望月太喜之丞 Website/ タキノ庵 <暮らしのツケ帳>

 


03.03.02up


タキノ庵世界紀行<2003 フィリピン大学ワークショップ その2>

03.01.06(月)

 外から帰ってきたら、フィリピンから電話がかかってきたそうです。我が家では私以外は英語を解するものがおりませんのでそれしか判りません。やっと私を呼んでくれるメドが立ったのかと思ったら、ザヤス先生から飛んでもないメールを受け取ることになってしまいました。


03.01.07(火)

 ザヤス先生からのメールは、昨日は空港でサンドラがずっと待っていたのだが、どうした?というのです。これには私も目がテンでした。慌てて返信して確認を求めますと、とにかく早く来いというのです。

 確かにスケジュールは昨日から空けてはありましたが、私の渡航費のことやスケジュールのこと、それに荷物のオーバーウェイトについての対策も何も決めていないのに飛行機のチケットを購入してしまう訳にもいきませんし、また自腹を切ってボランティアで行くこともできません。私はプロですからこれはしてはいけないことなのです。

 メールが来るのを待っていてもラチがあかないので、とりあえず東音会の野口さんに電話して、古くなった唄扇子を分けてもらいに行きました。フィリピンの唄方のメンバーがジュリアナ扇子みたいなヤツを使っていたことを思い出したからなのですが、何かしていないと落ち着かなかったということもありました。


03.01.08(水)

 午前中、杵屋三左衛門さん(三七さん改め)にもお電話をして、野口さんに続いて古い唄扇子を分けていただきに行きました。

 まだフィリピンからの返事は来ません。切符を買ってもよいのかどうか、あらためてメールを打ちました。


03.01.09(木)

 夕方4時頃になって、私の昨日のメールに対してようやくザヤス先生から「Definitely yes.」という返事が来ました。慌てて一番早いマニラ便の切符を入手するべくH.I.Sの事務所に電話をして神保町の支店に飛んでいきました。

 電話であらかじめ調べておいてもらったら、希望の便は週末のせいか全て満席。唯一、明日の午前のJAL便に空席がある、とのことでした。私としては一日、準備をしたかったのですが、来週の月曜日に出発しても3日しか時間がとれないので、背に腹は代えられません。翌日の朝便に乗る決心をいたしました。


03.01.10(金)

 また、朝早くに成田へ出かけることになってしまいました。普段の心がけが悪いからなのね、きっと…

今回は荷物の重量制限が厳しいので、家からは極力薄着にして出かけました。向こうは暑いですからね。でも、夜明け前の東京駅は寒かったです。

 本日のJL741便には2階のエコノミーはありませんでした。「リゾッチャ」という花柄のジャンボでした。何年か前にテレビのCМに出てたやつですね。あのCМ、好きだったなあ。4時間ほどでマニラに到着。

 税関も無事に抜け、待ち合わせの場所に急ぎます。迎えに来てくれたのはサンドラとマウロでした。こんなに早く再会できるとは思いませんでしたので、嬉しかったです。

●タテ鼓 ERL
●小鼓 JULIUS

 途中でハンバーグをかじって、4時頃ホテルに到着しました。このたびは前回のチャンセラー・ハウスが借りられなかった、とのことで大学構内にある「University Hotel」に泊まることになりました。シャワーからお湯が出るそうです。

 ホテルを荷物を開いて一休みする間もなく、6時に稽古場へと出発です。今回の日程では、音楽の稽古は「勧進帳」の本番が行われる大学構内の劇場のリハーサル・ルームで稽古をすることになっているとのことです。

 前回のワークショップからひと月たって、メンバーが若干替わっています。せっかく教えたことをまた最初から教えなくてはならないのは、辛いものです。

 三味線は3人。レイとマルコは前回も教えたのですが、J-JO(ジェイジョ)は新しく入りました。彼は最初、芝居の方の黒子を務めていたのが、三味線にコンバートしてきたそうです。マルコから教えてもらって少し弾けるようになっていました。

 囃子はエールとジュリウスに加えてランディとゴルジ、それに都合で役を降りてしまったボーアに替わって大鼓にはジャンが入りました。

 9時近くまで稽古をして、夕食はサンドラがつき合ってくれました。シシグや名称不明の肉料理、ガーリックライスにビールを頼んでテンコ盛りにテーブルの上をにぎわせて310pって、約700円かヨ!オイ!


03.01.11(土)

●唄方

 朝8時ピッタリに目が覚めてしまった。ホテルの一階にあるパティオにて朝食。No.3の67pのメニューを頼んでのんびり食事をしていたら、庭の向こうの通路を真新しい乗用車が走っているのが見えました。そういえば街では古い車ばっかり見かけるような気がしてるんですけど、この国でも新車ってあるんだよな(アタリマエ!)。ここで新車を買うのって勇気がいるような気がします。みんな、運転が粗っぽいし、走ってる自動車を見るとあっちこっちボコボコにへこんでる車が多いですから。

 12:00にディアナがピックアップに来てくれました。昨夜、サンドラと食事したレストランの近くでビュッフェスタイルのランチをいただく。

 そういえばディアナとゆっくり話をするのは初めてです。

 彼女は英語があまり得意ではないと言います。また、母上の友人のご亭主が日本人とかで日本語を少しだけ知っています。

 15:00から稽古開始。新人のJ-JO(ジェイジョ)にお三味線の手ほどきをします。すでにマルコがあるていど教えてくれていて、バチの持ち方と姿勢を直したらあっという間にマルコと同じくらいに弾けるようになってしまいました。

●レックスとJ-JO

 彼も勘がいいなと思ったら、マルコと同じくギターが弾けるそうで、バンドもやっているそうです。

 前にも書いたと思うのですがこの国では伝統的にギターを弾くことがごく普通なタシナミ、とでもいんでしょうか、とにかくギター人口が多いんです。似たような楽器である三味線に対してもおっそろしくカンがいい人が多いです。

 マルコはコツコツ練習してくるタイプで、間違えると自分を許しません。その場で汗だくになって何度も弾き直します。対してJ-JOは間違えるとこっちを上目遣いで見てニコッ(このニコッがカワイイので、つい許してしまう)と微笑んでゴマカすんですが、次に弾くときにはほぼ完璧に間違えません。こいつは天才だ。人が弾いてるのを見てると何となくわかっちゃうんだそうです。

 唄の連中にクダンの唄扇子を配ったら、大喜びでした。タテ唄のレックスはもうタテ唄らしい風格さえ出てきました。

●ザヤス先生のお宅にて

 囃子のレッスンはトッタン拍子を中心にしました。新人のゴルジやジャンは汗だくです。女の子で勘のいいIMMAにやらしてみせて、「できないとお前達はクビだぞ」と脅かしながら稽古をすすめました。かわいそうだけど時間がないので仕方がないんだ。許してくれ。

 ディナーはザヤス先生の家にご招待。一緒に暮らす言語学のベッカ先生とサンドラの4人で宴会でした。


03.01.12(日)

 また8時少し前に起きてしまった。今朝は涼しいです。朝食はハッシュドビーフと目玉焼き。

●パティオの皆さん

 11:00からパティオでマニラ新聞の取材を受けました。JINAさんやNADSらが同席してくれたからよかったようなものの、記者のCORAさんはとっても早口のオバサンで、彼女の英語は私にはほとんど聞き取れませんでした。

 お昼はそのままパティオで済ませて、稽古へ。

 ここのパティオのスタッフはなんだかいつもニコニコしてます。写真をとろうとしたらみんな照れちゃってたいへんでした。

 稽古を録音するようにしたらどうかと思ったのですが、ほとんどの学生が録音できる機械を所有していません。日本ではMDがもう主流になりつつありますが、こちらでは録音ができるカセットテープを持っている学生すら珍しいのです。

 20時までがんばって稽古をして、IMMAとMAULOと3人で鳥料理屋さんへ。ホントにこの国の料理は私に合ってます。何喰っても美味しいもの。


03.01.13(月)

●サンドラ

 8:30起床。9:00にサンドラが朝食を持ってきてくれました。美味しいパン(名前を忘れました)と彼女が作ってくれたお総菜で一緒に朝食です。

 今日は12時からレッスンということでランチは11時から。JURIUSと肉をいただきました。

 レッスンは人が多く、16時までにはヘロヘロになっていました。ホテルで軽い夕食(チキン・ヌードル)をとって、18時から演劇科の教室で芝居の練習に立ちあいます。

 教室に入ると今日は日本の新聞社の取材があるというので一時間ほど待ちました。

 記者の方もみえ、さて始めようかと思ったら、ここで大問題が起きました。演劇科のマベサ先生がおそらく取材を意識してのことでしょう、唄方の台本を取れと言い出したのです。

 長唄では唄方は唄本を見ながら唄うのは普通なのはご存知の通りですが、特に今は唄方はみんな、ローマ字の台本に複雑な節回しやらキッカケやらを書き込んでチェックしている最中だというのにこの暴挙。

●弁慶 ニール
●富樫 ニムロッド

 これにはアタマにきました。さっそく抗議するとマベサ先生、ガンとして曲げません。ようするに取材のために見た目をすっきりしたいのでしょう。JINAさんを通してこれが正式なんだと説明してもダメ。「いつもこうやっているし、見た目が汚いからダメだ」というのです。じゃあ、三味線や囃子が譜面を出してるのはいいのか、と追い込んでもダメで、しまいに私は「用が無いようだから帰る」とまで言いましたが、JINAさんが泣きそうなので仕方なく折れることにしまして、そのかわり、私はストライキをすることにいたしました。稽古の最中、一切三味線を弾くのをやめたのです。

 音響のスタッフに怒鳴ること2回。すっかりみんなをビビらせてしまいました。日本人の記者さんも自分のせいではないかと心配してくださったのですが、そうじゃないんです。大人げないと言われても仕方がありません。私、こういうのだいっ嫌いなんです。さすがにあとで自己嫌悪になりましたが...

 俳優達の演技は前回見た時よりもさらによくなっていました。なにより、セリフが日本語として聞き取れるようになってきました。振りもきちんとレッスンを受けたので洗練されています。気迫も充分あってとても稽古とは思えないほどです。


03.01.14(火)

●大鼓 ジャン
●小鼓 ゴルジ
●タテ三味線 マルコ

 午前中の参加者はマルコとJ-JOのみ。みんな授業を抱えながらのレッスンですからたいへんです。二人には「延年の合方」を教えました。

 ランチはイリーンと大学の近所の食堂(ここが安くてウマイ!)で豚の舌をいただきました。

 本当は午前中に昨日の新聞社の方がみえて取材の予定だったのですが、15時にホテルで取材を受けることになりました。偶然ですが、サッカーの読売チームの松木康太郎元監督の話しから、記者氏のお姉さまのご亭主がどうも私と学校時代の同級生であるらしいことがわかりました。私、松木元監督とは小学校で同級だったのですが、有名人の同級生を持つとときたまこういうこともあります。

 18:00からの稽古は音楽の担当キャストがほぼ全員が揃いました。大鼓のジャンは昨夜のことがあってか、ちょっとビビってました。

 本日のディナーはサンドラ、マリコと3人でペルシャ料理屋へまいりました。


03.01.15(水)

●お囃子隊
●長唄囃子連中

 本日は事実上、稽古の最終日であります。午前中はオフで午後からお稽古を開始しました。

 最初はお囃子隊をテッテー的にシゴいて、後半を三味線チームに時間を割きました。最後はビデオをみんなで観て、テンポやキッカケを再チェックです。もう、アトがないのでみんな必死です。

 19時から芝居の稽古をみました。今日は唄方に譜面を出させて、私も三味線を弾いて、とりあえずなんとか少しでも形になるように稽古を進めました。やはり三味線が入ると俳優達の動きも違います。

 明日は私は帰国するので皆が打ち上げを開いてくれました。

 お店で、一昨日の私の大人げないストライキについて、みんなに謝りました。そうしたら、「アレはセンセイ(私のこと)の方が正しい」と却って慰められてしまいました。宴会は夜中の1時過ぎまで盛り上がりました。


03.01.16(木)

 7時に起床。急いで食事を済ませて9時半からザヤス先生の新しいオフィスで最後の稽古をつけました。

 泣いても笑ってもこれが最後。悔いはいろいろありましたが、私としてはベストは尽くしました。後はみんなの努力しかないことをしつこく言い置いて、後ろ髪を引かれる思いで帰国の途につきました。

 初日の幕は2月の28日に開きます。



03.03.01(土)

 朝、私の元にフィリピンのJINA先生からメールが届いていました。

Dearest Mochizuki Sensei,

Thank you for all your help and assistance.
I just want to report to you that opening night was a successful one. The 2,000 seater theatre was packed.
The national artist for Music was in attendance. He even asked to be introduced to me. I felt so flattered.

All the hardwork, pain and expense paid off because now there's hope for Asian Theatre in the Phils.
They loved the music and the costumes from Tokyo.
If it were not for your support the music would have never been played live.

We called your name during the curtain call--we said that you could not join us last night.

Once again thank you for your unwavering support!!!
We could not have done it without you.

Sincerely,
Jina


・Picture 2003/1月 'フィリピン大学ワークショップ その2' 1 2 3 4 5


http://www.bekkoame.ne.jp/~takinojo/
E-Mail: takinojo@vir.bekkoame.ne.jp