望月太喜之丞 Website

Essays/タキノ庵 <暮らしのツケ帳>


その後の源さん

 これは「まるおはな」のお芝居「縁ハ異ナモノ味ナモノ」に「源太郎」という役で出演することになった太喜之丞の役作りノート「源さんの秘密」の続編です。

 お芝居はおかげさまで好評のうちに千秋楽を迎えることができました。八月いっぱい太喜之丞は抜け殻のように過ごしておりました。ひと月もの間、共に過ごした仲間に突然会わなくなるのですから、寂しいことこの上ないです。

 浅草を、一座とともに後にした源さんのその後の人生を想像してみました。

2004年 10月 太喜之丞 

  • 演劇ユニット まるおはな http://www.fan.hi-ho.ne.jp/fura/maruohana/
  • 演出家 安井ひろみさんのサイト> KEYWORD http://yaps.jp/
  • 演出家 安井ひろみさんのサイトその2> 劇的愛人 http://yaps.jp/romi/index.html

  • 時代は昭和を迎え、夢之丞一座は旅を続けます。日本国中、いやいや、満州や台湾でも公演をしたかもしれません。

     夢之丞一座は時代が女剣劇を求めていたこともあり、実質、貞子が主役をはることがほとんどになるでしょう。軍隊の慰問では貞子が太股を出して立ち回りをするのが、圧倒的に受けるんですから。夢之丞は座長としてがんばっていますが、役者としてよりも演出家、振付師として才能を発揮することになるでしょう。

     千代丸は小春とめでたく所帯を持ち、あいかわらず尻に敷かれながらも楽しそうに暮らしていることでしょう。勝手にやらしときましょう。

     お美代は3年後に芝居を観にきていた映画監督に見初められて銀幕にデビュー、映画スターとして一世を風靡します。その後、主演した映画の公開披露パーティーで知り合ったハリウッドの映画プロデューサーと結婚して渡米。彼女の太平洋戦争時の米国での出来事はそれだけで映画が一本くらい作れるかもしれません。


     カフェーの女給だった花恵さんはその後一念発起して執筆活動にはげみ、その隠れていた文才が花開きます。処女作「女給日記」で華々しく文壇にデビュー。新しく書き上げる作品はことごとくベストセラーになり、その印税で郷里の富山に豪邸を新築します。戦後の代表作に「縁ハ異ナモノ味ナモノ」

     いっぽう、元カレの小説家長一はアルバイトで書いたエロ小説は売れに売れ、生活に不自由はしていませんが、純文学では一向に評価されません。本人は「そんなことはない。評価はされている」とかたくなに否定しています。著書に「女給ハナエ縛り地獄」「芝居小屋襖の裏張り」など。


     小難しい思想活動をしてるワリには子供の扱いが抜群に上手だった平塚真吉は戦後、幼児教育の第一人者として名を成します。著書に「平塚真吉の労働階級的子育て論」「マルキシズムと幼稚園経営」など。と、これはもう「源さんの秘密」で書きましたね。

     平塚は弥生と満州へ渡り、そのままロシアに亡命… かと思いきや、途中道に迷ってたどり着いたモンゴルが気に入り、雄大な自然に囲まれながら政治も戦争も関係なく幸せに暮らします。

     太平洋戦争が終わりモンゴルもなんだか暮らしづらくなってきたところへたまさか現れた棟方良夫戦後の日本の惨状を聞き平塚は単身、帰国を決意。「新しい日本の礎は子育てから」をモットーに活動を始めたところ、大当たりします。

     弥生はまだモンゴルでヤギ達と暮らしています。

     棟方良夫君は大学を卒業後新聞社に就職、ジャーナリストとして激動の昭和初期を駆け抜けていきます。戦後、取材で出かけたモンゴルの大平原で平塚と再会し彼を連れて帰国し、気がついたら平塚先生の秘書になっていました。


    源太郎はなぜ歌舞伎をやめたのかについては喧嘩が元でとか女出入りが原因でなどと様々な憶測がながれておりました。彼のその後の人生にはそういった過去が何らかの形で影響するのかもしれません。

     源太郎は貞子のことを憎からず想っていましたが、自分がバツイチ(おそらく)であることと貞子が親方の娘であることで、その気持ちを表に出すことはありませんでした。お吉は源太郎のそんな気持ちにうすうす気がついています。

     父親を知らない彼女なんかちょっとファザコンのケがあるもんだから、父親みたいな年の源太郎によくなついていたのがいつしか恋愛感情に発展していたりなんてのもアリかもしれません。思春期の終わりとともに自分の気持ちが抑えられず、源太郎に身体ごとぶつかってゆきます。

     源太郎も貞子に対する気持ちもさりながら、久しぶりに男になっちゃった自分に戸惑いつつお吉の若さにおぼれてゆくんですね。衰えてゆく自分と若いお吉の将来に不安を感じながらも、行く先々で「お嬢さんですか」なんていわれることにちょっとした優越感を覚えるという、複雑な日々を送ることになります。ここでまた源太郎は貞子とすれ違ってしまいます。

     貞子は貞子で、一座に新しくやって来た二枚目の役者に口説かれて身ごもります。これは自分の娘のようなお吉とデキちゃった源太郎に対するツラアテもあったんじゃないでしょうかね。ほどなくして男は他所に女をつくってさっさと逃げてしまいます。このとき貞子を慰める源太郎を見て、お吉は源太郎の真の気持ちを思い知り、一座から去ることを決意します。

     生まれたばかりの子供を抱いた貞子とそっと寄り添う、源太郎の晩年が始まります。


    雪は…

     雪はもちろん元気ですよ。少女の姿のまま夢之丞一座にいることでしょう。そして皆さんの心の中にも…


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