タキノ庵顛末記


1999年の日本音楽集団のアメリカ・ツアーでは思うところあって東京から蕎麦を持参しました。

正月に芝居の仕事で浅草にひと月出勤しました折に、仕事場の近くの蕎麦屋で毎日のように盛りそばを食しましたところ、体調(特にお腹の)がすこぶる良好であったためです。

 麺は岩手県の武田製粉製麺の「かくさん・干しそば」。知人からいただいて家で茹でてみたら、これがなかなかの美味でありまして、ことに蕎麦を茹でた後にできるそば湯の風味が非常によろしかったのが大きな理由です。乾麺というものは生産するときに大量に塩を混入させるのか、市販のものはたいがいそば湯が塩辛くなってしまうものなのですが、この「かくさん・干しそば」からできるそば湯はほとんど塩辛くなりません。

 というわけで急遽東京に託送させてスーツケースに同梱いたした次第であります。

 大きめのタッパウェアにくだんの干麺を6袋(12食分)、醤油唐辛子、割ばしを10数膳詰めました。意外と重かったです。

 あと、それとは別にプラスティック製のザルにソバ猪口を入れてスーツケースにしまい込みました。

 この蕎麦を旅行用の鍋で茹でて食そうというのです。

 出発の前々日、東京で実験いたしましたところ見事に失敗をいたしました。

 まず、麺の長さが鍋の口径よりもだいぶん長くてはみ出してしまうので思い切って半分に折ってみました。これは正解。

 初めは鍋のパワーが弱くて、湯が沸騰しきらない内に待ちきれず、麺を入れてしまいどうも上手に茹で上がりませんでした。

 取り出した蕎麦はモソモソしていて、粘土を噛んでいるようでした。ただ、濃厚な蕎麦湯ができ、これで蕎麦焼酎を割ったらうまいだろうなと思いました。

 実験では失敗したものの、とりあえず蕎麦セットをスーツケースに入れて出発しました。

 醤油のペットボトルはダシ昆布を入れるために一度フタを開けてしまいましたので、少々心配でしたが、しばらく横にしておいたら案の定、フタの所から凍みだしてきました。フタの締具合が足りなかったのかもしれませんが時間がないのでビニールの袋で包んで輪ゴムで念入りにパッキングしました。

 Columbusに着いて早速取り出してみますと漏れは皆無でした。

 後に、横にしておくとどうしても漏れ出すことが解り、なるべくタテになるようにスーツケースに入れるようにしました。

 アメリカ合衆国ではコンセントの形状は日本のそれと同じですし、電圧もほとんどが120Vですので日本製の湯沸器はそのまま使用できました。この湯沸器、電圧が高いと内部で自動的に切り替えて電圧を調整してしまうので、どこへ行ってもあまり神経を使わなくても良いのが長所です。

 さて、この蕎麦作りでもっとも困ったこと。それは使用した電熱器の冷まし方でした。

 少し冷ませば、そのまま片づけても大丈夫なのかもしれないのですが、私は心配性なので電熱器の熱がこもってスーツケース内の衣類が焦げやしないかと気が気ではないのでした。ドライヤーで風を送ってみたりしてなんとかして冷まそうとしてみましたが、これではその間何もできませんし、また急いでいるときに限ってなかなか冷めてくれないものです。

 これは冷たい水を鍋に満たして、電熱器の上に乗せておくことで一気に解決しました。ものの2〜3分でひんやりと冷めてくれますし、他の用事もできるというものです。

 1日1食のつもりで12食分を用意したのですが、仲間にごちそうしたりしていたら中日ぐらいにはほとんど底をついてしまいました。

  そこでロサンゼルスで、知り合いの日本舞踊の先生にお願いをしまして、麺を補給させてもらいました。ロスでは日本人の居住者が多いせいか、大概の和食の食材が手にはいります。また、麺だけではなく練りワサビ海苔まで手に入り、モリがザルに格上げとなりました。

 おかげさまで最終公演地のアイオワシティで「蕎麦処・タキノ庵」を開店し、仲間と盛大に「ソバ・パーティ」を開くことができました。

 東京へはサンフランシスコからのANAで帰りました。

 朝のサンフランシスコ空港の、まだ何件も開いていないショップの1軒で、星条旗や猫の顔をデザインしたパスタのパックを発見。早速これを購入し日本に持ち帰りました。これで、「パスタの店・タッキーノス」でも開こうかと思っています。


材料

ロサンゼルスで補給できた食材


  1. 麺の量は親指と人差指でOKマークを作り、その中につかまえるだけの分量が約1人前であります。また、旅行用の鍋で1回に茹でられる限度かとも思われます。
  2. 干麺は鍋に合わせて半分に折ること
  3. 湯は完全に沸騰しているのを見届けること
  4. 麺を湯に放り込んだら、即座に箸で掻き回すこと。(麺同志がくっついてしまうのを防ぐため)
  5. 茹で時間は、今回使用した「かくさん・干しそば」の場合約6分ですが銘柄によって変わりますのでパッケージに記載してある茹で時間を参考にしてください。自分の経験では指でつまんだりして様子を見るよりも、タイマーで正確に時間を計った方がミスは少ないです。
  6. 同じお湯で続けて2度目を茹でるときは茹で時間を長めにとったほうがよいようです(プラス1分弱くらい)。何故か同じ時間では茹で足らないのです。

01.04.06

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