作品コメント


海外長編

1.『スターシップと俳句』(ハヤカワSF文庫)ソムトウ・スチャリトクル
「オススメSF第3弾」を参照。とはいえ、ベストである。語れば尽きない。
SF版『菊と刀』。冗談にしろ、これは「外人」から見た日本像の一つの結晶した姿である。間違っているとか馬鹿にしているとかいうのは重要ではない。外国人が日本についてのSFを書いているところに意味があるのだ。「忍者映画」のような生真面目な馬鹿馬鹿しさにだまされてはいけない。忍者映画は「忍者」を書いているのであって「日本」を描いてはいない。他の日本描写が入る作品群と視点が決定的に違うことを強調する。
そして忘れてはならないことに、これはSFであり、エンターテイメントなのだ。読んでいて楽しいのも事実。但し、頭の悪いアメリカ人には読んで欲しくない。日本人に読んで欲しい一冊。
蛇足だが、登場する悪の頂点、死の大臣の名は「タカハシ」という。俺かい?(笑)


2.『光の王』(ハヤカワSF文庫)ロジャー・ゼラズニィ
「オススメSF第1弾」を参照。とはいえ、ゼラズニィである。語れば尽きない。
神話に興味のない人は引くかもしれない。英語圏のSFなんかだとキリスト教の描写(特に旧約聖書の出来事や新約聖書の一節、人物など)が結構容赦なくでてきて特に重要な比喩や訳者の質によっては的確に訳注が入るけど、ふつーの人にはイマイチなのでは、と思うことがある。同じ日本人だって、古事記の話でピンとくるのはイナバの白兎とスサノオの話くらいではないだろうか。考えてみて欲しい。外人に「まるでイナバの白兎だね」とか「アマノイマトだね」ってセリフが入ってる作品を解説することを。
ま、そーゆーわけだから神話・神学に精通し、それを散文詩のごとく叩き付けてくるゼラズニィの神話系の作品に絶えられる者は少ない。それらの掛け合わされたシンボリズムをスポイルすると単なる「破綻したスーパーヒーローもの」になってしまうのが難点。
ディレーニィの作品がシンボリズムを排除すると単なる寓話になってしまうのと違って、ゼラズニィの作品はシンボリズムをスポイルしても「詩的」な美しさ、ヒロイズムが残るので許せるかなぁ、と個人的には思うのだが。
この作品が頂点に立つのには理由がある。悪魔に罪悪感を諭す話、暗殺者がついに本物の仏陀に至る話、そして男は愛する者を常にその手にかけるという断定。遠い未来の神話に輪廻が含まれ時間を線形に進めない手法。これは一流の芸術作品なのだ。


3.『コンピュータ・コネクション』(サンリオSF文庫)アルフレッド・ベスター
「オススメSF第3弾」を参照。ついさっきまでは間違いなく『虎よ、虎よ!』が入っていた。
省略され、スピーディーでたたみかける文体。ディレーニィほどはではないが、一語一句に意味がある。現代用語の「チョベリバ」「超MM」などは作品中の「v悪い」「F殺す!」に置換可能。言語進化の予言書でもあり、オンラインボード、脳内進化、絶滅するインディアンなどネタが多すぎる。ディレーニィの作品がさまざまな隠し味を施したスープだとしたら、ベスターのは明るいところで食べる闇なべ(笑)
俺にとってBester is Better than Best.この位置から揺らぐことはない。そういう作家である。


4.『ハードワイヤード』(ハヤカワSF文庫)ウォルター・ジョン・ウイリアムズ
サンライズ系ロボットアニメ中毒世代の我々が、文章で戦闘メカに陶酔することはもうないのでは?と思いながらソノラマのロボットものを漁っていたとき、この小説の一部が「パンツァー・ボーイ」としてSFMに掲載された。確かにこの上下巻で1、2位を争う燃え燃え戦闘シーンを切り抜いたのだから卑怯な技だったと思うけどはまった。
ギブスンのサイバーパンクはかっこいいけど、所詮「戦闘メカSF」ではなかったし、「クローム襲撃」以降、カッコイイ話にはお目にかかっていなかったのだ。
俺的に、ギブスンを読む前にパワードスーツや戦闘メカ(ロボット)の操縦に頭骸骨埋め込み型のソケット(非現実的な方法ではあるが)を押していたので、キチンとそれを小説で書いてくれたのは以外にもこの作品以外にないのだった。自分の目がセンサになり、肺がジェットエンジンの吸気口になり、脳がトリガーを引く。文字が感覚を伝えてくれる方がいい場合もあるのだ。
これに遅れること数年。ようやくハードワイヤードでやっていた描写をアニメでやってくれたのは「マクロス・プラス」だった。


5.『さよならダイノサウルス』(ハヤカワSF文庫)ロバート・J・ソウヤー
読書日記とだぶる記述になるが許して欲しい。
学生の頃、「タキオンの火」という短編を書いており、それで過剰に入れ込んでいる向きもある。


6.『超生命ヴァイトン』(早川SFシリーズ)エリック・フランク・ラッセル
「目に見えなくて、ぷかぷかしていて、恐ろしいもの」といえば、「カスカスキア効果!」と即答してしまうあなたはC.スミスのファン。もう少し古いSFファンだとこの「ヴァイトン」を思い浮かべるに違いない。俺的には作品を指すとき「ヴァイトン」作品中の人類の上位種族は「ヴァイトン宇宙人」と呼んでいる(苦笑)
思春期の俺にとってSFと哲学は「神」を人間が掌握できる「実在」にひきずりおろすための手段だった。神話や宗教の神は人間の作ったものと断定して支配したように、俺自身のどうにもならない境遇や運命みたいなものを「なにか」のせいにして乗り越えようという試みだったのかったのかもしれない。
話の語り口はいかにもな古いSF調で、ラストの人類が「支配生物」に戦いを挑んで勝利するくだりがインディペンデンスデイを作ってしまうアメリカンな爽快さなので気に入っているのかもしれない。
でも、今でも不運が続いたりすると、見えない支配階級の上位生命〜俺にとりついた神様〜が俺を惨めな精神状態にして思い切り食事を味わってるような気がする。そして俺は拳を握り締めて叫ぶのだ。
「くそう、いつまでもテメエの思い通りにいくと思うなよ!」


7.『太陽神降臨』(ハヤカワSF文庫)フィリップ・ホセ・ファーマー
感動の深さでいえば、『恋人たち』を入れるべきなんだろうけど、ベストSFに「とがり」を入れるために数年前からこの位置に入っている「性の馬鹿SF」。もう読めない事への怒りを秘めてこの位置に止まり続ける。
「たくましい〜男にな〜れ〜と〜願いを込めて父さんが付けた名前だ一文字タクマ〜」
この歌を歌った後で読むと涙がとまりません。
「やっだー!H、馬鹿、変態!」「しょーがないだろ、男の子なんだから」
このノリで200p(爆笑)

8.『逆転世界』(創元SF文庫)クリストファー・プリースト
「ぎゃふん!」
これに尽きる。しかし、21世紀直前ってーのに「ぎゃふん」なんていってる奴いねーか。しかも発音してる奴はもっといねーよな(苦笑)「オススメSF第1弾」参照。
コーネリアスとかのおかげで『猿の惑星』とか再評価されてる噂もあるが、あれも「ぎゃふん」落ちが秀逸なわけで、猿と人間の逆転は主軸じゃないよな。この作品の逆転は極めて数学的だ。それが最後、「自由の女神」の替わりに「IBM製のプリンタ用紙」で「ギャフン」されるところに俺は涙を禁じ得ない。ヘルワード・マン、君の人生っていったい…


9.『海魔の深淵』(創元SF文庫)デヴィッド・メイス
ハードワイヤードにせまる戦闘メカ描写。だが、あまりもその他の部分が駄目すぎて万人には薦められない。だが、「ロボジョックス」「ファイヤー・フォックス」の戦闘シーンだけで通算千回以上見ている俺にとってサイボーグ戦闘体「デーモン4」の戦闘シーンはかっちょいい。ってゆうか、ロボコップであり2001年のHALしていて良い。
潜水艦やメカに詳しい先輩に聞いたところ、ここにでてくる「プラウル推進」というのは一時期流行った考え方で実動している機関はないそうである。


10.『地球最後の男』(早川文庫NV)リチャード・マシスン
藤子不二雄先生が「流血鬼」としてパロディ漫画も書いているし、「オメガマン」というタイトルで映画にもなっている。故にSFでなくNVで出版された。銀背(早川SFシリーズ)の時のタイトルはずばり「吸血鬼」。そーゆー話である。これを読まずして吸血鬼を語ることなかれ。
実は短編でぎゃふんで落としてもよかったのだが、最後の1行はその前のページをしっかり読んでこそ価値があるのだ。同じ手法で最後の1行に破壊力をもたせた長編に『岬一郎の抵抗』があるが、あれは長すぎ(笑)実はゼラズニィの「吸血機」という短編も図らずも似たような話になっている。威力も文書量に比例して落ちる。
マシスンは同じ早川NVの『縮みゆく人間』(同名で映画もあり)のほうが内容的に深いが、一応こーゆー話が好きなので。文庫版のタイトルも良い。


11.『ストーカー』(ハヤカワSF文庫)A&B・ストルガツキー
「オススメSF第2弾」を参照。このストーカーは是非タルコフスキーの映画とペアで楽しむことを推奨する。
昔バンダイで「スパイラル・ゾーン」というミニGI・ジョーに強化服をセットにした一連の玩具シリーズがあったが、その基本設定のゾーン(Bクラブにストーリーが連載されていた)は間違いなくこの「ストーカー」に登場するゾーンと同一のものである。ばれなきゃなにやってもいいといういい例ですな。
俺的には「ムズムズ」をポイしてくる部分が最高に痛快。


12.『幼年期の終わり』(ハヤカワSF文庫)アーサー・C・クラーク
ついに理性的に選んだ作品が上位10位に入らなくなった。二十歳になったばかりのころは純真だったのでこいつが1位だったのだ。
いままでで最も明確に、わかりやすく、論理だてて、神と悪魔と、人類進化について語ってくれたSF。
『2001年宇宙の旅』が高校生の時までは1位だった。


13.『ハイライズ』(ハヤカワSF文庫)J・G・バラード
「オススメSF第2弾」を参照。『夢幻会社』『クラッシュ』もいいのだけれどね。学生時代は恥も外聞もなく『結晶世界』を10位に設定していた。その後短編を中毒になるくらい読んで、この作品がバラード向きか否かの試金石になるな、と思って再評価した。入手可能で良心的な内容を求めるなら前述の『結晶世界』か『沈んだ世界』を薦めておく。間違っても『狂風世界』を買ってはいけない(笑)
しかし、5歳児じゃないんだから高いビルや本の塔を見て「ハイライズ」、台風の日に「狂風世界」とか云ってしまうのはなんとかならんかな?


14.『宇宙の戦士』(ハヤカワSF文庫)ロバート・A・ハインライン
大学の滑り止めに自衛隊に入隊審査にいった俺にとってはまさにバイブルだった。
最近ツン読したので、また、どのあたりに何が書いてあるのか掌握しきっている。宮武センセのパワードスーツだけで飛びついたのだが、あふれ出る軍隊マーチに痺れまくったのだ。
ここで語るにはあまりに多くのものを含みすぎている作品。
服部くんがフリーズ命令無視して撃たれちゃったとき、「ああ、宇宙の戦士を読んでいればこんなことには…」と思ったものだ。
「トゥルーパーズ」も観よう!!


15.『キャッチワールド』(ハヤカワSF文庫)クリス・ボイス
「オススメSF第3弾」を参照。
君も池田大作とフュージョンせよ!


16.『降伏の儀式』(創元SF文庫) L・ニーヴン&J・パーネル
「オススメSF第1弾」を参照。
このふたりがペアにならないとホントに半分くらいの力しかでないのは不思議。


17.『マン・プラス』(ハヤカワSF文庫)フレデリック・ポール
「オススメSF第3弾」を参照。
『ゲイトウェイ』は読んでいないの。


18.『中継ステーション』(ハヤカワSF文庫)クリフォード・D・シマック
「シマックー!なぜ死んだー!?」「年取ったからさ」
そういえわれると何も言えない。
俺にSFの楽しさを教えてくれた元退役軍人で今は物理と数学の教師をやっている男に教えられて読んだのがC・スミスとシマック。こーゆーオセンチさ炸裂系、というか静かで淡々としたSFというものを当時の俺は信じられなかった。シマックを読んで受け入れていなかったらきっといまも血眼になってベスター2号を探し、カードなんて読めなかったのでは?と思う。
いやー、やっぱこれ、「宇宙人ネタ」でしょ?・・・ラララ、むじんくん、ラララ・・・
感動のラストシーン、なぜロリーに走る?


19.『人類皆殺し』(ハヤカワSF文庫)トマス・M・ディッシュ
「おまえらもっとSFらしいSF書け!」と怒っていたのに自分が真っ先にそれを書くことをやめた作家。それがディッシュ。彼の「SFらしい作品」の中の白眉である。
救いようのない人間の愚かさと、救いようのない破滅への過程。それを並べられたとき、「納得」という2文字しか浮かび上がってはこなかった。
すべてが絶望という色、一色になった時、なぜお手々つないでランランラン?なぜロリーに走る??


20.『木曜の男』(創元推理文庫)G・K・チェスタトン
「電脳独房」のプリズナーページでも紹介されている。まさに不条理。
チェスタトンは<ブラウン神父>シリーズでお馴染みなのだが、イギリス人ゆえ、ロンドンを爆弾でぶっ飛ばす妄想を押さえきれなかったんだよネ。しかも主人公の職業、「詩人」。もう最高!





海外短編

1.「しばし天の祝福より遠ざかり…」 ソウムトウ・スチャルトクル
(新潮文庫 時間SFコレクション『タイム・トラベラー』収録)
なんとも軽妙な語り口で、ゼラズニィ調のカッコ良さと、スミス並みの馬鹿馬鹿しさと、ディレーニィ並みのメタファーを突っ込んだ究極の20p。
主人公はハムレットの脇役で、ひょんなことから宇宙人に7000万年(!)同じ日を繰り返した後の不死を約束される。その繰り返される日は主人公にとって最悪なことに彼女と決別の日だったのだ。毎日数時間与えられる自由時間に主人公はこの永遠の苦悩から逃れるための策略をめぐらせる。、というのが話の筋である。(あー、ネタバレごめん)
皆さんは今、どれだけ思い通りに生きているだろうか?幸い俺はかなり好き放題に生きている。ところが退屈な田舎の男子高校の学生だったころは、思い通りにいかない毎日に、自分の無力さに、姿形のない神に、怒りの唾を吐き掛けていたものだ。人生という名の舞台で、俺はいつも脇役で主役になれない自分に歯噛みしていたのだ。そこにこの作品である。
##愛、復讐心、ヒロイズム。僕はエイミーのことを思った。皆懐かしい芝居のネタだ。(最終ページより)
時間ネタ、不死ネタ、変な宇宙人、そこに横たわる愛と復讐とヒロイズム。まさに最高の舞台ではないか!!そしてこれが20p。どっかの厚みばかりが目立つ作家に見習って欲しいモンである。


2.「スキャナーに生きがいはない」 コードウェイナー・スミス
(ハヤカワSF文庫『鼠と竜のゲーム』収録)
コードウェイナー・スミスは苦痛を知っているジジイである。しょっちゅう病院のベッドに磔にされて、腕には注射と点滴の無数の痕、内出血、カテーテルチューブの焼け付くような痛み。そして苦痛の中に冴え渡る脳の働き。それを知っているジジイである。
かくいう俺も病弱で、「人間は苦痛の中に生きている」とはよくいったものだ、と思う事もしばしば。
スキャナーは人間が心が人間のまま人間ではなくなる瞬間があることを描いている。時として人間は病理や死命のために己を犠牲にすることがある。無論、その時、心は苦悩するのである。
どっかのアニメの便乗商法で「補完機構とはなんだったのか」という帯がついていて苦笑したが、俺が答えてやろう。人間が人間だからこそ感じる痛みや苦痛を恐るべき馬鹿な語り口で、童話のような残酷さで、描いたのが「人類補完シリーズ」である、と。
アニメや漫画で苦痛から逃げてる連中にはちょうどいい薬かも知れない。おまえらついでにエリスンも読め。(最終回のタイトルだからって買って読んでない奴、いるはずだ!!)


3.「さようなら、ロビンソンクルーソー」 ジョン・ヴァーリィ
(創元SF文庫『バービーはなぜ殺される』、集英社文庫『さようなら、ロビンソンクルーソー』収録)
ヴァーリィの短編も恐ろしく馬鹿な話ばかり。練りに練った人をびっくりさせるネタを話しておいて「おいおい、君は何を驚いているんだい?」というのが彼の趣味らしい。
これは彼の作品にしては珍しく感傷的な、「清純−>不純」への変容を描いた作品である。人生の最大の御褒美は「失った自分」を取り戻すことだ。でも、失うことで得るモノもある。それを感じさせてくれた、心に残る傑作である。


4.「死の鳥」 ハーラン・エリスン
(講談社文庫『世界SF大賞傑作選7』、SFM1990年10月号「400号記念」再録)
アーブー!
泣いちゃうよ。犬だよ、犬!
ダイラー!死んじゃうよ。鳥だよ。死の鳥。手塚オサムだよ。魚戸オサムじゃないんだよー!
ネイサン!お姉さんのことじゃないんだよー!スタックといってもハイパーカードじゃないんだよー!
##マーク・トゥェインに捧げる。(最終行)
死は詩でもあるのだ。神はそこに居る。


5.「十二月の鍵」 ロジャー・ゼラズニィ
(ハヤカワSF『伝道の書に捧げる薔薇』ほか、収録)
自分の信じる正義が、必ずしもその他全体の種族の正義ではない、こと事は彼自身が「復讐の女神」でも言っていることだ。今回もそれを問いただすためのゼラズニィの実験なのだろうか。それにしてはオセンチで美しすぎないか。
神様だとか正義だとか、形の無い物を文章は俺の脳内で結晶させる。だから愛して止まない。


6.「ちんぷんかんぷん」 エリック・フランク・ラッセル
(早川SFシリーズ『ヒューゴー賞傑作選No.1』収録)
学生時代、俺は一人の先輩と「萩とゆうき」(信じられないかもしれないが、「花とゆめ」のもじりだ)という同人ユニットを結成。毎月20p位の文字本を出版していた。今考えると凄い文書量に思えるが、今現在パソコンでタイピングしてる文字数を思うと案外変わりがないのかもしれない。
80年の終わり。それはワープロが出す誤変換で一日大笑いができる、そんな平和な時代だった。これは「誤植」がSFになるという恐るべき事実を証明した名作である。こーゆーハートウォーミングねたがもう読めないんだったら我々は死んだ方がましかもしれない。


7.「然り、そしてゴモラ」 サミュエル・R・ディレーニィ
(サンリオSF文庫『時は準宝石の螺旋のように』収録
−本当なら『危険なヴィジョン3』にも−
いよいよ問題の作家、ディレーニィの登場である。散々引用してるわりには俺内部での評価はいまいち。わかりにく過ぎるんだよ!俺がアメリカ人だったらよかったのに、と思うのはディレーニィやW・バロウズの読後と、MacのPlain-Talkで音声認識させる時ぐらいなもんだ。
この作品について書くとそれだけでエッセイが一本できてしまうので今日は押さえておく。『時は準宝石の螺旋のように』を読み返すと「流れガラス」(早川版では「ドリフトグラス」やはり日本語になりきれない)の方がいいかな?と思うんだが、オセンチさではなく過激さでこちらを推す。
「無性生物になったスペーサー」というのは実は『コンピュータコネクション』ネタでもある。それをアニメや漫画のキャラクターにすげ替えて、フレルク(スペーサーのフリーク)をオタクという語に置換すると、見事。「これはホラーなんだよ」というディレーニィの言葉通りである。
「いったい彼らはどうやってやるんだい??」俺は知っている(笑)
現代の日本はソドムでありゴモラなのだ。特に東京のハイテクと背徳さといったら!


8.「きず」 リサ・タトル
(ハヤカワSF文庫 イギリスSFアンソロジー『アザー・エデン』収録)
女を泣かせたことはあんまりないと思う。泣かされたことはままあっても。
女性に対する避けようのない男性の攻撃性を見事に文章化した作品。
俺も兄貴にケツ掘ってもらえば、女心がわかるんでしょうか?


9.「サンドキングズ」 ジョージ・R・R・マーティン
(ハヤカワSF文庫『サンドキングズ』)
オレンジがぁ!ぐああぁ!
マーティンはキングより怖いホラーを書く人です。こぉーんなハートウォーミング・ホラーが読めないなんて犯罪だ。
RRは自称「レイル・ロード」の略だそうです(笑)同名短編集の出来映えはかなり高次元のもの。


10.「我が心のジョージア」 チャールズ・シェフィールド
(SFM1995年1月号収録)
バベッジの「分析機関」は歯車帝王ジャシュガン(漫画「銃夢」に登場)を神と崇める俺にとってはまさに「神の機械」。マニ教の祈祷機械みたいなもんだ。
それに加えて、またしても変な宇宙人ネタ!伝奇サスペンス風な語り口とまぜて、90年代SFの傑作選から漏れることの許されない作品。
あー、でも「90年代SF傑作選」が出るのはもう3年先かー。


11.「コー川の罪喰い」 ブラドリー・デントン
(SFM1992年5月号収録)
デントンは向こうでは「社会派のホラー」を書く人だそうで。モダンホラーとは違うのかいな?
多分この作品は「90年代SF傑作選」が出ても収録されないだろうなー。人間は罪とか罰とか、見にみえない汚れとか、痕とか、そんなものを肉体の中にごっそり詰め込んで引きずって生きている。死ぬしかその重荷から解放されないとしたら、なんと寂しい存在だろう。「罪喰い」はそれを喰らってくれる。これほど優しい物語を俺は知らない。


12.「時の声」 J・G・バラード
(創元SF文庫『時の声』、ちくま文庫『ザ・ベスト・オブ・バラード』ほか収録)
めくるめく狂気と滅びのイメージ映写機、バラードの比較的まともなSF。
睡眠を脳から切除した男、奇形、はるか彼方の宇宙から水素ビームで送られてくる「宇宙の熱死」へのカウントダウン。
真の滅び、真の死は、夜や闇からやってくる。けして怖くはないけれど、真正面から受け止められるほど俺は強くない。
この作品の替わりに「溺れた巨人」「終着の浜辺」でもいいと思う。
狂ってる度合いで行けば、「第三次世界大戦秘史」「死亡した宇宙飛行士」「コーラルDの雲の彫刻師」。こいつらみんな絶版だ。ユダヤの陰謀か?


13.「ガーンズバック連続体」 ウイリアム・ギブスン
(ハヤカワSF文庫『クローム襲撃』収録)
実はニューウエーヴが古いSFファンに「SFを駄目にした」と毛嫌いされているように、俺は実はサイバーパンクを尊敬・畏怖していた。その教祖のギブスンといったら、「悪口いったら殺される」、そう当時のサイバーパンク・ムーヴメントは無言で俺を脅していた。確かにカッコイイけど、スタイルだけじゃ長続きはしないよね。>>サイバーパンク。今だれも「サイバー」とか云わなくなったから逆に使いがいがある(笑)
ギブスンはこの作品を書いたことで評価されるべきだと思う。我々が過ぎ去ってしまった「輝かしい未来」の上に、つぎはぎだらけの「今」を築いていることを俺に認識させてくれたからだ。あちこちで繰り返しいってるが、「俺達は今、過去の人にとっての未来を生きているんだ」ということである。メイドロボはいないし、車は宙に浮いていないし、人類は他の惑星どころか月にさえ済んで住んでいないのだけれども。


14.「接続された女」 ジェームズ・ティプトリー・Jr
(ハヤカワSF文庫『愛はさだめ、さだめは死』ほか収録)
##聞け、ゾンビー。俺を信じろ。(最初の一行)
俺の後輩には「接続された男」がいる。奴もパソコンとつながってる時はすごく強力で優秀な奴なんだがなー。
今読むと、接続された女を生み出した広告戦争とかのほうが気になります。いちおーTV屋なので。
ティプトリー、読んだときすでにババァだと知っていたのでイマイチいれこめないんだよねー。

15.「闘士ケイシー」 リチャード・M・マッケナ
(創元SF文庫『SFベスト・オブ・ベスト上』収録)
コードウェイナー・スミスの説明とだぶる。とがったもん選びたいという欲求と、炸裂するオセンチさがつねにこの作品をここにとどまらせる。
これを『SFベストオブベスト』に入れたジュディス・メリルは偉いとしか言いようがない。
(ちなみにSFM版は「ケイシー・アゴニスティス」)


16.「鉛の兵隊」 ジョーン・D・ヴィンジ
(新潮文庫 宇宙SFコレクション『スペースマン』、創元SF文庫『琥珀のひとみ』収録)
創元版だと「錫の兵隊」となっている。原題は「Tin Soldier」で「ブリキの兵隊」にしろ、とか思うがここはアンデルセンの童話が「鉛の兵隊」で広まっているのでこれで正解。
ヴァーナー・ヴィンジの奥さんのウーマン・リブSFだが、サイボーグ・バーテンダーのお兄さんがダンディかつオセンチさ炸裂なので外すわけにはいかない。
演歌の「女は港、男は船」を逆にしただけ、と見るとちょっと寂しいか。


17.「ブロードウェイ上空25分」 ハワード・ウォルドロップ
(創元SF文庫<ワイルドカード>『大いなる序章 上』収録)
華々しい連作SF<ワイルドカード>シリーズの開幕を飾るのは、われらがヒーロー「ジェット・ボーイ」。世界最初のジェット戦闘機を駆り、アメリカの正義のために戦う。
##「これがアトミック・エイジを生きるってことか!」
##「まだ死ねない、ジョルスン物語を見てないんだ!」
など名セリフが炸裂!
宮崎某のブタが空飛ぶ映画で「かっこいいとはこういうことさ」とか言われて、「殺す!」とか思った人はこれ読んで気持ちを落ち着けてください。
男の子はみんな、ヒーローにあこがれているものなのさ。


18.「ミラーグラスのモーツァルト」 B・スターリング&L・シャイナー
(新潮文庫 『タイム・トラベラー』、ハヤカワSF文庫『ミラーシェード』収録)
姦られまくるマリー・アントワネット。ラジカセ片手にロックを刻むモーツァルト。過去は発展途上国のように未来という先進国に汚染され、犯される。
サイバーでパンクとはこーゆーことなのだろう、とか思いつつ大槻ケンヂのロックに身を委ねる。


19.「9月は30日あった」 ロバート・F・ヤング
(ハヤカワSF文庫『ジョナサンと宇宙クジラ』収録)
ろ、ロボ子ぉ!
メイドロボだの、『ヴァーチャル・ガール』だの、「ああ!女神さま!」スクルドさまだのいってる君たち、これを読んで少しは自分のよこしまな部分を反省してください。
とかいいつつ、俺は「すげこまくん」のM子のパートを読み直しっと・・・。


20.「広くてすてきな宇宙じゃないか」 ヴァンス・アーンダール
(SFM1990年10月号「400号記念」再録)
SFMでたった3pの童話です。
故郷はありますか?いつでも帰れますか?なら幸せだねぇ。
俺は帰れない。え、都会でリッチにやってるじゃないかって?
でも俺には一握の故郷の砂も持ってないんですぜ。幸せなんかじゃぁない。