COM版「望郷編」

Book of Nostalgia("COM" Version)

初出 COM 1971年12月号、COMコミックス1972年1月号

現在入手できる「望郷編」とは構想の全く違うオリジナル版です。

ストーリー

目覚まし時計のベルに、一人の老人がベッドから起きあがった。
シャワーを浴びて、木々に囲まれた庭園に出ると、動物たちに餌をやり、絵画を描き始める。
そこに進入警報が鳴る。
モニターには武器を持つ、顔の焼けただれたクローン人間の姿が映るが、自動警備装置がクローン人間達を意図もたやすく始末する。
老人は部屋へと戻ってピアノに興じる。
ピラミッド型をしたその”神殿”の外の風景は殺伐とした瓦礫の荒野であった。
その荒廃した地に一機の宇宙船が着陸した。
降り立った人物はジョシュア・オーヴァードという宇宙土木開発業者で、近くの星にやって来たついでに、10年ぶりに訪れてみたのだった。
すっかり荒れ果てた光景に驚きつつも、オーヴァードはピラミッドの”神殿”に入り、老人・城之内博士と再会をする。
オーヴァードは30年前に、城之内博士が買い取ったこの惑星の開発を任された人物だった。
1年掛かりの惑星開発の後、城之内博士はクローン植物を惑星全土に植え付け、クローンの人間、クローンの動物で、”機械”という文明の利器の一切ない、原始共産制の町を作り、新しい地球を生み出そうとしたのだった。
10年前の事、久しぶりにこの惑星に立ち寄ったオーヴァードは、博士の一人娘、城之内時子に案内されて、繁栄しているクローン人達の町を訪れた際、些細なミスから、城之内博士の怒りを買い、出入り禁止の身になっていた。
オーヴァードが去った後しばらくして、この惑星のクローン人の社会で核戦争が起きた事は近隣の宇宙港で噂になっていた。
一人ぼっちで友だちのいない時子は、寂しさを紛らわす為、宇宙交信機で何時もオーヴァードと話していた。
父の城之内博士が極秘裏に開発した超空間移動機「スワープ」の事、核戦争が起きた事、そして城之内博士も、時子も放射能に被爆したこと、、。
放射能を浴びた時子はパニックに陥り、交信機の向こうでオーヴァードが止めるのも聞かず、「スワープ」を動かすとどこへとも知れぬ空間に消え、それ以来行方不明になっていた。
それから10年経って、放射能も消えたろうとオーヴァードは立ち寄ってみたのだった。
オーヴァードは城之内博士に時子の墓へと案内されるが、オーヴァードは一笑に付し、真実を全て知っている事を城之内に告げる。
「スワープ」の秘密をオーヴァードが知っている事を悟った城之内はカッとなり、オーヴァードを撃ち殺そうそするが、その時、彼方から微かに時子の声が聞こえてくる。
やがて空間が歪み、「スワープ」が姿を現し、ハッチが開くと時子が外に倒れ込んでくる。
時子は時空移動の衝撃からか、記憶喪失になっていた。
「スワープを知った者は殺す」と詰め寄る城之内博士とオーヴァードはもみ合いになるが、城之内の銃が暴発し城之内自らの頭を焼く。
時子を介抱するジョシュアの耳に赤ん坊の声が聞こえて来る。
「スワープ」の中で泣き叫ぶ赤ん坊をジョシュアは発見するが、赤ん坊は時子の放射能被爆の影響を受けた奇形児だった。
ジョシュアは「かわいそうだが、、」と赤ん坊を池の中に放り込むと、スワープをロケットに積み込み、時子を連れて地球へと飛び立つのだった。
 
池で溺れかけていた赤ん坊を助けたのは城之内博士に飼われていたクローンのペット達だった。
ビーバー達が赤ん坊を岸に押し上げてやると、熊が赤ん坊の飲み込んだ水を吐き出させ、泣き叫ぶ赤ん坊に牝鹿が乳を飲ませてやるのだった。
 
歳月が流れていき、ある時、宇宙を飛翔していた火の鳥がこの星にやってきた。
火の鳥は人間が作り上げた星を快く思っていなかったが、クローンの動物達には愛情を持ち、暖かく見守っていた。
クローン動物達に助けられたミュータントの赤ん坊は成長し、コムと名付けられていた。
コムは目は見えなかったが、頭にある触覚で周りを知覚し、テレパシーで動物と会話する事が出来た。
動物と戯れていたコムは火の鳥に出会い、はじめは驚くが、火の鳥が危害を加える事がない事を知るとすぐに打ち解ける。
火の鳥がコムの知らない事を沢山知っていると知ったコムは知識欲が噴出し、火の鳥に様々な質問を浴びせる。
この世界の事、空の事、空の向こうの事、自分の同じ姿をした者が他にいるかという事、、。
そして、昔からコムの心に残っていた言葉を火の鳥に聞き、火の鳥を驚かせる。
「オトキってなーに?」
 

NOTE

COM誌上で連載が開始されたものの、連載2回目にして雑誌が休刊になったため中断したオリジナル版です。
後に月刊マンガ少年誌にて連載が再開されましたが、被爆者を主人公に据えたという事の問題点の大きさから、ストーリーは一新され、全く別の物となりました。
ここではコム(後の「望郷編」に登場するコムと同じ姿をしています)はムーピーとの混血ではなく、「羽衣編」に登場するおとき(城之内時子)の子供であり、時子の放射線障害から生まれたミュータントという設定になっています。
城之内博士の住む”神殿”は新版ではロミが冷凍睡眠で眠る”神殿”として登場します。
「宇宙編」にも城之内という人物が出てきますが、恐らくはこのCOM版「望郷編」の城之内博士と血縁であると見ていいでしょう。
しかし、このCOM版「望郷編」で城之内博士は死んでしまいますので、地球に帰って結婚したオーヴァードと時子の間に生まれた子の子孫か、或いは城之内博士の兄弟(が、いたとして)の子孫ということになりますね。
 
この中断したCOM版「望郷編」のその後の展開はどうなる予定だったのでしょう?
これは、あくまでも私個人の推察で言っている事をお断りしておきますが、恐らく、火の鳥に母親の事を聞かされたコムが、昔のかすかな母親の記憶を取り戻し、母親に会いたいという想いがつのって行き、母のいる地球へと旅立つ事になるのは想像に難くないですね。
そこで、あの岩石宇宙船や牧村が登場してくるのかは判りませんが、地球にたどり着いて母親と巡り会い、幸福な結末を迎える事になるかはなんとも言えないものの、ミュータント故の迫害などを受けて、地球で命を終える事になるのでは、と私は想像します。
或いは、何故「宇宙編」の城之内の祖先をこの物語の主人公に据えたのかと理由を考えると、ラストでコムを追いつめるのは牧村ではなく、宇宙連絡員の若き「宇宙編」の城之内であり、(「宇宙編」の城之内が時子の子であると仮定すれば)実の兄弟同士の対決がラストに用意されていたのかもしれません。
いずれにせよ、被爆者の問題の事もありこのCOM版「望郷編」は完結する事はありませんでしたが、もし当初の構想通り完結していたのであれば、被爆者でもあり、障害者でもあるコムを主人公に据えた事によって、コム生きる姿を通して、障害者である人達の人権についても手塚治虫はきっと描ききっていたのではないかと私は感じます。
 

現在手に入る単行本

 なし


 
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Last Modfied 14,Sep.1997 takeboh@gem.bekkoame.ne.jp