望月太喜之丞 Website

Essays/タキノ庵 <暮らしのツケ帳>


演奏用楽器配置図による個展

 現代曲の演奏では古典と違って一曲演奏する間に一人の奏者が何種類もの打楽器を扱うことが多々あります。たいがい場合、演奏の手順は非常に忙しいし複雑に入り組んでいますので、楽器の配置も綿密に計算した上で実際にやってみて試行錯誤をしたあげくに理想的な並べ方を考えなくてはなりません。

 いただく譜面には使用する打楽器のリストが書かれていることもあるのですが、リストでは配置までわかりません。

 これも生活の知恵とでもいいますか、いつの頃からか私はパート譜の表紙に自分が使用する打楽器の配置図を絵で描くようになりました。殴り書きのようなスケッチなんですけど、しみじみ眺めてみますとなかなか味のようなものがあるような気もしてきました。というわけで、ここで個展を開いてみたいと思います。

2004年5月 太喜之丞


川崎絵都夫作曲 ごんぎつね 1996年?

使用楽器:締太鼓×2・桶胴×2・大太鼓・小鼓・キン×4・妙八・当鉦・松虫×2・オルゴール・木鉦

 どこにどんな楽器が置かれているかわかりますか? この絵では太鼓類の配置がもうドイツ式になっていますので、1996年以降でしょう。絵を描き始めたころの初期のものです。まだ楽器の種類が何となく判る程度ですね。左上は使用するバチの種類なんですが、このへんは自分でないとわかりませんね。

 この曲は私にとって非常に難易度の高い曲でして、楽器の配置が少し違ってもワケがわからなくなってしまうほど手順が入り組んでいます。ですから、楽器の配置を図解せざるを得なかったということもあるのですね。これが非常に具合がよかったので、その後配置図を描くようになりました。


和田 薫作曲 楽市七座(らくいちななざ) 打楽器 III 1997年ごろか

使用楽器:Sell Chime・TAM-TAM・Claves・3Tom-toms(8' 15' 18')

 この曲は打楽器6人+笛1人という曲です。打楽器6パートのうち2パートは「日本打楽器」という指定ですが、私のやった3番打楽器には邦楽器は一つもありません。

「Sell Chime」というのは貝殻でつくった縄のれんのようなもので、左上に描かれているのがそれです。よく海水浴とか南の島に遊びにいくとお土産品で売っているようなシロモノです。「シャラシャラ…」という音がします。また、Tom-tomという太鼓に書いてある数字はこの楽器の口径で単位はインチです。

 この曲も非常に難易度の高い曲で、楽器の配置には苦労しました。この配置に落ち着くまで、太鼓をあっちへやったりこっちへ動かしたりして、だいぶ試行錯誤したものです。譜面台の位置まで書いてあるのは、ここに置かないと譜面を見ながら一緒に演奏してるクルーの姿を視界にいれておくことができなかったからです。


長沢勝俊作曲 大津絵幻想(おおつえげんそう) 打楽器 I 2000年9月

使用楽器:締太鼓×2・桶胴×2・小鼓・木鉦×4・オルゴール・団扇太鼓×4

 この絵は「明日のジョー」入ってますね。もう燃えつきちゃってます。影まで入って、本番のステージの臨場感すらかもしだしています。

 この曲は当初、2番打楽器をやることが多かったのですが、近年は1番打楽器が多いです。最初にやった時は「集団」に団扇太鼓が無くて締太鼓×4で演奏したものです。太鼓類のロー・ハイのドイツ式は、もう定着してますので書き込んでいませんが、団扇太鼓はきちんと大きさを描き分けてあるのが見えます。右の方が大きい、つまり低い音ですね。そういえば桶胴もビミョーに右の方が大きいです。

 団扇太鼓は柄が柔らかいので、支持の継ぎ手がすぐに緩んできます。演奏中も常にネジを締めていかないと、グラグラになってしまうのです。一辺、横のバーを固定してる継ぎ手が緩んでて、演奏中にそれごと全部の団扇太鼓がこちらに「グルン!」とオジギしてしまった時には血の気が失せました。


ディエゴ・ルズリアガ(エクアドル)作曲
Double Duo(ダブルデュオ) 打楽器 III 2002年3月

使用楽器:大鼓・小鼓・締太鼓・桶胴・大太鼓・拍子柝・ビンザサラ・ドラ・木魚

※画像をクリックすると大きな画像が見られます

 これはリハーサルの待ち時間が多かったのでだいぶん手がこんでいます。何だか薄汚いのは裏の五線が写ってしまってるんですね。サインまで入っている貴重な一作(?)です。

 初演は2001年の4月ですが、絵そのものは2002年の3月にエクアドル大使館主催のパーティーで演奏した時に控室で描きました。楽器テーブルの上の拍子柝に「Ecuador Tour」と注釈がはいっているのは、2003年のエクアドルツアーの時、大鼓の代わりに使ったので描き足したものです。

 外国人作曲家の作品ということで楽器法的に無理が多かったり、リピートの仕方もややこしい書き方がしてあります。打楽器×2、笛×2という編成でリズムが非常に複雑に絡み合っているため、練習回数を多くとらないといけない曲です。私は第3楽章で出てくるブラシの扱いがワリと苦手です。

 私は初演から4回行われた演奏の全てに2番打楽器で参加しています。クルーの1番打楽器は3人変わりましたが、相手によってこれほどリズムのかみ合いが違うものかと思いました。実は満足のいく完璧な演奏ができたことはありませんが、ずっと演奏しているので愛着があります。


吉松 隆 作曲 星夢の舞(ほしゆめのまい) 打楽器 III 2003年10月

使用楽器:風鈴・締太鼓 ×1・桶胴×2・Finger Cymbal・Wood Block×2・Triangle・Guilo

 これなんかだいぶん味が出てますね。「なかよしがいいね」なんて、あいだみつおの文章の挿し絵になりそうです。

 この曲は変拍子が多く、小物類の持ち替えもワリと忙しかったです。今はどの小節の何拍目か、次に何を持たなくてはいけないのか、常に意識してないとオタオタしてしまって譜面上の自分の居場所を見失ってしまいがちです。譜面そのものはコンピュータで書かれたものなので、音符に手書きのような個性というものがありません。ですから、ひとたび迷子になってしまうとなかなか元には戻れないのです。


佐藤敏直作曲 ディベルティメント 打楽器 III 2004年5月

使用楽器:締太鼓×1・桶胴×2・大太鼓×1

 つい、こないだ描いたものです。少し印象派の影響が出ています。このくらいの配置だったら別に絵なんか描かなくてもいいんですけど、リハーサルがだらだらしてたもんでヒマを持てあましてたんですね。大太鼓を描いてる途中で、第3楽章が始まっちゃったもんで、何だか中途半端です。

 ご存じ一昨年亡くなった佐藤敏直先生の名曲です。私はこの曲、もう十何回もやってるんですけど、2番打楽器をやらせてもらったのはこないだの定期演奏会が初めてなんです。いつになく緊張してしまいました。私、いつもは小鼓を打つ1番打楽器なんですよ。2番があんなムズカシイことやってるなんて思いもしませんでした。

 定期の本番の時には第1楽章で何だか佐藤先生のことを思い出しちゃったりなんかして、ちょっと泣きそうでした。第3楽章ではやることが難しくて泣きそうでしたけど。


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