タキノ庵世界紀行
<2003 前回よりもっと極寒のカナダ・ツアー>


●公演のポスター

 今回のカナダ・ツアーはカナダのフルート奏者ギィ・ペルティエールさんが2年も準備して企画・制作した「Occident--Orient」というコンサート・ツアーです。カナダと日本の、管楽器奏者と打楽器奏者のデュオが二組、4人で演奏会をするというものです。

 演目はカナダデュオが構成したインプロビゼーション「オクリエント(Ocrient)」、山本裕之さん作曲の「サミュエルの神(Le diue de Samuel)」、ウッグ・レクレアー作曲の「序破急(La Saison Interieure)」、そして私たち日本デュオが構成した「曙:あけぼの」の4曲です。


2月8日
(土)

 今日からカナダツアーの始まりです。約3週間、長い日程を寒い国で過ごさなくてはなりません。昨夜、荷造りで手間取り、もうすでに出発前から気が重かったです。

●ムッシュ・ギィ・ペルティエール

 成田発のカナダ航空2便にのってトロント経由でモントリオールへ。こう書くと簡単ですが、15時間くらいかかったんですね、東京から。空港のロビーを出てまず「寒い!」と、思うわけです。何といってもこの時期のモントリオールはマイナス10度以下なんて当たり前っていうんですから、寒いわけです。後でもっと凄いことになるのですが、この時はお決まりの「日本と違うねー」っていう感じでした。

 ホテルはクラリオンという、キッチンなどの付いた「スーツ」ってやつです。ロビーではこれから演奏を供にするフルート奏者ののムッシュ・ギィ・ペルティエールが待っていてくれました。

 飛行機の中でがんばって起きていたもんですから、私、意識モウロウでした。ベッドにパッタリとそのまま寝込んでしまいました。


2月9日
(日)

 本日から早速リハーサルが始まります。出かける時間にあわせて、パトリックのところに西川さんがあずけてある、いくつかの打楽器を届けてもらいました。と、ホテルを出てみると、ひえ〜!寒いぃ!そういえば部屋でテレビを見てたら、マイナス22度なんて言ってたのでありました。

●ムッシュ・ジュリアン・グレゴワール

 パトリックはモントリオール在住のパーカッショニストで日本の我が家にも来たことがある友人です。前回のニシカワ・アンサンブルのツアーでは一緒に演奏旅行をいたしました。

 場所はギィ達が教鞭をとる、モントリオール大学音楽学部のの練習室。大学は丘の上にあります。それも結構急な坂で、楽器が多いのでもちろんタクシーで行きましたが、楽器が無くてもこの雪が積もった坂道、あまり歩きたくないな。

 パーカッションのジュリアンとはここで初めて紹介されました。なんだか濃い人だなあ。「繊細な野武士」もしくは「モントリオールのナマハゲ」という感じの人です。「ナグゴハ イネガー! ワルイゴ イネガー!」

 彼の使用するパーカッションの種類の多さには驚きました。マリンバは2種類、ゴング多数、ドラムセットから自動車のホイールまであります。これを全部持ってツアーをまわる気なのかしら、と思うくらい多いんですね。実際、全部持って回ったんですが...

 山本裕之さんの曲は非常に数学的な、どちらかというとロジカルな印象を受ける曲です。まず、拍子のアナリーゼ(解析)をして全員の拍割を統一するんですが、管楽器と打楽器では整理が違うもんですね。つくづく感じました。

 インプロの曲は日本の古典の獅子物をベースに構成したのですが、日本で録音するときに何の気なしにアシラッたオルゴールに先方がひとつひとつカラムことになって、このへんの数をきちんと勘定しなくてはいけなくなりました。普段こういうのは本当に何となく雰囲気で演奏(囃子用語でアシラウというんです)しているもんで、かえって緊張しましたです。


2月10日
(月)

 本日は午前中からやはり大学でリハーサル。この日は山本さんの曲のほか、カナダ人作曲家レクレアーさんの曲「序破急」とギィ達の構成したインプロの曲を練習しました。

 昨日ジュリアンのセッテイングを見て考えたのですが、私は今回、演奏会をずっと正座したまま演奏することにいたしました。その方がギィとジュリアンの洋楽器デュオに対しての「オリエント」というコンセプトが明確になるように思ったのです。まあ、1時間15分くらいですからアイビキなんかなくてもなんとかなるでしょう。

●西川浩平さん

 この日は結局、私たちが構成したインプロの曲と山本裕之さんの曲を練習しまして、あっけなく2時頃には練習を終えてホテルに帰りました。2時といっても日本時間では午前4時ですから、なんだか徹夜したような気分です。ギィ達も私たちの時差ボケを考慮してくれたんでしょう。

 レクレアーさんの「序破急」は山本さんの曲とは対照的に、前半は仏教的な空間をイメージさせるような静かな導入部から始まります。半ばからリズムになり、情熱的、というか非常にエネルギッシュにエンディングをむかえます。

 最初の部分は仏具のキンをチェロの弓で弾きます。これは高い倍音がほしいのに低音が鳴っちゃったり、弓が楽器を擦る音ばっかり響いちゃったりでナカナカ思うように鳴ってくれなくて、最後までたいへん苦労しました。

 また、「非常にエネルギッシュなエンディング」というのをパトリックの大拍子を裏表両面で演奏するのですが、楽器の両面を使って演奏する、というのは私、ほとんどやった経験がないのでたいへん苦労いたしました。日本では大拍子というと片面しか使わないんですよ。そんなの日本でも練習してこなかったし。

 この日はモントリオール在住の友人、リシェンとその奥さんで中国琵琶奏者のファンと三人でチャイナタウンへ行き、すっかりご馳走になってしまいました。


2月11日
(火)

●会場でのリハーサル

 本日からは会場の現代美術館の地階にあるBerverley Webster Rolph Hall でリハーサルです。ここでは普段コンサートのほか、様々なパフォーマンスが行われるそうで、音楽専門のホールというわけではなさそうです。

 ここは前回「ニシカワ・アンサンブル」で来たときにオフの日に来たことがあります。現代美術のコレクションがゆったりしたスペースに展示してあってとてもくつろげる美術館でしたが、その地下にホールがあるなんて私は知りませんでした。

 ここで照明・音響担当のオニールに紹介されました。彼は今回のコンサートツアーでは照明・音響の他、我々の舞台作りの上で非常な重要な役割を務めることになります。

 「序破急」のレクレアーさんが来て、いろいろご注文をいただきました。

 この曲、難しくて苦手です。キンをチェロの弓で弾いたり、大きな大拍子のような太鼓を両面で打たされたり。

 レクレアーさんは奥さんが臨月で、もう、今日にも生まれそうなことを言ってます。そのせいか、そわそわして落ち着きません。

●打ち合わせをする山本さんと西川さん

 細かい練習をしてから大ざっぱなランスルーをいたしました。

 私、煙草を吸うために表にときどき出るんですが、外では週末から何かフェスティバルが開かれるらしく、その準備に大わらわです。気温はマイナス20度!前回来たときはやはり今ごろだったけど、こんなに寒くはありませんでした。煙草を吸うのも命がけです。

 この夜、山本裕之さんが日本から着きましたので、夜はみんなでシェルブルックのモンゴル料理屋さんへ行きました。シェルブールは前回泊まったホテルがあるところでして、懐しい街並みを歩くことができました。遠い外国に懐しい街並みがあるというのは、なかなか良いものです。


2月12日
(水)

 現代美術館のホールでリハーサルです。

●ランスルー

 この日は西川さんの古い友人で、バイオリン奏者のケイコさんがご主人のギャニヨンさんとご一緒にはるばるカルガリーからいらっしゃいました。ご主人のご実家はこちらだそうで、そのツイデもあるんでしょうけど、でも演奏会に合わせていらしていただいたのにはアタマが下ります。

 夜はご一緒に4人でチャイナタウンへ参りました。一昨日、リシェン達と行ったお店のすぐ近所の店で、盛大に盛り上がりました。

 どうも今回のツアーは中華率が高いなあ。


2月13日
(木)

 現代美術館のホールでリハーサルです。照明の段取りもあり、3回も通しました。もう私たち日本勢はヘロヘロ。基礎体力の違いをまざまざと見せつけられました。

 この日はフランスのパリから西川さんの友人の姫田さんというフルート奏者の方が到着しました。西川さん曰く、姫田さんは我々の演奏会、というよりも、めったに行けないであろうアルマに行くのがメインなんだそうです。

 私、姫田さんと二人でお茶を飲んでお話をしていたら、彼が飛んでもない人をご存知だということが判りました。

 新井 純(あらいじゅん)さんという、元「黒色テント」という劇団にいらっしゃった女優さんなのですが、高校時代に彼女のお芝居を観てからズーッと憧れの方なのであります。あの芝居に出会わなかったら、私は芝居の世界に入ろうなんて思わなかったでしょうし、もちろん今、音楽の仕事なんかしていないでしょう、というくらい、私の人生を変えたお方とお知り合いとは!またそんな方と遥かモントリオールまで来てお目にかかるとは、なんという運命でありましょう!ちょっと大ゲサですか?

 この夜、部屋でパスタを作ろうとして大騒ぎになってしまいました。

 マッシュルームをオリーブオイルで炒めようとしたのですが、最初はフライパンに貼ってあったシールが熱で燃え出して煙が出て失敗。凄い匂いも最初はシールが焦げた匂いだと思っていました。

 フライパンをすっかりきれいに洗って再度ニンニクを炒め始めたら、またものすごい匂い!「これはシールの匂いではないのだな」としらべてみたら、どうもそのニンニクが原因らしいんですね。いつものニンニクの匂いじゃなく、とにかく物凄い臭いんです。ニンニクとは思えないくらい。違うものを買ってきちゃったかな?

 結局パスタはあきらめて、待ちくたびれて眠ってしまった浩平さんを起こして近くの韓国料理屋に行きました。


2月14日
(金)

 今日はバレンタインデー。だから、というわけじゃなく、全く関係ないんですがモントリオールの現代美術館での初日です。たしか、2000年のバレンタインデーもこちらで西川さんと一緒だったんですね。ちょっと複雑...

●初日の開演直前に

 お昼からランスルーを一回やって、夜の開演までは4時間もありますので、上の美術館を見学することにしました。切符売り場へ行くとすでに顔見知りになったオネエサン(この方、男性なんですがジツにドウドウとゲイをやってます)が「あんたはホールの出演者でしょ?だったらいいわヨ!」ってなもんで、タダで入れてもらっちゃいました。

 外はフェスティバルの初日が華々しくオープンしていました。にぎやかな大イベントです。なんていうんでしょ、「サッポロ雪祭り」みたいな感じです。

 こちらの初日の客席は満員でした。舞台の方は「序破急」が不安だったこともあって、なかなか緊張しました。あと、レクレアーさんのところ、まだ生まれてませんでした。


2月15日
(土)

 部屋でメールをチェックしたら、私のホームページの掲示板に書き込みが...おお!昨日のコンサートにいらしたお客様からの書き込みでした。モントリオールにお住まいの日本人の方で、たまさか演奏会のことを知って聴きにみえたようです。嬉しいですねぇ、こういうの。

 さて今日はモントリオールの現代美術館での二日目です。

 昼に簡単なリハーサルをして本番でした。演奏そのものはやるたびにアンサンブルが良くなっていくように思います。昨日ほど緊張しなかったですけど、エキサイティングもしなかったです。演奏のデキは良かったけんですど、演奏会としては昨日の方が良かったかな、と思いました。

 今日はパトリックやリシェン夫妻も来てくれました。


2月16日
(日)

 今日はおやすみです。カルガリーから来たギャニヨン夫妻と4人で旧市街へ行きました。

●左から姫田さん、Mr. J.P Gagnion、
 西川さん、Mrs. Keiko Gagnion

 まあ、寒いさむい。今日はマイナス24度だそうです。顔を出してるとほっぺたが痛いし、マフラーで顔を覆うと吐く息の水蒸気が鼻とか睫毛あたりで凍りついていきます。目とかはマバタキができるからオッケーなんですけど、耳とかはキチンと隠しておかないと奥の粘膜の部分が凍っちまって障害になるそうです。

 ノートルダム大聖堂(ここは12年前に一度来たことがあります)を覗いて、プラス・ジャック・カルティエでお茶を飲んで、地下鉄で移動してモントリオール美術館へも行きました。ちょうどゴーギャン展をやっていたのですが、これはほとんど日本でも観たものばかりでした。私にはかえって他の展示の方が面白かったです。

 夕食はみんなでステーキをいただきました。これが安くておいしかったんですね。これがこのツアーを通して最初で最後のステーキになります。


2月17日
(月)

 アルマへ移動。朝、ホテルをチェックアウトしようとしたら、電話代があまりに高いのでビックリしました。市内通話が1通話ごとに1ドル15セント、約100円ですね。時間はフリーなのですが、これは高いワケです。

 オニールの家に集合して、アルマまではギィの運転で約5時間。フランス語が鮮やかな姫田さんは助手席でギィが眠くならないようにずっと話しかける役です。ギィ、けっこう飛ばします。あちこちに雪の残る高速道路を130キロくらいでガンガン行っちゃうんですからスゴイです。走ってく自動車みんなが早いわけじゃなくて、とにかく彼の車を抜いてく人なんて全くいないんですから。

●ハムステーキ with メイプルシロップ

 昼食は途中のドライブインへ。ここでカナダならでは(?)のランチを注文しました。ハムのステーキなんですけど、ソースがメイプルシロップなんです。甘いの!シロップの甘さとハムの塩味が、なんともいえないマッチングでおいしかったです。ほら、よく豚肉のソテーにパイナップルが乗ってたりするのがあるでしょ?あんな感じです。

 「アルマはモントリオールなんかよりもっと寒いゾ」なんて脅かされてたんですが、そんなことはなかったです。暖かく感じます。ていうか、昨日のモントリオールがものすごい寒さだったので感じないだけか。

 ホテルで荷物を置いてから会場へ下見に。会場は Tourelle HALL といって、こちらのハイスクールが持っているホールのようでした。ここで、クラリネット奏者でこの街でたった1人の日本人、浜田さんにお目にかかりました。


2月18日
(火)

●ワークショップ 私と西川さん
右が浜田さん

 今日はアルマでの公演です。午前中はワークショップ、夜は演奏会を開きます。

 いいお天気です。暖かいとはいうものの、そこはディープ・ケベック。準備中に濡れた手拭いをもったまま、ちょいと外に煙草を吸いに出たら、手拭いはパリパリに凍ってしまいました。

 私たちは日本の管楽器と打楽器の紹介と伝統的な奏法について語り、ギィ達は即興演奏についてのレクチャーをいたしました。何がしかの音を出してそれが対話をしだすと音楽になる、というくだりが面白かったです。

 お昼は学校の食堂でいただき、夜までの長い時間を本を読んで過ごしました。夕食は主催者が街のレストランへ連れて行ってくれました。ただしご招待ではなく、ワリカンです。

 正直、この夕食は私にとって、あまりありがたくないものでした。主催者達が前菜をとったため、私たちのオーダーした分(軽く食べたいので主菜のみ)が、だいぶん待たされてしまったのです。演奏前にこの長い時間はなんだか気分が疲れちゃって、非常に辛いものがありました。

●ワークショップ ギィとジュリアン

 演奏はなんとか無事に終え、部屋で宴会かなと思っていたら、浜田さんが全員をお宅にご招待してくださいました。

 姫田さんが先に出て、途中で買い出しをしてくださっているので、それを追いかけてもらって無事に合流できました。

 浜田さんのお宅はそこかしこに日本的な雰囲気のあるすてきなお宅で、周囲の静けさとあいまって、非常にくつろげる空間でした。拝見したお部屋の中でもお風呂がサイコー!

 奥様がまたなんともチャーミングな方でして、深夜だというのに我々のためにオニギリや春巻きを作ってもてなしてくださいました。ここでいただいたコーヒーがこの旅を通じてもっともおいしかった、ということも忘れてはなりません。あれはヨーロッパでいただく私が大好きなコーヒーの味でした。

 部屋に帰ってからも何となく落ち着かず、姫田さんのお部屋でいま少し、お酒をいただいて就寝。


2月19日
(水)

 アルマからモントリオールへ戻ります。ギィは疲れているでしょうに、わざわざ湖をまわって帰る道を選んでくれました。

●集会?

 お昼は途中のドライブインでとりました。ドライブインの駐車場は半分スノーモービルで埋まってて、なんだか不思議な風景でした。まるで暴走族の集会みたいな状態です。さすがに犬ゾリ用の駐車スペースはなかったです。

 結局、6時間近くかかってやっとモントリオールに到着です。ずっと助手席でギィに話しかけ続けていた姫田さんもお疲れさまでした。

 姫田さんは明日パリに戻ってしまわれるので、今日はお別れの宴会、というわけで日本人勢はインド料理屋へ参りました。ただ、辛いインド料理だと、お酒はあまり進まないものですね。姫田さんはたった五日ほどご一緒しただけなのに、明日からいらっしゃらないと思うと寂しくなります。

 夜中に部屋でテレビのチャンネルを回していたら、伊丹十三監督の「たんぽぽ」を放送してました。なんだか日本語が恋しくて、すっかり全編観てしまいました。映画を観てたら、お蕎麦かなんか食べたくなっちゃって...


2月20日
(木)

 トロントへ移動しました。山本さん達は列車で移動なので車組は3人です。

 途中で西川さんが運転を変わったものの、さすがにギィは疲れた模様で、最初は一緒に行こうと言っていた夕食もキャンセルになりました。ホテルは「デルタ・ホテル」。けっこういいホテルです。個人的にはホテルのランクを下げてシングルルームにしてくれたほうがありがたいんですけど、自腹を切る気もないので我慢します。

●北京ダックをさばくオネエチャン

 というわけで、別なホテル(前回私たちが泊まったホテルThe Alexsandra Apartment Hotel)に部屋を取っている山本さん達と待ちあわせて、4人でトロントのチャイナタウンへ参りました。本当にこのツアー、毎日のようにアジア料理をいただいております。ま、北京ダックが美味しかっし、さばいてくれたオネエチャンが楽しかったので、今日のところは文句はありません。

 ここのチャイナタウンは歩いていると本当に中国へ来てしまったのではないかと思うような街です。海外の中華街、というよりも現地っぽいんですね。

 香港の返還以来、トロントでは中国の方の人口が非常に増えた、といいます。カナダ政府が積極的に移民を引き受けた結果なのだそうですが、街の交通標識や案内も英語、仏語(この順番はモントリオールとは逆)じゃなくて中国語、英語、仏語にすべきだという意見もあるくらいだそうです。


2月21日
(金)

 お昼は西川さんの知り合いの松本さんという方のお宅にご招待いただきました。松本さん、私と同じマック使いでありまして、非常に嬉しかったです。

●トロントの会場

 奥様手作りのお昼の純日本食(ミソ・スープ、メザシ&ナットー!)をご馳走になり、幸せな昼下がりを過ごしました。

 トロントでの演奏会の主催者「ミュージック・ギャラリー」は3年前にもお世話になりました。スタッフもみんな懐しい顔です。ただ、以前の会場は今はなく、教会を借りて演奏会をしているそうです。

 リハーサルの後は地元トロントで日本語放送をしているテレビ局の取材を受けました。

 レポーターのオネエサンは私の使っていたササラを見て「どこかで見たことがある」とのたまいます。「これは富山県地方の民族楽器で云々...」と説明してさしあげたところ、昔付きあっておられた彼が富山出身の方だそうで「それで見たことがあるのかも知れない」とのこと。 「別れちゃったんですか?」 「別れちゃったんです」

 私、ササラを鳴らしながら去って行く、その富山出身の彼の後ろ姿を想像してしまいました。

 取材の後、表に出てホットドッグをいただきました。この街に来るとなぜか必ずホットドッグをいただいてます。安くて(2ドル!)非常に美味です。トッピングがフリーで、またその種類が多くて楽しいです。

●トロントの夕焼け

 会場の教会の前まで帰ってきてフト振り向くと、まあなんとあざやかな夕焼けでしょう。こんな夕焼け、もう何年も見たことがありません。おもわず写真を撮ってしまいました。なぜか、昔アフリカに行くときに「バオバブの写真を撮ってきて」と頼まれたことを思い出して、少し切ない気持ちになりました。

 教会は音響が良すぎて、ちょっと音が回りがちでしたが、演奏はなかなか充実いたしました。音が響きすぎるとガイドとしてアテにしている音が聞こえなかったりして、けっこう恐いんです。そのコワイ気持ちがいい意味で緊張感につながってっくれたのかもしれません。

 コンサートにはトロントの太鼓奏者ゲイリー・ナガタもガールフレンドと聴きに来てくれていました。終演後は会場でレセプションが開かれました。けっこうお腹空いてたもんで、ワインが回ること!

 山本さん達とはここでお別れです。なんだかだんだん人がいなくなっていきます。


2月22日
(土)

 トロントからモントリオールへ戻りました。ギィの疲労を心配していたのですが「大丈夫」と、とうとう一人で運転し通してしまいました。やはり基礎体力が違うのか...?

 夜は再び韓国料理屋さんへ参りました。


2月23日
(日)

 モントリオールは朝から大雪です。この日はお休みでしたがどこへ行く気にもなりませんでした。西川さんは午前中から出かけて夜遅いというので、一度外に出るには出たんですけど、ランチを食べたらもう雪の中を歩くのが面倒になっちゃって戻ったんです。

 パスタに再挑戦しようと思い、マーケットでまたニンニクを買いました。前回とは違う、箱入りの、しかも箱には「パスタに!」なんて書いてあるヤツを買ったのですが、これもやはりいけませんでした。どうもこちらのニンニクは基本的に匂いが違うみたいなんです。

 先日の悪夢が蘇ってきたので即座に捨てて、しかたなくニンニク抜きでマッシュルームのパスタを作って、独り酒盛りをしてました。こんな時間、東京ではナカナカ持てませんから、ちょっと嬉しかったです。


2月24日
(月)

 午前中は地下鉄で市街地からちょっと離れたところにある、パトリックの家で録音の打ち合わせをいたしました。

 パトリックはアイリッシュ・タンバリン、ガネッシュはインド・パーカッションの奏者です。4分の7のパッセージが最初は相当ややこしいのですが、慣れてくるとけっこうハマります。

●モントリオールの旧市街

 西川さんは明日のコンサートでギィとデュオの曲を演奏することになっているのでその練習へ。私は一旦ホテルに帰り、午後はお土産でも買おうかと、ブラブラと表を歩き回りました。これは、と思うものは目玉が飛び出るほど高いし、あとは日本でも売ってそうなものばっかりだしで、結局、買い物は何もせず、先日みんなで行った旧市街まで歩いてしまいました。

 こないだはみんなと一緒だったもんで好きに歩き回れなかったんですけど、路地マニアの私としてはぜひゆっくり歩いてみたかったんです。モントリオールはだいたい路地らしい路地というのがあまりなく、ここは唯一ヨーロッパっぽい雰囲気の路地があるんです。

 「Guy-Concordia」のあたりはConcordia大学のある学生街です。若い人が多くてにぎやかだなぁ、なんて思いながら歩いていると目の前で車がスリップして駐車中の乗用車に激突してしまいました。あーあ、かわいそうに。

 夜は西川さんとタイ料理屋へ参りました。ワインでも飲みませう、とボーイさんに聞くと「ウチでは置いていない。すぐそこに酒屋があるからそこで買って持ってこい」といいます。持ち込みがOKというよりも、持ち込まないとお酒が飲めないんですね。これは日本でもあまり聞かないシステムでした。

 どういうことかというと、ここではお酒を販売するのに免許が要り、税金も余計に払わなくてはいけないらしいんです。というわけで、お酒も出す店はその分がコストに跳ね返ってしまいます。そこで、料理に自信がある店は酒類を販売する免許などを取得せず、お酒は持ち込ませるのですね。それにお酒が会った方がやはり食は進むので、お酒に高い税金を払って少ない利益を得るよりもよほど儲かる、ということなのかもしれません。


2月25日
(火)

 午前中、テレビではまた「たんぽぽ」をやってました。モントリオールではテレビのチャンネルはたくさんありますが、一つのプログラムを何度も再放送しているようです。「たんぽぽ」なんかこれで3回も観たし、クロコダイルの生態に関してはだいぶん詳しくなりました。

 言葉を追いかけていると疲れてしまうので、画像を眺めてるだけで楽しい番組を選びがちですが、日本語の「たんぽぽ」などはつい観てしまいます。「戦場のメリークリスマス」もやってたのですが、こちらは吹き替えでした。しかもフランス語!フランス語をしゃべるビートたけしさんは、なんだかかわいらしかったです。

 お昼頃、会場に出かけてリハーサル後、イタリア料理屋さんへ。ちょっと高い目でしたがウェイトレスのオネエサンの笑顔と衣装が素敵だったので許すことにします。

 夜はシモン・ベルトラン主催のレクチャーコンサート。会場はあの懐しいシャペルです。

 演奏はレクレアーさんの「序破急」とインプロを一曲でした。

 終演後はシモンに連れられて行きつけの飲屋さんへ。ビールで乾杯して盛り上がりました。でもみんなフランス語でしゃべってるから、私には良く判らないんです。何となく雰囲気で盛り上がっていたんですね。


2月26日
(水)

●録音を終えて

 パトリックとガネッシュのコンビと録音をいたしました。この録音は彼らの新しいアルバムに収録されることになっています。

 3時間ほどで録音を終えて、一旦ホテルに戻りました。

 帰りの荷造りをしているときに締太鼓の胴がひび割れているのを発見しました。とてもいい調子の太鼓だったので結構ガッカリしましたね。日本に帰ってから直しに出さねばなりません。

 夜はローリエというところにあるフランス料理屋さんでお別れパーティーが開かれました。このお店もワイン持ち込みです。料理に自信あり、とみました。フォアグラと小羊の骨付きソテーをおいしくいただいて、すっかり満腹になりました。この度のツアー、ディナーの8割近くがアジア料理という異常事態でしたが、最後にフランス料理でシメてもらいました、という感じです。

 ちなみにレクレアーさんのところ、まだ生まれてません。ずいぶんジラされます。


2月27日
(木)

 帰国日です。朝7時にホテルを出発しました。9時半発のカナダ航空で、シカゴ経由で東京に帰ります。

 この場合、アメリカへの入国審査はモントリオールの空港で済ませてしまいます。空港の中で、もうアメリカ、というわけです。そういえば前回もやはり同じように、アメリカへの入国を済ませました。

 カナダ、それもモントリオールの方の英語は割と聞き取りやすいのですが、ここの入国審査官の英語の聞き取りづらいこと!モントリオールではフランス語がメインなので英語は第二国語なんですね。だから、英語をしゃべるときは割と丁寧なんだそうです。アメリカの人は遠慮なしにバンバン喋ってきますので、うっかりしてると何を言われてるのかサッパリわかりません。

 シカゴで乗り換えの間に一旦飛行場の外に出て煙草を一服。戻ろうとしたらセキュリティがきびしくて、身体検査は受けるは、カバンを開けるは、大騒ぎです。一昨年のテロ以来、これらのセキュリティチェックは確実に厳しくなってます。

 シカゴからの便では隣の席の女の子とすっかり話し込んでしまいました。最初、日本人かなと思ったら一年間の語学留学を終えてタイへ帰るところだそうでした。あちらは私のこと、インドネシア人だと思ったそうです。なんで?


2月28日
(金)

●All casts

 東京に無事到着。お疲れさまでした。東京は暖かいです。

 今回のツアーでは西川浩平さんとズーッと同室でした。疲れたろうなあ。私、わがままだし... いろいろすいません、お世話になりました。

 このツアーでカナダで出会った方々、かならずまた近々お目にかかりましょう。それまで皆さん、お元気で。

03.03.31

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