タンポポ

音に聞く 鼓ケ滝を打ち見れば
       河辺に咲きし 蒲公英の花

「蒲公英」は「タンポポ」のことです。こう書くの、ご存知でした?

 私は「鼓草の会」というお稽古場の会を主催していますが「鼓草」というのは俗にいう、この「タンポポ」のことなんです。

タンポポ

  つぼみの形がツヅミに似ているから名がついたとも、葉を含めた全体を上から見た形が鼓面ににているのでともいいます。またこの花を上下に茎を絡み合わせると鼓のようになり、これを持って鼓を打つまねをしながら「タンタンポッポ」と言って子どもをあやしたことに始まった、ともいいます。これには鼓の音を「カンポコ」と歌ったという説もあります。

  遊びといえば、起源が古いと思われる遊びの一つに、タンポポの茎を折ってウィンナーソーセージを蛸にするように両端を少し割り、それを水に入れるとその割った部分が丸く反り返るのを見ているという、素朴な遊びがあるそうです。 その形をやはりツヅミに見立てて、という説もあります。古くは「 ふちな 」とか「 たな 」と呼ばれていたようです。

 小鼓の出す音色には大きく分けて「タ」という甲の音と「ポン」という乙の音の2種類があります。でもって、「タンポポ」というのはこれ、小鼓の音からきている「鼓草」の俗称、ということなんですね。

  民俗学者の柳田国男さんによればツヅミのことをを指す幼児語がこの「タンポポ」であったとしています。つまり、演奏された鼓の特徴的な音を言葉で巧みに写生してできた幼児語だったのですね。

 他に綿毛が拓本に使うたんぽに似ているからとの説、茎から花にかけ ての形が、柄の先にたんぽをつけた稽古用のたんぽ槍に似るからとの説などがありますが、私としては「鼓草」という名前とのかかわりからついた名だと思っていたいのです。


 ちなみに英語ではDandelion(ダンデリオン)といいます。フランス語の「dent de lion 」つまり「ライオンの歯」という意味の言葉が語源だそうです。これは葉の縁がギザギザでまるでライオンの歯のように見えることから付いた名前だそうで、ドイツ語の「Loenzahn 」も同じ。私はずいぶん長いこと「ダンデーライオン」って読んでて「ダンディーな雄のライオン」のことかと思ってました。長屋のクマさん状態ですね、恥ずかしい... ライオンとタンポポじゃ随分差がありますものね。ちなみに当のフランスでは「pissenlit」といい、これは「おねしょ」のことなんですね。タンポポの葉や根には利尿作用のある成分があります。そのことから、この名前がついたのでしょう。


 蒲公英は菊科の多年草で、繁殖力の旺盛なこと実に驚くべき植物で、どこにでも定植してふえます。ただし私たちがふだん目にしているのは、ほとんどが外来種の四季咲きの西洋蒲公英。一株に二百もの花がつく外来種に対し、花つき一株平均五・六十というのが在来種です。

 四国や九州に分布するのがシロバナ蒲公英、関東以西に多いのが黄色いカンサイ蒲公英。ほかにヒロハ蒲公英、エゾ蒲公英、ミヤマ蒲公英、シコタン蒲公英など在来種は二十種類ほど。こんなに種類があるものなのですね。

 戦争中に代用食糧の研究に当たっていた帝室林野局北海道試験場の記録には、蒲公英の葉の茶、根のコーヒーなどの開発結果が残っています。たんぽぽはビタミンやミネラルが豊富だとか。日本たんぽぽは西洋たんぽぽよりもアクが強く、葉も硬めで湯がいてから料理するんだそうです。


 私の主催する「鼓草の会」というのは会の名前を付けるときに漢和辞典で「鼓」という字を調べて、その中にこの「鼓草」というのを見つけて非常に安直につけたものです。

「ツヅミグサノカイ」でも、またこれを「タンポポノカイ」と読んでもでも、どちらでもいいことにしてるんですが、不思議と若いお弟子が「コソウノカイ」、お年をめしたお弟子の方が「タンポポカイ(ノがない!)」呼ぶことが多かったのが少しおかしかったです。


 最近、この名前に関するちょっと面白い話をみつけました。

 落語家の三遊亭円窓師匠が落語協会の機関誌「ぞろぞろ」に執筆なさっている「咄はどこから」というエッセイに書かれていたのですが、「鼓ケ滝」という落語のなかに「タンポポ」にまつわる和歌がうたわれているというのです。それが冒頭の「音に聞く鼓ケ滝を打ち見れば河辺に咲きし蒲公英の花」という歌なのです。

 落語のストーリーは旅の僧が鼓ケ滝を見て「音に聞く鼓ケ滝に来てみれば河辺に咲きし蒲公英の花」と詠んだものを、草刈の老人に「打ち見れば」と鼓の縁語で詠んだほうがよいと、歌上手が一介の草刈に教えられたというような話なのです。師匠によればこの逸話は「鼓ケ滝」という能にもなっていたのだそうで、こちらではこの草刈りが実は滝の精だったというオチがついています。

 元の歌は平安中期に発行された「拾遺和歌集」の巻9に「鳴る山川」と題して「清原元輔、肥後守に侍りけるとき、かの国の鼓の滝という所を見にまかりたるに、ことやう(異様)なる法師の詠み侍りける。音に聞く鼓の滝を打ち見ればただ山川の鳴るにぞありける」と掲載されているそうで、ここにも鼓の縁語として「音」「打ち」「皮(川)」「鳴る」などの言葉が並んでいます。

 私としては元歌よりも落語で使われている歌の方が「タンポポ」という言葉が含まれていて好きなんですけど、どちらにしても「鼓ケ滝」ですので嬉しいんです。ツヅミガタキ...タキ...ほら、きっと私のことでしょう?

02.02.02

close