シャル ウイ ダンギレ?


「ボクタチ モウ ダンギレニ シヨウ」

 昔、米国人の友人に、日本では恋人同士が別れるときにはこういう言い方をするものだとウソを教えてやったことがあります。しばらくしてクダンの友人、他に好きな女の子ができたもんだから当時つきあってた日本人の女の子に別れ話を切り出そうとこれをやったんだそうです。当然全く意味が通じなかったもんですから(アタリマエダ!)私の所に怒鳴り込んできました。

「どうしてくれるんだ?意味を説明しようとしてもうまくできないもんだから、しょうがなくてまたつきあうハメになっちまった!(英語)」

 私は吹きだしそうになるのをこらえながら

「日本の鳴物をやっている恋人同士だって言っただろ?(一応英語ですが、もちろんこれもウソですゾ!)」

 その後、彼はこの女の子と結婚して米国に帰り、5年後に本当の「段切」を、今度は彼女の方から言い渡されることになりました。


 長唄をはじめ、たいがいの邦楽古典曲にはダンギレというものがついています。「段切」と書くのですが、これは一段が切れる、つまりひとつの演目が終わるところ、という意味でして、この部分はたいがい同じような様式で演奏されます。

 特に長唄では、囃子もこの「段切」には定型の手順を演奏することになっています。手順にはいくつかのバリエーションといくつかの例外がありますが、ほとんどは最後に「イヤァー、チャン」と三味線と一緒に「カシラ」の一発で終わります。

 現行ではどこの流派でもこの終わり方で「段切」を演奏するのですが、昭和の初め頃までは囃子は囃子で先に「カシラ」を打ってしまって、唄が残り、最後に三味線が「チャン」とキメていたそうです。

 定型の囃子方の手順は「大小段切」と「太鼓入りの段切」の二種類に大別されます。これはその曲を演奏するときの囃子方の構成で決まります。

※「大小段切」というのは演奏の中に太鼓がいない曲、例えば「勧進帳」「橋弁慶」等の段切がそれです。「太鼓入りの段切」には「鏡獅子」などに使う、普通の段切と「カシラ段切」がありまして、「越後獅子」なんかがそうなんですが、これはお三味線の手によってどちらを打つのかが決まるようです。

How to 段切

 段切の打ち方は最初は全員で「合ガシラ」、次に小鼓が「乙」を2つ打ち、その間に太鼓が担いでおいて一つ打ちその後再び全員が「合ガシラ」を打つ。「大小段切」の時は「乙」の二つ目を遅くして太鼓が当る場所に打ちます。後は同じです。言葉で言い表してしまいますとこれが基本形です。

 「カシラ」のコミを取る場所、最初の「乙」を打つ場所はきまっていますのでお三味線を聴きます。

 段切のお三味線もたいがいは同じようなメロディーに聞こえます。特に最後の「ツン、ツン、チャン」というのはほとんどの曲で弾きます。最初の「ツン」には太鼓や、「大小段切」の時には小鼓の「乙」が、最後の「チャン」には全員の「カシラ」があたりますので、ここにはぜひタテ三味線の方に「ヨッ」という掛声をいただきたいところです。よく、掛声を忘れられて「ツン」や「チャン」を先に弾かれてしまい、囃子方達が全員ションボリしてしまうことがありますので、ひとつよろしく。

 最後のカシラの掛声は唄の生み字の音程が一旦下ったのを聴いてからコミをとる、と教わったことがあります。生み字の切れまでは確実に延ばして唄より先に切れることがないようにし、切るときもブレスをもう一押ししてキッチリと切ります。この一押しした所がタテ三味線が掛ける「ヤ」という掛声のコミの場所です。つまり「ヤ」と掛声を「フッヤ」という気持ちで掛けてほしいのです。これは「ツン」の前の掛声もそうですね。気持ちの上でコミを取るか取らないかで全員の音のそろい方が違うと思いますが、いかがでしょう?

チリカラ段切

 これは大小段切の例外になると思います。普通の段切が本行の「能」っぽい雰囲気を強く持っているのに対して、こちらはなんとも軽やかな「歌舞伎」の手順です。

※代表的なのは「二人椀久」「吉原雀」。代表的というよりも、私、他に何があったか、どうしても思いつかないです。

盛り込み段切

 普通の段切が前の部分とは独立しているのに対して、「チラシ」の部分の最終部の「打込」がそのまま段切になってしまう手順のことです。「チラシ」の中に「段切」を盛り込んでしまったことになるので「盛り込み段切」というわけです。

 案外この形式の方がもともとあった形なのかもしれません。本行の最終部はこの形で終わることが多いです。

※「七福神」「浦島」などがそうですね。

太鼓段切

 芝居の「助六」の幕切れで使う方法で、太鼓のみで演奏します。長唄の舞踊曲「助六」でもこの方法を踏襲して打つことがあります。奏法としては「カシラ段切」を大小抜きでやるような感じですが、最後の「天」二発はお三味線に関係なく打ちます。

止め拍子

 芝居や舞踊で立方(主に主人公)が段切で足を踏む場合があるときに使います。普通の段切の小鼓と太鼓を打つ場所を一つずつ遅くして、お三味線の「ツン、ツン」にそれぞれ立方の足に合わせて打つのです。大小段切の場合は足を踏んでもこういうことはしません。

※「鏡獅子」や「連獅子」など獅子物でよく使います。舞踊の伴奏時のみで、演奏会の時は普通の段切を打ちます。

三重

 所作事の幕切れなどで段切ではなく「三重(ミエではありません。サンジュウと読みます)」で終わる演目はたくさんあります。これはそのストーリーがすべて終わってしまったのではなく、後にまた別な物語が存在することを暗示しています。つまり「このエピソードはここで一旦終り。次回続編をお楽しみに!(でもあんまり出ない)」みたいなことだと思います。

 この「三重」にはたいがい、大小鼓で「カケリ」という本行の同名「カケリ」をアレンジした手順を演奏します。「カケリ」は「駈け入り」が語源でして、登場人物が走りながら去っていくようなシーンで使うものだと考えてください。つまり、登場人物達が客席で見ている私たちから急速に遠ざかっていくようなイメージですね。で、「to be continue...」なんてテロップが出たりして。これが「段切」だと「The End」なわけです。例えば「鷺娘」などはこの「三重」で終わることが多い演目です。この曲の場合段切の部分を「三重」に替えて演奏します。

※「鞍馬山」「蜘蛛拍子舞」などでは段切の前に「三重」の手がついており、やはり「カケリ」を演奏します。

三番オロシ

 演奏会で三番叟物をやるときには普通に段切なのですが、舞踊の時の幕切れにはこれを使います。これを演奏した後は、演目が一段落したことを告げる「車切」というものを演奏しないことになっています。

 

 調子に乗って舞踊のエンディングまで説明してしまいました。ここに挙げたものが段切の全てというわけではないのですが、95%くらいは網羅していると思います。もし他にもありましたら、ぜひ私にお知らせください。そのうち「世界の珍しい段切」というコーナーでも作って紹介しますから。

02.08.08UP

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