あなたも製本屋さん


 現代曲の演奏家をやってますと、仕事の度に譜面を頂戴することになります。やれパート譜だ、スコアだとテンコ盛りの譜面をコピーでいただくんですね。これは練習日までに自分に譜読みをするのはもちろんですけど、ほとんどの場合、製本をしなければなりません。演奏中にバラバラになっちまうと世界一不幸な気持ちになるからです。


普通の製本

 たいがいの場合、パート譜はA4の用紙に書かれたものを2枚並べてコピーして、見開きA3にしたものを受け取ります。それを谷折で二つに折って、裏面同士を張りあわせて製本するんですが、これ、結構大変な作業なんですよ。

 私は最初、律義に一枚一枚折っては貼っていたんですね。これだと時間がかかるばかりか、貼りあわせた隅がなかなか揃わなくて、見た目が汚くなってしまうんです。

 そこで二つ折りにした譜面を机の上で揃えてクリップで止めてから糊付けをすることにしました。これでだいぶん背のところが綺麗に揃うようになりましたが、この後、放っておくと糊の水分で紙がふやけてしまって、譜面の糊付けしたあたりがシワシワになってしまうんです。こうなってしまうと演奏中にめくりづらいし、何度も開いたり閉じたりしてると背のところが破れてきてしまいます。

 今度は平らなところに製本した譜面を置いて、その上に将棋盤を重しに乗せてみたりしました。すると、将棋盤だけだと重さが足らないらしいんですね。まだシワシワしてしまいましたので、その上に鉄アレイや本なんかを積んだりして一晩置いて乾かすことにしました。これで結構シワシワはなくなりましたね。ただ、重しを探して運んでくるのと終わって片づけるのがとっても面倒なんですよね。

 昔、私はこのシワシワがいやで、糊付けした譜面にアイロンをかけてみたことがあります。これは見事に失敗。アイロンの熱でコピーのトナー(ようするにコピーして文字や音譜など、大事な情報になる黒い物質)が溶けてしまい、向かい合った紙に転写されてしまって譜面としての用をなさなくなってしまいました。

 あと、スプレー糊も試してみたことがあります。これはスプレーした途端にコピー用紙のような薄い紙では反ってしまうのと、空気中に飛び散った糊が用紙の表側にも付着してしまい、譜面の製本には向きませんでした。なにせ表側まで全部くっついちまうんですから。

 と、私はここまで苦労していたのですが、先日、日本音楽集団の打ち上げでこの話をしていたら、若手のお箏のオネエチャンに「最近はシワになりにくいノリがあるんですよね〜」と教えられてしまいました。男のこだわりがわかってねーなぁ...


製本機を使う

 いろいろやったあげく、最近では見開きA3版用の製本セットを作って、それでもって製本しています。雑誌でこういうのをやってる人がいて、うまくいきました。非常にきれいに製本ができます。

 これには約3,000円の投資をしました。

手製の製本機を使った製本


横長の譜面を作る

 この方法は洋楽の打楽器の方から教わった、A4などの用紙を横に使って書かれた譜面(小編成の曲のスコアなんかに多いんです)を見開き2枚になるように製本する方法です。

 譜面を貼っていって長い帯状にしてそれを折り込んでいって製本する方法なのですが、この方法は帯がほんの少しでも曲がってしまうと、仕上がりも綺麗になりません。ちょっと神経を使いますがうまくできたときはナカナカかっこいいです。

横長の譜面を作る


大きな譜面を作る

  • まず用紙を紙テープで見開きの大きさに繋ぎます。
  • テープで繋いだところを谷折にして譜面の裏側同士を糊で貼り付けて出来上がりです。

 私、テープを張るのがヘタクソだもんで、この方法、成功したことがありません。そこで次の方法で譜面を製本、というかバインドしています。


大きな譜面を作る(その2)

 この方法は先ほどの横長の譜面にも使えます。譜面をリングでバインドする方法です。

 見開きB3なんていうサイズはコンビニのコピー機じゃできませんし、後で片づけるのもたいへんですね。だから使うときにはこの方法でバインドして、整理するときはリングを外して二つ折りにして角2の封筒の中に入れます。

  • まず、譜面を順番に裏側同士を合せて糊で貼ります。両面コピーできるならこの作業は必要ありませんが、コピーの順番を間違えないこと。
  • で、順番に重ねておいてクリップで仮に固定し、パンチで左端から1センチ位のところに3ヶ所穴を開けます。
  • ヒックリ返して穴のところに補強用のシールを貼ります。
  • リングでバインドして出来上がり。
  • 堅いボール紙なんかで表紙が作れればいうことがありません。

 このという数が大事で、2ヶ所では譜面がずれやすいですし、4ヶ所では過剰なんです。過剰、というのはバインドするリングの重さで譜面がオジギしてしまいやすいのです。

 余談ですが、ご存知でしょうか。米国製のバインダーは3穴が主流でして、ちなみにNASAの宇宙飛行士達の使うチェックリストもこの方式です。ヨーロッパ製は4穴が、日本では2穴か、26穴とか30穴などの多欠のバインダーが主流なのですよ。


ね、けっこう苦労してるでしょ?

 今でこそスコアから自動的にパート譜までコンピュータが作ってくれるようになったものですが、ちょっと前までは新しい曲のパート譜をスコアから作るというのは、たいへんでした。大枚をはたいて写譜屋さんに出すか、自分で切り貼りをするかしかなかったんです。

 「切り貼り」というのは、スコアをもう一度コピーして、それをハサミやカッターで切り抜いてから台紙に貼って、またコピーするなんて手間のかかる作業のことなんです。元のサイズが大きいときは「縮小コピー」なんて技も使ったりして。最近では大きなサイズのスコアなどでも、スキャナで画像として取り込んで、パート譜を作るようなことができるようになりました。

 コピーをして驚くほどサイズを小さくしてしまっても、手書きの譜面というのは機械が書いたものよりも読みやすいのですね。なんていうか、譜面にいきおいがあってそれが流れとして見えてくるんです。コンピュータのプリントは確かに美しいんですが、音符に個性がないので繰り返しが多いときなんか自分の位置を見失いやすいです。

 今度日本音楽集団の演奏会にいらっしゃることがあったら、ぜひ、みんなの使っている譜面を注意してご覧になってみてください。けっこうシワシワしてる人、いると思います。

 譜面の製本の仕方を見るとその方の性格がわかるものです。

 概して女性の方がオオザッパでして、日本音楽集団のお箏のオネーサン達の中にはけっこう大胆な製本をしている方がおられるようです。逆に几帳面なのは手前みそではないのですが打楽器奏者(特に男性)に多いんですよ。なんとなくわかるような気がするでしょ?