空想科学的音楽_珍さん篇 第2弾!

地獄の特訓・SF千本ノックの荒行に耐える、私こと珍さんが紹介するSFのテイスト を感じさせるロックアルバム企画、つづきです。もう鼻血もでません。


(其ノ五)
エルドン / インターフェイス(KING KICP 2714)
原題:HELDON / INTERFACE

イギリスのキング・クリムゾン(スタンドじゃないよ^^;)からの強い影響の下に 結成されたフランス産エレクトロニック・ゲリラ、エルドンの'78年の作品。
この「インターフェイス」、過去に次のように評されたことがあります。

「間違ってもすがすがしい朝に聞いてはいけない、深夜作業の精神高揚BGMに」

これまでに紹介した作品と違って、歌は一切なし。サウンドのコンセプトで勝負です。 そのため聴き手を選ぶアルバムかもしれません。しかし、上の論評にあるように、 徹夜続きで頭がへろへろの時にモカ代わりに一度試してみて欲しい。
早い話、打ち込みによるシーケンサーとギター・パーカッションといった人力演奏の 競演なのだけれども。昔のシーケンサーの性能など知れたもので、プログラムできる フレーズや音色もごく短く単純なものに限られます。こういうシンプルで、ビヨビヨ 言ってるだけのフレーズをそれこそ延々と反復されたりすると、聴き手の精神には かなり「クる」ものがあるのです。
普通音楽を聴くという行為には、「泣き」だとか 「歌心」とか「心の癒やし」などといった気持ちよくしてくれる・楽しくしてくれる 効果を期待するわけですがエルドン(=リシャール・ピナス)の音楽はこれら「情」 にまつわるものをばっさり切り捨ててしまいます。
無味乾燥なシーケンサーのフレーズに人間様によるこれまたメロディのかけらもない 演奏が重なる。たとえ、超がつく一流のプレーヤーであっても、人間には機械ほど 正確な演奏はできません。しかし、正確無比な機械のリズムと人間の肉体が叩き出す ゆらぎを持ったリズムが同時進行することで妙なうねりが生じ、精神も変に高揚して きます。
機械と肉体の接合部でギシギシ言う「きしみ」。エルドンとそのリーダーである リシャール・ピナスがやろうとしているのはサイバネティクスの音楽的実践に 他なりません。

リシャール・ピナス。ソルボンヌ大学で哲学を教えつつプロのギタリストでもある という変わり種。また、彼は少なからずSFと関わりがあるミュージシャンでも あります。例えば。

私はまだSFは修行中の身なので、詳しい人が見れば他にもまだ見つかるかもしれ ません。
1997年、エルドンは10数年ぶりに再結成されました。スピンラッドもほぼ準メンバー格 で関わるようです。「インターフェース」の頃とは違った、ヴォイスやテキストの導入 によりエルドンのサウンドがどのように変化したかが見物です。アルバム 「ONLY CHAOS IS REAL」は'98年中に発表予定。

最後に。ピナスのソロ「クロノライズ」の裏ジャケにはこう記されています…

'Dedicated to All SF Freaks (すべてのSFフリークに捧げる)'


(其ノ六)
ロジャー・ウォーターズ / ラジオK.A.O.S.(SONY SRCS 6405)
原題:Roger Waters / RADIO K.A.O.S.

#あらすじ#

ビリーは身体障害者。見ることもしゃべることも、一人では歩くこともできない。 しかし彼はラジオの電波を送受信することができるという特殊な能力の持ち主だった。
訓練を重ねたビリーは無線電話をかけられるようになる。無線を通してシンセサイザー を使いしゃべることができるようになったのだ。そして同様に、無線を通して コンピュータにアクセスする術をもビリーは身につけていた。
南カリフォルニアのおじさんの元に身を寄せたビリーは、地元のラジオ局「ラジオ K.A.O.S.」のDJ、ジムと連絡をとり彼と友人になる。K.A.O.S.は決まり切ったラジオ 番組に対抗する革新的ラジオ局なのだ。
ラジオを通してビリーは悲しみを覚えた。世界 の政治家や指導者たちは、自分たちの国の内部における問題から人々の目をそらすため に、無益な対外紛争を演出しているのだということを知ったからだ。
ビリーとジムは、自分たちに何ができるかを考えた。そして二人は、ある「エンター テイメント」を思いつく。核戦争のシミュレーションというエンターテイメントを。

イギリスのピンク・フロイドの元リーダー、'87年発表のソロアルバム。
ロジャー・ウォーターズという人は、ピンク・フロイド在籍時から一貫して「社会に おける個人の疎外感」をテーマに曲を作っています。古くは、フロイドの名を不動の ものにした名作「狂気(THE DARKSIDE OF THE MOON)'73」、自閉症の男が現実から逃避 して自分と世界の間に「壁」を築いていく「ザ・ウォール(THE WALL)'80」 など、内容的にヘヴィなものが多いです。
これは、バンド結成時のリーダー、シド・バレットというナイーブな感性の天才が、 過酷なミュージック・ビジネスの荒波に耐えきれず、精神に変調をきたさせてしまった という事実が大いに関係しています。
次第にビッグになり、巨大なロックビジネスというシステムの一部になってゆく自分 たちと、社会からドロップアウトしたかつてのバンド仲間。明暗分けた両者の状況 (どちらが明でどちらが暗なのか?)こそが、フロイドの作品のコンセプトの源に なっているのだと思われます。「炎(WISH YOU WERE HERE)'75」に収録の「あなたが ここにいてほしい」や「輝けクレイジー・ダイアモンド」などはかつてのリーダーに 対する思いを率直に歌った名曲と言えるでしょう。

そんな中で「ラジオK.A.O.S.」はウォーターズ作品にしては珍しくハッピー エンディングな、未来に希望をつなごう的な結末でコアなファンからの評価はイマイチ 気味です。しかし、絶望的な状況にあって前向きな希望を見いだしたこのストーリー に、素直に感動してもいいのではないでしょうか。なにより、ビリーの電波を操る 超能力(晴れた日はよく届く?^^;)というアイデアは秀逸だと思う。
そうそう、タイトルや主人公ビリーの超能力を見て気づいた方もいると思いますが、 木城ゆきとの「銃夢」に登場するサイコメトラー、ケイオスの人物設定の元になった 作品でもあるのです。ケイオスが「電波で喋る」というのがどんな感じか、実際に ビリーが喋ってみてくれるので、ケイオス様のファンは要チェック!


(其ノ七)
HAWKWIND / LIVE CHRONICLES(GRIFFIN GCDHA-0136-2)

Listen, listen now...
Elric, who bore the sentient sword Stormbringer
And who killed the only two mortal women he ever loved
This is his sad, his terrible, aye and his heroic saga
The saga men call, The Chronicle Of The Black Sword...
(導入部のナレーションより)

#あらすじ#
太古の昔よりその特殊な能力により人類を支配していた竜使いの一族。その王家に 生を受けた虚弱体質のアルビノ、それがエルリックだ。祖先の誰よりも強力な魔力を 持つエルリックは「秩序の神」と相対する立場にある「混沌の神」アリオッチと 盟約を交わす。
エルリックと、メルニボネの王位の座を狙う従兄弟のイイルクーン との対立が深刻化する中、アリオッチはエルリックに「黒の剣」を委ねる。斬り つけた相手から魂を奪い取りそれをエルリックに注ぎ込む魔剣、それが「ストーム ブリンガー」だ。ストームブリンガーがその手にある間は、エルリックは勇ましい 戦士として振る舞うことができるのだ。
しかし彼は、そんな自らの存在意義や「混沌」の側に立って戦い続ける事に疑問を 抱きつつ、世界を放浪する旅に出る。

スペースロック。サイケデリック戦士。カラオケエコーの中で前衛詩人による詩の朗読。 延々続く単一ビートにライトショウ&ヌードダンサー。「サックスの中にヘロインの 包みを隠し持っていた」「スタッフに背中から支えてもらわないとまともに立って演奏 できなかった」など虚実入り乱れた伝説が今に伝わる筋金入りのラリ公、それが ホークウインド。'60年代末に結成されてから現在に至るまで現役であり続ける、 愛すべきヒッピーオヤジどもです。
'85年に発表されたスタジオ録音アルバム'THE CHRONICLE OF THE BLACK SWORD'は ホークウインドにとって久々のコンセプトアルバムでした。タイトルから分かる ようにムアコックの創作したキャラクター、エルリックのストーリーを題材にした 作品です。ムアコックとのつきあいは古く、これまでにも「宇宙の祭典(THE SPACE RITUALE)'73」「絶体絶命(THE WARRIOR ON THE EDGE OF TIME)'75」などのアルバムに おいて彼の詩をとり上げたり、朗読という形でゲスト参加したりしていますが、 'THE CHRONICLE〜'に至ってバンドはエルリックと「黒の剣」の物語に正面から取り組む ことになったのです。

'LIVE CHRONICLES'は'THE CHRONICLE OF THE BLACK SWORD'発表に伴うツアーの音源を 収録したライヴ盤ですが、'dreaming city'、'moonglum'といったスタジオ盤には収録 されなかった曲が追加されています。さらに、アメリカGRIFFIN MUSICからの再発盤は 大幅なボーナストラックの追加・曲順変更・小冊子のオマケ付きで、コンセプトアル バムとしての完成度がより高まりました。ことに、ムアコック自身による入魂の ナレーションは、原作のファンにとっては涙ものでしょう。
サウンドの傾向としては、もうこの時期になると初期の混沌とした様相は薄くなり、 メタリックでスピード感のあるハードロックをやっています。スペイシーなシンセを バックに語りが入ったりと、お里の知れるサイケな部分が顔を覗かせたりはしますが。 単純にかっこいいロックのライヴアルバムとして聴くことも可能。'60年代的な反骨精神 を持ち続け、'80年代を乗り越え再びピークを迎えたバンドの勢いを見事に封じ込めた 記録。傑作と言うしかありません。


(其ノ八)
ラッシュ / 神々の闘い(EAST WEST AMCY-2294)
原題:RUSH / HEMISPHERES

#あらすじ#

白鳥座を目指す宇宙船ロシナンテ号はシグナスX-1のブラックホールに引き寄せられ、 この世ならぬ時間の存在しない空間へと踏み込んでしまう。そこで繰り広げられる 太古の神々の闘い、アポロに象徴される知恵の神(Bringer of Wisedom)とディオニソス に象徴される快楽の神(Bringer of Love)の闘いをロシナンテ号は目撃する事になる。
両者はそれぞれのやり方で人々を教化し導いたが、いずれももやがては破綻してしまう。 人々は互いに争いはじめた。彼らは長い年月を疑惑と恐怖の中で過ごし、その世界も 引き裂かれて二つの半球に分かれてしまうのだった。
そんな中、突如「シグナス」が意志を持ち始めた。彼は天空で激しく神々が戦うのを 見て、自らの体内に静かな叫びが生じるのを感じる。すると世界の混乱は収まりはじめ 平穏がやってきた。驚いたアポロとディオニソスは争いをやめて話し合った。そして 彼らはシグナスの方を向いてこう言った。「我々は奴を均衡の神(Bringer of Balance) と呼ぼう」と。

「SF」で「ロック」と言えばラッシュを出さないわけにはいきません。カナダの 出身。'74年のデビュー直後に一度メンバーチェンジをしたきり、現在に 至るまでゲディ・リー(b,vo)、アレックス・ライフソン(g)、ニール・パート(ds, 「ピアート」と発音しないとマニアの人に怒られるらしい)の 不動のラインナップを誇る「最強のトライアングル」です。本作はラッシュの'78年 発表の7thアルバムにあたります。
「神々の闘い」に先立つアルバム「フェアウェル・トゥ・キングス」のラスト ナンバーに'シグナスX-1'という曲がありました。コントロールを失って漂流する ロシナンテ号を歌っているのですが、作詞を担当したニール・パートは歌詞の 末尾に「続く」という一言を書き添えたことを後に後悔することになります。パートは ほとんどの曲で詩とコンセプトを作り出すラッシュの頭脳ですが、ストーリーの続きが なかなか思いつかず苦しんだという話が伝わっています。難産の末、'シグナスX-1 第二巻'で幕を開ける「神々の闘い」が完成しました。
アルバム・ジャケットには宙に浮かぶ巨大な大脳の上、たくましい裸身の若い男と スーツに帽子をかぶり杖を持った落ち着いた雰囲気の紳士が、脳の中心線を挟んで対峙 しているさま が描かれています。右脳と左脳〜理性と感情という二項対立の図式を神話上の 神々の姿に仮託しているのだと思われます。原題である'HEMISPHERES(半球)'の意味 するところはこれなんですね。

「神々の闘い(HEMISPERES)'78」と「フェアウェル・トゥ・キングス(A FAREWELL TO KINGS)'77」「西暦2112年(2112)'76」の3作は まとめてSF3部作などと呼ばれています。テクニカルで大作主義、アルバム単位 のコンセプト指向もここに極まり、良くも悪くも'70年代的な大仰さを堪能できます。
'80年代以降はその反動か、パートの書く詩も日常的な風景を取り上げ、曲もコンパクト になっていきます。それでも産業ポップにならないのは、聞き易くも必ず ひとひねりしてある曲と、パートの詩がいまだ強い意志力を感じさせるからでしょう。 以前のようにハイトーン・シャウトこそしなくなりましたが、ゲディ・リーのヴォー カルも深みを増す一方ですばらしいかぎり。SFファンもロックファンも、一度で いいから聴いてみて。ラッシュに駄作はありません。


(其ノ九)
マグマ / 呪われし地球人たちへ(PONY CANYON PCCY-10181)
原題:MAGMA / MEKANIK DESTRUKTIW KOMMANDOH

#あらすじ#

地球人を祖先に持ち、惑星コバイアにて独自の文明とコミュニケーション法を築き 上げた人種、コバイア人。ある時、コバイア人たちは遭難した宇宙船を救助する。 乗組員は地球人だった。コバイア人たちは地球人を送還がてら、自分たちの祖先と 交流することを承諾する。
初めのうち、コバイア人たちは地球において熱狂的に歓迎された。しかし、 やがてコバイア人たちが地球当局との会議の席上、地球の諸問題を解決するには 「斎戒」が必要だとスピーチした頃から、両者のあいだに緊張が高まっていく。 地球人はコバイア人を監禁し、宇宙船も没収した。しかしコバイアからの救助隊 が現れるのも早かった。彼らの究極兵器に追いつめられた地球人は、コバイア人を 釈放する。コバイア人は、二度と地球には戻るまいと決意するのだった。
数年がたち、地球は相変わらず様々な問題を抱え込んでいたが、そんなときノーベル・ グッドアッツという男が現れ、人々に語り始めた。「地球を最悪の状態から救うため には、心を浄め究極人を目指さねばならない」と。人々は彼を責め立て、これを排斥 するために行進し始めた。やがてその集団の中から「光の天使を見た」と言い出す者が 現れる。その数は次第に増え、森羅万象の聖霊クレイン・コールマンのメッセージを 彼らはひとりまたひとりと受け入れていくのだった。
そして地球人たちの行進は、光の天使が見守る中、みな宇宙へと向かって消えていく…

フランス産の怪物音楽集団、マグマ。ジャズミュージシャン、ジョン・コルトレーン の音楽に啓示を受けたドラマーのクリスチャン・ヴァンデを総帥とする、多いときで 12人ものメンバーを抱える黒ずくめの装束に身を固めた大所帯バンド。
フランス語とドイツ語を足して2で割ったような独自言語、コバイア語によって歌わ れる、神がかり的・誇大妄想的な世界観。ヴォーカルスタイルは女声コーラスを伴った オペラ調、しばしば感情の高ぶりがこうじて獣のうなり声と化す。ベース、ドラムを 強調した重心の低い重低音アンサンブル。リズムセクションもピアノもヴォーカルも 一丸となってリズムを刻む、軍隊調の強迫的な楽曲。と、彼らの全盛期の作品は とりわけ強力で邪悪なイメージの非常にアクの強いものです。

上に紹介したコバイアストーリーですが、正確には彼らのデビューアルバム('70)から 3rdアルバム('74)までの間に語られてきたストーリーです。「呪われし地球人たちへ」 はその3枚目のアルバムであり、ちょうど物語のクライマックスの部分に あたるわけです。
まだしも英語であれば、例えばタイトルなどから、どのようなこと を歌っているのか見当を付けることもできますが、なにしろコバイア語です。 'hortz fur dehn stekehn west'とか'kreuhn kohrmahn iss de hundin'とか言われて もさっぱり分かりません。国内盤ライナーノーツに記載のコバイアストーリーは必須 なのですが、申し訳ありません!'98年6月の時点で「呪われし地球人たちへ」は 廃盤状態なんです。なので、音そのものについては輸入盤'MEKANIK DESTRUKTIW KOMMANDOH'(SEVENTH REX VII)を探してみて下さい。音だけでもマグマの音楽の特異性 は十分感じ取ることはできます。
若さ故の、一転集中型のうっとうしいまでのパワー、思いこみの激しさ故の熱狂感、 一体感、神秘的イメージに満ちた異形の音楽。ああ、コバイア万歳!!


紹介したアイテムのほとんどが'70年代のアルバムor '70年代に全盛を誇った ミュージシャンのアルバムに偏っているのは筆者の趣味ですので、大目に見てやって 下さい(^_^;)
「'80年代以降でもこんなのがあるぞ」という方、こっそり教えていただけると ありがたいです。

 空想科学的音楽に関するご意見・お叱りの言葉は chinda@mars.dti.ne.jpまで