ゆうきのスタンドなエッセイ

##未来の記憶


艦内警報が鳴り響いていた。
「中尉殿?!」
「ユーキか!ツーブリンガーで脱出しろ!この艦はもうダメだ!」
オレの腕にはノイ・パンツァー・ファウストがあるだけで腰にぶら下げていた対戦車火炎瓶ブレンド・コルパーはもう一個も残っていなかった。背中にはYラックではなく、対地攻撃用のオーラコンバータを装備したばかりだった。大気圏降下用のカプセルのあるチェンバーにまで移動不可能と判断し、緊急に船外に脱出するための保護粘体装填機にオレは潜り込み、射出レバーを引いた。本来は衛星表面を攻撃する際に使われるパワード・スーツ射出機構である「ファイタス・ボンバー」をこんな逃げの手段に使うとは。口の中に苦い敗北の味が染み渡る。オレは加速の中、ツーブリンガーが脳をプラスチック化してゆくプロセスを体感しながら
「あれ、オレは日本人なのか?それともドイツ人なのかな・・・?」などいう間抜けな問いをしながら大気圏へ真っ赤に焼け落ちていった・・・・。

というような妄想が中学時代のオレの脳を支配していた。小林源文「黒騎士物語」にでてくる用語がすべてわかるようになるまでにかなり時間がかかったはずだが、彼の漫画がかなりオレの脳に衝撃を与えたらしく、「クルツ」というドイツ人は良く夢の中に登場し、アイパッチをした「中尉殿」もよく登場した。一度、こたつでうたた寝をしているのを見た祖母がベッドで寝るように注意したところ、
「ハイ!わかりました、中尉殿!」と敬礼して布団に入ったというエピソードは家庭内でもかなり話題になったエピソードである。
彼等は無論日本語を話したが、単語はよくカタカナのドイツ語がまじり。ときおり目をさましてるときでも「オレってひょっとしたらドイツ人の生まれ変わりかも?」とか創刊されたばかりのムーを学校で読んでいたオレは真剣に考えたりしたものだ。まことにもって人間の脳とは不思議なものだ。
オレがパワードスーツの妄想にとりつかれたのはホビージャパンのSF3Dという企画が先だったのか、アニメックの宮武のパワードスーツデザインを見たのが先だったのかわからんが、ハインラインの宇宙の戦士を読んだのはニュータイプ創刊号で紹介されてからで高校一年生のときだったので元祖より先に「なにか」でとりつかれていたのである。それからは関連図書をあさりまくり、SFといえばロボット、パワードスーツ、戦闘機械が出てくるものを片っ端から読み漁り、ソノラマ文庫やアニメ以外ではほとんど登場しない、という実体に驚愕したものだ。キャプテン・フューチャーに出てくる「合成人間のオットー」というのが要するにシンセティック・ヒューマノイドで「人造人間」の意味だったことやエイリアンに登場する合成人間のおじさんが何者だったのか理解するのにとても時間がかかったこともいまとなっては懐かしい思い出だ。
パワードスーツは妄想であり、昼間の空想ごとでもあったけど、中学校のときはあと3つ夢に見るパターンがあった。
一つは、広い、広い校庭があって、なぜかフットボールコートもあって、そこにソ連のパラシュート降下部隊がわらわらと降ってくるものである。学校から見える百貨店の看板なども印象的で、その舞台が毎回同じ場所だということがわかる。ソ連の降下部隊がやってくるところまではいろんなアングルからみてるけどたいがい一緒で、そっから先が逃げたり戦ったりで毎回ちょっと違った。学校内で戦うときは通っていた中学校の内部になってしまう。一番多いのはなんとか学校の敷地から脱出しようというもので、良く考えるとオレは学校が嫌いだったんだろうか?とか思う。好きだったはずだけどね。
で、この繰り返されるイメージに終止符を打ったのが「若き勇者たち」というアメリカ映画である。オレが夢に見た通りのシーンが展開されているのである。アメリカの高校にソ連兵が降ってくるのだけど、無論アメリカだから学校にはフットボールコートがある!実際公開されたのはオレが良く夢を見てたころだけど、高校生になってテレビで初めてこの映画を見たときはかなりぶったまげた記憶がある。内容は超右翼であまり売れなかったそうだ。
もう一つは空を切り裂いて地面に突き刺さる極太のレーザー光線。やっぱり学校の校庭に降ってきてぼこぼこと溝を掘っていく。校舎が壊れるパターンと人がジュワって消えるパターンがある。これもスターウォーズ計画とかが公になる前だったのでレーガンが好き勝手云い始めたときはホントに恐かった。オレは悪いことしてないけど、衛星軌道上から人一人を簡単に蒸発させられるって感覚がとっても恐かった。ところがこれも実に「天才アカデミー」というなんか別の映画の抱き合わせで見たくだらない映画の中で実際に映像化されていたのだ。500GWレーザーで人を暗殺(アッサシン)するという回想シーンがあって、まさにオレが見たとおりのシーンだったのだ。発明内容も宇宙空間で使用する兵器ではなく「貫大気性のある高出力レーザー」というものでAWACSみたいな飛行機に積んで使用していた。
さて、最後の夢だが。なんとこれはオレが「テレビ局」に行く、というものだった。
今考えるとなんて夢をオレはみてたんだ。どこに説明があるわけじゃなく、それまで実際のテレビ局舎なんてモノも見た事がないわけだけど、夢の中のオレは「そこはテレビ局だ」という明快な認識を持っているのだ。いつも移動は車で行うが、道順とかもいつも一緒だった。そこの中に入るといつも目が覚めてしまう。何をするためにそこに行くのか、全然わからないんだけどそこへ行く夢を見るのだ。
ある時、「いったいあそこのTV局は何チャンネルなんだろう?」と考えてみたことがある。漠然としすぎて根拠もないのだが当時は「8」チャンネルだろうと思っていた。

オレが「6」という数字の呪縛に囚われるのはその数年後、高校3年生の頃からだった。
人の脳には宇宙があるんですね。by三島由紀夫。