アナログ? デジタル! (太喜之丞的録音の歴史)


●オリンパス DS-10

 ICレコーダを買いました。最近若い人が使ってるのを見ててちょっと面白そうだなとは思ってたんですけど、なんだか使い勝手が悪そうで様子を見てたんです。

 私は普段MD派だったんですね。覚えものをするにはこれが最高だとも思ってました。ここへきてコンピュータに接続できるタイプが出始め、さらに私が使うMacに接続できる機種もあるとあって俄然、興味がわいてきたんです。

 初めて自分でテープレコーダを買ったのはいつだったでしょう。そういえば、この業界に入って25年の間にけっこうたくさんの録音機を買いました。


太喜之丞的録音の歴史 石器時代

 お稽古を始めたころに使っていたのは、父親が持っていたソニー製のビジネス用録音機でした。70年代の終り頃のことですけど、もちろんオープンリールじゃないですよ。モノラルのカセット式です。

 テープなんか買いに行くとまだ紙の箱に入ってたりして、30分のテープが一本300円もしてですね、当時としては小型だったんですけど、今思うと巨大ですね。プッシュ式のスイッチをガチャンガチャンいわせながら使ってました。

 それがスイッチが取れて無くしちゃったりして、次の機械が自分で買った初めてでした。やはりソニー製ビジネス用。これはステレオでした。黒くて重くて頑丈そうでしたけど、やはりウィークポイントはスイッチでした。取れちゃうとね、スイッチがついてた鉄製のバーを直接押すことになるので「イテテ!」とかやりながら録音してました。

 周りもみんなこの機械を使ってましたっけ。家で練習するのもこの機械です。

 ステレオで録れてもウチにはコンポなんてないもんだから、レコーダについてる小さなスピーカで聴くんですけど、スピーカがセコいもんだからちょっと大きな音量で再生したりすると音なんかバリバリ割れちゃってたいへんでした。


太喜之丞的録音の歴史 中世代前期

 その頃、出始めたのが「ウォーク・マン」でしたね。最初発売されたのは再生専用機だったように記憶してます。しばらくして録音ができるタイプが出た時はビックリしました。秋葉原の大特価で38,000円もしたんですけど、とにかく当時の基準としては驚くほど小さかったんです。ボディもプラスティックが使ってあって軽くなったということもあるんですけど、色がきれいでしたね。私、迷わず赤を選びました。

 マイクは別付、スピーカも無くて付属のステレオ・イヤホンで聴くんです。電池もあまり長持ちしないもんだから、本体が軽くても結局これらのものを持ち歩かなくてはなりませんでしたので、帳消しです。よくマイクの設定を間違えて録音に失敗したし、いつもステレオ・イヤホンをするようになって、私、耳の中が蒸れて痒くなっちゃったりしたもんです。

 あとからオプションで別売りの外付けスピーカとかも売り出して、これも買ったんですけど、スピーカ1個に単2電池を4個も使うんですよ(ステレオだから都合8個!)。とてもこれを持って仕事場に行こうなんて気は起りませんでした。

 当時は60分テープが安くなってきて、これを使うことが多かったんですね。90分とかもありましたけど、これは少し高かったです。120分テープも出始めてたました。こいつはテープが薄いせいか、よくテープを送るローラーにからまりましたね。マニュアルにも「できれば120分テープは使うな」って書いてあったくらいです。

 これは使っているうちにやはりスイッチが取れ、しまいにテープが回らなくなってきてしまいました。モータはビューッて回ってる音がするんですけど、どうしても回転がスローになってしまうんで、機械を分解してみたんですよ。モータの回転を伝える輪ゴムが伸びちゃってたんです。私、テープを輪ゴムで回してるなんて思いませんでした。


太喜之丞的録音の歴史 中世代後期

 「赤いウォークマン」がすっかり調子悪くなってしまった(分解したせい、という噂もあります)ので、代替えにアイワ製の機械を買いました。この子もマイク外付けのスピーカ無しで、オマケにカウンタまでついてないんです。これは不便でした。下浚いなんかで、録音したのを仲間から「ちょっと今の聴かせて」なんてやられると、後で次の録音する時にアタマを探すのに大騒ぎでした。

 いろんな機能がついてて「凄い!」とか思ったのですが、そんなものたいして使いもしませんでした。かえって録音モードの設定とかがややこしくて、やはりよく録音を失敗しましたね。これは確か落としてボディが割れてしまったのでした。


太喜之丞的録音の歴史 近世

 ちょうどこのアイワ製を使っているころ、私の父親がいつのまにかオリンパス製のマイクロテープレコーダ(Pearlcorder X-01)を買ってたんですね。何に使う気だったんだろう?

 これをちょいと拝借して、そのままニューっと自分のものにしてしまいました。

 これは非常に良かったです。モノラルでしたけど、本体にスピーカもついていたし、ロングプレイモードを使うと、60分テープで倍の120分も録れたんです。私、個人的に名機だと思います。

●オリンパス Pearlcorder X10とS930

 よく考えたら私の場合、どうせ稽古とかリハーサルでメモ代わりに使うんだからステレオじゃなくてもいいし、音質なんか多少悪くてもいいんです。「簡単に録れて聴ける」というのが基本だと思います。

 レコーダの本体にスピーカが付いているのってホントに便利なんですよ。とにかく下浚いとかで録ったものを、楽屋でみんなで同時に聴けるっていう使い方ができることが、当たり前みたいなことだけどそれまでの小型のレコーダではできなかったんです。このことは後々、初めてのMDレコーダを買うときにも重要なポイントになりました。

 ボタンはガッチャン式じゃなくてモダンな短いストロークの方式で、プチップチッと軽く押すだけで作動します。カウンタもデジタルの液晶式で、一ヶ所だけですがメモリーすることもできます。これは覚えものの時に非常に役立ちました。同じ場所を何度も繰り返し聴くからです。

 これは使い倒しました。例の駆動用の輪ゴムが緩んでも直しに出して使い続けました。

 欠点はマイクロ用のテープの値段が高いことでした。普通のカセットの3倍ぐらいしたんじゃないかな。ですから保存しておきたいような演奏の時は普通のカセットで録音することにして、5〜6本のテープを何度も使い回していました。

 マイクロのテープは小さいのでインデックスを書き込みづらかったから、これで良かったのだと思います。後にデジタル録音で切手サイズのテープを使う、ソニー製ウルトラマイクロレコーダを買った人がそのことでボヤいてましたっけ。

 当時、マイクロレコーダはソニー製でステレオ録音ができるタイプがありました。これは山根一馬氏が絶賛してましたけどマイクが外付けなのとちょっと高かったので見送って、オリンパス製のものをもう一台購入しました(Pearlcorder S930)。

 もうその時には同じ型のものは生産を終了していて、ガッチャンっていうタイプのスイッチのものしか売ってなかったです。筐体もスチール製だった前のタイプと違って、プラスティック製でまるでホッチキスみたいな手触りでしたね。軽かったんですけど安っぽくてすぐに壊れてしまいました。


太喜之丞的録音の歴史 近代(黒船到来)

●ソニー製 DAT TCD-D3

 DATも一台買ったことがあります。これはソニー製の第2世代機で、DATウォークマン(TCD-D3)っていうヤツです。小型になったのと値段が安くなったので私にも手が出るようになったからです。小型になったとはいえ、結構な重量がありました。

 音質はとてもよろしかったです。私としてはその音質よりも、録音時間の方が貴重でした。ロングプレイモードだとAC電源を使って一気に8時間も録音できたのです。これで、踊りの会の下浚いなんかは朝スイッチを入れてそのまま夕方まで回しっぱなしにして録音したりしてました。音質は良かったんですけど、録音したソフトが下浚いじゃ...ね?

 これもテープが高かったのと、構造が複雑なせいか故障が多くてあまり経済効果がよろしくなかったです。長時間録音はできたんですけど、このDATウォークマンでいざ目的の曲を探す、なんてときは大騒ぎでした。早送りすると「ビューッ」て、物凄い音がして少しビビリました。これはちょっと使用方法が違っていましたね。

 何はともあれ、私のデジタル時代はこうして始まったのでした。


太喜之丞的録音の歴史 近代(低迷期)

 マイクロレコーダやDATを使いながらも、家では常に一台は普通のカセットデッキを持っていなくてはいけません。クライアントから送られてくる音資料はたいがいカセットテープで送られて来るからです。そこで、安いラジカセを購入して音資料の再生や、一緒に仕事をするクルーへのダビングに使っていました。

 それでも「普通のカセットとはもうお別れだな」なんて思ってました。ところが電気屋さんでソニー製でステレオ録音が可能な小型ビジネス機を発見。フラッと衝動買いをしてしまいました。

 型番はソニー TCM-77。ちょっと前の代のウォーク・マンくらいの大きさしかなくて、マイク内蔵、スピーカとカウンタ付き、しかも外付けのマイクを使えばステレオ録音までできてしまうんです。音質はソコソコでしたがこれが私のフェイバリットとなりそうな予感がしまして「やっぱり普通のカセットが一番」なんて思ったもんです。

 ところが使い始めてからしばらくして、このレコーダには重大な欠陥があることが判明しました。しかも致命的。この子、早送りと巻き戻しが異様に遅いんです。最初は「故障かな」と思って、サービスショップに電話しちゃったくらい。もちろん故障じゃなくて、電池の消費量を押さえるためにそういう仕様なんだそうでした。

 これはけっこう困りました。私、イラチだからこういうの待つの苦手なんですよ。だからお稽古でも自分で三味線弾いてるくらいです。人にお願いすると頭出しが一発で出ないんですもの。


太喜之丞的録音の歴史 近代(デジタルのアケボノ...だと思った)

 イライラしながらもその子を我慢して使っていたら97年のある日、楽屋で一緒になった尺八吹きがソニー製の新型の物凄いMDレコーダを使っていたんですね。

●ソニー製 MD MZ-B3

 それまでMDはディスクに録音する、というのでテープよりも安心かなと思ってはいても、電池がすぐ無くなる、とか、スピーカがないなどの理由で、「買おう」とまでは思っていませんでした。オーディオを楽しむわけではないのですから。

 とにかくクダンのそのMDレコーダ、ソニーが初めて作ったビジネス用のモデルだったんです。だからスピーカ付きでマイク内蔵なんです。MDだからいくつもマークをいれて、頭出しも一瞬でできますので、覚えものには非常に適していると思います。ちょっとガラの大きいのは昔のカセットを思えば我慢ができます。

 こいつは5万円近くして高かったんですが、即、買いました。もう6年も経って、いまだに現役で働いているんですよ。ヘッドホンで聴くと驚くほど音質はいいし、故障らしい故障もせずにたいへん丈夫です(唯一修理に出したのは私がうっかりレコーダに焼酎をぶちまけてスピーカをダメにしてしまった時だけ)。

 欠点はといえば大きくて重いこと(さっき我慢ができると書いたばかりなのに...)と電池の消耗がけっこう早いこと、そして何故か3本という単三電池の数です。

 大きくて重いのは昔の機械のことを思えばたいしたことはないんですが、こういうのを辛いと思うようになってきたのは歳のせいでしょうか。電池は新しいものを入れても3時間ほどしか録音できません。最新型のMDレコーダと比べると大食いなのもしかたがないと思えます。

 この機種に使用する電池は単三が使えるのですが、その数が3本というのはどうにも解せません。出先で電池を買うとどうしても半端になってしまい、余った電池を持てあましてしまいます。捨てる訳にもいかないし、結局持ち歩かなくてはなりませんので、却って重くなっても4本使用にしてくれた方が録音時間も延びてありがたいくらいのものです。つまらないことなんですけど、大きな欠点だと思いました。

 このタイプの最新型はだいぶ小型化され、単三電池1本で4〜5時間は録音ができるようです。この次にMDを買うとしたらこれでしょうね。


太喜之丞的録音の歴史 現代(新世紀のアケボノ...かもしれない)

●オリンパス DS-10
(冒頭の画像と一緒です)

 さて、最も新しい録音機材、オリンパス製の「Voice-Trek DS-10」ですが、これは量販店で2万円弱で購入しました。

 今使っている携帯より、小型なんです。とても小さくて軽くて、なくすのが心配なくらいです。ちょっとオモチャっぽいかな?

 テープやデスクなど機械的な回転部品が全くなくて、録音機械はいずれこうなるんじゃないかと思っていました。

 音質はハイクォリティモード(録音時間が4時間30分ほどと短い)だと、まあソコソコです。それ以外の長時間録音モードだと、圧縮率が高いためにヒズミが大きく、なんとか聴き取れるというレベルで、あまり大きな音で聴く気にはなりません。

 なによりも画期的であったのは、録音した音声を簡単にコンピュータに取りこめる、ということでした。「簡単に」というところが私みたいにズボラな人間には大事なんですよ。

 他の機材でも取りこめないことはなかったのですが、アナログの音声に再生してそれを取り込む、という形でしか実現しませんでした。もちろんお金をかければそんなこともないかも知れませんけど、それでも時間と手間がたいへんなので、ものぐさな私にはまず向かないでしょう。DATで懲りてます。

 本機はUSBでコンピュータに接続してファイルをダウンロードするだけなので時間もほとんどかかりません。ただ、マニュアルを読みながら仕様を調べると、取り込んだファイルはWMA方式で保存されるのでマックでは編集が難しいみたいです。いずれ、何らかの方法で編集できるようになるでしょうけれど、それまではマメにスイッチを切ることにしましょう。


太喜之丞的録音の歴史 未来(明日はどっちだ?)

 いずれにしても昔ながらのカセットテープやMDはこれだけ普及しちゃってますから、当分なくならないでしょうね。ということはカセットのデッキもMDのデッキも一台は持っていなくてはいけないですね。DATもなくなることはないでしょうけど、これはそんなに普及してるわけじゃないですから持っていなくても恥ずかしくはないし、困ることもないでしょう。

●太喜之丞のデスクトップ

 私的には音資料としての録音もコンピュータと連携する方法にシフトして行こうと考えています。リムーバブルなテープやディスクを使った録音は普及しているという意味では手軽な感じがしますが、そのメディアの保存の仕方そのものがアナログですから、資料としては整理するのも探すのも面倒なんですね。ラベルに手で書かなくちゃいけない(一生懸命プリントしてたこともあるんですけど、すっごく面倒くさいです)し、なんといっても使ったらまたしまわなくちゃいけないでしょ?

 今は試験的にDS-10で録音した音資料をファイルとしてコンピュータに取り込んで、曲名の読みがなの最初3文字+曲名を名前としてつけて適当なフォルダに放り込んでおくだけ、という方法を採っています。探すときはコマンド+Fで検索します(これは私が使っているマックでの話。ウィンドウズではどうするのか、私にはわかりません)。ハードディスクも安くなってきたし、コンピュータの処理能力も上がってきてこれらの作業がホントに手軽にできるようになりましたもの。

 この4月(2003年)には新型のレコーダが出てその機種はステレオで録音ができるそうです。もう少しテクノロジーが進んだら、音声だけではなく映像までも資料としてハードディスクに保存するのが当たり前の時代が来るかも知れません。そして、その日はもうすぐそこに来ているのかも、ですよ。

03.04.07

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