望月太喜之丞 Website/ タキノ庵 <暮らしのツケ帳>     03.04.25


日本音楽集団的 楽器別人間学


  尺八 雅楽 三味線 琵琶 胡弓 打楽器 指揮 作曲  
日本音楽集団の主な楽器群です

 昨年、N響の茂木さんというオーボエ奏者の方が出版された「楽器別人間学」を読んですっかり大笑いさせていただきました。オケで担当する楽器によって奏者の個性に、ある傾向が見られるというテーマを面白おかしく書いておられるのです。そういえば我が愛する日本音楽集団の団員たちにもその傾向はあるのではないかと思って考察してみることにしました。

 そもそも茂木さんの説では奏者それぞれの性格の形成には先天的なものと後天的なものがあるようです。それを統計的に考察する、ということなのですが、日本音楽集団の団員の場合、「邦楽」というある意味特種な音楽団体ゆえサンプル数があまりにも少ないのですね。

 そういうわけで、まあ決してヨソでは当てはまらないのではないかとは思うのですが、これをお読みになって日本音楽集団の定期演奏会へでもお出かけになるとお楽しみが少しだけ増えるかもしれません。












  尺八 雅楽 三味線 琵琶 胡弓 打楽器 指揮 作曲  
日本音楽集団の主な楽器群です

 このパートは音域のせいか、ときどき神がかっちゃう人もいますが、実は現職の神官も在籍しています。割と理屈っぽいかと思うと、ひょうひょうとした一面も合わせ持っていて、打ち上げなどの宴会では人気者ですが、演奏にはいつも一人で参加することが多いせいか笛奏者同士で盛り上がってるのを見たことがありません。

 時として団内で深刻な問題が起こったときに、風のように現れて解決の糸口となる言葉を残して去っていくことがあります。まれにかえって話しをヤヤコシクしてしまったりもしますが…

 集団では尺八からの転任か兼任が大半で、笛専門の奏者は多くありません。人手が足りないので常に新人募集中です。












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日本音楽集団の主な楽器群です

尺八

 最近世間では女流の尺八吹きも増えてきましたが、日本音楽集団ではまだ男性しかいないこのパート、たいていが大学の三曲研究会とか、尺八研究会ではじめて尺八に出会うせいか、体育会系のノリの人が多いです。他のパートにはあまりいない「マトモな普通大学」の出身者が多いので、言葉で理屈を戦わせるとなかなかかないません。ある意味、集団内では最も一般常識を持っている人々といえましょう。日本音楽集団が潰れずに今日までやって来れたのは、良くも悪くも彼らのおかげであります。

 遠吠えのごとく開園前...いや開演前にみんな盛大にウォーミングアップをするので、笛奏者とともにあまり楽屋では同室になりたくない人たちです。奥さんは団内でお箏弾きを調達、っていうパターンが多いです。

 仕切り屋が多いので宴会に一人いると便利。












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日本音楽集団の主な楽器群です

雅楽

 音楽集団の中でも最近人数が増えてきて富に元気のいい雅楽系のパートです。雅楽、とひと括りにしてしまっていますが竜笛、篳篥、笙などの専門に別れています。

 みなさん、民間の楽所にも在籍していまして、意外と先輩後輩のオキテが厳しいようです。大体が他の楽器からの転任組が多く、大学は楽理科もしくは作曲家の出身者が多そうです。

 自分で作曲した作品を発表したりアルバムを出したりする人もいて、コード進行の譜面に強いせいか結構アバンギャルドな演奏活動をしている人もいます。












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日本音楽集団の主な楽器群です

三味線

 長唄系の奏者は芸大在学中に先生の影響もあって現代邦楽に出会い、入団。琵琶とともにテュッティがあまりなく、多くは独りでコツコツと自分のパートをまっとうします。

 楽器の構造上、微妙な音程をとるのが難しいので職人肌で神経質な奏者が多いかと思うと、案外その逆だったりします。周囲の演奏はクールに見ていますが、古典の世界で厳しい人間関係を見ているので人の批評したりすることはありません。

 他に天然記念物に指定されている生粋の太棹系三味線奏者がいますが、こちらの生体は今もって謎に包まれています。












  尺八 雅楽 三味線 琵琶 胡弓 打楽器 指揮 作曲  
日本音楽集団の主な楽器群です

琵琶

 たいていがピアノやお箏など他の楽器からの転向組ですが、今は琵琶一筋です。

 現在の科学ではその原因が解明されておりませんが、女性奏者は技術の向上とともに何故か強いオーラを発し始めます。ご本人的には常に主役でいることが多いので演奏中と宴会中はあまり近くに寄れません。結婚してもご亭主は「○○さんのご主人」と呼ばれ、その存在は忘れられてしまうことが多いです。

 反面、男性奏者はオタク系、技術系が多く「プロジェクトX」に出てきそうです。

 どうも「さわやかな琵琶奏者」というのはなかなかイメージできないのは、日ごろ平家の亡霊たちと近しくお付き合いしているせいかも知れません。

 三味線と同じく微妙な音程をとるのが非常に難しい楽器で、希少価値の高いパートなので高値で取引されます。












  尺八 雅楽 三味線 琵琶 胡弓 打楽器 指揮 作曲  
日本音楽集団の主な楽器群です

胡弓

 集団ではもっとも出番が少ないと思われるパートでして、この文章も最後まで書くのを忘れてたくらいです。

 本来は地歌系の胡弓の奏者で、集団には現在2名が在籍しています。この二人が顔を合わせるのは2〜3年に一回、あるかないかでしょう。それも集団の演奏会じゃない会場でです。

 絶滅危惧種に指定されており、生態はようとして知られておりませんが、きっちりと仕事はしていきます。












  尺八 雅楽 三味線 琵琶 胡弓 打楽器 指揮 作曲  
日本音楽集団の主な楽器群です

 ほとんどが女性で占められるこのパートはオーケストラの中ではバイオリンに相当し、日本音楽集団では花形のセクションです。特にトップをとるプレイヤーは「プリマ」なんぞと(誰が言い出したのかは現在調査中)持ち上げられて、この大奥の実権を握ることになります。しまいには「上様」まで篭絡し… ここまでにしときましょう。

 母親がやはりお箏の先生をしていて地方から上京、最近は芸大出も増えてきましたが、多くは市ケ谷のS派学院でみっちり仕込まれたあと、NHKの邦楽技能育成会を経て集団のオーディションを受けました。

 独身者も多いのですが、結婚している場合、亭主は尺八吹き、というのがほとんどみたいです。

 パート上の順位がはっきりしているせいか、集団内では最も縦社会がはっきりと見えます。人数の多さゆえの競争率と相まって、内部の人間関係は複雑きわまりないです。

 音楽集団ではこのセクションを敵に回すと、生きてゆけません。












  尺八 雅楽 三味線 琵琶 胡弓 打楽器 指揮 作曲  
日本音楽集団の主な楽器群です

打楽器

 私が属するこのパート、集団では洋楽系と邦楽系に分類されます。

 洋楽系の打楽器奏者の多くは私立の音大の打楽器科を卒業後はオケの仕事をしたりしてますが、偶然出会った邦楽のワークショップで自分が日本人であることを急に思い出します。そのうち集団の存在を知り入団。育ちがよく、神経質な人が多いです。

 邦楽系というのは「長唄囃子」という歌舞伎系音楽業界から来た打楽器奏者のことです。若いころからあまりお金に困ったことがなくチャラチャラしてましたが、集団に入って初めて貧乏というものを体験。驚くべきことにそんなことで、自分が芸術をやっているのだということを実感します。

 ほとんどの男性奏者にはまちがいなく遠い打楽器の聖地、ラテンの血が流れていてスケベで、気がつくと隣に座ったオネエチャンを口説いてます。まったく油断も隙もありません。また見た目がコワイ人が多く、連れ立って街を歩いたりするとみんな道を空けてくれますし、盛り場なんかでは時々テッポーダマのお兄さんに襲われたりしてます。

 女性奏者はサバサバしている人が多く、小難しいことも言わないので仕事では引っ張りだこになります。打楽器セクションの中ではあまり女性扱いしてもらえない(そんなこともないんですけど)のがちょっと不満です。

 男性、女性ともに宴会には必ず参加します。












  尺八 雅楽 三味線 琵琶 胡弓 打楽器 指揮 作曲  
日本音楽集団の主な楽器群です

指揮

 生粋の指揮者、というのは集団には一人しかいません。コンサートの度に自分のイメージした音と実際に聞こえる音をどうやって近づけるかということに腐心しています。散々飴とムチを使ったあげく、結局、なかなかうまくいかなくて自分のイメージを実際の音に寄せたほうが手っ取り早いということに気がつくのですが、次のコンサートの時にはなるべく忘れることにしています。指揮者にとって本番の演奏は偉大な妥協の産物です。

 音楽集団の中ではもっとも孤独なセクションともいえる指揮者はコンサートの当日には個室の楽屋に入ります。意地もあるので平気そうな顔をしてますが、本当はとっても寂しがり屋で、用もないのに大部屋をウロウロしたりしています。

 先日、この文章を読んだ日本音楽集団の某指揮者から「寂しくなんかないやい」と言われました。












  尺八 雅楽 三味線 琵琶 胡弓 打楽器 指揮 作曲  

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 変拍子だのなんだのと毎回手を変え品を替え、どうやったら演奏家が苦しむか、いつも考えているのではないかと思われる人達です。

 サド傾向があるのか、練習に立ちあって奏者たちが四苦八苦しているのを嬉しそうに見ていたりします。ただ、だんだんみんなの機嫌が悪くなっていくのがわかるので、練習後はさっさと帰ります。

 私は二度とやりたくない曲は、厳重に封印をして庭に埋めることにしています。いつか発掘されて「薄幸の作曲家○○の幻のスコア発見! そこには演奏者の悲痛な書き込みが…」なんて事になるかもしれませんぞ。











03.04.25