右利き? 左利き?


 少し前に「左利きでも小鼓は打てるでしょうか?」というメールを頂戴しました。私、お返事を書いていたらすっかり気になってしまいました。
 

ご質問の答えは

 もちろん「Yes」。可能などころか、囃子の名人といわれる方には左利きの方がけっこう多いんですよ。

 私のお弟子の中にも、これまで何人か左利きの方がいらっしゃいました。左利きの方でも小鼓は必ず右手で打つようにお教えするのですが、そのことがそんなに問題になったという記憶はないです。

 一説によると現代人類の左利き比率は、人種や文化にあまり関係なく、平均して10%程度と言われています。また日本では右利きに矯正することが多いので「さらに少ないのでは?」という意見もあります。面白いのは人間だけでなく哺乳類、はたまた蛇や魚にまで右利き、左利きがあるんだそうで、ガクモンとして専門に研究してらっしゃる方もけっこう多いみたいです。
 

囃子方的には

 能の囃子は楽器も奏法も徹底的に右利き用になってます。大小鼓は左手で持って右手だけで打ちますし、太鼓のリズムは基本的に右手が表拍を刻むようになっています。

 太鼓で面白いのは<担ぎバチ>というやつです。「ホォー、イヤァ!」と掛け声をしながら「テン、テン(私たちは天天と書きます)」と打つのですが、これは最初に左バチを右肩に担ぎます。

 この<担ぎバチ>はアクセント的に強く打つことが多いのですが、左手の非力を補うために開発されたという話を先輩から聞いたことがあります。「左手を右肩まで持ってくると打面までのストロークを稼げるから強く打つことができる」というのです。
 

どちらがお得?

 左利きが喜ばれるのは野球の世界くらいかなと思っておりましたら、灯台下暗し、打楽器奏者の世界もそうなのかもしれません。

 右利きの人間にとって左右の手の性能差は歴然としておりますが、左利きの方はそうでもないみたいなのです。これはおそらく、ドアの開け閉めやらはさみの握りやら、一般に… というか普通に世の中は右利き用にできているのが理由なのではないかと推測するのですがいかがでしょうね?

 ですから左利きの方たちは少し訓練すると、左右の手の性能差がほとんどなくなってしまうようにみえます。左右に持ったバチが同じ音をださなくてはいけない打楽器の世界ではこれはとても有利なことです。私なんかいまだにしょっちゅう怒られてます。
 

国際事情

 世界中の音楽人口を思えば「左利きの方が10%」というと相当な人数になるのではないでしょうか。みんなどうしてるのかな?

 ゴルフや野球など、腕と道具を使うスポーツでは左利きは専用の道具を買うことができます。左利きの片用のゴルフセットは質屋さんでは「需要がないから」と安く買いたたかれ、逆に売る時は「数が少ないから」と高く売られるような笑い話がありました。

 ロックバンドやフォークソングとかではギターを逆に構えてた人がいました。たしかビートルズにもそんな人、いましたね。ネックがぶつかって危なくないのかな? まあ、ネックにタバコを挟んで演奏(昔こういう人、けっこういました。今なら即、ライブハウスに出入り禁止?)するよりは安全でしょう。

 ドラムスには逆のセッティングにして演奏する人が多いみたいです。打楽器なら左右の性能差がない方が有利なんであまりセッティングは関係ないような気がしますが、オリコウな利き腕にたくさん仕事をさせる、ということなんでしょう。

 バイオリンやチェロとかのストリングス族はアブナイでしょうから、クラッシックではまず逆にする人はいないでしょう。民俗音楽の人とかにはいらっしゃったみたいですが。

 では管楽器はどうなんでしょうね? 笛や尺八は先生から鏡写しで習ったりして、利き腕に関わらず逆に構える人がいらっしゃるようですが、この辺の事情はいつか聞いてみようと思います。

 長唄や清元の三味線方ではそういうのは聞いたことがありませんが、危ないのでお互いにあまり一緒に演奏したくないでしょう。もしいらっしゃったら、それはそれでセンセーショナルなことかもしれないですが…
 

わたしの彼は… イミテーションゴールド

 昔、麻丘めぐみさんのヒット曲<私の彼は左利き>で「左利きの地位を向上しよう」という話しを雑誌で読んだことがあるように思います。

「当時、左利きには偏見があった」という方もいらっしゃるのですが、実際のところどうだったんでしょうね? 私もあの曲を聴いて「左利きはなんだかかっこいいぞ」と思ったクチです。

 山口百恵さんが歌ってた<イミテーションゴールド>という曲の歌詞の2番だかには「利き腕違う…」っていうクダリがありました。

 おお、女性にとってそんなに利き腕が違うのはたいへんなことなのか? 「去年のひと」と比べられてしまうような重大事なのか? …っていうか、それが問題なのは山口さんだけなのか? いやいや歌の中の人物と山口さんは人格が別ではないか、ではそれはいったい誰なんだ? と、若き日の私は理解に苦しんだものでした。

 理解に苦しんだワリには麻丘さんより山口さんの方が好きだった私ですが、この問題はこれ以上掘り下げるとまた理解に苦しみそうなのでやめましょう。
 

バカなマンガ

 子供のころに読んだ漫画でこんなエピソードがありました。

 貧乏な孤児たちをお金持ちが食事に招待するんです。その中の一人がフォークとナイフを逆にしているのを見て「やっぱりお育ちのよくない子は…」みたいなことをいわれちゃうんですね。

 それを聞きつけた孤児たちの先生は「この子は左利きだからこれでいいんだ!」みたいなことをいって、反論するんですね。私も当時は子供心に「そうだそうだ!」って思ってました。

 しかしよく考えてみるとこれ、危険です。フォークをもつ左手は皿の上の料理を固定するため動きませんが、ナイフを持つ右手の肘は食べ物を切るにあたって忙しく動くことになります。その中に一人だけ左の肘を動かしてたらどうでしょう。もし肘が当たってしまったら危ないのではない?

 このことは江戸時代の侍が必ず刀を左腰に差して道の左側を歩くようにしていたことにも通じます。うっかり刀の鞘を相手の鞘に当ててしまうことを<鞘当(さやあて。そのままですが一応)>といって、お互いに面子をかけて斬り合いにまで発展したとか。

 これはマナーとしてルールを整備しておきませんとね、危なくってどこへもでかけられません。余談ですが日本の道路交通が左側通行なのはこの習慣が元になっているという説があります。(わかりませんよ。イギリスを模範にしたという話も聞いたことあるし…)

 えーっと、なんだっけ… あ、そうそう、そういうわけで今ではそのマンガの先生にかすかな憤りを覚える私であります。
 

右利きの私は

 私? 右利きでありますよ? ですから太鼓とか、最初のうちずいぶん苦労しました。左手がオバカでねー… 日本音楽集団に入ってからは、いろんな練習をしてみました。

 まず<ハシを左手で使ってみる>です。ハサミを使ったりモノをつまんだりはワリとすぐにできるようになりましたが、これは手先の仕事だからです。お蕎麦やお茶漬けなどを食べるのは腕全体を使うせいか、なかなかうまくいきませんでした。

 次に試したのは練習のリズムの手順を左手中心にしてみることでした。これもねー、なかなか右手中心のようにはいかないんですよね。今でもやってますけど、まるでリハビリのようです。お稽古の時に相対したお弟子さんにカガミでお教えする時にちょっぴり便利です。

 左利きになりたかったなー…

 

09.02.10

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