天下をねらえ!
 BANG=GASTER!!
                      ことぶきゆうき 第一話『発進!天下無敵の最終兵器』 時は一九八九年一月。世界は第二次世界大戦で圧倒的勝利を納めた日本とドイツによ ってほぼ二分されていた。そして、長い冷戦の後度々起こった勢力圏争いを経て、今ま さにこの二大国は雌雄を決しようとしていたのだ。 奇想天外な発明家であったドイツ第三帝国は、七十年代前半、ロケット兵器、核兵器、 光線兵器、戦闘衛星に続いて『マシーン兵器』なる海のものとも山のものともつかない、 斬新かつ奇抜な万能機械の兵団を創設。以来、常にドイツに一歩遅れる形でその技術を トレースしてきた日本は苦戦を強いられることとなった。 『マシーン兵器』出現より遅れること数年。大日本帝国軍はそれに対抗すべく、機械 人兵団を創設。その最初のタイプとして『RXシリーズ』が製作された。 RX−78 ロボライダー RX−79 バイオライダー RX−80 サイボーグライダー である。 しかしこれは進化した特攻兵器ともいうべきもので、打倒マシーン兵器の決定打には ならなかった。 だが今、大日本帝国の威信をかけた最終ロボット兵器『ガスター・ロボ』が完成しつ つあった。それは一騎当千、最強無敵、痛快無比、武運長久というものであった。 これに驚異を感じたドイツ第三帝国総統であるアドルフ・ハイトラーはドイツ最強の 第一世界制覇軍を日本本土へ向けて発動させたのである。そこにはかつて黒騎士中隊を 率いて絶対不利のモスクワ侵攻戦を盛返したという常勝の英雄、エルンスト・バウアー の第一子、『金髪の巨象』、『ヘル・ファシスト』と呼ばれる英雄、ラインハルト・v ・バウアー大将がいたのだ。 さらにこれを迎え討つべく天皇陛下はロボット兵器部隊の精鋭である『突歩部隊』を 引連れた大連合艦隊『北欧中心殴り込み軍団』を編成。急拠出撃させたのだった。  そのの旗艦『エンカナトリウム』には建造中の『ガスター・ロボ』もつまれていたの だ。そしてそのパイロットである二人の若者の姿もあった。 ハギハラ・ヒロユキ 准尉 コトブキ・ユーキ 准尉 の両名である。 二人は機械人兵器の訓練校である『栃木露棒人学校』、通称『とちろぼ』より天皇陛 下直々に選出なさった学徒動員である。 ハギハラ学生は同校の三年生で、学生隊隊長も勤める最優秀学生であり、もう一人の コトブキ学生は一年生な がらもロボット兵器を自分の手足のように操る卓越した才能 を認められての抜擢であった。 大日本帝国のすべての人々の希望を受けて、御国の明日を、未来を切開くべく旅立っ た彼等は遂に決戦の時を むかえようとしていた! ──旗艦『円華那鳥有夢』内、 『牙須汰=労棒』建造デッキ── ガスター・ロボは最終調整段階に入っていた。 「この『がすたー・ろぼ』さえ完成すれば我軍の勝利は間違いなしですよね、おにいさ ま」 ガスター・ロボを前にしてユーキはうつむきかげんのヒロユキの顔をのぞきこんだ。 陛下が御病床にあることを知ってからというもの、ユーキはヒロユキは笑ったところを 見たことがなかった。 「そうだね」 「悪い独国野郎をぶっとばしちゃえば、きっと陛下も良くなられますって。そしたら陛 下といっしょに那須御用邸へ、なーんてことになってるんじゃないのかな?」 笑いかけるユーキに対してヒロユキのほうはさらに悲壮な顔になった。 「なにもわかってないんだな…」 「?」 「陛下の体は『後天性免疫不全症侯郡』に犯されているんだ!…あと一ヶ月もつかどう か…」 「そ…そんな…!」 「でも今はそんなこと考えている場合じゃない。陛下のことが心配なのはみんな同じ。 今は陛下お一人のことより国家全体のことを考えなくてはね」 「そ、そうですよね。よかった、いつものおにいさまにもどって」 ユーキは半年前によびだされた時のことを思い出していた。 彼の目の前でいきなり吐血された陛下。 「陛下!しっかりしてください!だれか、侍医を!」 ユーキの口をふさぐ陛下。 「よいかコトブキ、私の体のことはハギハラにはだまっていてくれまいか」 「し、しかし…」 「あれは…あれはあまりにも弱すぎる。私の体のことを知ったら戦いに集中できなくな ってしまうだろう……いずれ私のことが知らされる日がくる。その時からはお前が…お 前がハギハラを守るのだ!」 「僕がおにいさまを守る……」 陛下の御容態が広報されてから四ヶ月、おにいさまは笑わなくなったけど、戦いには 勝ち続けてきた。今回もきっと… ──旗艦『円華那鳥有夢』ブリッジ── 「楊艦長、敵です!それもものすごい数です!」 未明の水平線は黒い影でうずまっていた。日系ロシア人、ミノフスキー・古河の発見 した電波妨害を起こすイオン粒子「ミノフスキー粒子」によって戦闘は目で見える範囲 に入ってから行われるようになったのだ。 「む〜〜、やつらめ総攻撃をしかけてきたな、全砲門開け!機械人兵器の発進急げ!」 次々と発進していくRXマシーンたち。 「榊さん、ガスターロボは?!」 「もう一息だ!今、核分裂炉の調整を全力でやってる!」 「くそっ!」  ヒロユキは歯がみした。 昭和六四年一月七日六時二十九分、開戦。 それはもう、血みどろの戦いであった。 しかし多勢に無勢、大小様々なマシーン兵器により、RXシリーズはもちろん、『牌 兵利怨』級の巡洋艦も次々とやられてゆき、開戦わずか十分で日本軍は全艦隊の八割を 失うこととなった。 「伝令!伝令!」 戦場の上を一機の伝令用ロケットが通り過ぎていった。その伝えた電文とは… 「本日、午前六時三十三分、天皇陛下が崩御なされた!」 「な、なにいィ!」 この知らせは全兵士の士気を低下させることとなった。このままでは全滅もまぬがれ ない! いっぽうガスターロボのコックピットではヒロユキが号泣していた。 「もうだめだ!…日本は…日本は負けてしまう〜〜」 「おにいさま!」 「…おれは…おれはもう戦えない…陛下がいなくなったらおれは戦えないっ」 「しっかりして、おにいさま!今ここで僕らが負けてしまったらどうするんです、旗を 振ってくれた内地のみんなは?皇后さまや皇太子殿下たちは?皇室一家の方々にもしも のことがあったら陛下に顔むけできませんよ!……だから、だからおねがいします、戦 って、戦って〜〜!ヒロユキーーーーーーーーーーーーーッ!」 そのとき艦全体を揺るがす衝撃があった。 「……わかったよ…ユーキ」 ──再び『円華那鳥有夢』ブリッジ── 「被害状況は?」 「第二、第三格納庫、および七番から二十三番砲台がやられました」 「もはやここまでか…天は我々を見離したというわけか」 「艦長!七番ハッチが開いています!」 「何ィ!」 BGM:ガンバスター デンゲンデンゲンデンゲンパッパバーパッパバーチャチャチャッチャー…… 号音と共に出現する紅白の二体の巨大ロボ。全高は三百メートルはあろうか。 「かんちょー、『牙須汰=労棒』です!」 「いかん!二人とも!ガスター・ロボは完全じゃない!」 「それでも十五分は戦えるはずです。いざという時は被曝しても戦いぬきます!帝国軍 人としてそれくらいの覚悟はできています!」 「…よーし、たのんだぞ、我国の運命は君達二人の『バン・ガスター』にかかっている。 敵の親玉は一時の方向、五十kmの地点だ!」 Y:「了解!ガスター・ロボα、 H:      ガスター・ロボβ、発進!」 「がすたーびぃぃぃぃぃむっ!」  血のように赤い光の柱が二体のロボットの胸から発射され、敵のザコマシーンを一千 台は蒸発させる。いや、二体で二千台だ!しかし、億はいるであろう敵マシーン兵器は 次々と襲いかかってくる。きりがない。 H:「ユーキ、合体だ!」 Y:「ハイ!」 BGM:Fly High みるみる変形、合体する二体のロボット。 合体完了!四百米近くある赤と白のツートンカラーの巨体が朝日に輝く。 「バン・ガス・タァァァーーーーッ!!」  今は亡き陛下の言葉が二人の心にこだまする。 「よいか、おまえたち二人は一人一人ではただのおたくだが、」 お た く  「二人あわせれば一冊の本ができる!」 萩とゆうき 「つまり、おまえたちの製本された『バン・ガスター』は無敵だ!!」 H:「ユーキ!敵群上方より急速接近!」 「んぬぁぁあああああああああああ!!」 バンガスターの腰から二本のシャフトが飛び出した! Y:「すぅぱぁー」 H:「いなずまぁー」 「スティ〜〜〜〜〜〜ック!!」 ジグザグに突き進むバンガスターの軌跡には幾千もの爆発が起こった。 これは六十年、ベトナム戦線での英雄、日系アメリカ人、ラッコ・木田曹長がありあ わせの材料で作ったゲバ棒であみだしたといわれる伝説の必殺技で、ユーキ、ヒロユキ の最も得意とする技でもある。 H:「敵主力まであと十五km!」 Y:「合体したバン・ガスターをただのロボットマンと思わないでよ!」 気分がハード・ワイヤードしているとき、ユーキは女言葉になるのだ。 「スマート・レーーーーザーーーー」  が指先からほとばしる。 H:「陛下が作ったバン・ガスター、貴様らなどゴミも同然!」 「ガスター・アトミック・ミサーイルっ」  体の幅よりも長いミサイルが腹部より発射される。 Y:「陛下の…陛下の…呪いがこもってるんだからぁ!」 「ガスター・ブレイク・サンダーーーーっ!」 がほとばしり、二万四千九百三十九台のマシーン兵器が鉄屑と化す。 敵マシーン軍が総力をあげてバンガスターにおしよせる。二十万の敵が一斉に機銃掃 射するッ! H:「ユーキ、集中砲火。数…無数!」 Y:「おにいさま、アレを使うわ」 H:「オーケイ」 ヒロユキは『VーMAX』と書かれたボタンを押した。これでバン・ガスターは操縦 者の動きを極限までトレースするモードに入った! 「ガスター・スターーーーンド!」 オラオラオラオラオラオラオラ! ユーキの拳銃の弾丸をつかむほど力強く精密な動きをするスタンドが敵弾をすべて打 ち返した。敵は半壊だ! Y:「こんなものでアタイたちがやられるとおもって〜」 「ダブル・ドリル・ゲバスティーーーーック!」 両腕のゲバ棒が激しく回転。その衝撃波で敵は全滅だ! ついに敵の旗艦にたどりついた。そいつはゼントラーディ軍の戦艦なみに大きかった。 H:「いくぞ、ユーキ!」 Y:「ええ、」 しかし敵は突如トランスフォーメイションしながら、張り手をみまってきた! H:「右!」 Y:「左からも!」 バッッチイイイイイン! 蚊でもたたき潰すように巨大な両手はバンガスターをはさみ打ちにした。 しかし、バンガスターは無事。両手両足でふんばる。 両手に握られていたゲバ・スティックはなく、発射したビームも敵のバリヤーで反射 されてしまった。 H:「おどろいたね、こんなものまであるなんて」 Y:「でも、陛下の作ったバンガスターはもっと強い!」 バカッ、と胸が観音開きになって原子炉がむきだしになる。 「ニュークリア・シャワーーーーッ!」 バンガスターの放射する様々な放射線に敵がひるんだ。 H:「いまだ!」 ヒロユキのグラサンが光る! 戦艦ロボの両手からのがれたバンガスターは、メカンダーロボの両腕についているメ カンダーUFOのような円盤を回転させた。そしてそれはスライドしてゆき、合体。  一つの巨大なガスターヨーヨーになった。 「くっらえ〜〜〜〜〜っ!」 「超電磁・犬の・お散歩〜〜〜〜っ!!」 打ち出されたガスターヨーヨーのエッジにノコギリのような歯が生え、激しく回転す る。そしてそれは戦艦ロボの体をまっすぐ這っていった。そのさまはまるで貴婦人が子 犬を散歩させる姿さながらであった。 かくして、敵巨大戦艦ロボはその能力のすべてを見せることなく、まっぷたつになっ た。 ドガガガン! 大爆発。あとには巨大なきのこ雲。その時の電磁パルスでエンカナトリウムの機能は 一時マヒしてしまった。 「…バン・ガスターは…」 「おそらく蒸発してしまったかと…」 副長の言葉をさえぎるようにして監視員が叫んだ。 「艦長!蛮=牙須汰です!蛮=牙須汰は健在!」 イヤッホー! わきあがるブリッジで艦長と副長は双眼鏡の奪い合いになっていた。 キノコ雲から現れるバンガスター。 「おにいさま、僕達被曝しちゃいましたね」 「うん」 「でもあの時、陛下はいってくれましたよね」 ──アキヒト…あいつは使いものにならん…いいか私が世を去った後はおまえたちのよ   うな若者が未来をになうのだ。…コトブキ…天下(トップ)をねらえ!!── 「そうだったなユーキ、天下をとるんだったな。よし、このまま独国本土へ殴り込みだ!」 「そうこなっくちゃ!」 「ユーキ…」 「はい?」 「ユーキが天下をとったら…オレ参謀ね、」 「ハイハイ!」 朝日に向かってバンガスターは突き進んでいった。 ガンバレ!ヒロユキ、戦え!ユーキ、  まけるなぼくらのバン・ガスター!!! ―劇終―

1989/8/31

 (『萩とゆうきVol.5』 初出)