ病院を棲みかとしているヤツが約1人いる(根性とは関係ない?)。以前一緒に仕事をしていた某麻酔科の先生も,病院で風呂に入っているのを何度も目撃されていて,ひょっとして病院に棲んでんじゃあないか?と思っていたが,たまには家に帰っていたようだった。けれどこの研修医は,ストーブが壊れているとか言ってアパートに帰っている形跡がない。旭川は11月ともなれば暖房が必要となる日が多々ある。冬になれば氷点下20度,日中も氷点下の真冬日といった日がほぼ毎日となる。ということは,彼は一体いつから自分のアパートに帰っていないのだろう?

実は密かに(といっても本人にはもうバレているが)ガサ入れをした。すると,ガス,電話は止められていて,唯一連絡手段である携帯電話も料金不払いで不通状態(したがって彼と連絡をとるには病院に電話を入れるしか方法がない)。最も驚いたことは,彼の部屋ではハエが凍死しているのが発見されたという事実である。このガサ入れ後も彼は自分のアパートに帰ったという話しは聞いていない。噂では,彼もプライドがあってアパートに帰ってみたものの,あまりの寒さに車の中で一夜を過ごしたそうである。

彼の根性は人一倍強いと僕は思う。けれどそれだけ根性があるのなら,ストーブくらいなんとかすればいいのに…。

今日も彼は当直でもないのに病院に泊まっている。春からは他の病院勤務となるが,彼にはアパートはいらないかも知れない。心底病院での仕事が好きなのだと僕は思ってあげたい。

最後に付け加えておくが,病院にいる時間と仕事量とは比例するとは限らないことを明記しておく。(これは僕自身のことでもあるのだが…)