U-kiの読書日記(98/11/4～98/11/12)

U-kiの読書日記(98/11/4～98/11/12)

『堕ちた天使』（集英社ワールドＳＦ）マイケル・ムアコック、再読。- 98/11/13 00:00:00
本日の調子:ルイス・サイファーさんはご機嫌斜め。

コメント:
＃１１月１２日
トム・ホルトの『疾風魔法大作戦』とか、それ系で読もうと思った本はあったんだけれど、実は近所の古本屋にコイツが転がっていたので思わず拾ってきてしまった。で、再読である。別冊宝島の『ＳＦワンダーランド』の紹介文では「ムアコックの一番つまらない作品だ。だから、これを読むと彼の作品が全部読みたくなる」とか書いてあった記憶がある。ムアコックといえばコルムだのエルリックだのエレコーゼだの有名なヒロイック・ファンタシィ・シリーズを発表しているのは知っているが、シリーズモノは最初と最後だけ押さえるという外道な読み方も平気で高校生くらいの時はやっていたので、（推理小説を事件発生後、ラストを読んでから読み直すとかもやっている悪い子だった）ムアコックといえば『この人を見よ』と＜火星の戦士＞全３巻しかきちんと読んではいないけど、それだけでも充分に要チェック作家にはなっていたりする。剣と魔法、というか、西洋の騎士と甲冑とドラゴンとか魔獣とか好きだったんだけど、なぜか数はこなしてないよなぁ。田中芳樹だとか王領寺静とかは全然駄目駄目だったしな。それで読んだ「剣と魔法もの」が＜ドラゴンランス戦記＞と＜ディルヴィシュ＞という外道だけなのはなぜなのだ？
まぁいいや。基本的に「神様が出てくる」「ちゃんと武器持って戦闘している」「甲冑は金属製以外超禁止」とかを満たしていればいいんですけどね。なかなかそれを満たしている話ってなかったんだと思う。そういうわけで、紹介文はへたれだったけど、「堕天使」＝ルシファが出てくる話でしかも聖杯探求の騎士モノといえばどんなへたれた話でも楽しく読めてしまう俺である。『堕ちる天使』とかも小説読んで映画も見てしまったし。（くそう、やっぱミッキー・ロークには良い思い出がない）
で、この話、「ある寓話」とあるように、非常にわかりやすくテーマや教訓がちりばめられている。うーん、好きな話になっちゃうんだよなぁ。
十七世紀、三十年戦争真っ只中のドイツ。マグデブルク大虐殺に参加していた傭兵隊の隊長であったウルリッヒ・フォン・ベック大尉は宗教戦争の現実に打ちのめされ、もはや信じる神なき無神論者となって一人、暗黒の森をさまよっていた。そこで天界に戻りたいというルシファに聖杯探しを依頼される。ルシファの虜であるレディ・サブリナと己の魂の自由を約束にフォン・ベックは旅を開始する。お供は途中出会った愚直で陽気なカザフ人の戦士、グレゴリイ・ペトロビッチ・セデンコ。一風変わった隠者であるフィランダー・グルートの助けを借りていざ、聖杯の探求に。
行く手を阻むは悪の修道騎士クロシュテハイム。魔女狩人とも呼ばれる彼はその業の深さから悪魔と契約し、地獄の軍団を率いてフォン・ベックを抹殺しようとする。
悪魔やドラゴンとの対決もあるし、地獄のゾンビ騎士団との対決もあるんだけれど、フォン・ベック大尉自身が超人的な剣技の使い手でもないし（むしろセデンコの方が腕前は上）、魔法も派手なものがバシバシでてくるわけでもない（グルートのささやかな錬金術が披露される程度）。でも、この話、ラストに聖杯がみつかるのである。そのシーンはやはり感動がある。
フォン・ベックが堕天使に見込まれたこと、それは「正直さ」である。物語は人間が人間として正直であることを要求して終わる。神と悪魔が存在し、天国と地獄とを見せておきながら、人間にそれ以上のものを望んではいけないし、それ以下に成り下がってもいけないということを説いている、非常に単純なお話である。
堕天使を前にしながらフォン・ベックの現実主義が炸裂しているところも個人的には好みである。世の中に確かなものなんてほとんど存在しやしねぇのだ。天使であるルシファにすら、神の御心はわからない。そんなものなのだ。だからこそ神の価値がある。人の姿をして、白い髭を生やして、奇跡をおこしてる存在が神ではないのだ。
そして神と悪魔、天国と地獄の狭間で存在し続ける不確かな存在こそが人間である。あくまで中庸、あくまで中立な存在でありながら心は常にどちらか側かに求心している。そんな当たり前の事実をつきつけられて安心しているのだからまだまだ未熟である。
高校生ぐらいのとき、非常に世間一般の宗教観と倫理観に不信感を抱いていながら本を漁り、自分でも簡単な寓話を幾つか書いてきた。誰も信じていなかったからとても大変だったのを覚えている。汝の敵を愛せ、と説いていながらキリスト教はその神の名のもとに大流血を繰り返し、永遠の死後を説く。創価学会も同様だった。永遠の死後をつきつけて、「永遠の地獄か、永遠の楽園か」を提示して、楽園に登りたければ生きているうちに我々の神に帰依しろ、というのだ。下手な保険よりも酷い。彼らは生きている自分に死後の魂の明け渡しの契約を迫っているのだ。そんなの悪魔なみじゃん。しかも死ぬまで「永遠の死後」があるかもわからないんだからたちが悪い。そんなわけで今も無宗教で有神論者なわけだけど、こういう物語やＳＦは神という形而上の存在を形而下の存在にひきずりおろしてくれる。あまつさえ「神への進化」などという「科学」にしてしまうことさえある。第一世代の日本ＳＦって、いわゆる科学考証バシバシのハードなやつよりこういったテーマの作品が多くて非常に「東洋的」でそこがよかったんだけれども。（今のバイオ系に走る、というのはその流れのなごりのような気もする）
今、日本人の多くが宗教みたいなものに「依存」しようとしているんじゃないか、とたまに思う。その結果がオウムみたいな新興宗教団体なんではないかな？（余計なお世話だね）
『パヴァーヌ』読んだ時も思ったのだが、ヨーロッパの根深い宗教問題や民族問題、それに伴う戦いの歴史なんて教科書は教えてくれない。「マルチン・ルターによる清教徒革命が起こった」とかいう数行でおしまいである。お見合いの時にしちゃいけない会話で「昔の恋人と宗教の話」なんていうけど、お見合いじゃないんだからもう少し歴史の勉強をさせてくれてもいいと思う。現実に今も宗教と民族の問題は戦争・紛争を引き起こしているわけで、人間が理性と学習をもってしても避けられない衝突があるということを日本の教科書はもっと積極的に説くべきではないのだろうか？ユーゴや旧ソ連領内、中東やインパ、ＩＲＡのはらむ問題をここまで無視できる日本人ってスゲーな、とか思うんだけどねぇ。皆わかってんのかしらね？彼らが「利害」以外で戦っていること。アフリカで腹すかしてる子供の気持ちがわからんのと同じ理屈か。（平和だねぇ、日本）
この堕天使と騎士の聖杯をめぐる物語は十七世紀を舞台にしているが、明らかに我々の世代にその回答を延長するスタイルをとっていてそれだけでも楽しいお話である。エンタテイメントとしては陳腐かもしれないが、説教としては楽しいと思う。それじゃ駄目かしら？

P.S.ところで「集英社ワールドＳＦ」も刊行された本について確かな情報がないんであるよ。困ったことに。サンリオも潰れる寸前にどこまで刊行されていたか長いことわからなかったしなぁ。

ヴォミーサの謎、インドの神々。- 98/11/12 00:00:00
本日の調子:漫画家三原則崩壊寸前のとり・みきなみ

コメント:
＃１１月１１日
「ヴォミーサ」（『骨』集英社文庫収録）小松左京、読む。
ショック大！とり・みき先生が週間ＡＳＣＩＩ11/12号で偶然触れられた「ロボット３原則」のコラムに添えた４コマ漫画でまたしても『ＳＦ大将』に引き続き「ヴォミーサ！」と叫んで狂って人殺ししてたので、「うーん、この謎を放置したままではいかん！」と思ったところ、アジモフの作品ではなく小松左京の短編に「ヴォミーサ」があることが発覚。どうりで知らんわけだぜ。ずっとアジモフの短編に登場するもんだと思ってたからな。
で、なんとかgooなんかを使って「ヴォミーサ」収録の短編集を割り出し、ジグソーハウスに在庫を確認して注文。ああ、これがサイバーエイジを生きるってことか！
もの知りでコレクターの先輩が居るＳＦサークルに所属していなくても今はここまでやれるんだからたいしたもんだぜ。どこかの掲示板でおたずねにしてもすぐにわかったかもしれないし、まったくいい時代である。
で、読んでみて大ショック。これがロボット物だという先入観がなければもっと面白かったはずで、ネタが割れた後も読んでいて楽しかった。
俺も今度このネタ使おう。狂った来栖川製メイドロボット、とかいう設定で（笑）。
うーん、ハルキ文庫から再版される『小松左京・短編集』に入ってくれれば大手を振って他の人にもオススメできるんだけどなぁ。

『インドの神々』（ジャパン・ミックス）石黒直樹、読む。
＜ファンタジー・ファイル＞なるこのシリーズは「テーブルトークＲＰＧのシナリオや、自作のオリジナル小説などに神話の『香り』を盛り込みたい人に楽しんでいただく」ための本のようで、俺からしたら、こんな便利なもんが出回っておるのか！という驚きを隠せない。梵字や密教の起源であるインド神話の資料はギリシャ・ローマ神話に比べてはるかに少なく、俺自身も「創作」するにあたってすごく資料探しに苦労した記憶がある。だからこの本に書かれていることをすべて信用するのではなく、自分の知識と照らし合わせて「おお、この人はこの説をとってるわけね」みたいな読み方ができる。非常によく出来てはいるが、時間と土地がもたらす「変化」というものがこれ一冊では解決できないし、「読みの表記」の問題もある。ローマ字的にやるか、耳で聞いた通りにやるか、である。これは人物名などの固有名詞においては英語も抱えつづけている問題で、サンスクリット語という古代語においてはもっと難しい。日本でも東京と大阪で方言が、なまりがある。インドの北部と南部、ペルシャ寄り、山岳地帯では崇拝する神の「属性」に違いが出てくるし、無論呼び名も変わる。著者は仏教に取込まれた帝釈天を筆頭とする神の眷族の元となる「デーヴァ神群」を作者は「デーヴィ」と記述している。これは発音としては後者なのかもしれないが日本の多くの文献が「デーヴァ」でやっているのに対して今ここで挑戦すべき問題ではないと思うわけで、なんかひっかかる。
現代の若者向けにイラストが描かれているが、これもあまりやりすぎるとイラストの「正しくないイメージ」が刷り込まれてしまう。まぁ、絵があった方が俺も楽しかったけどね。それは自分なりのヴィジョンがあるから楽しめるわけで。まぁ、売り方の問題もあるからあまりつっこんでもしょうがないけどね。
ちなみにインド神話から仏教へ渡ってきた神々にとって重要なのは「印相」と「属性」で、簡単に云うと「身につけてる物・身体的特徴」と「能力・性格」である。例えば四天王。彼ら全員の名前をすらすら云える人がいたら、まず拍手。じゃあ、彼らの仏像の写真見せてどれが誰だか当てて、というと結構難しい。じゃどこで見分けるの？というと手にした武器であり（印相）、彼らの配置される方角（属性）、であったりするわけだ。彼らの大将、帝釈天の印相は独鈷（ヴァジラ）であり、属性は雷（正確には雷雲）である。印相は仏像や仏画を「具体化」するために必要とされたフシもあるが、人の姿に似せる以上は「見分ける印」が必要なわけで、ま、しかたないわけである。
入門書としてはＧＯＯＤ。俺もだいぶ「失われた記憶」がもどってきた。でもやっぱり情報源はひとつじゃない方がいいと思う。この神々の元ネタだって、大半はヴェーダだけれども、それから派生した幾つもの物語があるわけで、都合のいいように色々解釈が変わってる部分もあるからね。
北欧神話やケルト神話なんかも難しいと思う。ギリシャ・ローマ神話は別格なんだわな。旧約聖書の物語やアーサー王伝説、ユリシーズやジークフリートなんかも真剣にやろうとすると大変なんである。でも、それらについてもこーゆー本が今は出てるんだろうか？うーん、やっぱり世紀末だわ。

『銀河の間隙より』（早川ＳＦ文庫）ランドール・ギャレット、読了。- 98/11/11 00:00:00
本日の調子:訓練シーンにニワトリを追いかけるシーンの追加を希望！

コメント:
＃１１月１０日
 ヤマナダさんのお気に入りの "敵役" レヴューを読んで、「改造人間」が出るとあっては読まねば！と思っていたんですがこのほどようやく読了。いやー、久々に喉ごしすっきりというか、読後感が爽快な作品だった。
物語の構成自身にギミックが有るとやっぱおもしろいですな。まるでハエジゴク（食虫植物）の罠が２本目の刺に触れると、パタン！と閉じるみたいな、そんな見事な罠に俺もみごとにはめられた感じ。しかもこの厚さだもんな、逃げられないよ（笑）
地球人類対異星種族ナイプとのファーストコンタクトものであるが、バート（バーソロミュー・スタントン）とマート（スタンリイ・マーティン）の二人のお話ともいえる。この「二人」のパートがどういった意味を持つのか、途中挿入されるカットバックのような＜間奏曲＞が一体何を意味するのか、本当にこの２５０ページに満たない作品の終盤までわからなかった。そりゃ、わかったときは「やられた！」連発。しかも畳み込むような展開で怒涛のラストシーンである。もうデモリション・マン（あれの敵はスナイプスか）とかエイリアン２とかが脳内で炸裂しまくり。基本的にこういうＢ級のノリがとことん好きなんだろうな、俺。
お話は至って単純。故障した異星の宇宙船が地球に飛来する。乗っているのは仲間の死肉を食らって生き延びた、強靭・残忍・冷静なナイプ一体。奴は地球環境に順応。人類は接触をこころみるが、和解には失敗。それは実体を持った悪夢として以後地球上を跋扈することになる。マンハイム大佐率いる地球中枢機構はナイプを「生かして捕らえる」ための周到な準備を詰め将棋のように進めていた。地球人類の切り札は、バート・スタントン。彼こそが、５年間かかって仕上げられた最強の男であった！
という感じ。ガジェットもナイプという宇宙人もそれほど際立ってないんだけど、登場人物たちがなにか品のいい家具のようで非常に読み心地よく、読み始めたら目が離せなくなってしまったのだ。
ナイプっててっきりヒューマノイドだと思ってたけど、「宇宙人大図鑑」のメスクリン宇宙人みたいじゃん。（違うけど）頭いいんだか悪いんだか、礼儀正しいんだか正しくないんだかわかんないし。「しょーがないだろ！かぁちゃん宇宙人なんだからっ！」っていう藤枝さんのかあちゃん（inすげこまくん）のお言葉が脳内で炸裂！さらにラストの宇宙人・ナイプとサイボーグ・バートのどつきあいには涙したね。なんか「タワー・オブ・グレイｖｓスタープラチナ」って感じで（笑）。ホントの異種格闘技戦ってこれのことぢゃん。（違うか）
そして、また出た異様な日系人、ジョージ・ヨリトモ博士。サニー・千葉かおまえは！
「我々の祖先もつい最近まで腹を切って自殺する儀式をおこなっていた」とか解説してんじゃねぇよ！（どう考えても脳内のヴィジョンは南部博士・ニューヴァージョン）
さらにウォルター・マンハイム大佐、イカスよ！やるな死神ウォルターって感じ。
─グレア大尉、たとえわしが殺されても撃つな、すべて記録しろ！─
ナイプに襲われる直前、護衛の兵士に大佐はそう命じた。しかも死の直前にはこんな回想シーンが。
ｐ１６４より──、
　二十世紀初頭の戦争で、合衆国海軍の曹長があげた鬨の声を思い出した。最後の突撃をかけるときに、曹長はこう叫んだのである。
「さあ、くそったれども！　永遠に生きていてえのか？」（風見潤訳）
こ、これは『宇宙の戦士』の冒頭のお言葉、
「さあこい、モンキー野郎ども！　人間一度は死ぬもんだ」（矢野徹訳）
─一九一八年、戦場における無名下士官の言葉─
Come on,you apes! You wanta live forever?
に他ならない。やはり原書を知っている、というのは大切だよなぁ。読んでなかったら同じ文章だって気がつかなかったよ。やはり翻訳は難しい。矢野先生の訳じゃなかたらこんなにインパクト残ってないもんな。「俺達が訳したらこんな風にならねぇよ」とかいってたから覚えていたのだ。しかし、これってひょっとして我々にとっての芭蕉の俳句みたいにアメリカ人には有名な言葉なんだろうか？かつて「さあこい、モンキー野郎ども！、で始まる小説があるんだよ。男なら読まなきゃ駄目だね」「ゆうきさんのうそつき！」とかいわれたのを昨日の様に思い出すなぁ。結局その後輩は俺が嘘をついていなかったことにいたく感動し、『宇宙の戦士』を読んだという…。
あー、なんか関係ない部分に熱中してしまった（苦笑）
結局は古いＳＦである。（例えば１００万ドルの半分で大金です、とか。インフレは起きていないが、オースティン・パワーズのギャグみたいだし、５極真空管のより便利なトランジスタがある、とかそういった部分のこと）話全体が持つ古い、お安いＳＦという印象は否めないが、とにかくそれをポイっと投げ出してしまうくらい面白い。今作られてるハリウッド映画のリアリティなんておおかたこんなもんだし、アクション・ＳＦ映画を見たと思えば安いもんだ。ってゆうか最近のくだらないハリウッドＳＦ映画なんてこのへんの作品を原作にしてた方が面白いんじゃないか、という感じだ。１９６３年の作品の根本的な構造の方が、今発表されてる作品なんかよりもぐっとくるものがある、というのは俺の偏った見方なんだろうか？なんともはやなさけない。日本のＳＦにしたって復刊されてるハルキ文庫の小松左京や山田正紀の作品が今読んでも全然イケてる感じがするのはなぜなんだ、と不思議な苛立ちを覚える。ま、そこは深く考えてもしかたがない。今はこの作品がおもしろかったことだけに思いをとどめるとしよう。あー、ごっつあんでした。

『水域』（講談社文庫）椎名誠、読了。- 98/11/10 00:00:00
本日の調子:浮き輪に尻がはまって動けなくなった時の思い出…

コメント:
＃１１月９日
「シーナ・ワールド」とは彼のＳＦ小説で構築される世界のことを指すのか、それとも彼の書く文章はいつもこんな「ワールド」が展開されているんだろうか。『アド・バード』『武装島田倉庫』少なくともこの二つの作品を読んでみるまではなんとも言えないだろう。ただ、この『水域』における「シーナ・ワールド」はなかなか不思議な世界だった。
おびただしい造語とめくるめくイメージの洪水。これが俺のシーナ・ワールドの第一印象だった。リアルなわけじゃないけど、そこにホンモノが見える、という感じは「不思議」としかいいようがないんである。
アブクダシだのサキヌマドクタラシだのイトダマシだのオニガシラだのメダマガエシだのヒラヌルだの、とにかく造語で創作された奇妙な生命群は『地球の長い午後』に匹敵である。
そして世界はアルファさんの世界（『ヨコハマ買い出し紀行』よ）のもっと進んだ感じ、で完全にバラードの『沈んだ世界』。まぁ、それよりひでーわな。
「水没した世界のイメージ」ははっきりいってバラードの『沈んだ世界』や漫画の『ヨコハマ買い出し紀行』の方がリアルであるし、イメージしやすい。例えば、巨大な淡水湖であるとか、波の静かな海であるとか。そしてそれらは＜世界の黄昏＞を感じさせる、静かで、安らかな死と退廃と滅びのイメージである。ところが椎名誠が作り出した『水域』の世界は実は「世界が水没している」というところ以外では根本的にそれらとは異なっているんである。「絶え間無く流れてゆく世界」、生きることとは流れてゆくことだといわんばかりの世界なんである。この作られた世界はバラードみたいな水没した都市、アクアラングと水中プラネタリウムの「停滞した水域」のイメージではなく、奇跡の大河というか、潮流というか、「動いてる世界」なんである。故に『水域』は根本に流れるテーマが『沈んだ世界』とはまったく違っていることを強調したい。そして椎名が描きたかったのは川の流れと同じで淀みのない、流れる人生についてのお話なんである。両者は同じ水を扱っていながらトキとラオウの拳の様にまったく違った性質のものなのだ。
陸地のみえない、一面の水面と空は海のイメージなのかもしれないが、俺が思ったのはむしろ巨大な河川のイメージである。淡水である。そしてそこに結びつくのは俺の場合、故郷の川や沼、田んぼの用水路の記憶の拡大版なのである。幸い俺は自然がまだ豊富な土地で子供時代を過した。栃木県の海のない川ばかりの大地で育った俺の思い出の範疇は海でなく、淡水の河川の記憶に結びついてしまう。川の淀み、茂る藻のたぐい。淡水に住む水棲生物。プランクトンから食虫植物まで、すべて触れた、見た経験がある。（そりゃワニだって、「バナナ・ワニ園」で見てるけどさ）利根川や鬼怒川の思い出。中禅寺湖（栃木県）や五色沼（福島県）の思い出である。島や海で育った人はやはりこの世界を海の拡大版として捉えるのだろうか？
俺の記憶にある淡水は辺りを覆う一面の緑と関連付けて記憶され、エメラルド色の水面、抹茶のような水面といった「碧」の記憶しかない。だから椎名誠の「視界に入るのは海と空と浮遊物のみ」というおそらく「蒼」を基調としたイメージとは全然違うものを俺は思い浮かべているんだと思う。作者は「川」ではなく「海」をイメージしてると思うんだがここは今一つ客観的に判断できない。（っていままで俺が客観的であろうとしたことがあるかっていう疑問もあるが）
子供の頃から「深い水」には恐怖がある。透明度のない、深い碧の中に潜む見えないモノ。それは闇の中に潜む恐怖と違って「姿形のある恐怖」なのだ。そこにワニやピラニアやネッシーがいなくても、何かが確かに潜んでいる。幽霊や悪魔の類ではない、実体を持った何かが。そういった意味で、この『水域』の人をも食らう肉食植物や巨大な水棲生物のリアルさは他の人が感じるよりもリアルなんだが、それらが息づくところは南海の蒼さをたたえた海のイメージではなくどうしてもあの不透明な水ではなくてはならないように思える。脚の付く「水辺」は好きだった。水も透明で、生き物も無機物も目に見えた。海や湖の水面にいるのは怖かった。その深みに落ちることを考えると身がすくんだ。その恐怖と対峙するために水族館へ行った。今も暇があれば東京近辺の水族館に一人でいったりしているし、旅行先で見つければ時間の許す限り立ち寄ることにしている。そして深海魚お収めたガラスが砕け散って圧倒的な水圧に飲み込まれる脅迫観念を今も脳裏に引きずっていることを確認する。
絶え間ない、水の流れだけの世界を作者はうまく創造しているように見えるけれども、リアルさには欠けている。それは世界の土地には高いところと低いところがある、なんて俺にいわれなくてもわかっているところから始まる。だから「６０階建て以下の建造物はすべて水没」という記述はなんとも頼りない。「シェラトン・ベイホテル」のエピソード以外、「水没した都市」のイメージは出てこない。この流れている水の底には「水没した世界」の残骸が想像できないのである。それともそれらは「流されて」無形になってしまったとでもいうのだろうか？シェラトン・ベイホテルは残って、周囲の流れを乱しているというのに？また不思議な生態系は水浸しになったから自然と生まれたような描きかただが、『地球の長い午後』ほど世界は現在からその世界になるまで時間が経過しているように思えないのも事実で色々と気になりだすと止まらない。無論、作者の力量で読んでる最中はここらへんなんてつゆほども気にしなかったんだけどね、一晩置いたら気になっていた。（苦笑）
絶え間ない、流れの世界＝人生＝漂う、さまようもの、ということで最近読んだ『ダブエストン街道』と似た味わいだと思った。両者は違う画材を用いて描かれた同一のテーマのような気がする。となると、「ピエール」や「ツバメ」みたいな味付けがないぶん、『水域』のほうが分が悪い。この作品が俺に与えたのは故郷の「淡水」の「水域」の思い出だけで、なんら新しい驚きや感動を与えてはくれなかった、ということになってしまう。
冒頭で主人公ハルが手に入れる双眼鏡に「Carl Zeiss」と刻まれている所とか、彼の使う武器がクロスボウであるところぐらいしか入れ込めない。ウゾー教徒の死人船での不幸と流木の島でのズーとのひとときの安らぎも、「人生にはよくあるシーン」の焼き直しにしか見えないのである。七本鰭の怪魚は人の心に付きまとう超自我的な影に他ならないし、幼いグリンカップとの出会いに未来を見るところも人間の大人としては「まぁ、フツー」って感じである。
基本的に人間は本能として生きようとするものである。それを切々と描かれても、ある種の共感は得られても、俺は感動はしない。流れに沿ってゆくことは自然なことであり、人間は不自然な存在故にその流れを変えたり、止めたり、逆らったりするわけで、そこに魂のダイナミズムを感じるわけで、たとえばそれが「生きる」という流れに真っ向から対立する「死」でも俺はいいんである。感心はしなかもしれないが、衝撃は受けるんである。当て馬みたいで悪いんだけど、なんども引き合いにだすバラードのコンクリートや砂漠や淀んだ水の持つ「死」と熱帯や駆動機械や性衝動が持つ「生」のイメージのコントラストほど「流れ続ける」ということは俺を引き付けたり、感動させたりはしてくれない。俺はよくできた風景画ではなくへたくそな抽象画が好きなのだ。
つまらなかったわけではない。現に俺は『水域』の短編版が収録された『ねじの回転』を購入し、他の作品を読むつもりでいる。物語や設定に不満点はあるけれども、「シーナ・ワールド」の異世界情緒は充分に堪能させてもらったから、というわけだ。次なる世界に期待、ということで感想を終わる。
（あれ、読後は「おもしろかった」という肯定的な印象だったのに文章にしたら否定的になっちゃった）

映画秘宝２冊、読む。- 98/11/09 00:00:00
本日の調子:男なら機動歩兵を目指せ！（軍の中でも最高らしい）

コメント:
１１月８日
本当は３日頃には第一回目の映画記事をアップしたかったんだけどなぁ。
なかなかうまくいかんです。

『映画秘宝・夕焼けＴＶ番長』（洋泉社）、読む。
ぶわはははははは。あー、死ぬほど笑った。
ＳＦ研の諸君は必須だ！ってゆうか、まさに６年前出してた同人誌「萩とゆうき」（信じられないかもしれないが、「花とゆめ」のパクリ）で俺がやりたかった企画はこれである。まぁ、俺が実際やったのは「プリズナーNo.6」と「ありがとう」だったんだけれども、その後「トミーとマツ」「なんたって１８才」「ムー一族」「大映テレビドラマシリーズ」とかいくらでもやりたい企画はあったし、「電人ザボーガー」なんかも「たけしのスーパージョッキー」でやらなければ俺がやりたいぐらいだったのだ。実は中学時代からやってる同人活動、サークルに属していた方はアニメサークルだったんで結構制限あったが、「ユリ・ゲラー出版」という不動産屋の息子の店のコピー機で刷りまくった手のひらに乗るサイズの豆本（ほんとうに豆の本というシリーズだった）では好き勝手やっていた。俺の当時の生徒手帳は勝手に作ったズバットの話や戦隊モノの話でビッシリで、好きなオンナノコの写真の替りに密かに挟んでいたのは友達がくれたマッハバロンのピンナップであった。（病んでる）
購入の決め手は「魔拳！カンフーチェン」の記事である。俺は　商業誌でこれの記事を見るのは初めてだ。前にNIFTYのフォーラムで質問したときも「知ってる」だけの人が数人いただけ。挙げ句に「栃木県限定だったんじゃないの？」とまで云われる始末。土曜日夜の視聴率競争激しい時間帯だったけど、そりゃねーべさ。ヒロインはダイナピンクの大川めぐみで、中学生のおいらは珍しく女性にも注意してみていたのだ。そしてあのアホなカンフー。ポーズとって音が鳴るとそれまでの１０倍の強さになるという（笑）そして、死んだオヤジ（藤巻潤）が墓石壊して復活するシーンは今もトラウマ。後半の「激闘篇」ではダイナブラックがライバルではなかったかな？彼の使う拳法が「達磨大師が編み出した超絶技、『蝶の舞い』！」というわけで、当時時代に先駆けて「超」という言葉を使いまくっていた俺は一発で心酔したのだった。それでもゼビウスのアードアジェネシスの攻略のために激闘！の最終回は見逃しているのだった。「ムーの白鯨」に継ぐ最終回見逃しの失策である。
「アイアンキング」を「反体制派と闘う公安」と解釈してんの初めて見たし、「アパッチ野球軍」の前設定原作の話も初めて聞いた。とにかく、アニメ・特撮の記事に関してはすべて俺の琴線に触れまくり！もう百人の友を得た、って感じである。「加山雄三のブラックジャック」とかも高校のとき一人しか知らねぇんだもんなぁ。そいつは映画「ブルークリスマス」のＴＶＣＭとかも覚えててちゃんとＩＴＣ作品の話ができるすげー奴だった…。記憶力の良い子供は疎外感を感じながら（最近の）ＴＶの話をするものなのだ。中学時代は補完できる仲間がいたんだけどもねぇ。大学のＳＦ研はもうパラダイスでしたよ。年長者のおかげで（苦笑）。
家には大きいダンボール１箱に５年分のエアチェックビデオがある。ＴＶの仕事をするようになってからＴＶもビデオも見なくなった。がんばって探せば「禁じられたマリコ」の最終回ビデオもあるかもしれなんだけどねぇ。情熱が…。
とりあえず『男泣きＴＶランド』も買わないといかんな。「必殺」関係補完のために。

『映画秘宝・日常洋画劇場』（洋泉社）、読む。
いきなりのっけで大槻ケンヂと内田雄一郎がアホな１２チャン談義をしているので思い切り笑った。ここで紹介されてる「エルミネーター」（ビデオ名「エリミネーターズ」）は俺の大好きなサイボーグ映画。俺以外に知ってる人がいるというだけでもうれしい。近所のビデオ屋で放出されていたのでしっかり購入し、学園祭で一回上映したがウケはイマイチだった。なんで？タイムマシン、原始人、ローマ人、サイボーグ、忍者、ロボット、しかもちゃんと戦闘用サイボーグ同志の殴り合いじゃない戦闘があるのに！ってそれは映画用のページで熱く語ることにして、ＴＶ初公開時の「スターウォーズ」のキャスティング（松崎しげるのハン・ソロ）とかの話題を商業メディアで目にするのは初めてだ。（ちなみに家にあるのもこのヴァージョンのみ。他は邪道だ）「子門真人のスターウォーズのテーマ」はニュータイプでやられちゃったけど。そしてなぜか１２チャンの映画はタイトルに「女」とか「ダーティ」とかついてしまう謎、ＴＶ版は時間枠に収める＆ＣＭ挿入のためにカットされ、オリジナルよりテンポが良くなってしまう場合がままあること、１２チャンの場合はそれでメリハリがなくなってしまうことが多かったこと、などが語られていて非常に興味深い。しかし、レンタルビデオが台頭してきて劇場未公開でビデオだけがレンタル屋にリリースされ、それが深夜や１２チャンでＯＡされるとき、なぜ「タイトルを変えるのか？」という疑問が前からるのだが、それについては語られていなかった。商標のカラミなんだとは思うけど。ＳＦ研ではＩＴＣ作品ということでメジャーな「決死圏ＳＯＳ宇宙船」がこれだけ大きく扱われているのも初めてでは？あと吹き替え版「ダーティーハリー」の「♪漕げ、漕げ、漕げよ、ボート漕げよ～。ランランランラン川くだり～」の歌の記事も初めて見た（笑）。俺、この歌、子供の頃、英会話塾で元歌英語で歌わされていて、トラウマなんだよなー。さらに以前後輩が大喜びしていた「殺人ブルドーザー」（または「キルドーザー」）の記事もあった。驚くべきことにこの映画の原作はスタージョンの短編だ！（ＳＦＭ９５年６月号で知ってたけど、大学生の頃は知らなかった）高橋良平氏は存在知ってたんだろうけど、内容語ってはくれなかったからなぁ。ま、ＳＦＭじゃ無理か。特に気になった記事はこれくらいかな。これだけのメンツのこれだけの記事があってもまだ、「俺の気になるアレ」があるのでやはりさっさと自分で書こう（笑）
ちなみに、最近偶然「インターネットムービーマガジン Cinema POV」というページを見つけた。ビデオ化されて、出演してるメジャーな俳優がわかれば結構正確なタイトルが引張れることがわかった（ま、間違いも発見してるけど、ないよりまし）インターネットって便利だねぇ。

『星の墓標』『巡洋艦サラマンダー』（早川ＪＡ文庫）谷甲州、再読。- 98/11/08 00:00:00
本日の調子:男ならエアボーン・トループを目指せ！（もしくは鴨川シーワールドのオルカ・ショー担当）

コメント:
１１月７日
ああ、なんの因果か読みたい本は他にもあるのに、手にとったらついつい読んでやめられなくなってしまった。「オルカキラー」ってゆうかシャチのジョーイくんの曲芸を誉めてあげて終わりにしようと思ってたのに、全部読んでしまった。それも前日に電話で先輩と『キャッチワールド』の話なんかしちゃったせいだよ。「あれは谷甲州に書かせてもいいよな」とかいいつつも、読み比べ対象の『終わりなき索敵』は手元にあらず。で、『星の墓標』を「あー、これも最後ブッシュマンが出てきて、似てるよなぁ」とかいって手に取る。「ジョーイ・オルカ」読んで「星と海とサバンナ」読んだらやっぱ「トランパー・キリノ」と「タナトス戦闘団」も読まな！って、だったらちゃんと順番通りに読め＞俺。
「♪ぼっ、ぼっ、僕らはタナトス戦闘団！　ゆうきリンリン瑠璃の色～」
ダンテ隊長～！おいら隊長に死ぬまでついていきます！ってゆうか死んでもラザルスです！（笑）あー、やはり天知茂の顔がダンテ隊長のイメージなんだよね。で、おいらは小林少年。（真面目に読んでないことがバレバレ）やはり『海魔の深淵』を読んだ後だと、「オルカ・キラーＶＳデーモン・４」とか勝手な話が脳内でフュージョンしちゃって全然駄目。あげくにトップ・ガンのトム・クルーズがいきなり手を挙げて「自分はヴァルキリーのマイナス100Ｇ加速を見ました。中指立ててコミュニケーションをはかりました。嘘じゃねぇっていってんだろ！そんときゃ今じゃゾディアック級の艦長になった奴も一緒だったんだよ！」とか、思考が暴走しまくりで、もはや常人とは違うレベルでしか楽しめない体だということが判明しました。
「異常兵器カタログ」の記述だけ見るつもりが「ネメシスってどんな馬鹿兵器だっけ？」と「最終兵器ネメシス」読んだら、やはりサラマンダーの柱に体をくくりつけた艦長が「総員退艦！私は艦と運命を共にする」とかやはり勝手な想像をしながら頭から読み始めてしまった。個人的にはキャラハン大佐だのシュルツ大佐だの、といったネーミングにピンポイント爆撃されてしまうんですが。
やはり谷甲州は「戦闘＆戦争＆メカ」、うまいですな。それに宇宙なのに土臭いというか、冒険小説のような、匂いがするのも良い。やはり作者が青年海外協力隊に技術者として参加した経験が下敷きになっているからでしょう。彼にとっては宇宙も、どこか遠い異国の街や海や山と同じものにすぎないのかもしれんですな。
『終わりなき索敵』、いつまで待っても古本屋で見かけないし、買ってくるか。

『究極超人あ～る』全９巻（少年サンデーコミックス）ゆうきまさみ、読む。- 98/11/07 00:00:00
本日の調子:風邪でご飯が食べられないとおなかがすくじゃないか、ってゆうか死にそう。

コメント:
１１月６日
ついつい全巻そろえて読んでしまった。Ｒ、がアジモフロボットねたであるとかラストに登場するバーサーカーの元ネタを、これを紹介してくれた高校時代の後輩は知らなかったわけで、各所にちりばめられた「ギャグの密度・質」は『マカロニほうれん荘』に近いものがあり、ＳＦ・特撮の周辺知識と時事ネタを熟知していないとすべてを理解することは不能なのだが、そんな知識なぞなくてもなんとなくおもしろく読めてしまうところがやはり凄い。
「あ～る」の世界は大学入学後、ＣＤドラマと山本正之の世界でどっぷりになった感がある。しかも今ではＳＦ研での思い出が光画部にかぶってくる。そう、それは「楽しい文化系サークル」の姿に他ならないのだ。
さんごもしいちゃんも、小夜子もえりかちゃんもかわいいなぁ。（幻想モード）
「女の子が下品なネタを使うんじゃなーい！」byたわば先輩。
オンナノコに幻想を持ちすぎダネ！＞他人ごとじゃないネ！（笑）
うーむ、中学のとき、俺にかけられた下ネタ禁止令。これも長かった。
そしてなにより鳥坂先輩が素敵である。
「だいじょーぶ。まーかせて！」
怒涛のように文化系サークルのうるわしい３流のノリが俺を襲う。ああ、俺は鳥坂先輩にあこがれ、あ～るでありたかったのだ。
「あーゆーやつなんだ！うろたえるな！」
これは何度も云われたけどね。うふふ。
曲垣くんほか後輩３人組みも良い。美しき先輩・同輩・後輩の姿である。そして強力なＯＢ連。そう、いまやおいらはここにしか属せないんだよな。
幽霊だった人が人材不足で部長になったとたん、しっかりしはじめたり、アホで使い物にならんと思っていた後輩が会誌をしっかり作り出したりＳＦ読み始めたりと、「サークル活動（部活動？）のよくあるエピソード」が淡々と語られている。卒業後、名古屋に飛ばされても毎週土曜日部室にいたＳさんのことを思い出し、暗室にいるえりかの姿に成長したＹやＮの姿を見る。文化サークル連合執行部との確執や生徒会、学園祭実行委員会、みんななつかしい「学園」のネタだ。そのありあまったエネルギーを勉強以外の余計なものに全力放射、という正しい学園生活のありかたがここに描かれている。「高校」ではあるけれども、春高は「自由な校風」「私服」など、そのまま「大学」に置換してもおかしくない雰囲気。しかし、教師、授業、年中行事などは「高校」の方が楽しいもんね。何よりも「大学生」みたいに「すれてない」し（笑）。
登場人物の大半がゆうきまさみの知人で固められたこの作品は同人漫画家から脱皮してメジャーデビューする彼の成長の儀式的作品だったのだろう。
そしてなにより俺の「ゆうき」という名前はこの人のゆうきからとっているのだ！（ズガーン！）当時はこんな感じのメガネかけてたしなぁ。でもなんでそれを受け入れてしまったんだ、俺は？タカハシさんがもう一人いたからかなぁ？
大好きな世界はもっと続いて欲しい。そうか、長編小説に感じたことはないけれど、漫画、とくに学園漫画なんかにはそういうのあったなぁ。かといって奇面組や７５０ライダーいみたいなのはイヤだし、ＪＯＪＯみたいに手を変え品を変えってゆうのも「別の作品の連続体」みたいだしなぁ。やはり「限りあるからこそ」って部分、あるよなぁ。
ビバ！青春。限りあるからこそ、戻ることがないからこそ、それは美しい。

P.S.中指おったてる日本人なぞ、当時はあんまりいなかったはずだ。でも俺は中学校のときに学研の「アンカー英和辞典」の＜図解ボディランゲージ＞で見つけて大喜びしてやっていて当時の後輩にも「正しい米国人とのののしりあい方」とかやってたけどねー。まさか日本でも渋谷あたりにそんなことばっかやってる兄ちゃんが跋扈することになるとは思ってなかったよ。当時の洋画なんかも罵倒シーンが少なかった＆訳がきれいだったんだろうと思う。「くそったれ」「こんちくしょう」「くたばりやがれ」じゃぁ、フアック・ユー！の下衆さは表現しきれねぇよなぁ。（思えばイデオンの「下衆がぁ～！」は衝撃的だった）

『青春のためいき』『若者のモラル』（大陸書房）東城和美、再読。
今は亡き大陸書房MENUETT COMICS。この２冊の東城和美以外、恐くて彼女の作品を買ってない＆読んでない。もっとＳＦっぽいものもあるの知ってるけど、ちらっと読んで「うーん、おもしろくない」とか思ってしまってずっとそのままだ。川原由美子の『CLIMB THE MOUNTAIN』だけ所有しているという状況に似ている。本棚整理して発掘して誘惑に負けて整理ほっぽらかして読んだが、すぐ読み終わってこれだけ楽しくなったんだからま、いいっか。この作品に出てくる果てしなくのんきで鈍感でたよりないオンナノコにすげーカッコイイオトコノコの組み合わせが俺の心を打つ。（でもこの漫画、『男こそ顔だ』by 大石静って感じだよなぁ）
２３才のお姉さんに振り回される家事能力１００％の高校生、実クンのシリーズ『青春のためいき』は散々笑った＆ほんわかしたところで、そのラストに収録された全然関係ない「ギンヤンマの夏」の「さようなら、子供だった頃の私」が炸裂して、わかっているのにオセンチになってしまう。『若者のモラル』は表題作以外はオーソドックスな少女漫画短編なんだけど、やはり表題作が笑えてよいです。愛って屈折してるほうが楽しくて良いですね。（見てるぶんには）
しっかし、俺はぼーっとしてるオンナノコが好きなのか、キツイ娘が好きなのか？良く笑い良くしゃべるオンナノコが好きなのか、寡黙な娘が好きなのか？やっぱ自分でも良くワカラン。人間って限りなくシンセティックなモノだからなぁ、「現物」を見てみないことには理想のスペックなんて並べても意味ねぇよなぁ。

『垂直世界の戦士』（早川ＳＦ文庫）Ｋ・Ｗ・ジーター、読了。- 98/11/06 00:00:00
本日の調子:知ってるぜ。そいつの名は「クレイジー・クライマー」！

コメント:
１１月５日
「俺は垂直に生きてやる」……『おれは直角』という漫画もあったが、コレってかっこいいのか？またしても「看板に偽りあり」な感じ。解説で高橋良平氏もそういってるのでみもふたもない。まぁ「さらば、水平世界」よりはマシか。
なんにせよ、また手にとってしまった冬川亘センセの訳である。どうもこーゆー「難しい造語」「怪しい世界観」の話は冬川先生のところにやってきて、俺が好んでそーゆーのを読んでしまう、ということらしい。黒丸尚氏が生きていたら彼もその仲間入りをしていたんでしょうなぁ。
「伊藤典夫・浅倉久志の訳の本にアタリが多い」というのはこないだのＳＦ者オフでの俺の発言だが、それは両氏の「訳文」が日本語の文章として読みやすいせいもあるだろう、というのがある。ま、「超訳」的な部分もあって、「きっと原文では違った雰囲気なんだろう」とか考え出すときりがないのでやめる。いずれにせよ、ジーターだのギブスンだの、コードウェイナー・スミスだの、「英語じゃねぇ単語ならべまくり」の原作じゃ翻訳家の先生方も楽じゃないよなぁ、とか思うのである。冬川先生は「スゴク頭のイイ、出来る方」だそうで、やはり俺としては『スターシップと俳句』がどれだけ意訳されているか、でその技量を知りたいもんだが、まだ後輩から原書を借りられていない。とにかく主人公の名前からこの「垂直世界」を構成する職業名など、固有名詞がほとんど造語である。虚構の巨大世界を虚構の言葉で構築するのはあたりまえの手法かもしれない。サイバーパンクだって、言葉の持つカッコ良さが「サイバーパンク」というムーヴメント自身を支えていたのだ。あれがスラングや造語なしだったらただのコンピュータ用語辞典になってしまっただろう、とか思い返しているあたりがもう過去のことであり、俺が「おっさん」になってしまったと感じるところである。多分、サイバーパンクに「サイパン」というすんごくカッチョ悪い呼称を与え、畏怖尊敬していたのは俺と相方の先輩だけだったろうなぁ。嫌いながらも憧れていたんである。９３年に我々が作った最後の真面目な同人誌は「電脳同人誌（サイバー・ファンジン）」という名前だった。懐かしく、切ない思い出である。今、口に出して「サイバー」とかいってんのはうちのＳＦ研部員とスタパ斎藤氏だけであろうし、それに反して世の中には「電脳」なんて単語が「伝統」と同じくらいあふれかえってるんだから、２１世紀まで後少し、というのも間違いないことである。
なんか話が逸れた。で、「ジーターが書いたあんまりディック的でない話」が本作品である。
「ドラッグとヴィデオテープ」と「異様な世界観」いうラリったディックそのまんまな作風のイメージのあるジーターで、最近出た『ダーク・シーカー』もなんかあんまりにもそのまんますぎて途中で投げ出してしまっていたのだ。そういえばえらそうな事いっているがハヤカワＦＴ系でのジーターの作品を読んでいないので、単に「そーゆー作風」なイメージが固着しているだけで、実はこーゆー話も得意なのかもしれない。なにしろジーターは『ブレードランナー２、３』のイメージが強すぎるのだ（苦笑）
さて、冒頭、ネットワークに「特ダネ映像」を売りさばいてあぶく銭をかせぐいる主人公をみて『グラス・ハンマー』のイメージがかぶり、「またかよ！」という気になる。
主人公は意匠師と呼ばれる、ＣＧデザイナーみたいな職種のはずだが、どうも「映像を売る」というのがこの世界の手っ取り早い商売らしくてその描写がやたら多い。ここはいつも通り。で主人公が徹底的に不幸でどんどん追いつめられて逃げまくる展開も『グラス・ハンマー』的である。
垂直世界の人々はピトン・コードというもので、「シリンダー」という建造物の垂直面で生活をしている。パイクもこのピトンを張り巡らせて進む、という設定だ。ピトンというのは「ピトンと張り付く吸盤状のもの」（またくだらねぇ発想だな、俺も）と思って読んでみたがどうも登山用の「釘」であって、「ハーケン」といった方がピンとくるかもしれない。ピトン(PITON)は元はフランス語だ。『リングワールド』の俺版とかジーターはいってるそうだが、「ハードな考証」は０。そーゆーところが俺、好きなんだけど、フツーの人はどう思うかな？俺はこの世界の「必然性」というか「成立条件」があまりにも無茶すぎると思う。なんで「シリンダー」ビルディングの垂直面で生きなけりゃいけないの？ピトン・コードってそんなに信頼性あるの？とか。主人公・ナイじゃなくたって、ゲロ吐きたくなるよ。そういった「垂直世界」のルールを「前提条件」、いわばゲームのルールみたいなもんだと思って無理矢理飲み込んで頭の片隅に浮かべて読むことが出来れば話そのものは楽しんで読むことが出来た。基本的に好きなテーマだったしね。
ホモ超禁止！の部族世界とか、疲れてお金があるときはいつだって「虚時間」（娯楽施設）だ、とか男臭さがにじみ出てるが、ラーフト、ガイアー、フェロニーと「こいつ女運はいいんじゃねぇか？」と思わせるフシもあり。でもそーゆー男は本命を逃がすことになってるんだけども（笑）
視覚に電子情報がスーパーインポーズ可能なのがデフォなのはかなりＯＫなんだけどねぇ。もっとメガサシン（いうなれば超刺客）がカッチョイイとか、バイクがバッタの形してるとかだと燃えたんだけどなぁ。そうだ、この「オートバイ」が仮面ライダーBLACKの「バトルホッパー」やRXの「アクロバッター」感覚なの。おなかすくと勝手にご飯食べにいっちゃうし、呼ぶとやってくるし。足生やして命令にイヤイヤとかすれば完璧だぞ！これ読んで非常に短い期間であったがサイドカーに乗っていたことを思い出す。おまえなぁ、そこまで愛着あるならマシンに名前つけんかい！…って俺だけかなぁ？あなたは車やパソコンに名前付ける派？
俺は昔のＭａｃがもっとかってにＨＤ名付けられるころ、外付けディスクにバージョンアップしたＯＳを入れるたびにディスク名に「静」「薫子」とかいう名前を付けた挙げ句、当時羽振りがよかったので、データがいっぱいになるとＣＤに焼いてくれる秋葉原のお店に持っていってバックアップコピーを取ったものさ。（良く考えると恥ずかしい奴だな）他の皆がＤＯＳでＡからＣへコピーとかやってるときにこっちは「理加子から静へデータ転送」とかやっていたので非常にサイバーな感覚を味わっていたのだ。いまこうして書くとただの変態みたいだが、当時は本当にサイバーだったんだよ。ムービーも見られてヴォイスコマンドＯＫで買うとＣＤＲＯＭがついてくるなんてＭａｃだけだったんだよ！９５年以前はね。９０年代は前半と後半、Ｗｉｎ９５のおかげでキッチリ折り目がついてると思うんだよなぁ。ま、この話は後日。
作品テーマの話に戻る。ここで描かれる「最初から作られた箱庭世界に住まわされていて、あるルールの元で生きることを当然としている人々」というのはまさにこの「地球」という箱庭から出られずに生きている「我々」とたいして変わらんのですよ。いつも俺の考えはそこに行き着く。学者がいくら偉そうに理屈をこねあげて宇宙の構造とか説明してくれても、所詮俺達は神様がくれた「地球」（あるいは太陽系」という金魚鉢の中で増えてる金魚や熱帯魚みたいなもんじゃないのか？ディックなんかもそういった「現実のあやうさ」みたいなもんをひしひしと感じさせてくれる作品が好きなんだけれど、本当にアッチ側にいっちゃったからなぁ、困ったことに。「みんな世の中こーゆーもんだ、って思ってるけど本当はそう「誰か」に思いこまされてるだけで、「違う真実」があるじゃないか？」という考えはとても思春期の俺を熱くさせた。この作品もある意味「真実」による現実ルール転覆モノであるが、シリンダーや垂直世界と水平世界、そして中心世界の構造の崩壊まではやっていない。そこが「チェス・ゲーム」止りだと思うんだけど、まぁ、ゲーム感覚で読める小説、ということであれば悪くない、と思う。
ただ、主人公のナイがあまりにアホで、「誰が敵で誰が味方で、何が真実か」で凄く迷うんだけど、アホすぎてこっちが先に感づいてばっかし（笑）「チキショウ！わかったぜ！」おいおい、今わかったんかいな？って感じ（笑）たぶん俺が意地悪な読み方してるわけじゃないと思うんだけどなぁ。
まぁ、好みと善し悪しの問題は別だ、なんていまさら説教する気はないが、この作品もわりと好みではあるけども、人には薦めるの難しいなぁ。ま、金払った分は満足した。
また作品感想以外で長くなっとるな。次はあっさり済ませてくれるのか？
（ホントにつまんないか、おもしろければイイんだけどね）

雑誌バックナンバー数冊、読む。- 98/11/05 00:00:00
本日の調子:失った９０年代クロニクル。

コメント:
１１月４日
『本の雑誌93年5月号特集：頑張れ、ＳＦ！』
『本の雑誌97年3月号特集：この10年のＳＦはみんなクズだ！』
なんだよ、ＳＦから離れてただの、仕事が忙しかったとか云ってるわりにはちゃんと押さえるモン押さえてるじゃねぇか＞俺。
でもこの２大特集の間って４年もあいているのね。そして俺が会社の奴隷となってＳＦから離れてる間に起ったことなんだよなぁ。９０年のハヤカワＳＦ文庫２０周年、９２年頃の創元ＳＦ文庫創刊＆復刊フェア、それでおいしいところだけかすめて俺は停滞空間へ逃げちゃったんだよなぁ。それ以後新しく出てくる翻訳もあんまりおもしろいと思わなかったし。だから早川ＳＦ文庫1000番以降には疎い。（２００１年宇宙の旅・決定版以降ですな）
問題提起の爆弾発言、結構な爆弾だったことは確かなようですが、今だ明確な答えは得られず。とりあえず俺は失われた６年間を取り戻すことに必死なわけで…。

『言語94年8月号特集：ロボットの言語学 AI研究の新しい局面』
この本で語られる記事の内容がぐったりもの。看板に偽りあり、って感じで何も「ＡＩと言語とロボット」の関係に新しいものを見つけることができなかった。それ専門の雑誌じゃないにしろ、記事を書いてる人の素性がよくわかっていないにしても、本当にガッカリだったのを覚えている。
そこに現れたのが西垣通氏の『ペシミスティック・サイボーグ』で、「普遍言語機械に何ができないか」を面白おかしく解説されてしまった俺は、当時開発しようとしていた「人工無能」を放り出して、Ｍａｃとおしゃべりしてたのだった。そーだよな、当時かなりホンキでコードウォーリアの試供版とか買ってきたのになぁ。暇があったらまたチャレンジしてみたい分野ではあるな、自家製人工知能、軽い会話が出来る奴。とかいいながら俺がうかうかしてるうちに出会ったのが「ときメモ・ショック」であった。「エミー」、おまえはこんな物へ進化していたのか…。（ってゆうか「東京ナンパストリート」の進化系なのか？）

『ＳＦマガジン96年2月号：ロジャー・ゼラズニィ追悼特集』
この頃のＳＦＭは買うだけ買って読むことができていなかったりする。それどころじゃなかったような記憶がある。『８０年代ＳＦ傑作選』で「富嶽二十四景」というイカス短編を読んでいただけに「ああ、もうゼラズニィの新作は読めないんだ」とすげーがっかりした記憶だけがある。ハインラインが死んだときもアジモフが死んだときも「これもひとつの時代の終わりか」ぐらいにしか感じなかった。やはりひいきにしている作家の死以外はピンとこないものだ。そしてその１年後に黒丸尚氏の訃報である。これで＜ワイルドカード＞に二重の打撃！とか思ったのだが、その予想通り、ゼラズニィの書く新しい超人も出てこなければ、刊行済の作品の翻訳刊行もストップである。
山田正紀氏のゼラズニィに対する思いと、ゼラズニィの作品が新アンバーシリーズを除いたほとんどのすべて翻訳紹介されている事実に驚いたことが印象に残っている。
当時はサンリオのゼラズニィ作品を読んでいなかったが今はもう読んでしまっている。ディックのサンリオ作品が次々と創元から復刊していたのを見て、ディルヴィシュのついでにゼラズニィもやってくんないかなぁ？と思っていたものだ。
今ではそんなに悲しくはない。「アーティストは死んでアルバムを残す」と、きんどーさんは云った。作家は無論、作品を残す。彼の残したきらびやかな作品を時折読み返せるだけで俺は充分幸せなのだ。何も残さずに死んでしまった人に比べたら…。

過去の日記(98/10/24～98/11/3)を見る

私のホームページへ