How to "OKEIKO"


 私が人様に長唄のお囃子をお教えするようになって、はや二十年以上の月日が経ちます。最初の頃は人様にお教えするのもタイヘンでした。イライラしちゃってね。その頃からみえている方は「先生もお優しくなられました」なんて皮肉をおっしゃいます。

 ここでは、皆さんにお稽古場のお話をしましょう。もちろん私のお稽古場がモデルですから、どちらのお稽古場もこうとは限りません。他所のお稽古場では様子が違うんじゃないかと思います。その点ご了承を…

 先生の家に着いたら「こんにちは」とお声をかけて、玄関を開いてください。通常、お稽古日は玄関の鍵はかかっていません。この時けっして「ピンポーン」と呼び鈴を鳴らさないこと。呼び鈴を鳴らす方は「外部の来客」です。お弟子さんは先生の家の「内側の人」なので、鳴らさない方が良いでしょう。宅急便のお兄ちゃんだと思ってハンコを持って玄関にでたらお弟子だった、なんてことが一日のうちに三回も続くと私、お稽古が必要以上に丁寧になります。

 服装はお着物でってのがベストだと思うんですけど、別に何でも構いません。着物がいいと思う理由は、昔から日本の楽器ってのは着物で演奏していたものだから、ということなんです。構え方とか奏法なんかがそれに合わせて合理的に完成されてきたと考えるからで、別に洋服だと先生に対して失礼だとかなんてことは全く思いません。もうジーパンでも水着でもなんでもOK!(警告:真に受けて水着で来た男性は秒速で破門です)

 まぁ、お勤め帰りにいらっしゃる方が多いので、普通はスーツに準じた服装で見える方が多いです。昔、若い女優さんにお稽古してたとき超ミニスカートで見える方がいたんですね。私も若かったもんですから、さすがに恥ずかしくってなかなか言えませんで、非常に困ったものです。もう、恥ずかしいやら嬉しいやら…

 お弟子さんはお稽古場に入る時には、まず座って先生にご挨拶をします。先生が他の方をお稽古中の時は、稽古場に入るときに黙っておじぎをしておいて、お稽古が一段落したら改めてご挨拶をなさるのが良いでしょうね。

 昼間だったら「こんにちは」、夜は「こんばんは」。ウチの稽古場は業界の人が多いせいか昼夜を問わず「オハヨウゴザイマース!」って人が多いです。あれ、恥ずかしいんですけど、私も「ハイ、オハヨウ」なんてやってしまいます。まるで業界人みたいで…って、業界人か。

  他の方のお稽古を見ていると意外なことに気がついたりして、それがご自分が小鼓や太鼓を打つ時のヒントになることもあります。人がお稽古をなさっているときには、静粛に拝見しましょう。あなたがご存知の曲をお稽古していたとしても、手で拍子など取ってはいけません。

 さあ、いよいよあなたの番です。先生の前に正座して再びご挨拶をします。これは「よろしくお願いします」が良いですね。座布団が置いてあったら、そこに乗っかってしまう前になさってください。

 もし月初めでしたら、このときに先生にお月謝をお支払いします。お月謝袋をススッと先生の前に差し出してください。けっしてお手渡しなさってはいけません。ここでガサガサやるとカッコ悪いですよ。これをスマートにスッとやってのけるには少々年期がいります。先輩方がどのようになさっているか、よくご覧になっておくのがよいでしょう。もっとも、今は先生の方もスマートに受けとるのがヘタになってきたのか、多くのお稽古場には「お月謝箱」があって、所定の封筒にお月謝を入れてそこに戻しておくようになっていると思います。

 さて、ご挨拶を済ませたら座布団に座りましょう。ご自宅でおさらいになってきて解らないことなどはまず、この時になさってください。あらかじめ質問をメモにしておいていただいたりなんかすると、先生としてもお応えしやすくてよいですね。もちろん、電話やメールでのサポートもアリです。

 囃子のお稽古は長唄の簡単な曲から始めて、だんだん難しい曲へと進んでいきます。上の写真のように「張り扇(はりおうぎ)」という、扇子を閉じたような形をしたものを牛革で巻いて糸で縫い合わせたもので、「打ち台」という木製のブロックを叩いて手順をお教えします。先生は口三味線を歌いながら何回か繰り返して「手順がわかってきたな」と思ったら、今度は三味線に持ち替えて口でお囃子の手を言いながら伴奏をしてくれますので、あなたはそれに合わせて演奏するのです。一度に覚えなくてはいけない手順はたいして多くありませんから大丈夫。先生はあなたのペースの合わせてくれるはずです。

 小鼓の場合、私は初めての方にはまず簡単な楽器の持ち方や取り扱い方からお教えすることにしています。 締太鼓の場合はバチの持ち方から始めて、右手と左手がなるべく独立して使えるように練習をします。1回のお稽古時間はだいたい30分くらいでしょうね。始めたばかりの方はたいがい、足が痺れたところでお稽古を終わることになります。

 お稽古中はたとえ間違えても、とにかくなるべく先に進もうとする心構えが大事です。「あ、間違えました!」なんてご自分で止めてしまって、その場でシミュレーションを始めるのは「一人稽古(ひとりげいこ)」といって、昔は破門された人もいるくらい、とても先生に対して失礼なことなんですよ。もちろん間違えた時に「アチャー!」と舌を出すなんてもっての外です。

 そうやってお稽古も終わると、楽器を自分の前に置き再び先生への「お礼」のご挨拶をします。お稽古中に解らないことは、この時点でなるべく早くに質問しておきましょう。後でしようと思ってもつい忘れがちです。で、「ありがとうございました」ですね。もちろん座布団を降りて、ご挨拶をなさるのが良いでしょう。

  足が痺れた方は急に起ち上がらないようになさってください。楽器がそばに置いてあるわけですから、これは非常に危険です。

 さて、お稽古が終わりました。いかがですか?疲れましたか?後は、先生とお茶でも飲みながら雑談をするのも結構ですし、お稽古場で知りあったお友達と帰り道に一杯引っかけていかれるのもよいでしょう。寂しがっているかもしれないので、時には先生も誘ってあげてください。面白い楽屋のウラ話がうかがえるかもしれませんよ。

02.06.15

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