U-kiの読書日記(98/12/20～98/12/29)

U-kiの読書日記(98/12/20～98/12/29)

気になるエロゲー・ノヴェライズ、さくっと２冊読んでみました。 - 98/12/30 00:00:00
本日の調子: ワッフルの替りにモスで汁粉を食べました。

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＃１２月２９日
『ＯＮＥ～輝く季節へ～２』ノヴェライズ（ムービック）館山緑
泣いた。
とりあえず泣いた。いや、わかってるけど泣いた。泣かされてるのはわかってるけど、そーゆー気分でもあったし。「おお、もう一度プレイする手間がはぶけた」と思って得した感じ。
多分、前の長森シナリオ版はそっけない誉め方しかしていないが、後輩にはまちがいなく薦めている。こちらはゲームをやってからかなり時間が経っているので「なつかしい！」という感触が大で、ちょっと評価が上がってるかもしれない。
読み物として正視に堪えうる出来であることは保証する。といっても「……嫌です」と──おいしいの──の応酬が俺の精神をめろめろにさせていたことも事実。長森が毎日の会話の中でじっくりその存在感を出していったため、ノヴェライズでは「ディティールの削減」があって、「ゲームのほうが良し」としたのだが、里村茜についてはこちらのほうが書き込む余地が多く、しかも里村の消えた幼なじみのパートがやはりまるまる追加されている。
作者も（あちら側の世界に対して）「毎回違う解釈」をつけることにとまどっているようだが、俺は迷うこと無くこの路線でバンバン行って欲しいと思う（一本にまとめようとして破綻した『痕』のことを思うと不憫でならない）。
うーん、結構俺の内部では評価が高いが、これ、ゲームやってない人がポン、と読んでもつまんないんだろうな。たえばこの巻では大胆に主人公の消失原因であるみさおのパートが削られている。（でも、思い出して俺は泣いちゃったの）難しい。やはりノヴェライズはゲームの関連商品にしかなり得ないのか。またゲームのシナリオというのはそれ単独では読み物にはなりえないのか？少し考えさせられた。
「ＭＯＯＮ．」のノヴェライズも同じ人なんだけど、こちらはゲームの内容と外れるところが無かったので評価せず買わなかったんだよねぇ。基本的にこの人のエロゲーのノヴェライズは多数出てるノヴェライズの中でも安心して読める、という印象ができているのは確かだ。
そういえばＰＳ版でエロ抜きのふにゃけた奴がでても「ＯＮＥ」→「輝く季節」はそこそこいけると思うんだがどーだろうかな？「同窓会」→「フレンズ」や「Piaキャロ」のエロ抜きよりは期待してるんだけど。（東鳩はあのままでエロ抜いたらふにゃふにゃだもんな。頑張っておくれよ、Leafはん！）
ＯＮＥは、感情再生機械、あるいは感情誘導機械としては良くできていると思う。ゲームそのものの感想は別途アップしてあるので多くは語らないが物語にギミックやディティール以外のモノをもとめるとすれば感情を煽ることぐらいのなのでそれができるものとしてゲームシナリオにはおおいに関心がある。昔はそれができるもんがなくてしゃーなく自分の「物語」を書いていたわけで、うーん、それってまったく自慰じゃん。他人を感動させる「物語」が書ける人はやっぱ尊敬に値するよなぁ、と思う。

まぁ、予想通りというか、予想以上の人気のため一人一冊型になったと思われる、このノヴェライズ。次はみさき先輩かな？

『雪色のカルテ』ノヴェライズ（ＫＫベストセラーズ）大場惑
買った理由、大場惑が書いてるから。大場惑といえば、８ビットパソコン時代、ゲームとＳＦの境界線にいた人だよ。なんともただノスタルジックだね。『アクーラミッション』とかＳＦＭに掲載されたゲーム的な要素の強い短編読み切りとかね。
で、読む。
くそっ、知らなかった。これの舞台ってどう考えても栃木のヤマの方じゃん。き、汚ねぇよ、鬼怒川総合病院とかさ、日光テレビとかさ、湯生沢診療所ってなんか場所の雰囲気想像できちゃうじゃん！
ま、そーゆー個人的ピンポイント爆撃の話はおいといて、うーむ。
駄目だわ、やっぱゲームやらなきゃ。
これってもしかして、バッドエンドシナリオじゃないっすか？
それともいわゆる一つのトゥルーエンドってやつなんですか？
当然購入する意欲があったので事前に下調べしてるんですけど、これが「美しくて悲しいエンディング」だとしたら、シナリオ的には屑ですな。緒方さんデザインのキャラで自慰する以外目的ナシって感じです。しかしうむむ、やっぱゲームやってみなきゃ駄目な気がする。ノヴェライズが駄目なのか、ゲームが元から駄目なのか区別つかないし。
思ったのはひょっとしてエロゲーのノヴェライズは作家で変わるモノじゃないのかもしれないなということ。
とにかく、あとでゲームをやってみて評価が変わるか試してみたいって感じでオシマイ。

『図書館戦隊ビブリオンII』（集英社コバルト文庫）小松由加子、読了。 - 98/12/29 00:00:00
本日の調子: 曝書を放射線被曝した書物のことだと思ってたあの日々。(in 足利学校)

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＃１２月２８日
帯の「図書館界爆笑！」「ＹＡサービス研強力おすすめ？」というのは果して「推薦のお言葉」なのか？
由加子ォ！(;_;)/ 俺は涙を禁じ得ない。
実は前作で疑問に思っていたんだよ、「図書館戦隊」といいつつ戦隊の戦い方してねーじゃんかってな。まぁ、慣れてないんだからしょーがないよね、と思っていたが確信犯だったんかい！！うぐぐ。まぁ、許そうや。この巻では敵「四天王」を出したり、「××・バズーカだ！」とか「ああ、この戦隊にはこんな弱点が！」とかいちおー王道に沿った展開かましてくれてんだが、かえって白々しく感じてしまうんだよね。前回くらいぶっとんでると、「小松味」ってゆう特殊な味の小説を味わってるんだし、こりゃ「戦隊」ってついてるけど戦隊モノじゃないしね、という割きりができて楽しめたんだが、キャラ設定とかで驚きもとれないし、戦隊にも図書館にも愛着がない、うぐぐ、それではこれはいったい「誰のためのナンの小説なんじゃ？」という気がしてしまうのだ。
作者自身の作品への愛が感じられない。企画モノをイヤイヤ書いたんだろうか？という匂いが（たとえ本当にそうであったとしても）読者に伝わってしまうモノの書き方はまずいんじゃないッスかね？だったら最初から続編なぞ書かずにアレで終わりにして欲しかった。それが俺の正直な思いである。
続編というのは何かしら「新しさ」がなければ、タダの焼き直しかそれ以下になるのは目に見えている。人気があるから続編、といってやっていられるのは（またこう断定してしまうが）あほたれな小僧・小娘相手のモノだけである。セーラームーンを最初、狙いすぎてるとは思ったが俺は「大胆な試み」としてかなり評価していたが、その後「これはドラゴンボールと競争してんのか？」といわんばかりに続編が出た時はもう死んで欲しいと思った。喜んだのは多分、ファンと子供だけだよねぇ。「ビブリオン」はコバルトの中でも売れた作品なのか？という疑問があるから企画モノを無理矢理書かされた説、というのが疑問なんだけど。
書かされたのか否かにかかわらず書いてしまった事実は曲げようもない。この作者の「意欲的な２作目」の次に来るものがこれでは心配こそすれ、期待はできないではないか。彼女に「ブギーポップ」までの質は求めていないし「小松味」というものがあるならばそれを先端化して欲しかったのだが。
前作を読んで俺は「これは同人誌のノリだ。テーマなんてないけど、書いている本人が楽しそうだし、なんとかウケようとする「遊び方」も俺のツボをついている」と書いた気がするが今回はその「書いてる本人が楽しんでいる」という同人誌のレベルに到達しておらず、お安いボケだけが淡々と並んでいるような気がして、それが悲しかった。「これが全力です」といわれれば、なるほどそうですか、と答えるよりしかたない。たつねこ先生のイラストはかわいいし、お笑いもそこそこだがキャラ萌えするほどキャラが立っていないわけで（ここは前回も不満だった。但し、Ｒ・牧村先輩は除く。その先輩も今回活躍してないし、悲しい）これでひーこら擬似戦隊モノ・学園モノのストーリーなぞってたんじゃなんも残らないじゃないですか。（鈍器使いの音楽の先生はよかったけれども（笑））この巻はただ物語を完結させたことにのみ意味があるような、そんな存在じゃないですか。悲しい。どうせなら最後は昭乃ちゃんたちの卒業にからめるとか、そういった「学園モノ」ののりで幕を引くとか工夫できなかったんかな？と思うのである。
とりあえずこれは「良き失敗」ということで彼女の評価は保留にしておこう。次までは待ってあげよう。

しかし、「ライブラリアン」という言葉は本当にあるんですかね？（あるんだろうな）
この業界にいると、システムのソースやモジュール、ドキュメントの管理をしてる人のことを思い出してしまってなんともはや。そういや学校に「司書の先生」っていたよなぁ、ということを思い出す。お世話にはなったけど、誰かと仲良くなるために図書館に篭ってたわけじゃないからなぁ。学校では本はほとんど借りなかったし。うーん、楽しくない関連事項ばかりが思い出される。うーーー、却下だ、却下！

ＳＦＭ８３年９月号、ＧＥＴ！読む。 - 98/12/28 00:00:00
本日の調子: おお、マイガッ！こんどばかりは感謝いたします。

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＃１２月２７日
その号は、ゼラズニィの単行本未収録の短編と、あのソムトウ・スチャリトクル先生のお顔が掲載されているという…。探し、探して、なんと幸運なことに年が変わる前に入手できてしまった。至福である。神の見えざる手に感謝。

「ユニコーン・ヴァリエーション」ロジャー・ゼラズニィ
ぐぉあ。さ、最高。だ、駄目だ、ひいきにしてる作家の作品なんて何読んでもＧＯＯＤってしか云えねぇんだからさ、あんま意味ねぇよな。
でもねぇ、ユニコーンやらグリフォンやら空想上の生物たちがそろいもそろってビールが大好き！チェスが好き！なんて、なんともすてきな地球じゃないか！って感じです。
「魂を掛けよう」「ＧＯＯＤ！」ではじまる主人公の大博打。地球人類の運命を掛けた殺戮のチェスゲーム（一部嘘）。その「地球人類の滅亡を掛けた」あたりのスケールのでかさに毎度シビレる。読んで超シアワセ。
基本的にＦな世界って、俺は駄目なんである。だって、話を派手にするための設定として魔法の国とか遠い異星とかを舞台にしちゃうのって卑怯じゃないッスか？ゼラズニィは同じホラでもそれを「こちら側の世界」にちゃんと引き込んでくるからいいのかもしれない。明日、俺の身にも起るかも、というわずかながらの希望を幻想として見せてくれるところがいいのかもしれん。
モダンホラーとかいうジャンルが受けるのは、舞台が現代の地球の近傍だからじゃないのかと思うんですがどうなんだろう？（そもそもモダンじゃないホラーは今どんな人気なんだ？ゴシックホラー、なんて確立しているのか？）だとすれば別にホラーじゃなくても、ゼラズニィみたくしらっと、不思議空間を現代の近傍につなげてしまえばいいのでは？とは云うものの、それが結構難しいんだろうなぁ。
毎度ながらのＺ節炸裂。結構上位に来るのでは？という感触です。

「しばし天の祝福より遠ざかり…」ソムトウ・スチャリトクル
特に詳しく読み比べていないですが、暗唱できるくらい読み込んでいるので、雑誌発表時よりも『タイム・トラベラー』収録作品の方がイイと思いました。星新一さんも新しい版が出るたび自分の作品に手を入れているということで、まめな人だなぁ、と思っていたんですが、伊藤典夫さんも翻訳に掛ける手間・暇・情熱というのは尋常ではないと人づてに聞いており、ああ、これもその結果の顕れなんだろうなぁ、と思った。
『アルジャーノンに花束を』の長編と中編のように主人公の一人称が「ぼく」と「俺」で違っている。日本語の悩ましいところで「俺」が似合う話とそうでない話とがあるもんだ。で、こいつは俺でもいいんだけど、やっぱ最後の「やってやるぜ」のエッジを立たせるためには『タイム・トラベラー』版の方がいいなぁ。（って、俺がこっちで刷り込み決めてるからかもしれんけどね）
浅倉久志さんの「報い無き栄光」と「スキャナーに生きがいはない」ほど違いはないですけどね。こういうのがわかってくると好きな短編は雑誌掲載分なんかも押さえなきゃ、とか思ってしまいますね。ってゆうか、原書買っておけ、自分で読め、という気にもなってくる（笑）
ああ、さすが俺の海外短編部門オールタイムベスト１位作品。何度読んでもええわ。飽きないわ。泣けるわ。かっちょいいわ。ソムトウだわ（笑）。
しかし、ようやく拝めたソウムトウ・スチャリトクル先生のニコニコ顔。
……島田洋七！（爆笑）

「プッシャー」ジョン・ヴァーリィ
おお、これも『ブルー・シャンペン』収録のものと比べると細かい部分変わっている。漢字変換一つを変えるだけでも文章の肌触り、あるいは舌触りがずいぶん変わるもんだなぁと思う。
ソフトクリームがあんな舌触りなのは中に含まれる空気のせいなんだけれども、ソフトクリームを食べているつもりで俺達は空気の舌触りを味わっているのだと思うとなんだか不思議な話じゃないか。海外作品を味わっているということは実は翻訳家の手腕を味わっているということだ。だから「ハインライン」が好き、といいつつ矢野徹センセの文章を味わっているのであって実はハインラインじゃなく、矢野センセが好きなのかもしれない。とはいえ、翻訳家は海外作品をソフトクリームとするとやはり空気みたいなもので、バニラアイスの部分ではないんだけれど、おいしくなるか否かは彼等の心意気一つなわけで、そういう意味では好きな作家は好きな翻訳家に訳してもらいたいし、充分な腕と、その作品に対する十分な愛が必要だと思う。どちらが欠けても味は落ちると思う。
というわけで大好きなヴァーリィである。
ロリコンおじさんの話かと思うと意外なオチがついてくる。基本的にこのネタに男女をからめらめるのは定石なんだろうけど、やっぱ好きですな。タイトルとイントロ部分でシャレをかけているわけで、短い話ゆえ内容に付いては触れないでおく。これで始まって「PRESS ENTER■」で終わして、「タンゴ・チャーリー…」と「ブルーシャンペン」をサンドイッチした『ブルー・シャンペン』は良い短編集だと思う。

やはり『鉛の兵隊』も読み直したくなって、『スペースマン』『スターシップ』『タイムトラベラー』の三種の神器を取り出してしまった。新潮さん、復刊してください～。

ModelGraphix'99年2月号に見るＳＦ３Ｄの思い出。 - 98/12/27 00:00:00
本日の調子: 男は黙ってパンツァーファウスト！

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＃１２月２６日
いや、ホント、物事にはタイミングってものがあるよ。出会いは必然ではなく、偶然によるところが大きいと思うな。うむ。
『１００台のコンピュータ』を読み、部屋整理ででてきた自分の過去のノートとか同人誌を見るにつけ、「自分史」をここにあきらかにしたい！という欲望が以前にも増して強まり、それ用に起こしたものの寝かせたままのネタなどをつついているうちに先輩より「今月のモデルグラフィックスは表紙が１／１スケールのスーパーＡＦＳだよ」という連絡を受ける。で、再販ＳＦ３Ｄのモデルのことを知っていたので迷わず買ってみると、そこには驚きの連続！死んだはずのＳＦ３Ｄという企画＝俺をＳＦに走らせることとなった一つのキーポイントの歴史が掘り起こされた特集記事がそこにはあったのだ。俺を語る上で外せない要素が、俺の預かり知らぬところで熟していた、という感じである。
メカデザイナー横山宏がホビージャパンにて連載していた仮想のメカグラフティ企画、それが「ＳＦ３Ｄ」である。例によって知ってる人だけ相手にする。
この企画は模型雑誌ホビージャパンの８２年５月号から８５年１２月まで連載されていた。
ＡＦＶ模型作成に関心がなかった俺は中学生までは「模型とラジオ」派だったのだが、なんか体を壊した時に持ってきてもらったホビージャパン（確か、ＡＫＩＲＡのフライング・プラットフォームのモデルが掲載された号あたり）にこの連載があるのを目ざとくみつけて、以後、その為だけにホビージャパンを買いつづけることになる。当初、ミクロマンのパワードスーツ・キットの改造という企画から始まっているところも俺のツボをついていたといえる。
ＨＪは中学生が毎月買うにしては高い本だった。他には毎月２冊以上のパソコン雑誌と１冊のアニメ雑誌を買っていたはずなので俺のこずかいはほとんど本代になっていたはずだ。そんなに多くもらっていた記憶はないが、とりあえず「困らなかった」という状況だけは覚えている。他の友達がレコードを買うのに一生懸命だったのにくらべれば楽なものだったかもしれない。それに実際模型は買っていなかったんだから。
模ラ読者だった俺がＨＪに鞍替えしての収穫。まず最初に驚いたのが、「改造しちゃあかん！男はドライブラシ！」の松本州平氏など、個性のあるライター（モデラー）の存在と、なんといっても小林源文の超絶リアルなドイツ戦争劇画との出会いであろう。これによって「男としては当然必須」の第二次世界大戦の軍事用語をマスターし、なんといってもマカロニほうれん荘などで描写されていた「オットー・スコルツェニィ」などの戦争英雄が実在であるという事実を恥ずかしながらこの時受け入れたのだった。
で、なぜこの高価な模型雑誌をモデラーでなかった俺が毎号買うまでに燃えたかというと、メカフェチだった俺にはこのＳＦ３Ｄという企画が示した、「メカ設定、イラスト、ショートストーリーが渾然一体となって一つの世界を築きあげることができる」という事実はかなり革命的衝撃であったのである。
当時、よくありがちなことに俺は漫画家になりたかったんだけれども、小学生の頃は怪獣ばかり書いていたし、中学生になってからはメカ（しかも実在しないへんなロボット）ばかり書いており、いざ、人間を書こうとするとまったくダメダメ。まさに「うすね正俊状態」だったわけである。
「メカ設定などのディテールとストーリーは等価だ」
という説得力は俺にとって希望の光だったのだ。
俺の場合はモデル＆フォトは不可能だったけど、ＣＧっぽいエフェクトはパソコンで可能な気がしたし、別冊本に掲載された短い漫画は「これならイケルで！」と思わせた。当時、誘われて入った先輩の主催するアニメ系同人サークルで俺の最初に試みた創作はこれを模倣した「月の先住者」という架空の戦記シリーズだった。月の裏側に謎の知性体が潜んでおり、月面基地を建設しようとした人類に対して挑戦してくる、という内容で地球も月も泥沼の最新戦闘メカ合戦（しかも人命尊重のため、限りなく無人化されたロボット軍団採用）が展開されるというものだった。アニメの同人誌の中ではかなり浮いていたが、先輩がかなり好き放題やることを許してくれたので嬉しかった。漫画も小説もイマイチでただメカが好きだった俺が創作に参加できたという喜びはかなり大きかった。というわけで、俺の創作のすべてはここが原点なのだ。
よぉーく考えると佐藤道明＆荒巻義雄の＜イラストストーリー＞もまったく同じテイストなわけで、このＳＦ３Ｄというのが世界に与えていった波紋というのは今も大きくひろがり続けているのである。
で、８４年、ＳＦ３Ｄは日東からキット化された。ＳＡＦＳという様式トイレの便座のようなデザインのパワードスーツの複製品のプレゼントに応募が殺到したことがきっかけだった。「ほんのささいな遊び心」から始まった横山ワールドはついに雑誌連載企画から商品化への道を歩み出したのである。しかも、その緻密さ、デザインセンスの良さは当時の模型史上群を抜いた出来栄えだった。
だが、日東の倒産、連載の中断であっけなく、ＳＦ３Ｄはその幕を閉じる。横山氏の厳しすぎる金型監修によるコストの悪化、火災などがからんだオトナの事情で夢はあっけなく水泡に帰した、当時はそう思っていた。
んが、このたび、相次ぐオタク向け復刻ブームにより、このＳＦ３Ｄのキットも新たな「マシーネンクリーガー」シリーズ（以後MA.K.）として復刻され、今回のＭＧ総力特集とあいなったわけだ。んが、待てよ？なぜＨＪではなくＭＧなの？先輩に訪ねたところ「そりゃ、今ホビージャパンと日東が喧嘩＝裁判してるからだよ」
がっがーん、知らなかったよ、そんなこと。１３年経って知る衝撃の事実。
ＨＪと日東が裁判していて、モデルの再販にも影響があったというのはまったく知らなかった。ずいぶんまえからやってるようだし、日東の火災や倒産が連載の中止の事情とも関係がない、というのがショックだった。掘晃氏と早川書房の裁判など、なんだかファンには悲しいいざこざというのが各所に存在するのだなぁ、と思う。
話戻って、そもそも俺がＳＦな創作文章を書くきっかけは「マイコン」や「ベーマガ」「ｉ／ｏ」などに掲載されたゲームの幾つかに添えられたＳＦ色の濃いサイドストーリーたちで、何よりも「ゼビウス」のサイドストーリーが俺を狂わせた。アニメ・特撮の他、コンピュータ、ゲームが何よりもＳＦに近かったのはやはり８ビットの時代なのだった。
特集で紹介された当時の横山宏氏の仕事の中にはパソコンゲームやＳＦと密接に関連したものばかりで思い出しても胸が熱くる。氏が関った「ロボットバトルＶ」「ヴィーナス・ファイヤー」は「ヴォルガード」「テグザー」など他のロボットゲームとは一線を画していた。それはひとえに横山宏氏、そのデザインの産むリアリティのおかげであった。ガンダム・イデオンを経て、マクロス・モスピーダ・ダンバインという「四角くないメカ」の時代に来ていたのだ。ガンダム・ダグラム・ボトムズと続くサンライズのロボットアニメのおかげでメカ＝軍事兵器という刷り込みが完了していたわけである。まぁ、これをパクったドルバックなども登場し、８２～８４年は忘れられない発想の革命期となったわけである。
８５年。高校進学。エルガイム来訪。８ビットマシンの時代の終焉。同人サークルの撤退。ＳＦ３Ｄが消えて行く頃、そう、それは俺の暗黒の始まりでもあったのだ。
ＨＪ離反組みで結成されたＭＧ誌上で、横山宏の新企画、「マシーネンクリーガー・ブレッヒマン」が開始されるが、当時は「うそ臭いＳＦ３Ｄ」という感触であっさり否定してしまった。「濃い横山ワールドが展開された」といえば聞こえはいいが、二番煎じの亜流とみなされてもしかたない。また、バンダイが「スパイラルゾーン」を＜例の集団＞にもちかけ、当然のように俺ものめるが、ミクロマンのようなＳＦ３Ｄのようなパワーはなく、あっさり心は離れてゆく。
すべてのメディアから離れた時に、残されたものは活字の海だけだった。

[関連リンク]
「ＳＦ３Ｄオリジナルファンページ」
「Maschinen Kriger Web」
（MA.K以外のモノ）
（用語辞典など）

『電波オデッセイ３』『ちいさなのんちゃん』（アスキーコミックス）永野のりこ、読む。 - 98/12/26 00:00:00
本日の調子: キッシーにいぢめられたオタモリくんなみ。

コメント:
＃１２月２５日
『電波オデッセイ３』、はぁっ、と一息である。いやぁ、２があまりにもただ暗黒な感じで終わってさっさと続きを読むか、読んだことを忘れるかしたかったので。北森に感情移入し過ぎだな。俺っていわゆる「職員室によく出入りする」タイプだったんだけど、ウマがあう先生とそうでない先生とで真っ二つに別れちゃう性格だったんだよね。（今もその傾向はあるよなぁ。敵と味方ハッキリしすぎというか…）北森と岸田先生（キッシー）の関係なんて涙がでそうなくらい思い出があります。ただ、攻撃の矛先は最初から相手に向けて自分を責めるのは別の方面からだけだったけどねー。
中学時代は怪獣だったので（笑）、暗黒状態は高校のときであり正確にはこの「中学生日記」と俺はシンクロできない。つまり激動の思春期で３年も悟りを開くのが遅れたため、俺の精神年齢は他の人と青銅器と鉄器文明ぐらいの差が付いていたと思うわけだ。ああ、とてもつらかったですよ。その差を知った時はね！今は（ホントのところはしらないが）埋まったと思ってるんだけどねぇ。（やっぱ駄目か？）
中学生のアホで真剣なところは永野のりこの漫画でなくても、「稲中」や「エヴァ」でもいいんだと思う。ただ、今、これだけ＜オタク＞が増えて、子供（中学生）が不安定な精神のままで放っておかれる時代、彼等に救いの手を伸ばせるのは「ここにも同じ人がいるよ」って事だけであり、そーゆー意味で、そーゆー世代にとってこの漫画は救いになる可能性を秘めている。ただ、「終わってみないと」そこらへんの最終的な評価はできない。
当初この場は「完結している作品」の感想だけ書こうとしていたんだが、なかなかそうはいきませんなぁ。

で、明るくなりかけたものの少し暗い影を残したまま電波３が終わったので、口直しにと『ちいさなのんちゃん』を読む。
ぶわはははは、、、死ぬ、死んぢゃうっ！ってぐらい大笑い。
いきなりうけたのが、旦那の若い頃読んでる本に「でにけん」と書いてあるところ。そうですか、ホントに「みすてないでデイジー」全開射撃なおもろい夫婦だったわけですか。自分の青春を見られるのが死ぬほど恥ずかしいですか。(;_;)
俺、「すげこまくん」とかも読んでて悶絶しちゃうんだけど、実生活描いても同じ笑いが誘えてしまうというのは問題アリではないか？ってゆうか正直うらやましいなぁ。
しかし、ちっちゃなのんちゃんももう中学生でコミケにバリバリ参加してるってのはまさに「子供の頃からエースでジョーカー」状態。
説明しよう！以前、某地方コンベンションで、特撮系のビデオ上映会をやっていて、おいら、ブイブイいわせていたんだけど、そこに夫婦参加してた人の５才くらいのオトコノコが、「グリーンマン！」とか平気でいうわけですな。ウルトラ怪獣の名前を当てまくるわけですな。「や、野郎～。５才児のくせに、ビデオという新兵器＆両親オタクで、既に戦闘能力は俺とためかい！」と戦慄を覚える（＞ってゆうか、５才児相手にホンキになるな、俺）。見た目は普通の人間だが、脳がオタクのものを「エース」と呼ぶ。そして、その子、夜になったら、ウルトラ警備隊の寝巻きに着替えておった。「あ、あれがパジャマかよ～！絶対反則だよ～」コスチュームプレイなどで内側の異なる世界観を外界に知らしめるものを「ジョーカー」と呼ぶ。両親がオタク・マニア・ファンだった場合は無条件にパーフェクトなオタクが出来上がる。これが俗に云う（いわねぇって）「子供の頃からエースでジョーカー」状態である。ああ、のんちゃん。君が愛しいよ…。
しかし、大きなのんちゃんの「中学校のブレザー」だけで脳が刺激されてしまう俺にも問題がアリである。断じて俺はロリーではない！一緒にオンナノコと過したのが中学校までだから高校生の「セーラー服」とかよりも反応しちゃうだけなのよ。無論、高校生でもブレザーの方が５倍価値が増大することは云うまでもあるまい。（自慢すんな＞俺）
笑ったネタをいちいち挙げてはきりがないのでやめておく。たしか５～１０ページおきに笑ったことだけは確かである。
あぁ、ある意味＜オタク＞という深い地獄にはまったもののシアワセへの脱出例がここにあると思うと希望の光が見えてくる。今はとても幸せなんですね、永野さン。俺も一時期は家庭だの子供だのに＜夢＞を見ていたことがあったけど、最近はそれ、あんまなくなってきましたな。（かといってまだ絶望からの脱出はあきらめてないんだけどネ）サンケイ新聞を見せてもらったのが９５年。もう３年もたってしまったのに俺はいつもと変わらない毎日を過してしまったのか、と思うとなんだか絶望という名の壁が２０ｃｍは高くなったような気がする。
まぁ、『電波オデッセイ』が果てしなくダークリィなのにこちらは腹かかえて笑って悶絶、というのにニンゲンの二面性を見ました。ってゆうか、脱出前／脱出後、って気がしました。
果して俺は脱出なるか？明日はどっちだ？！（意味ナシ）

『装甲戦士１』（祥伝社ノン・ノベル）山田正紀、読む。 - 98/12/25 00:00:00
本日の調子: エビを食いすぎた千葉繁なみ。

コメント:
＃１２月２４日
「パルメット・バグを装着する。出撃するぞ！」
あああぁ、まさに押井守監督「ケルベロス」での「ヘルメットを付けろ、乾！」に相当。
学生運動をくぐり抜けてきた世代に共通の意識なんだろーか、この辺は？
タカハシ軍曹を救出するため、原田蒼生（たかお）、通称タカは非戦闘員でありながら、本書の終盤で装甲戦闘服を装着。暗視スコープと至近距離からのライフル弾をはじく装甲と、Ｍ６０機関砲を補助射撃手なしでゆるぎなく撃つことができる膂力を持つ「甲虫の人型」は表紙イラストや戦闘シーンからは出渕デザインの「プロテクト・ギア」を想像してしまうが、実際の用途や文字による説明書きを見ると、スマートなエイリアン２の「パワーローダー」のようなモノらしい。
しかし、山田節全開。扉にも「これはベトナム戦争を描きたいわけじゃなくて、どこか架空の戦場です」ってそれってＳＦＭで連載してた＜デッドソルジャーズ・ライヴ＞と同じテーマじゃ…（笑）
『機神兵団』のときもそうだったけど、ショーケースに並べられてるモノは俺がよだれを垂らしてしゃぶりつきたくなるようなモンなんだけど、実際お話になってみるとどうもかったるくて離れてしまうんだよなぁ。これも出版された当初は喜んで飛びついたけど、戦闘がやっぱり地味で離れてしまったんだよね。（それでも宇宙人とナチとロボット兵器で旧日本軍な『機神兵団』は２桁行くまでは頑張ってついていったんだが）
というわけで、出版当時に俺が手にしていないわけもなく、きっと早々にこのシリーズには見切りをつけたんだと思う。ああ、しかし、当然続きが気になってくるなぁ。百円だからって買うんじゃなかった。(-_-;
今読んだ感じでは続きを読む気力満々だが、物理的に集めるの難しそうだからとりあえず放っておく。ま、続き売ってたら買って読むってことで(^^;;

自分再発見！「アイディア・ノート89年～94年」発掘・解析。 - 98/12/24 00:00:00
本日の調子: 氷の死刑台(by 怪奇大作戦)を思い出すなぁ。

コメント:
＃１２月２３日
部屋の片づけをしていてうっかり発掘された恥ずかしい青春の１ページ。暇を見つけて読み返す。
何を思ったか「買った本リスト」と簡単な読書感想文が付いている。恐ろしいことに同じ作品に対する評価が全然違っている。事実誤認も今よりずっと多い。これは当たり前だけど、今印象に残ってる部分ではないところを引き抜いて文句をたれている。
この頃は今にもまして否定的で狭いモノの見方しかできていなかったから、良かった部分ではなく、嫌だった部分を書いているのかも？とか自己弁護。
「最近本を買いすぎなので、自分のためにこれを記す」とかまったく同じ事いってるよ。金の使い方が１０分の１だけど、バイト代ほとんど本とコンピュータに使ってるのは今と同じだ。お金がシビアだったから買い方もシビアだったようだ。欲しい本リストを作って買ったものに日付を入れる形式とかのページもあり、「ああ、ここでこっち買っちゃたからいまこの本持ってないんだ」というのも多数。欲しかったから本屋で読んじゃったのもあるみたい。図書館はＳＦＭとかの雑誌のチェックと絶版サンリオ漁りに使っていたようで新刊は買うか、買わないか、立ち読みか、だったようである。
口調というか、文体は今よりも輪を書けて過激。（そりゃそうか、誰に見せるわけでなし）
何から何まで今の俺とほぼおんなじ。ちっとも変わっていないのだ。お、恐ろしい。これが「三つ子の魂百まで」というやつか。って、そんな昔の話じゃないんだけど。９１～９２年というのは学生時代に終わりを告げて社会人になる、という意味である種、俺の中では「青春のハルマゲドン」な時期だった。単位は足りないけど、金銭的に留年は断じてできなかったし、卒業研究は一つも進まなかったし、ＭＳ－ＤＯＳと９８とＣに急いで馴染まなければならなかったし、ばあちゃんは死んじゃうし、「それは内定取った、っていわないんじゃない？」とか某就職担当の教授には脅されるし、命をかけた弓道は引退して何をしたらいいのやら状態だし、マクドナルドの深夜清掃のアルバイトはキツイし、サイドマシンは年中調子が悪いし、となんだか「俺」という世界はぐっちゃぐちゃに攪拌されていたのだ。会社の寮に入ってからの１年間も似たようなもんだった。駅からはバスで２０分という僻地で本屋もコンビにもなく、部屋には電話も無いし、暖房器具もなかった。始めたばかりのNIFTYへのアクセス方法を探してひーひーいっていたのだ。
それが落ち着いてきたのは今の某放送局のお仕事をするようになってから。もう、仕事一筋になっていて、ノートも３月に一回とか半年に１回になっている９４年頃。同人ユニット＜萩とゆうき＞解体後の起死回生の一発を求めての模索状態＆銃夢の生感想などがあって、簡単にいうと、この頃は「自伝的作品集」を作るのに躍起になっていて、「どうやってウマく俺を他人にわかりやすくサンプリングするか」に心血が注がれており、その構成といったら、エッセイの内容含めて今のページの形態ソックリなんである。
この「東鳩学園」はそもそもマルチをかわぎりに転落していった「ギャルゲー」のためのページで「ＳＦ」な要素は溝口さんの「審判の日」を見てから付け足した副次的なものだったのだ。いわば本末が転倒したように見えて、俺の内部ではずっと保存されていたものが具体的な姿を持ち始めたものだったわけだ。まったく意識してなかったんだけど、意識の底をさらってくれば転がってるものは同じだったわけで、４～６年前に俺が出そうとしていた「自分」というのはこのページの形で固まっていたというわけだ。
表現手段が同人誌からｗｅｂページに変わったというだけで「俺がやりたかったものの形」は最初からこの形態だったというわけだ。
で、「まじめな小説群」もHTML化してアップした今、「本」という形態へのこだわりを抜かせばあとは「詩」と「エッセイ」と「自伝」ぐらいしか残っていないのだった。
うーむ、喜んでいいのか、情けないと悲しむべきなのか。複雑なところである。
ま、時間はどんどん経っていくし、俺もそう簡単には「ネタ切れ」にはならないだろうから、とりあえずこのページはもう少し続いて行くことでしょう。

『青猫の街』（新潮社）涼元悠一、読了。 - 98/12/23 00:00:00
本日の調子: ＳＥに生きがいはない。(by コードウェイナー・スミス)

コメント:
＃１２月２２日

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お、恐ろしい。これがこんなに強力な呪いの言葉に見えるとは。
これは知る人ぞ知る、ＮＥＣの国民機「ＰＣ－９８シリーズ」の初期起動画面である。
はたして友人Ａは名機、PC-9801VM2を部屋に残して何処へ消え去ったのか？

物語は９６年の冬の東京を描いている。書いたのは９８年なんだろうか。それにしてはその描写は当時の過去ログを切り抜いたように「リアル」だ。エヴァ論、なつかしの８ビットコンピュータ論、そして、過去に「近未来」として描かれ現在が追いつき追い越そうとしている未来論。それはあまりにも２年前の自分の環境のスクラップファイルそのままな、ありふれた日常の会話であり思想であった。Windows９５のおかげで劇的にパソコンが普及し、急速にインターネット加入者が増加したまさにあの頃の切り抜きのような描写である。
主人公、神野はＳＥである。まさに中堅にさしかかろうという彼の姿は俺そのままである。
コンピュータシステムと人間の間にはさまったグリースこそ、我々ＳＥである。頭の悪い人間に優しい様にコンピュータはできていない。アホな人間が設計すればアホなシステムができあがるし、また出来上がったシステムも不完全な人間が作ったわけだからけして完璧ではない。さらにどんなすぐれたシステムも使う人間がアホであればアホなふるまいしかできない。だから、機械の人間的な部品としてＳＥが存在する。その正確な業務描写にも正直まいった。作者はＳＥとして客に頭を下げたことや仲間ともめたりしたことがあるんだろうか？と正直問い詰めたくなるほど真に迫った描写だった。
ここ数年見かける小説の中のコンピュータ、とりわけパソコンを用いたクライアント・サーバシステムやＬＡＮやインターネットの描写は９５年以前のそれに比べてうむむ、とうなずくことができるレベルのものが多かった。だか、今回は機械システムではなく、システムエンジニアという人間部品の正確な描写を目にしたわけで、「うむむ、これがサイバーエイジってやつか」などと感心してしまう。大抵、どんな小説でもその専門の分野に従事してる人から見ればなんらかの「アラ」が見えるわけで、そういう人の話を聞くと「へへん」という感じにさせられるものだ。バイオテクノロジーの仕事をしてる先輩に話を聞くとはやりの「バイオサスペンス」がかなりへたれに感じられるし、俺から見たら暴れん坊将軍の将軍様の使ってる矢は練習でもめったに使わない最低の値段の安い竹矢だし、『すべてがＦになる』のコンピュータ描写もかなりイイ線いってるが適当に描写をはしょってボカシをいれることで架空のＯＳ「レッドマジック」をそれらしく見せている。今回のこの物語ほど正確なＳＥの描写や、「ＳＥになりそうな人種」の正確な描写を見たことはない。これは保証する。
ただ、最後の最後にツメが甘いというのはたぶん作者が予想しているよりも、文系の思考・嗜好の人がコンピュータ業務に従事していることが多い、という事実だろうか。俺が会社に入って一番驚いたのはコンピュータのことを知らない人があまりにも多くいすぎる、そして趣味としてコンピュータを扱ってる人の数はことさら少ないということだ。
俺のように８ビットの時代からコンピュータに親しんで、家に帰ってからも趣味はパソコンです、コンピュータですという人はそりゃ他の職種に比べれば多いのかもしれないが、大抵は休みの日にはパチンコ・競馬、最新の技術は必要に迫られて職場で習得というのが実体だろう。だから、神野のアフターファイブはネットオフの会話であって、現場のＳＥでああいう会話をすることはほとんど無いのだ。ＳＥではなく実際にプログラミングする会社になるともう少しコンピュータの練度はあがるのでパソコンオタクの密度は増えるが、全員が８ビット機の洗礼を受け、あまつさえエヴァンゲリオンの話を酒場でする、ということはありえないのだ。もっと簡単に云えば８ビット時代、パソコンはマニアックな趣味であった。その洗礼を受けてる人間の人口は圧倒的に少ない。９５年以降は違う。Windows９５以降にパソコンを所有して、それらの話をする人はずっと多い。しかし、初体験のパソコンの話をして全員が８ビット、というのは俺の世代を集めても１／３に満たないはずである。１６ビット、キュッパチの洗礼を受けてる者はもう少し多いはずだけど。そう、あれは８ビット機の洗礼を受けたものが集まった時に行われる会話のリアルなシミュレート、あるいは仮想ログなのだ。うっかり鵜呑みにしてしまうところだった。
８ビット時代を知る人間には迫真に迫る内容であり、そうでない人には意外とポカン、とした描写かもしれない。だからこの本は読む人を極度に選ぶタイプの本ではないか、と思った。根っからの文系人間が読んだ時、果して面白く映るのだろうか？そう思うと日本ファンタジーノベル大賞選考委員の方々が、この作品のどんな点をどうとらえて、「良し」と評価したのかたまらなく知りたくなる。俺個人は、俺個人が体験している、８ビットパソコン（あの時代はマイコン（My Com）、という呼称でもあった）をホビーとして体験した理系でＳＦなシステムエンジニアとしてあまりにも正確に９６年を描写しきっている、という点でまずは５０ポイント獲得なんである。
で、残りの５０ポイント（つまり１００点満点を俺は与えている）こそはその架空の世界＜青猫＞の描写である。＜青猫＞に付随する事項としては私立探偵の佐伯センセイのパートも含まれている。主人公が青猫を追って、インターネットの海を渡り、オフ会に参加し、草の根ＢＢＳをハックしまくり、そしてたどり着く先にあったもの。その描写がすばらしい。検索エンジンの検索結果など、「本当にgooで引っかけたのか？」と思わざるを得ないまさに「迫真の描写」なんである。草の根ＢＢＳの描写も然り。そしてサイバースペースだけでなく、リアルスペースの探求のディティールを佐伯センセイがしっかりとに担っている。どんなに迫真のハックシーンも実はそれだけでは一般民間人には「絵空事」に映る危険性がある。『カッコーはコンピュータに卵を産む』や『サイバースペースの決闘』はコンピュータハッキングの事実を赤裸々に述べているにもかかわらず、その、なんというか地に足がついていない印象を受けるのだ。これを佐伯センセイが神野を引き回すパートがしっかりと足を現実世界という地べたにくっつけてくれているのである。しかし、東京の都市部のホームレスを実際に見たことの無い人にとってはどうだろうか？うーむ、どうも俺は経験主義的なところがあって、自分の経験と一致する部分に付いては過度の信頼を得てしまうんだが。実際のところ、真実に迫った物語というのは経験の無い人間を説得できる文章なわけで、おそらく佐伯センセイのパートの描写を目の当たりにしていない人にもそれはこの作品の足を地に付けさせていると信じたい。
＜青猫＞がこの物語唯一の虚偽であるわけだが、その虚偽が信じられないくらいの濃い濃度の「現実」描写で固められているわけで、ここに俺は新しい小説の形を見いだすわけである。
俺が気に入っている作品というのは遠くから眺めてしっかりしたプロポーションの無可動彫刻ではなく、虫眼鏡で細部を眺めた時、そのディティールがしっかりしているものであっり、しっかりとギミックが内蔵された可動モデルだと前にも云った。この小説はまさにそれに該当してるのである。
ところが加えてこの作品、作品全体に深いテーマ性とダイナミズムを備えている。狂言回しはＡの開発していたという仮想の街＜Bluecat＞。こいつは不思議の国のアリスのチェシャ猫なので、あまり深い意味を求めてはいけない。こいつは主人公を本当の青猫へと導く「海を見に行く」ことにつなげるための道案内なのだ。
そして俺を震撼させた決定的なシーンはなんといってもｐ１５５のココ。

　世界（システム）はもう、完成しているのだ。
　それはたぶん史上最低のプロダクトだ。
──中略──
　僕らが託されたのは、整備と修正、欠陥除去の日々だ。辞退する余地も、抗議する権利もない。

他にも随所に俺の気持ちを代弁してくれている文章があるのだけれども、あんまり引用しても悪いので。中略した箇所も含めて、とりあえずこのページの文句に出会えただけで俺は満足である。
コレ、今の俺の気持ちそのまんま＆今の俺の仕事そのまんまDeath。
会社サボって海を見たいと思って実行した人はいますか？
僕は遊園地に行った人と水族館に行った人とアキハバラに行った人と古本屋巡りを始めた人をしってますよ。あ、コレはよくある「俺の知り合いがサー」といって自分のコトとかではないです。ホントです。いや、嘘です。俺です。（過去です、過去！＞会社関係者）
高校生の時は河を見に行きました。雨で思いっきり増水したヤツ。海がなかったもんで。だから砂浜を走ったりするシーンや、スタジオ・ジブリ「海が聞こえる」とかを見るとスゲー殺意を覚えたものです。
７０年代、ホログラム・メモリというのがもてはやされた。作品中でもＦＭ－８の電磁バブルメモリが笑われているが７０年から８０年初頭は既に技術的には円熟期に入っており、新しい革命を誰もが待ち望みながらなかなかそれが顕れない時だったのだ。半導体レーザーによるピックアップ（現在のＣＤプレーヤーの技術）が出現するまでは誰もがオープンリールのテープは結晶型の媒体に畳み込むしかないと思われていた。ディスクの次はキューブだと思っていたのだ。そんな夢の残滓だ。
ギブスンが「ガーンズバック連続体」でいいたかったであろう「我々の現実が過去に思い描かれたすばらしい未来を追い抜いて上書きでぐじゃめじゃに更新している」という事実が、我々を切なくさせている。それがこの作品の根底に流れているものではないかと思うのだ。
そんなめまぐるしく変容する現在に生きる情報という名のもう一つの自分をこの＜青猫＞のように残そうという俺の試みは既に９２年の１１月から始まっており、半ば成功している。最後にＡが残したＡの記憶。あれと同じ物が今電子空間上にアップロードされている。それがここ『東鳩学園』であり、本家『電脳独房』である。インターネットというインフラが出現する前はNIFTYのホームパーティやパティオがその「場」であり「手段」だった。
我々が電子空間にアップロードできる「自分」の情報ってやはりあのＡの「記憶」と同じなんですよ。理想的に抽出加工された自己。文字情報に変換して１ＭＢに満たないもの。でもそれでいいんです。我々の本質って、きっとそんなものだと思うから。わずか、数行の詩篇でも、済んでしまうようなものだから。そして俺はそれを自分を自分以外の何かに写しておきたい、そう願ったのだ。
もし、俺がこのまま「おれ、つかれちゃったよ（byタカユキ）」と書いてそのまま消えても俺はそれでイイのだ。（とか書いたら問題あるかな？でもそんぐらいの気持ちだというのはわかってほしい＞会社関係者）それらは「青猫」のように完璧なシステムではないけれど、俺は半ば俺の目的を達成してるから「それでイイ」などという、一見するとだいそれたことを云ってしまっている。俺のネットに流した「俺自身の一部」はもはや収集不能なぐらいに拡散して「存在」している。ホストのサーバーに、ではなくブラウザのキャッシュ、やローカルファイル、個々のパソコンの過去ログ、そしてそれを読んだ人の脳に。それは核戦争で世界が破滅したら消えてしまうという点で「青猫」には劣っているけれども、俺と実際に会って話した人々の記憶以上にもっと確かな俺の分散した生きた証である。夢の島に遺棄された古いパソコンのＨＤの中に、捨てられたＦＤの中に、家の１０台のパソコンの中に、俺の存在はある。たとえ、磁気がいつか何かの拍子に消えてしまうものだとしても、他人の記憶にしたって同じではないかと思う。それなら俺は１９９０年代の人間が生み出したテクノロジーの遺棄物の中に断片的に生残る方を選ぶ。
「うわ、なんだか気持ちワリィ」とか思わないで欲しい。こいつはもう実行されちまったことなんだから。
最後、＜青猫＞の内部の日付時刻のインデックスを見た時、バラードの「時の声」で見た等差級数の並びを見て、感じたのと同じ終末のイメージを感じた。そこに痺れた。
とかバラード調の破滅願望をぶちまけて今回は終わり。
とりあえず、読め。

p.s.読み終わったら、涼元悠一氏のホームページで「青猫ＦＡＱ」を見るべし！

『サンクチュアリ全１２巻』（ビッグコミックス）史村翔・池上遼一、立ち読み！（は、犯罪だ…） - 98/12/22 00:00:00
本日の調子: ふぅ、困ったことだ。オタクに英雄はいらん…。(by伊佐岡)

コメント:
＃１２月２１日
浅見～
北条～
お前らホモか～
細田さんのところで「ヒノ・シオはゲイ」という言葉があってこちらの「今日のお言葉」にしようと思ったぐらいウケたのだけど、それで思い出したのが北条・浅見のコンビである。
このカッチョイイ物語を前にして「ホモ」とか思う奴はいないだろうけど、昔はこいつのパロディを散々後輩に見せられていつのまにか「国を覆す熱い漢の浪漫」という印象から「お笑い」に格下げになっていたことに気が付く。だってー、奴等が作ったの表紙がセーラームーンでタイトル「ウはうさぎのウ」という同人誌なのに、中は「家裁の人」と「サンクチュアリ」のパロディで満載。桑田判事にヒトラー裁かせたりしてるんだもン。しかも桑田判事は「とことんやってもいいんですよ」って目玉キラキラさせてる北条に無理矢理メガネ落書きしたヤツ。か、かなわねぇ、と俺はその時思ったですよ。（ちなみに俺もその本には最初で最後のセーラームーンねたを披露）
その「キラキラした北条」を見るためだけに会社帰りでもやっているbook-offに行ったらなんと全巻そろってるじゃないのサ！こないだは３冊くらいしかなかったのに。
で、問題の巻（実は５巻）を探して読んでいたら止まらなくなって全巻立ち読みにて読破。
おお、やはりね、読んでいた当時（６巻あたり）のネタのほうが好きだなぁ。まだまだ北条も浅見も下っ端で、上を目指してぎらぎらしてたあたり。で、二人の壮絶な過去が明かされてその野心が崇高なものであるというあぶり出しが成功したあたりが物語として頂点を極めているといえる。
後半の北条が国内ヤクザの頂点を極め政治参加するあたり、浅見の病が露呈して前にも増して北条が焦るあたりから、もう物語りとしては下り坂である。つまらなくなったのではなく、終点へ向けて収束している「流れ」が見えてしまうんである。副署長と北条の危険な恋愛もなくなってしまったのも悲しいし、浅見のために市島さんや渡海さんと反目してしまうのも悲しい。やはり打倒・伊佐岡！だった前半の方が（いや、後半でもそうなんだけどもう奴が負け犬ムードなんだもん）キラキラしていてよかったと思う。
「腐った政治を覆す」
クーデターとかそういった安易なものでなく、平和ボケして淀んでしまった＜日本＞という国を日本の外から眺めて、憂いた二人の若者が、一生を賭して変えていく物語。目指すは聖域＜サンクチュアリ＞。そうだ、どこか遠いところにでなく、過去でも未来でもない現在の日本にその＜サンクチュアリ＞を築こうという意志力。それは＜漫画＞という絵空事の中でしかありえないことだとあきらめつつも、漫画という形であれ、そんな理想境をみせてくれた武論尊＆池上遼一先生に敬服するのである。
日本の未来を憂いる前に、漢は野心をもたねばなるまい、などと鼻息を荒くして終わり。

p.s.後日、思い直して買いに行くと、半数壊滅状態だった。す、すまねぇ、北条、浅見。 (;_;)

『光の王』（早川ＳＦ文庫）ロジャー・ゼラズニィ、ちらっと再読。 - 98/12/21 00:00:00
本日の調子: 新手のスタンド使いか？！（笑）

コメント:
＃１２月２０日
貸し出していたのが返ってきたので思わず気になっていたところを開く。おお、指が覚えてるよ。ってゆうか２２８ｐ前後は読みすぎて癖ついてる気もしないでもないが（笑）
「よくもおれを束縛してくれたな──しかも今度は、＜地獄＞よりも恐ろしい牢獄にだ」
サム（シッダルタ）が羅刹王ターラカーに「罪悪感」を知らしめるくだりは何度読んでも心が打たれる。無邪気な子供だった自分を縛りつけているのは他でもない自分自身なのだと高校生の時にこいつで教わった時の衝撃は今でもなお色褪せない。説教臭いことをサラリと書いてしまうところにやはり痺れるのだろう。
それに真の仏陀になった男を閻魔大王が愛の名のもとに殺す話はもちろんのこと、やはりＪＯＪＯティックなノリが満載なのはシヴァ、アグニ、ヤマ、カーリーの神の軍団が羅刹軍団と戦うところ。もう「時を止める能力」とかじゃないと＜神々＞になんてかなわないって！
「神々は、おれの思っていたより強いとみえる」
「そうじゃない、羅刹がわたしの思っていたより強いんだ」
「＜地獄＞が破壊されつつある！」
なんてセリフが読めるのはゼラズニィだけ！
しかも、超ショック！ある朝、ブラフマン毒殺！シヴァ神撲殺！
「いやー、手強い相手は暗殺に限るね」（笑）
ここらへんのヒーローのダークさも忘れてはならない。「お釈迦様は殺神犯！」とか誰かサブタイつけてやれよ（笑）。
文庫の裏にも書いてあるので特に秘密ではないから書いてしまうが、この物語は地球の過去の物語ではない。遠い地球の植民星。そこに棲む＜悪魔＞＝エネルギー生命体を駆逐した＜第一世代＞の戦士たちがクラークのいうところの「魔法のような科学」を独占し、＜神々＞として君臨している世界の物語だ。しかし、例によってそれを全面に押し出した「ＳＦ」ではないので、遠い昔の神話かお伽噺のように見える、というのがこの物語である。例によってとことんかっこよく、ユーモラスで、スケールがでかい。一つ間違えるとこっけいなお話なんだけど、うーん、俺的には１００点満点である。真言密教とインド神話に接していないと異様な世界の物語に見えるかもしれないので万人に薦められないのだけれど、世界観に柔軟に対応できる人ならば誰でも楽しめるかもしれない。
「巨大な権力にたった一人で立ち向かう男」を描かせたらゼラズニィこそ世界一である。
ただひたすら、読め！と云いたい。

ヴァーリィとゼラズニィは好き好き読め読めいってるし良い印象だけが残ってるけど、映像系と違って文章というのは時間が経つとずいぶんディティールがぼやけてくるモノなので、ここらで強化再読しとこうかな？

過去の日記(98/12/15～98/12/19)を見る

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