U-kiの読書日記(98/9/9～98/9/18)

U-kiの読書日記(98/9/9～98/9/18)

『エンジン・サマー』（福武書店）ジョン・クロウリー、読了。- 98/09/19 00:00:00
本日の調子:インターネットは徹夜の友！

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＃９月１８日
かつてディレーニィの『アインシュタイン交点』が待ち焦がれていたにもかかわらず、文章の表層的な部分よりしたに潜むものが汲み取れず、「すごそうだが肌にあわない」という悲しい思いをしているのだが、これはそれに似た思いを感じた。
実はエッセイで「文章を額面通りにしか読み取れない人々」と自分のギャップみたいなものについて書こうとしていたんだが、この物語の表層しかくみとれなかった自分の戦闘能力の不足に歯噛みしてしまったしだいである。（まだ一度しか読んでいなから、というのは言い訳か？）
とにかく色々な意味で読むのがつらい作品だった。これを翻訳した大森望センセにはお疲れさま、としかいいようがない。コードウェイナー・スミスとかウイリアム・バロウズとか、「くずした英語」を翻訳するのは本当に大変なんでしょうなぁ。
さて、本題に入る。
すげーなー、と思ったのは暴力、性交、死と裏切り、それらが一切登場しない小説ってけっこう久々に読んだかもしれない、ということだ。一人の少年の７才から１７才（実際はもう少し先？）までの一人語りなんだけど、この遠い未来の地球人類の末裔の世界には今我々の人口過密社会の軋轢から生じるそれらの避けえないテーマから一切切り離されているというわけである。
象徴と寓意の結晶した文章。それが本作品である。シンボリズムはディレーニィでもうたくさんという感じだったが更に上をいっている感じである。ディレーニィの下品な部分をあく抜きしたような本作品は非常に美しく、清涼感と詩情にあふれている。
物語は時間的にそれほど前後しないのだけれど、人間の記憶の記述、という形態をとっいるため、単語や比喩の対象、関連のある事象の出現順が保証されていないのがとても読んでいて苦労したところである。最後の最後まで読み切って、隙間なく、矛盾なく単語が配置されていたことを知って、なんという計算高い作品だ、と舌を巻いた。そこにたどり着く前にも何度も何度もページを引き戻って、後半に入るちょっと前あたりから、「これは前に戻りながら読んではきりがないのでいったん全体を見てしまおう」と判断したのであった。結果はそれで正解。ラストの数十ページで謎だった単語の登場シーンとかもあり、うむむ、まさに複雑に入り組んだ織物みたいな話だ、と思った。
何度も読み返すに値する作品というよりかは、何度か読み返さないと難解な作品のように思える。そして何度読んでも気持ちのいい作品かもしれないと思う。先に上げたさまざまな人間の性悪をスポイルした美しい人間の物語だ。
俺も＜真実の語り＞を目指している。俺はしゃべる人間であり、思ったことだけをしゃべる。この本を会社で読んでいるときの俺の会話。
「何読んでるの」「本」「いやだから、なんの本を読んでいるの？」「エンジン・サマー」「？有名な本？」「いや」「推理小説？」「いや」相手、たまらず本を取り上げカバーはずして表紙と中表紙を見る。「なんの本？」「小説」あきらめて退散。
なるほど、俺は真実の語りに近い。現代の大半の人にはそれが通じないというわけだ。「言葉の裏に潜むもの」にとらわれすぎているとことを、この比喩と象徴とで埋め尽くされた文章が力強く訴えているところは皮肉である。あと最近の俺の指針「嘘は言わない」を実践すると確かに俺自身が生きるのにずいぶんと負荷が減ると思ったんだけどその分、実はしわ寄せが他にいくんだよなぁ、と思う。よっていろいろなケースで沈黙が大切な意味を持ってくる。主人公のラッシュもこれだけ正直でありながら黙ってしまうシーンがいくつかある。まぁ、俺の沈黙とは種類は違うけどね。
「インディアン、嘘つかない」うーむ、やっぱ、彼らはインディアン式に生きているんだよね。「系」というのが非常にわかりずらいんだけど、「トーテム的な意味合いを持つ」と大森センセもいっているのでまぁ、それ以上の深読みは今のところしていない。ただ、系（コード）が文字どおり線（コード）の意味で言葉遊びされている個所は何個所もあるので、そんなもんかな、と。
あと、＜明るさ＞と＜暗さ＞これもよく分からなかった。陰陽のことなのか？気分のハイ＆ロー的な使い方をされているように見えて、人間の陰と陽を表すものとして使われているようにも見える。うーん、もっとでかい意味もある気がするんだが。やぱりまだ不可解なままである。
全体的に漂うトーテム＆アニミズムに近い原始宗教感覚がＧＯＯＤ。何もかもを失ったときに「リーボウィッツ修道院」だけが残ったように、この作品ではアメリカ原住民－インディアン－風の素朴で正直な世界が残った、というのが涙を誘う。インディアン小説はベスター『コンピュータ・コネクション』ゼラズニィ『アイ・オブ・キャット』ぐらいしか知らないから、「えー？パン？水パイプにパン入れて吸うの？インディアンの生活様式全然わかんないよ」とかいっていたのだが、おいおいそれは俺のはやとちりであることがわかる。うん、どこにも彼らがインディアンだとは書いていない。科学文明の衰退した先にあったのがインディアンに似た文明だっただけなのだ。
「ラストのラストでＳＦになる」と大森センセはいっていたが、なかなかどうして。前半読むの苦痛になってきたあたりで、パンとパイプの謎が明らかになる、＜プランター＞のくだりなんて、まったくＳＦ。おお、やっぱ俺はＳＦを読んでいたんじゃん！ここは遠い未来の荒れ果てた俺達の世界なんじゃん、と安心＆感動しまくった。『トライガン』の「プラント」に似たエピソードではないか。弱いんだよねぇ、こういう人の望みを受けた機械野郎にさ。あと＜まばたき＞のパートとかね。
それで後半の＜リスト＞、森、巨大な猫、ここらへんはなんだか思いっきりファンタジック。だがしかし！それが最後のオチへつながる重要な部品をたくさん詰め込んでいるわけで、しかも最後の＜水晶＞（あ、＜章＞のことですよ）のホントのラスト数十ページでばたばたと畳み込まれて行く展開があっけにとられてしまってイマイチ感動に結びつかなかった。ようするの大森先生の云う＜オチ＞がいまいちわからなかったのである。（悲しい）うーん、しかし、手袋とボールが実は「ジョー９０」のビックラットなんだよ！っていわれてもなぁ（一部脚色あり）。じゃあ、この物語を刻む＜水晶＞やファイリング・システムの＜スライド＞は？なんでこんな似た者が幾つも出てくるの（いや、そこに意味があるんだろうけど）という感じでキツネにつままれ状態だ、というのが読後の正直な感想である。天使と＜一日一度＞の関係もなんかもやもやしている。
まだ感想を書くべき段階に「俺の状態」がなっていないのかもしれない。もし、あと何回か読み直して、他の絶賛している方々と同じ気持ちになれないのなら、「俺にはあわなかった」ということになるんだろう。あるいは「まだまだ修行がたりませんな」ということに。
最後の＜切子面＞、なぜ５で終わりなのー？（謎）

「梅田地下オデッセイ」堀晃、読む。- 98/09/18 00:00:00
本日の調子:嵐のあとのトラブる？

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＃９月１７日
おお、ずーっと探してる本がある。『梅地下』もそんな本の一つだ。なにしろ現物も見たことがない。しかし石原藤夫博士の１００ｐにわたる解説なしであれば、「梅地下」単品であれば、ネット上の堀氏のページで公開されているという。
パトロール領域にそこへのリンクが出現したのでちょっと飛んでみる。おお、例の徳間・ハヤカワの裁判沙汰がどどぉーんと（笑）。
で、「梅地下」の意外な短さに驚きつつも、「太陽風交点」もこんなもんだったかな？とか思いつつせっせとダウンロード。読む。
偶然にも数日前に先輩に「梅地下」ってどんな話ですか？と聞いていたのもなかなかできすぎた偶然だ。
「ハードだよ。うん、えーとねぇ、ラプラスの魔を作る話なんだよ」
どーもぴんとこない。てっきり地下街を迷宮に見立てたお笑いＳＦとたかをくくっていたのだが、そうえいば相手は堀晃なのだった。想像がつかない。
で、百聞は一見にしかず。実際読んでみて、ああ、なるほど、と思った。（読んでいるときは無論そんな会話をしたことは忘れて没入していたのでよかった）
で、ラストはあーなっちゃってるわけで。「くそう、山田正紀の短編といい、卑怯すぎるぜ！」と地団太を踏むことになるが、これはこのオチでＯＫ。久々に読み応えのある話だった。現実の梅地下はやはり変容を続けているようで、そのことを感慨深げに語る堀氏の文章がまたよかった。俺もまた大阪遊びにいきたいなぁ。

『サイボーグ・ブルース』（角川文庫）平井和正、再読。- 98/09/17 00:00:00
本日の調子:イカレ、半端なサイボォーグ！

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＃９月１６日
あー、『エンジン・サマー』読むの疲れる～。というわけで、電車の中は選択の余地がないので読み進めるのだが、部屋に帰ってくると、パソコンいじって、畳にぶちまけられた文庫束からさっと上の方にある奴を引っつかんで「浮気」してしまう。
前は浮気の対象はマンガがほとんどだったのだけれど、最近は日本人作家や既読の小説が多いな。というわけで今日もbook-offで救出した１００円文庫からこの『サイボーグ・ブルース』を引っつかんだら離せなくなってしまった。だってー、カッコイイんだもん。
「ガイにいちゃ～ん！」
そんなさわやかサイボーグなんかじゃねぇ！（笑）本編主人公アーネスト・ライトは黒人で人種差別社会への怒りが爆発しまくり。
とにかく、気が狂ってしまう前の平井和正のこの作品の汚れた罵声の持つパワーは俺を痺れさせる。最近、ろくな敬語もつかえねぇあげくに妙に角のない雑言ばっかり話す連中が俺は嫌いだ。「ダサイ」だの「頭悪い」だの、なにやら煮え切らない。半端に「僕は理性的ですから」ってスタンスでねちねち「違う」だの「わかってない」だので論争を繰り返している。なんで気に入らない相手と話してんだ猿助ども！って感じですな。嫌いで気にいらない相手には「死ね！」って云ってやりゃいいんだよ。お前らみたいなへたくそがいるから「差別用語」が使えなくなっちまうんだよ。小林源文がマンガの中で「くたばれ！ニグロ！」とか言わせてるけど、戦争という極限状態の人間の発する言葉だとしても、個人がその内側に抱え込む、怒りだとか憎しみだとか、嫌悪だとかは、それなりの形態を持って外に吐き出されるべきだと俺は思う。日本人の慇懃無礼、陰湿、粘着質な部分をどうにか言葉だけでもすっきりさせられないもんかな、と思う。
話が逸れた。
エアカー（イオノクラフト！）、メガロポリス、アンドロイド、サイボーグ、ここに並べられたガジェットはＳＦが生き生きしていた頃の懐かしの品々だ。これらは俺にとっては垂涎の「ガーンズバック連続体」なのだ。夢のＳＦの残滓なのだ。だから、歳月が経てば経つほど、この作品に愛着を感じこそすれ、古さは感じない。オモイデにかじりつく年寄りみたいであまりかっこのいい話ではないけれど、そんな理由でやはりこの作品が好きだったりするのだ。

で、発売日を間違えて１４日にいくら探しても見つからなかった「ダ・カーポ」を読む。実は買うの一年ぶりくらいじゃないのかな？？
・文章上達講座９８
だーめだこりゃ。なんか根本的に俺のニーズに合っていない内容の特集だった。まぁ、内容的には面白かった。
・絶対に面白いミステリー１００
だーめだこりゃ。一つも食指を動かす気にならんぞ。そうか、ジョニーさんあたりが薦めてくれる本を「読みてぇ」と思うのは俺の好みを察してそれなりのモノをオススメしてくれてるからなんだろうか？どれも読みたくないってゆうかアンテナが働かないのは単に畑違いというだけでなく、紹介者のピントがずれてるせいなのかな？ミステリしか読まない人にＳＦを薦めるのって、こーゆーの読んだ自分の反応とかを考えるとえらい難しいな、って感じがします。
・会社パソコンの私的利用大調査
おもしろい。かつやばい（笑）。俺の仕事でのインターネット使用率、仕事に無関係１００％！（笑）富士通って、NIFTYを仕事で使ってて、５年前は「なんで他の会社はＩＤもってねぇんだ！」とか思ったものだが、逆に今のe-mail全盛時代に、NIFTYでものをやり取りしたりしてて、インターネットへの乗り換えにとまどっといるのが実状。そんなわけで「仕事のメール」＝NIFTY、「私信」＝インターネット、というスタイルになってしまった。とほほ、である。
・芥川賞・直木賞作家の人間解剖
学生の時は「作家になりたい」なんていっていたのでここらへん敏感だったけど、前回「受賞作なし」は知らなかった。ずいぶん離れたところにきてしまったんだと思う。
藤沢周、車谷長吉、花村萬月、どの作品も作家の人生の一部が色濃く反映されている（そうでない作品というものがあるのか、という個人的な考えはあるのだが）作品で結局今の時代が「ホンモノの人間」を求めてるのかな？などと思った。いや、実際は選考委員の人が選んでるんだけど、なんとなく。

そーか、姫野さんのエッセイはなくなっちゃったのか。でも『初体験物語』は一冊の本にはなったし、まぁいいか。抜け目のない彼女のこと、もう一冊くらいエッセイ本がでるだろう。
くらいまっくすがまだ健在なのはうれしい。おおぉ！吉野純雄！まだ「お大事」とか云ってたんだね！Viva!Viva!
毎号面白い特集組んでれくれれば買うのになぁ。

『地球軍独立戦闘隊』（集英社文庫）山田正紀、読了。- 98/09/16 00:00:00
本日の調子:台風も、直撃しなけりゃ、ただの雨

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＃９月１５日
魔夜峰央のマンガチックなイラストの山田正紀の古い短編集。book-offで１００円だったが、普通は買わないところである。んが、タイトルが「戦闘」ということで一応キープしておいた。で、未読の山に重ねる。当然こういった本の優先度は低いのでふつーいつ読まれるかわからない。だが、今週読み始めた『エンジン・サマー』がちょっとつらい部分があって、部屋に帰ってくると浮気をしたくなる。で、ぱっと買ってきたばかりの本書をひっつかんで冒頭にある表題策をパラパラっと流していた。
いつのまにかあぐらかいて読み始めており、ついには夜更かしして全編読みきってしまった。
「ぐおー！当りだ！アタリである！」
という感じ。なんか、山田正紀って『エイダ』とかも連載時は好きになれず、文庫で読んで「はまった」わけで、個人的にはそれほど好きな作家の部類には入っていないんだけど、このいささか若書きの感のある短編集、たまたま好みの作風の短編がつまっていた、ということなのだろうか？もう一冊集英社文庫で山田正紀の短編集があったけど、明らかに傾向がそぐわなかったので捨て置いた。うーん、偶然の出会いってあるんだろうねぇ。
普段は短編の一篇一篇についてコメントなんてたれないんだけど、今回はあえて実施。
「地球軍独立戦闘隊」
兵隊やくざが、零戦に乗って、ヘルキャットと合同でＵＦＯと戦う話。カッチョイイ。
「恋のメッセンジャー」
ラブラブな話かとおもわせておいて、古典的なＳＦオチを付けてくれる。恐い。
「眠れる美女」
良く書けてる大学のＳＦ研会誌に載っていそうな話。オチが納得イカン！がこーゆーものかも。外宇宙へでる人間の精神状態については俺の昔からのテーマでもある。
「西部戦線」
この恐竜絶滅の方程式には『さよならダイノサウルス』もビックリ。好きなネタをこぉーんな形で『西部戦線異常なし』とからめてくるとは！
「かまどの火」
これは、『エイダ』の前身ではないのか？「タオの宇宙論」ならぬ「仏教宇宙論」である。そのスケールのでかさにものおじせずに正面から挑みかかる山田正紀に『百億の昼と千億の夜』の光瀬龍の姿を見た。
「霧の国」
あー、１８８９年のイギリス！霧のロンドン！ＪＯＪＯ～！駄目だ、この時代のロンドンの貧民街、ジョナサン・ジョースターに襲い掛かってくるスピードワゴンの若き勇姿しか思いうかばねーよー！精神寄生体と実在人物登場という、俺のツボを押さえまくった逸品。

という感じ。巻末のヨコジュンの解説にもあるが、これらの作品にはモチーフとなる参考文献があって、いわば「もじり小説」っぽい感じもする。そこが「学生作品」の匂いがする所以かもしれない。学生は自分の好きな作品のオマージュを良く書くからねぇ。問題はＸＸの真似であるから、云々、ＸＸの物語を下敷きにしてるから云々ではなく、単に「面白い」とこが重要なんである。だからたとえ素人学生の書いた作品で、ＸＸのパロディというのでも、料理の仕方によってはオリジナルよりも「おいしい」ことがままあるのだ。そういう意味では山田正紀、この短編集は俺にとって大変おいしい料理になっていました。ごっつぁんです。

『ダブ（エ）ストン街道』（講談社）浅暮三文、読了。- 98/09/14 00:00:00
本日の調子:～走れ穴掘り青年ケン～！

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＃９月１３日
うーん、ジャンル区分の難しい作品ですな。俺があんまファンタシィ読まないからかもしれないですが。剣と魔法＝ファンタシィってのも俺的には間違っている認識だと思うのであまりジャンルやカテゴリーにこだわらない読書をしつつＳＦも強化したいなぁ、と思う昨今。そーいや『ヘミングウェイごっこ』や『エンジン・サマー』も買ったまま読んでいないのよね。今回、ノートパソコン持ち歩かなければハードカヴァも電車で読めることが判明。やってみるもんですな。
さて、『ダブエストン街道』（俺はこう呼びます（笑））、文章は親しみやすく読みやすかったです。ただ割り込んできた本の質が悪く（死ね、栗本薫！）、すいすい読めませんでした。ちょっと牽引力という意味では弱かったかも。でも通勤電車で丁度一章ずつ読み進めたので文章のリズムはよかったのかもしれませんな。
まずはいきなり出てきた「中型の熊」と「矢印ツバメ」がお気に入り。で人語を操る動物（知性化？！）と話の主軸が郵便配達人（ポストマン？！）ということで、ブリンなのか？！ブリンの世界なのか！とか一人でいってました（笑）。（嘘ですよ、浅暮さン。ギャグです）
あと「白雪仮面」とかも良かった（笑）。アマゾンの半魚人（ギルマータイプ）はスタンド能力が「クラッシュ」していて一人でＨＥＲ、ＨＥＲしちゃった。基本的に動物含みでキャラは立っていた気がします。こーゆー奇人変人大会っぽいノリはマル。
読後思ったのはダブエストンってまさに人生そのもののだよなぁ、って感じ。いささか直接的すぎてるほどに。森と森以外があって、森以外の場所がダブエストン街道。どこからが森で街道か区別がつかない。見渡せるのは５００ｍ四方のみ、ってなーんだか人の生そのままじゃないですか？気がつくと我々の人生という旅は始っていて、見渡せるのは現在という狭い視野のみ、平地以外はうっそうとした暗黒面でいつその深みにはまってしまうかわからない、という感じで。（作品では、森＝悪いこと、平地＝良いことってわけじゃないですが）俺はすぐ時間にこだわって人生を語るけど、それは俺の脳内の時間が他の人と違う感覚で扱われているためである。これは余談になるけど、東洋人と西洋人の理想のとらえ方の違いとして東洋は地理的であり、西洋は時間的だ、というのがある。西遊記やちょっと前で紹介した『桃色浄土』のように、理想が地球上のどこか他の場所にある、というのが東洋の「浄土」とか「桃源郷」とかの思想で、「黄金時代」とかの表現通り、過去とか未来とかに理想となる世界が存在するのが西洋的な思想だ、とどこかで読んだことがある。で、話が飛んだけど、「人生」っていわば個人の歴史として時間的にとらえがちなもの（西洋風思考に毒されすぎ？）を作者はダブエストンという不思議な土地に地理的に展開していたのでは？（東洋風思考を用いている）と俺なりに邪推を働かせてみたわけである。うーむ、一人で納得。
やはり「王様とピエール」のパートがはずせませんな。くぅ、ピエール！俺もピエールが欲しい！最初は笑って済ませていたものの、ラスト付近での彼らの会話に俺の心は震えたのだった。
「もしかして余はぐるっと一回りして以前の森に戻ったのか？」
「王様は一度も後ろへ戻れとはお命じになりませんでした。従ってこの行列はずっと前に進んできております。前に進んでいるものが元の場所に戻るはずがございません」
絶句。絶句である。無論、本の冒頭のシーンとかぶる描写がでてきて、面白おかしく彼らの「どうどうめぐり」の様子が語られるんであるが、俺はこのやり取りに感動してしまった。ダブエストンは人生そのものだ、と俺はいった。そこでこのやり取りである。俺自身、この何年か自己革命を試みて色々やってきたつもりでも、結局得られたものはほんの小さな事でしかなく、大体において何一つ俺は変わっていなく、ただ無駄に歳月を重ね年を取っただけ、などと落胆し、最近のページの内容や同人活動への復帰などを見るにつけ、結局もとに戻る、というかむしろ後退しているのではないか？などと疑問に思っていた矢先なんである。そうだ、王様はまたもとの場所へ迷いの森へ戻ってきてしまった。だが、それは前に進んだ結果である。王様は冒頭の王様よりちょっぴり疲れてやつれてしまった王様になっている。王様は以前の王様とは違うのだ。いや、同じ王様なんだけど、以前とはもう違っている存在なのだ。人間は成長する。成長しろ、とここでも何度も云っているが、実際に成長するのは難しいかも、なんて某所の書き込みを読んで思ったりもした。だがあきらめこそが人生最大の敵ではなかろうか？変わろうとする試み、一段でも上に登ろうとする志こそが大切なんであってそれまで失ってしまっては本当に「そこに留まるだけの存在」＝無意味・無価値な存在なのではないだろうか。
あと、俺としてはアップルを殺して欲しくなかった。あれはそうしないといつまでも主人公ケンがダブエストンで独立した存在にならないからやむなし、という部分もあるだろうけど、それにしたって、いかにも同情を誘う安っぽい死に様をアップルに与えて欲しくなかった。（不覚にも泣きそうになったけど、それはきっと年取ったせいか、もしくはほんとうにアップルがいい奴だったから）竜巻や洪水で生き別れ、くらいにしてほしかったッス。話のヤマみたいなものがない平坦な作りなのはこの作品が「彷徨」の作品だからかな？なんて思うのだけれど、にしたってアップルを殺すならそこを一つの山場にして欲しかった。（いや、ちょっと個人的には盛り上がって、最初のページまでバックジャンプしちゃったんですけどね。短期間で読んでいればもっと好印象だったかも。カインとアベルだし）
他の感想や紹介文では「結局恋人には会えない」と書かれているのだけれど、俺はこの物語のラスト、主人公は愛するタニヤにこのすぐ後で会えているような気がする。主人公にとってタニヤに会うことは目的かもしれないけれど、それはダブエストンでの彼の彷徨の終わりを意味しないと思うからだ。単に、主人公とタニヤが二人でこのダブエストンを迷えるようになるといいなぁ、という俺の希望なのかもしれないけれど。
俺も今、自分のダブエストンを彷徨中である。目的地は、まだない。

『ブギーポップ・リターンズ　ＶＳイマジネーター』（電撃文庫）上遠野浩平、読了。- 98/09/13 00:00:00
本日の調子:それって、「悪の十字架」？（by藤花）

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＃９月１２日
小説東鳩を買ったとき、先月の新刊として平積みになっていたこの作品がすでにフツーの扱いになっていたためまた探すことになるとやっかいだと思って購入。
まったく読む気はなかったが、ダブが思うように読み進まず、ちらっとどんなんかいな？と思ってページをめくる。あとは意志とは関係なしに読み進んでいた。昼過ぎにｉＭａｃが到着。でも気分的にはそこはかとなくブルーだったのでしばらく玄関においたままにしてこいつをむさぼり読む。気がつくと読了していた。おやつの時間にはちょっと早かった。
くぅ、なにかこう、「人を好きになることって何？」を『コミュニケーショ不全症候群』を読んだあとでばきばきに痛めつけられた後だったこともあって、すげー心に染みてしまった。もっとノーマルな状態でしっかり読んでみたい。綺のパートが涙で曇って何も見えません状態。くそぅ！もともと人間じゃねぇモノとかが大好きなのにひどいよ。俺のツボ押え過ぎだよ！ただの人間の操られ少女とかで済ませといてやれよ！鬼瓶！(＞誰？)
というわけで、色々心配していたことがオールクリアされていたことにはアッパレとしかいいようがありませんな。たとえば、ブギー（藤花版）は登場するのか、（つまり彼女が高校生でなくなったときでもブギーでありつづけられるかとなるとちょっと作品の世界観がぐらつく恐れがあった）とか、例のパズル的な構成は実験だったのか？とか。作品の構成は前回よりは単純化しているもののおもしろく、成功しているといえる。うまい。ただ主人公＝正樹（谷口・弟）くん、和子＆凪があんなにばっちり出てくるとも思ってなかったのでここは単にいい意味で期待を裏切られた。やっぱり藤花があんまりでてこなくて悲しい（笑）竹田くんが出てこなかったのは精神的によかったが、藤花と和子があーんなにべたべたなのはなぜ？と思った（笑）凪と仲良くなってるならわかるけど。まー彼女一回救われてるわけだし、よく考えれば整合性がとれているわけだ。
イマジネーターは霧間誠一の創作したキャラとかを予想していたし、マンティコアの件もあったので超国家的な組織の暗躍もあるかと思ったのだが、そこは違っていた。
統和機構はマンティコアを作った組織なのか？という疑問もあるが、そこは邪推だ。統和機構は少年少女以外の世界、不条理と不誠実とがうずまく大人の、我々の世界そのもののメタファーなのだから。
スプーキー・Ｅ、かっこよすぎ。彼の洗脳方法に作者の「ゲーム世代」がちらりと見えてよし。
琴絵ちゃんはもう少しかわいいイラストにして欲しかった。（こんなんばっか（笑））
飛鳥井もわかりやすくて俺は好きだった。でもあのオチはかわいそすぎ。琴絵ちゃんとなかよくリハビリしてほしいと願うのみ。
それにしても、あー、綺と正樹よ、ＬＯＶＥ・ｉｓ・ｆｏｒｅｖｅｒ！くそう、オセンチ決めやがって。俺も愛のために『突破』できたらな、って思うよホント。俺だって、俺だって……（以下、カイ・シデン状態に突入）
続編を望みマスカ？うーん、難しい。今回は文句なくおもしろかった。ただ次回もブギーの世界を望むのか？というと難しい。上遠野浩平の次回作は無論読みたい。以上。

『夢幻会社』（サンリオＳＦ文庫）Ｊ．Ｇ．バラード、再読。- 98/09/12 00:00:00
本日の調子:キラウエア島に飛ぶ小錦の夢（セスナに乗れず！）

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＃９月１１日
ちょっとバラードの綴りを見るためにサンリオ版の『夢幻会社』を手にとる。
ダブも読んでいる最中だが、この作品もどちらかというとファンタシィというか幻想文学っぽいよな、と思い本当に軽くページをめくった。再読、というほどしっかり読み直してはいないがやはりおもしろいと思う。
冒頭、「ヘリコプターの到来」というチャプター。冒頭でヘリ、というとディレーニィの「時は準宝石の螺旋のように」を思い出す。直接は関係ない。
主人公はセスナで飛ぶという強迫観念にとりつかれ、実際に飛んでしまう。ここらへんは「ウェーク島へ飛ぶ我が夢」に近い。脅迫観念という部分では『クラッシュ』の自動車事故のオブセッションに近い。だが、バラードはテクノロジー三部作で「死」と「狂気」を描いていたのに対し、「ウェーク島…」あたりから見られる「飛翔」へそのモチーフを移して行き、ついにこの物語で「再生」を謳うのである。
そういった意味でバラードの転換期にあたる作品ではないか。これが創元から復刊され、今も読めることは非常にありがたいことである。俺はバラードのオススメ、『ハイライズ』にしているわけだが、あれはハヤカワで今買っておかないとなくなってしまうという危機感とテクノロジー３部作最後の作品で毛色も違っていることから「バラードを読むための試金石」になるかも、という思惑でオススメにしたのである。作品の完成度からすると、初期作品の中の傑作、というよりかあたりさわりのないＳＦになってしまった『結晶世界』よりは充分なバラード節が効いている本作がオススメの筆頭に来てしかるべきなのかもしれない。バラードＯＫで未読の方には是非読んでいただきたい。
実は来たるＳＦ者ＯＦＦに備えての強化学習だったりする。最近人に薦めた本の具体的な感想を聞かされても（？そんなシーンあったっけ？）が多いので（特に声高に薦めているスミスやゼラズニィとかに）近く大復習大会を開催せねば、と思う昨今。

『ToHeart～マルチ、がんばりますっ！～』（電撃文庫）伊達将範、読了。- 98/09/11 00:00:00
本日の調子:千鶴さんのカレーで周囲の温度が－４度下がった

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＃９月１０日
『コミュニケーション不全症候群』でもう精神的にメタメタだったので、なかばなげやりに手に取る。さぁーて、読むか、とページを開くと「なんや！ゲームのまんまやんか！」怒りとは裏腹にしばらく東鳩もやっていなかったのでなにやら懐かしい感覚に包まれてそのまま読んでしまった。これも技法のうちか？（笑）
で、家に帰って数十分で読了。俺が読むの速いんじゃないよな。（笑）
いや、不覚にもダメージ少し回復。ダンジョンに落ちてる薬瓶にはなったかな。俺もお安い男である。
ポイントとしてはマルチを前に出しているので他のキャラが思い切り良く切り捨てられていたこと。『痕』や『雫』、その他のゲームのノベライズもかなり出ているのでたまに読んでみたりするがほとんど屑なのである。何よりもＶＮ系のゲームに至ってはゲームの内容そのまんまでどう差別化しようか、という工夫がない。ってゆうか「ゲームができない人に内容を知ってもらう」というスタンスなのかもしれないが。しかし、ゲームをやったものにはあまりにも意味がなさすぎる。痕のマルチエンディングに至っては全シナリオまんべんなく取り込もうとして破綻しているだけであった。『Natural』のようにノーマルと鬼畜エンドの２通りをシナリオとして読ませるってのもあったが、２冊出版するほどのものでもないし、雫もＭＯＯＮ．もＧirlＤollＴoyも全然小説としてのアドバンテージを持っていない「ノヴェライズ」であった。それなら星の数ほどネットに流れているＳＳ（サイド・ストーリー）の方がましである。実際、何本かは考えさせられる内容だったし、何本かは腹かかえて笑わせてもらえるものだった。というわけでこの作品、そういったＳＳのノリで出版された初のノヴェライズではなかろうか？本来ならこの程度の作品を商業ベースで垂れ流すとは何事かっ！と怒るところだが、今までが前述のとおりのていたらくなのでこれは「それに比べたら格段に良いできだ」と誉めざるを得ない。マルチ一本に絞って他のキャラを排除した。これはいわゆるセングラやサクラ大戦、お嬢様特急のノヴェライズでは既にやられているので「エロゲー」のノヴェライズとしては初、といいなおした方がいいのかもしれない。ＰＳ移植によって「ギャルゲー」になりつつある東鳩関連商品ということなのかもしれない。
とりあえず、１，２章は、「犬とマルチの会話」などでジョンの作った切り張りなどを思い出して暖かい気持ちになるも、ゲームのまんま。３章では「そんなに人間の役にたちたいなら困った人たちの群れたところへおまえを叩き込んでやるわ！」という、なかなか考え付きそうで案外誰もやっていないのでは？という「マルチをボランティア部に突っ込んで老人ホームへ慰問」である。確かにちょっとサド行為だよな（苦笑）。生後２週間のメイドロボ子を人間にも過酷な環境につっこむというのは・・・。でも作りはうまくておいらちょっと泣けちゃったのさ（笑）。で、次の衝撃の第４章、ロボ子の姉妹である、というわけでどうも隠れファンの多いマニアックな存在「セリオ」（漢字で芹緒と書くことが決定してるらしい（笑））の話を持ってきているのはニクイ。俺も幼児体系のマル子ではなく、どうせ買うならお姉さんタイプのセリオ（ああ、なんか言い回しがＸＸチＸＸフ買うみたいで嫌だなぁ）に決定している俺としてもうれしい誤算であった。で、４章で張った伏線のおかげで５章のエンド。まぁ、未来の見えないＳＳとしてはよかったね、的なオチである。
しかし、右京のマルチ、こんだけ見てるとオリジナル忘れるぞい。俺はロリーじゃないからやる気がどんどん失せてくるぞ。浩之はＬＦ９７のイメージで良いんだが。
この調子で他のキャラの話も出して欲しいと思うが、続く気配はない。おそらく様子見だと思われる。漫画も好調だし、ＰＳ版が出れば間違いなく他のキャラ出るだろうな。
個人的には志保と琴音ちゃんが読みたい。あかりと志保は重みのある話にしてほしい。ってそーゆーのは既に読んでいるか（笑）きっと第二弾は先輩の話で綾香も登場させればそこそこ見られるもんにはなるでしょう。望むのはやっつけ仕事にならないこと。
まぁ、くどいけど、単純なノヴェライズではなく、ＳＳ的にまとまたのは合格。まずくもないがおいしくもない、といったところか。すんなり軽く読めるのも、本読まない連中にとっては良いかも、と思った。（故に部員ども、おまえらには義務だ。読め）

『コミュニケーション不全症候群』（ちくま文庫）中島梓、読了。- 98/09/10 23:00:00
本日の調子:宮崎某って単語見てもハヤオとしか思い浮かばない

コメント:
＃９月９日
ここでもしょっちゅう「俺はコミュニケーション不全だ」とか使っていて、てっきり俺の造語だと思っていたんだが、どうやら違ったらしい。最初「不全」と「不良」どっちがいいか、と思って「病的」であるから「不全」をとったのだけれど、この本のタイトルが頭にあってしっくりしたから、というのはあるかもしれない。
というわけで、book-mlでその存在を知って、栗本薫（中島梓）は「コミュニケーション不全」というのをいかなるものと定義してそう呼んでいるのか？俺の使い方とどう違っているだろうか？などと思ったために７日の会社帰りにさっさと発見して読み始める。
最初はおもしれーと思って読んでいたが、次第に嫌悪感を感じるも、読むのを辞められず、しまいには気分が悪くてどうしようもない状態になりながらも読み通すことになってしまった。「こんな本、さっさとやっつけてしまいたい」と思いつつも気分が悪くてどうしても読み進めず、かといって途中で投げ出す気にはどうしてもならず、いわば血を吐きながら続ける悲しいマラソンのようにこいつを読んだわけで、ここ最近で一番苦しい読書体験となった。気分が悪くなった本ってここ最近はなかったのである。
それはまるで整体されちゃって、心も整体完了、貴乃花、という感じであった。いやはや、支離滅裂ですんません。ようするにこの気分の悪さというのは「あー、ここ曲ってますね」ぐきごき「うぇげげげげ、痛いー」の結果であり、肩揉みしてもらったときの「ぐあー、そこそこ」後の揉み返しなんである。つまり、歪みきったオタクとしての俺の精神をこの文章は鏡として映し出し、他でもない俺にそれを矯正させたのだ。それに伴う痛みと苦しみで俺はいわば自家中毒になっていたのだ。
自慢じゃないが、俺はオタクだ。と自慢しているタイプだ。俺はオタクであると自分を卑下し、自分の殻に閉じこもるタイプを最も嫌悪していた。それゆの攻勢であった。しかし、その行動原理をしょっぱなの章から作者は看破し、暴き、晒し、「オタクほどオタクであることを気にしない。むしろ誇らしく思っている」なんてかかれて、俺の出鼻を打ち砕いてくれたわけである。もうここらへんから緊張して読み進めている。他人事ではなく、まぎれもなくこの本で表現されているターゲットに自分も入っていることがわかったからだ。このページを読んでいる方にはおわかりだろうが、俺は俺なりのかなり確固たるスタンス、スタイルを固定し、保持してきたオタクで、もうこれ以上はどうにもならないところまで定着していたんであるが、この一冊はほねつぎのおじさんが脱臼した肩をいとも簡単にゴキン、とはめ直すように、俺の俺である部分をばらばらに打ち砕いて組み直させてしまったのである。結果、俺は脱臼を直してもらうというよりはむしろいままでしっかり組み合わさっていた骨という骨を外されてしまったような状態になった。かなりの衝撃であった。
作者の文章がオタクへの悪意に満ちた、まったく道理を得ないアホなエヴァ解説本ような文章で単に俺の神経を逆なでする程度のものならよかったのだが、彼女の文章はけしてそんなことはなく、テクストを読むことで引き出される「自己」がすべて鏡になって自分に跳ね返ってきただけである。したがって、中島梓に文句を云うのはお門違いなのだが、それにしたって結果として彼女の文章で「安定していた俺」は破壊されてしまったのである。文句の一つもいいたくなる。
「ちくしょう！栗本の馬鹿野郎！そっとしておいて欲しかったのに！」
俺はまたしてもなんとか元の分解していない状態は保ったものの、すでに固まって何年もたっていた部分にぐらつきが生じてしまったのは認めざるを得ないようだ。この手の本を読むと大抵は「違うだろ！」と思う個所があるのだが、１，２章のオタク論については目から鱗の部分こそあれ、まったく反論できなかった。
４、５、６章ではダイエットから拒食症、過食症の少女を扱ってなるほど、と思わせた。私たちが病んでいる病気の真の名は「現代」というのだ。名言である。
で、７、８章はＪＵＮＥ・やおい論である。ここは女性の話なので「はぁ、なるほど」程度。気分も最高に悪いので印象に薄いがこの章はやや走りすぎで「そうじゃないだろ」があった気がする。
でラストでうーむむむ、という感じである。結論と処方箋とが語られてるが、こんだけ問題を掘り起こしておきながら「じゃあ、どうすればいいの？」という救いをこの本は与えてくれないのである。書いた本人は「楽になった」かもしれないが、アンタと違うアタシの場合はどーしたらいいのかわかんないわよ！な結末なんである。困った。よよよよ。
とにかく、４章～８章では女性の側に立ちすぎて、フェミニズムが見えすぎてかなり嫌だった。おめー、ここまで書いといて女の子が苦しいのは男がしっかりしてねぇせいだ、で終わりかよ？そのために美少年愛のＪＵＮＥ世界を私が牽引して構築してやったのよ、どう、文句ある？みたいな部分がすげー鼻について嫌だった。だがそれを差し引いても６章まででかかれていることについては大半が正しいことだと俺は思った。
確かにその構築に貢献して角川ルビー文庫なんてものも作ってしまったんだからそれだけのことをいってもいいと思うし、ＪＵＮＥからオタクを語った方が自分の得意分野だからやりやすいのはわかるけど、それにしたって７、８章は偏りすぎだ。オタクが現代が生み出した病だと知っているなら、男も女もない。もう少し平等に話を進めて欲しかった。フェミニズムでいつも腹立てるのは、「女は最近までこんなに虐げられてきた。もっとこうしろ！」と男を攻めてくるけど、虐げられてきたのって「最近まで」でしょ、今は昔と違うんでしょ？（そりゃそんな簡単になくならないけど）というところである。あんたらの攻撃が功を奏したのか、それとも自然にそうなったのかは知らんけど、おかげさまで「現代」ではオトコノコもそれなりに弱くなったんですよ。いいかげんに攻めるのはやめてお互いに気を遣いあいませんか、ということなのだ。（女々しいな）
作者はオトコノコも弱くなったと自分で書いておきながら、「さらにオンナノコの場合は」ってな感じで後半を引張る。で自分の領分だからと肩入れしすぎてなんか歪んでる（笑）そこがちょっと嫌だった。
以下、さらに読んで思ったことをランダムに列挙する。

オタクのスタイルが、「精神的やどかり」に起因しているなんて、考えりゃあたりまえだけどあんまり考えたことがなかった。やられた、という感じである。
暴走族と車＝子宮、車＝物理的殻、というのもやられた。バラードの『クラッシュ』が前より理解できた感じになった。
個人的な話だが、出生時、俺は単なる未熟児ではなく、「血液型不適合」を併発して、しかもその判定がかなり遅れた、という経緯を持ち、さんざんその話を祖母から聞かされてきた。その結果かどうか知らないが、小学校低学年までの俺は走れば必ず吐いてしまうほどの虚弱児で、体育や幼稚園での「お遊戯」も見学しがちであった。（今は幸いに人並みである。ま、時々神に恨み言を言いたくなる日もあるが）そんなわけで、自分が「通常なら死んで存在していない弱い個体」であることは重々承知しており、医学や科学といった自然に反するものに傾倒していったのは当然のなりゆきであった。だから五体満足（俺もそうだけどさ）のくせに俺ってオタクで生かされてます、みたいな奴にはほんとうに腹が立つのだが、この本を読んで、その「弱い個体」は必ずしも肉体的な欠損でなく精神的なものでも同じなのだ、と認識する。
自然なら生きるに足りない弱い個体は抹殺される。だが、我々の社会ではどんな弱いものにも生きることを強いる。「どんなものにも」を死守しないと「生存に適したものだけ」がいきのこるのだという身もふたもない真相が表面化してしまうからだ。そして弱いものにも生きることを強いるこの偽善の社会はけして弱者の味方はしてくれないのだ。これは身にしみる言葉である。こんなに生きるのがつらいのに生きることを強制してくる社会では「生と死が等価値である」ということもぼやかされてしまう。それは実際、「死んだ方がまし」な条件のものを自殺させない巧妙な方便のように思える。死は生の対極にあるのに等価値がない、という矛盾。この矛盾を村上春樹は『ノルウェイの森』で「死は生の対極にあるのではなくてその一部分として存在している」と表して、俺の心を救ってくれたのである。
オトコノコが商品化されたのが弱くなった原因、というのも興味深い。モンチッチ君もいろいろ女性に見られることになった結果があーゆースタイルなわけね。オタクは評価されることから逃げた結果服装に無頓着というわけか。人に見られることを意識せずになおかつ身なりはキチンとしろ、か。命令すればなんとかなるだろうけど、自発的には難しいかも（苦笑）
おばさんがこの本の対象に入らないのは、どんな女性も平等に歳を取って、あるラインで「商品」から外れる結果だという。これもおもしろい。姫野さんはいつまで悩めばいいのかしらん？
常々俺が口をすっぱくしていっている「現代人に欠けているものは想像力」ということで、パロディやったり、絵や映像を自慰で使うなと怒ったりしてるが、想像力ではなくて創造力が欠如してると作者はいう。そうだよな、学生時代は想像＝創造と考えていたんだよ、俺も。だから創作してたんだよな、あんなに必死に。思えばあれが「脱オタク」というか、他のオタクとの差別化を目指したむなしい抵抗だったのかもしれない。
異常・正常ではなく適応しているか、否か、が正しい表現かも、と思う。
愛することができないくせに、愛されたいと思ってる。そういう人で世の中がいっぱいになったら？うーむ、岡村靖幸が歌ってたのはまさにこれ。だけど、自分はそうであるという自覚はあったけど、世の中にそういう人がいっぱいというのは考えなかった。そうか、それじゃ恋愛になんてならないよなぁ。モノは愛せるが人は愛せない。これが一番の課題かもしれない。

で、結果としてコミュニケーション不全症候群とは、中島梓の定義の方が深く広く、克明に定義されていた。無論、俺の使い方でも間違ってはいなかった。だが、その病を定義するにあたって、それらの「病理」が形成されるに至る原因を克明に記しているところが凄かった。なるほど、我々は過密にな水槽で、生きることを第一に生かされているところが問題なのだそうだ。この原因はどうやっても取り除けない。
さらに、その症状の自覚がされていないことが問題だという。だが同時に彼女は最初の章でオタクはオタクであることを気にしたりはしないといっている。これは「自覚がない」ではなく「自覚していてもどうしようもない」なのではないか、ということでここが俺にとっても一番の問題点なのだ。ホント、どうしようもない。
現代は病の時代。みんな病んでいて、本能というものが欠落しつつある。正常と異常の境界があいまいで微妙なラインで形成されている。これも俺の持論と合致している。この時代によって動的に変わる正常のラインをどう把握してどうすべきなのか、この本は示してくれていない。
オタクのような行動は一種の通過儀礼として思春期以降、切り離してしまうのが「正常」ならしい。だが、書いてるあんたですらその歳までひきずった挙げ句にこんな本書いて一人スッキリしてるわけでしょ、どうしてくれんの？という感じである。
普段本のページを折ったりしないのだが、あまりにも思うところが多すぎて１、２、６、９章は折り目だらけになってしまった。結論はこうだ。自分がどうあるべきかというのは（あたりまえだけど）自分で決めていくしかない。自分のどういう個所がまだ「駄目なオタク」の部分で「良いオタク」の部分なのか、なんだか中堅社員教育の「強み・弱みの分析」みたいにしっかり自覚できてしまった。ゆえに今、数年ぶりに俺の精神は揺らいでいるのだが幸いにもう思春期ではないし、そうふにゃふにゃもすまい。とはいえ、今はけっこうぐにゃぐにゃ（笑）
病んだ時代が産み落とした、自分という病気持ちではあるが、「人なみの幸せ」を夢見たっていいわけである。負けてられるか！と自分を叱咤して。再構築に入る。

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