U-kiの読書日記(98/6/8～98/6/22)

U-kiの読書日記(98/6/8～98/6/22)

『夏のこどもたち』（マガジンハウス）川島誠、読了。- 98/06/23 00:00:00
本日の調子:「中学生日記」の東先生（長太郎のおやじ）なみ

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＃６月２２日
『８００』に続いて川島誠『夏のこどもたち』である。残念ながら２作目の『８００』のほうがあらゆる面で優れた作品だったようで、俺的な評価はイマイチである。
ある作家のすべての作品が「よくできました」「すべて好き」というのはやはり希なようである。少し、というかかなり期待過剰で読んでしまったのもこの作品にとっては不幸だったかもしれない。今の俺の脳が夜勤明けで疲れているのも不幸だったかもしれない。
以下の表現に限って「僕」調で語ることを許されたい。どうしてもこの手の話では僕という属性が押さえ切れないもので。

さて、皆さんの１５歳、中学三年生の夏はいかがなものだっただろうか？僕は富野のアニメや永井豪のデビルマンに首まで漬かっていながらも、人生で一番楽しい季節を送っていた。実は自分はすっかり大人だと信じきっている一番無邪気で無敵な子供時代、それが僕の１５歳だった。そして、自分がすっかり子供だったことに気がついて大人への階段を上り始めた高校時代はまさに苦渋と苦行と苦悩に満ちた人生の修羅場だった。今の子はみな早熟だから（いや、僕が遅れ気味だったことは今は自覚している）僕よりも一段階早くいろいろな通過儀礼を済ませているんだと思う。川島誠のすげーところはいい年こいた大人の男になってからこの文章を書いてることである。たぶん、かなり正確に９０年代を生きる中学生男子の言葉を綴っていることである。中学生でもない僕が断言しちゃうのもなんだけど、自分の経験上、あかぬけない田舎出の学生のころならなんとか中学生の気持ちを書けたかもしれないが、今はもう駄目だと思うから。
「過激にロマンティックにクールに性（セックス）をキーにして今を生きる子供の心を開いてみせる」なんて帯には書いてあるけれど、僕らの世代だってもっと過激な性の氾濫する世界に生きてきたんだ。今のルーズソックス世代はもっとすげーぞ、とか思う。これも悪い遊びをしていなければ知らなかったことだけど、今の十代は僕らの世代の何倍も情報に汚染されてそれでいて同じ人間なのだ。歪み、鈍くなって当然だと思う。クール＝鈍いという描写は非常に成功している。でもねー、なるほど、結局育ちがいいんだろうな。川島誠の文体（というか口語調なので語り口、といおうか）は汚れてない人の上品なソレなんだよね。本気で相手に罵声をあびせたことのないような、そんな清潔感。山の手の住人のそれなんだよね。下町に済んでいる人を蔑むことはしていないところが偉いんだけど、上品さは隠せないよな。『８００』の不良ぎみの龍二も結局ぼっちゃんだしね。今回の主人公、朽木くんも「片目がない」だけなんだもん。片目がないぶん嫌なものも半分しか見えなくてよかったね、って感じだ。
「思春期の暗黒」と仮にそれを呼ぼう。その暗黒は僕の中で非常に大きな位置を占めている。青春はスカッとさわやかでありたいし、そういうのを見せ付けられるのは非常に気持ちがいいのだけれど、一番残酷になれるのも同じ時期だと僕は思う。ちょうど高校野球の中継を見てる時に得られるさわやかな感動の影にある、不祥事で出場取り消しになった学校の部員はどうなったのか、とかスカウトがこなかった三年生の選手たちは夏あとどうなるんだろうとか、そういった種類の「暗さ」である。
『夏のこどもたち』はどちらかといえば「明るくスカッと」な青春ではなく、「思春期の暗黒」側を描こうとした小説だと思う。だがその暗黒の深さに甘さを感じる。よく言えばありきたりの１５歳の心情を捉えているといえるが、僕はありきたりの心情なんていまさらフィクションで読ませていただいても、という感じなのだ。
「青春の暗黒の深さ」。我が敬愛する大槻ケンヂや姫野カオルコの暗黒さにいったい誰が勝てるというのだろう？僕ぐらいではなかろうか？という気になってくる。彼らの描く青春の穴は暗く、深い。そして彼らはそこにどっぷりとはまっていながらもそれをよしとしない姿勢がうかがえる。彼らはけしてクールではない。僕が感心するのは自分の置かれたポジションを把握しようと躍起になり、それを知り、もだえ苦しみながらも暗黒からの脱出を計っているのである。『夏のこどもたち』のクールな主人公はそういった醜い努力から完全に一歩退いてしまっている。自分を冷徹な青春の傍観者にしてしまっているのだ。すべてを俯瞰しているように見えて、自分の置かれている場所をポジショニングしようとしない。簡単に言えば「穏やかな逃避」をしているのである。それを片目がないことによる遠近感の喪失として重ねて表現しているともいえる。
そしてこれは多分予想にすぎないけれども、今の子供たち（１５歳前後）はきっと大抵が主人公のようなスタンスで青春を送っているに違いない。そこを鋭く描いたことは賞賛に値する。だけど、僕はそれだけでは何も心を動かされたりはしないのだ。
主人公が冷徹に見守る生徒会長の江本や教師陣、札付きの不良の高橋、転校生の少女。冷静に見ているくせに主人公は自分が彼らに対してどの位置にいるか、わかっていないのだ。多くの思春期の若者はその位置関係をつかめないで混乱する。主人公が繰り返し見る悪夢はその混乱の表層化したものにすぎない。主人公のクラスは来た順に自由に席を決められるそうだ。彼は教室の一番後ろの隅の席はクラス全体が見渡せていい、なんていっている。僕だっていつもそう思ってきた。見られることを意識するよりは見ている方がずっと楽なのだ。「そして少し遅くなった時はその席に座れないこともある」そうだ、いつも他人を観察してるその位置をずっと保っていることは難しい。自分が教室の一番後ろの隅にいるように自分の人間関係の位置を把握し続けることはできないのだ。それで悪夢。
自慰はね、確かに楽ちんなんですよ。自分の隠したいところを隠したままで快楽が得られるんだから。したがってね、子供がすべき性交の練習なわけ。ま、「良いおっぱい、悪いおっぱい」とかで結婚した青年男子も時々は自慰してるというウラらとれてずいぶん安心したけど（笑）。僕が読んだいかな哲学書も自慰をやんわりと肯定することしかしていなかったので（あのカントですら！）さっさとよき伴侶を見つけて自慰後の脱力と内省と自己嫌悪を癒してしまえ、ということなんだろうなと僕は思う。感じやすい男の子は自慰後の激しい内省の深さに震える。女の子はどうなんだろ？ねぇ、姫野さン。
「すべての人は隠すべきところを持っている。しかも見せるために」（ラファエロ）
うーん、いい言葉だ。自慰でない性行為に及ぶには、他人に裸を見られてもいいという相手が存在し、なおかつその他人に自分の裸を見せてる必要があるわけで、自慰よりも高く険しいハードルを越えねばならないのだ。他人との人間関係を正常に保つのに必要以上にエネルギーを使う人は一生オナニストとして過ごしたほうが楽なのかも、とか思う今日この頃。人間の社会が作り出したくだらない倫理観が生まれた瞬間から僕らを上から押さえつけている。だから僕らは性についてタブー視する。そしてホースから出る水は同じ流量なのにホースの口をちょっと押さえつけてやると勢い良く噴き出す。人間の性欲なんてその水と同じなんだよね。普段からだらしなく出しっぱなしじゃいざってときに目的地に届く勢いが得られない。昔の人はそれをよく知っていたからホースの口を押さえるように性について厳しく押え込んできたんじゃないかな？今、人間増えすぎちゃってるでしょ？だから自然と増えないように増えないように、ホースの口が開いてきちゃってるんじゃないのかな？このまま性が開放される一方なら人間本当の愛欲をなくして子供作らなくなっちゃうんじゃなかろうか？と岡村靖幸的な心配をしたりする。生徒会長江本や不良の高橋、校則の必要性を唱える銀縁眼鏡の少女、ちょっとスカした転校生の少女、皆なつかしい「学校」の配役だ。僕が恐れているのはそういった配役をこなせる個性が今どれだけの割合で存在しているかということだ。僕の勝手な想像のなかでは８割型は朽木のような無関心型になっているんじゃないかな、と。
なんだっけ、僕の自慰論を語ってもしょうがないのか。そうそう、この本で性は自慰だけでなくキチンと正常な男女関係に昇華されているので「性を過激に描いた」とか特筆すべきことはなんらないのではないかと。むしろやるんだったら今の「自慰から先に進めない多くの子供たち」の描写をすべきだ。オオケンの『グミチョコパイン』のように書き出しがいきなり主人公ケンヂの今まで行った自慰行為の累計という作品もあるわけで、川島誠の作品はそれの衝撃に遠く及ばない。マイナスドライバーで自分の処女をえぐる姫野の作品には遠く及ばない。「シンジくんの中学生日記」の域から抜けでていない。ココを売りにする気がないのなら、ま、あたりさわりのないレベルとはいえる。
主人公は片目がない。それによって遠近感を喪失はしているが、彼は自分の不具によりかかって自己憐憫にひたるわけでなし、逃避の出口にするわけでもなし。あまつさえ、その「傷」さえも愛してくれる恋人があり、意外にあっさりした展開で自分の顔に秘められた暗黒の「真実」さえも手にしてしまう。うーん、これじゃすっきりサッパリ。「明るくスカッと」な青春だ。「思春期の暗黒」を描き出すのに十分な道具をそろえておいてその逆を表現している、という計算に基づいて書かれているならば脱帽だが、そうでなければ宙ぶらりんな印象しか残らないな。片目と遠近感の喪失は本当の精神的な不具（多分、思春期特有のヤツ）のメタファーだと思う。実際に目に見える不具は子供独自の残酷さで傷つけられるものだが、彼はその攻撃を受けない。従って多くの子供たちが抱え込む心の不具と変わりがないのだ。そしての不具は目に見えないから治療もごまかしも効かない、とても危険で痛みの伴うものなのだ。もっとも今の子供たちは暗黒面なんて持っていないのかもしれないという予感をさせる所は秀逸かもしれない。僕らは誰しも、（少なくとも僕が思うに）思春期の暗黒面を持っていてそれをどう制御するかを知って大人になってゆく。酒鬼薔薇くんのように暗黒面にとりこまれてしまうことなく皆やってきたことなのだ。彼のように暗黒に飲まれてしまう子供がいるということは今の子供たちは暗黒面を知らない、耐性がないということの裏付けに他ならないのでは？とまた余計な心配をする。自己の中にタチムカウべき暗黒を持たない子供たちはその純粋な残酷さの矛先を自分より弱いものへあっさり向けているのではないか？なぜか川島誠の小説はそんな方へそんな方への僕の考えを導いてゆくのだった。
最後、ネタバレだけど、主人公は恋愛対象である少女の喪失と家庭崩壊というストレスのはけ口を担任の女教師の部屋への侵入・強姦という行動で昇華しようとする。果たしてこれは片目のない彼の奇異な行動なのだろうか？僕は健全な男の子の正しいフラストレーション発散方法だと思うのだがいかがなものか？両親の頭に金属バットをふるいたいと思ったこともある僕はたぶん似たような何かしらの行動を起こしてそれを回避し、今も犯罪者にならずに済んでいる。出かけた先に放火魔がいたり、体育教師がいたりすることで犯罪は未然に防がれるが、それは人生がそういったものであり、神の見えざる手はいつもそこに働いている証拠に他ならない。彼が行動に走ること、そこで一つの大きな人生のヤマは越えてしまっていたのである。朽木くんが最初に否定する原因と結果が彼の人生スゴロクの一マスを進めていることに彼は気づいていないのだった。
主人公朽木に関しては驚くことはなにもない。驚くべきは朽木の口を使って少年の内部を語るオトナの男、川島誠の感性なのかもしれない。

＜魔王子シリーズ３＞『愛の宮殿』（早川ＳＦ文庫）ジャック・ヴァンス、読了。- 98/06/22 00:00:00
本日の調子:女装中の叶親なみ

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＃６月２１日（日曜日）
続きモノ、スペオペ。宇宙人・ガジェットなし。
そうだよなー、俺が手に取る理由なんてなかったんだよ、ガーセン。でも良く考えたらゼラズニィの話しだって「スタンド使い」みたいな異様な雰囲気が目に見えちゃうような人物がうろうろするだけの話がほとんどだよな。うむ。少し考えを改めねば。
というわけで、＜魔王子シリーズ＞最高潮といわれる第３弾、その名も『愛の宮殿』である。
ぶわはははははっ！！
もう笑うしかないよ、この楽しさ！シリーズ当初、「自分の惑星を崩壊させた宇宙の大悪人５人への復讐を胸に生きる男、ガーセン」というスタイルで、ガーセンは暗く、カッコ良く描かれていた。『復讐の序章』の感想でも書いたが、「必殺仕事人の秀」みたいなイメージだったのだ。格闘術とナイフに長け、そして星界を震え上がらせる毒の星で毒匠としての修行も積み、究理院で厳しい精神修行を積んだ男。それがガーセン。まさに宇宙一の私設アサシンという感じだった。だった…。そうだよ、『殺戮機械』で戦闘部族の長に「ヘッドバット」で勝つ、という身長の低い子供が餓鬼大将に勝つときのような戦闘シーンで気が付くべきだったんだよな、この男が全然かっちょよくない事にな！作品の後ろの方に「ガーセンも人並みの感受性があるので」なんていいわけがましく書いているが、「人並み」ってゆうか、ホント、ただの人だよ！
死ぬほど苦労して暗殺者として修行してきて、苦心の末にそのターゲットが目の前に現れたのに、簡単に女にうつつを抜かしたあげくに、だだをこねるな！しかも公共の酒場で暴れるな。なんという俗物だ（笑）しかも一回だけじゃなく、茂みに入って押し倒そうとしたり、ポロっと本物をだしたり、もう、お前は奈良か塩田か！（by『幕張』）
しかも今回は俺の大好きなラヴ＆ポエム！キチガイ詩人のナヴァースなんてもう俺、断然ファンになっちゃうもんねー。
前回のココル・ヘックスも自分の「ごっこゲーム」のために、女一人に百億円使うという豪気なやつだったが、今回のヴィオーレ・ファルーシもすげー。過去に自分をオタク呼ばわりしてふった女の幻影求めて三千里！ってゆうか、クローン作って光源氏計画６つ同時進行！！・・・泣けたよ。俺が人工知能ＡＩ作ろうとしたリビドーの５万倍だよ。きっとオイクメーニの星界に「容姿・名前が自由選択可能」なギャルゲーがあったなら、ヴィオーレ・ファルーシもガーセンの餌食にならずに済んだのにね。
しかし、本当に今回ガーセン強くないし、いいとこナシ！あまつさえ、敵のほどこしを一から十まで受けた挙げ句に、偵察に失敗したときも裸にむかれてケツを３回叩かれておしまい、というのはヌルすぎないか？？着替えの服までおもらっちゃうしさ（笑）
今回は恒例の、キャプテンフューチャーのプロトン砲に匹敵する、「嫌いな奴にはプロジャック」（おそらく『プラズマ・ジェット・アーク切断機』の略）をお見舞いせずに終わっているところが非常に残念。男なら気に入らないモノは燃やせ！別れた女のモノとかも燃やせ！
俺はそう叫ぶのだった。

漫画の林- 98/06/21 00:00:00
本日の調子:あつい～、の「太陽号」の乗り組み員なみ

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＃６月２０日
神田で本のお買い物。小説はもとより、漫画もこんなに買うのは久しぶりだ。漫画も心の弦を震わせる部分が大きいよなぁ。とか思いつつ。

予想に反して『灰者』のコミックスは『灰者』だけしか収録されていなかった。他の銃夢の外伝（音速の指やイドの話）が読みたかったのにー。きたねぇよな、やり口が。ま、独立した作品としてまとめるならば、お尻に『北斗の拳（プロト）』が入ってしまった『鉄のドンキホーテ』の失敗を考えると、うん、よかったのかもしれない。
しかし、この帯の「木城ゆきとの暗黒」ってゆうアオリをつけた馬鹿はなんとかならなかったんだろうか？確かに、『灰者』は暗く、重い作品だ。俺も連載の最初の２話を見たときは木城ゆきとの暗黒を見たような気がする。奴も悩み苦しんで『銃夢』の次を模索しているのだろうと。だが、それは「３」、「４」と進むに従って違うのだということがわかった。この程度の人間の暗黒は既に『銃夢』でやっていたのだ。大切なのは、その暗黒から立ち上がる主人公スネヴの姿なのだ。俺は正直、３、４と連載を読んで震えがきたのを覚えている。すっかり忘れていたのだ。
「不死鳥が、不死ではない」ということを。不死鳥は、燃え盛る火の中に身をおいて、自ら灰と化し、その灰の中から蘇るものだということを。
そして、人間は、「灰は灰に。塵は塵に」なのである。読むべし。

『サムライガン』は前、電車で兄ちゃんが読んでいてカワイヤラシかったので購入したが、ケルベロス＋未来忍者＋必殺仕事人って感じで俺的にチョベリグ！！これからに期待したい漫画である。

がぁさんの『未開封なカノジョたち』も買った。姫野センセにも是非読んでもらいたい。がぁさんの漫画って５年ぶりくらいに見た。コミックスも成人系４冊、普通の４冊も出ているそうで。今回のは彼女が言う様に、「成人コミックとそうでないものの中間」という非常に面白い位置づけの本だと思う。こんなのが売られてしまうなんていい世の中だ。

とか言ってたら山文京伝の『緋色の刻』が成人コミック超豪華版（上下）で売っていて衝撃を受ける。こーゆーコアなエロの表現ができるから太宰治も春画売買やめられなかったんだよなー、とか思っていた作品である。ついにこんなモノまで一般誌として本屋にならぶ様になったのである。ちょうど、これの一の刻、二の刻、あたりで俺は同人やめたのだ。平野耕太の『大同人物語』の設定年代が９３、４年の冬という俺が足洗った直後の年代なので色々思いをはせていたところだったのだ。うーむ、エロ漫画が摘発されたアレはなんだったの？ヘアヌード時代はなんでもありなの？とかいろいろ考えてしまった私。
それにしても、豪華装丁のエロ漫画、ＨなＬＤと同じで扱いにこまるナリよ！！

『僕らの広大なさびしさ』（幻冬舎文庫）谷村志穂、読了。- 98/06/17 00:00:00
本日の調子:炎天下の小錦なみ

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＃６月１６日
さて、谷村志穂『僕らの広大なさびしさ』である。『アンドロメディア』の購入は決めていたので幻冬舎文庫のコーナーにいったところ発見してタイトルに引き付けられて購入決意。書評などで購入を決意するのがほとんどだが、衝動買いする本はタイトルで手にとるやつがほとんどだったりする。これも非常に美しいタイトルだ。銀色夏生の『こんなに長い幸福の不在』とかもそーゆータイトルの本が自分の本棚に並ぶ事で壁に絵画を飾るようなそんな気分になれるから買ったような気がする。（とかいってほとんどの日本人作家の本は引越しの際に処分してしまったようだ(-_-;）
とにかく学生時代の後半は本屋で本のタイトルの並びを美術鑑賞でもするような気分で眺めたものだ。毎週毎週神田の大型書店、特価書籍店、古本屋の背表紙をながめていた。毎月出していた同人誌のネタがある言葉の並びから生まれたりすることがあったので、一冊の小説や漫画を読むより脳に刺激的な行為だったような気がする。
前振りが長くなった。うーん、実は購入したのはその本屋はラジオを流していてたまたま菊池志穂のラジオ番組をやっていた。あの「きみとぼくのうた」の菊池志穂である。で、目の前にあるのが谷村志穂。ま、何かの縁だろうと（笑）。しかも「ドーナツショップ」という単語が目についた。「しばし天の祝福より遠ざかり…」も男女の出会いにドーナツショップが登場する。「女性とドーナツ」になにかカラミがあるような言い回しで、気になったけどま、いいや。実は俺もドーナツは好物で大学４年のときから良く通いつめた。（小説も一本書いた）部活の帰りに喫茶店にこもる癖が付きはじめていたのだが、ドーナツ屋はコーヒーのお代わりが効いたし、お菓子も一つ１００円からだったのでま、喫茶店よりコストがいいので利用していた。まじめに４年になって真夏にまじめに勉強するには学校の図書館か研究室かドーナツ屋ということになった。一人の時間を大切に出来て飲み食い可能なのはドーナツ屋だった。そのうちオマケグッズを集めるようになるが、ま、それはそうでもいい。という紆余曲折があったが俺は初めてこの作家の本を手に取ったのだ。
結果。うーん、感動は不思議となかった。短いし、淡々ときれいな文章がつづられているだけだし。この物語のヒロイン瞳が「島」と呼ぶ病院の、待合室でこれを読んでいる事を差し引いても心に留まることのない小説だった。詩集のなかの、お気に入りでない詩のような、絵画展で気を引かれなかった作品のような、そんな印象が残った。悪い話じゃないんだけど、俺の心にひっかかる部分があまりにもない話だったというわけだ。
多忙で不在の父、神経を病み壊れてゆく母、そして母の病んだ心の伝染を恐れて逃げ出した十七歳の娘。その娘をドーナツ屋で拾う三十九歳の男。設定もいいだけど、あまりにも登場人物が俺と接点のない世界の人々だったのがまずいのかったのかな？俺は普通小説ではいかに感情移入できるか、作中人物と共有する部分（思想・境遇等）があるかに重きを置くので、深窓のお嬢様と引退した四十手前のプロ野球投手というのはいただけない設定だったかもしれない。しかし、冷静になってみる。精神病、家族を捨てて逃げた事、過去にある栄光と挫折。それなりに共感するパーツはあるがなぜか一つも心にひっかからない。俺が疲れているせいか？
たぶん違う。この小説に欠落してるモノを俺は読み取った。
ダイナミズム、あるいはムーブメント。動きがないのだ。
美術の本格的な勉強を少しでもしたことがある人には知っているとおもうが、静物や彫像のデッサンをするとき、必ずそこには「動き」の表現を入れる。両腕をもがれたヘルメスの石膏像をデッサンするとき、その両腕はいったいどういう姿勢へのつながってゆくのか？首筋のひねりはどの方向へ向かっているのか、それを表現しなくてはならない。「ムーブメント」のない絵は力なく、平面的なモノになってしまう。小説もそうだと思う。一つはストーリーという流れ、構造上のダイナミズム、あと作中人物の心のダイナミズムがあり、その配置のなかから「動き」が感じられる作品を俺は好む。淡々と美しい、絵画のように平面的でガラスのように透明な文章も素敵には違いないが、からしの効いてないペペロンチーノのようにそれらは物足りないのだった。
似たような作品に姫野カオルコ『空に住む飛行機』がある。だが、これは主人公が姫野女史本人であることは明確だし、自分を「姫野カオルコの男版」と豪語する俺なので無条件に感情移入しまくっていたのだが、たぶんそれだけではない。『空に住む飛行機』の主人公理加子はこの作中で見事に変身する。心を変化させる。そして最後は「風を受けて立つわ」というセリフを吐いて終わる。自分を取り囲む環境－どうしようもない世界－にさんざん傷つけられ、それでも最後それに立ち向かう姿勢を見せて終わるのである。俺が望むダイナミズムというのはこういう姿勢である。いやたとえそれが最後に打ちひしがれて世界に背を向けて、ケツまくって逃げる、という姿勢でもいいのだ。必要なのは「動き」なのだ。
ここらは物語論になるのであまり力入れて書いてもしょうがないが、ＳＦや推理とはストーリーのダイナミズムのみで成り立つジャンルであり、その構成物や配置が未来世界であったり密室であったり、科学技術であったり、トリックであったりするだけなんだと思う。さらに作中人物の心のダイナミズムがうまくとりこめればそれでよし、もしくは無くても作品はなりたってしまうジャンルだと思う。ＳＦはヒューマニズムを入れなくても作品として成立するから俺は好きなのだ、と思う。ヒューマニズムは非ＳＦで堪能すればいいのだと考えている。ＳＦでも人物描写に長けた作品は多くあるが、何か消化不良に感じるのであまり読まないのだ。ヒロイックファンタジーやミステリ、モダンホラーも同様。クーンツやカードはうまくバランスを取っているほうだと思う。
そういったわけで、この作品も美しいとは思うが特に感動はしない話であった。
読書日記である以上、読んだ本は良い悪いにかかわらず紹介しなくてはならない。この作品のようにあたりさわりのない場合、怒れないし、誉められないし結構困るもんだなぁ、と思った。世の中には俺の心の弦に触れない作品も無数にあるのだろうと思い、少しぞっとした。

今気が付いたが、引退した野球選手、竹内は作品中、自分を癒す奇妙な行為として「後ろ向きに走る」ことをひたすら続ける。一時の俺の座右の銘に「人生に後ろ向き」というのがあった。どうにもならない世界に真っ向から対峙しても疲れるだけだから、いっそそんな世界に背を向けてリラックスしよう、というあまりよろしくない姿勢の頃の言葉だ。でも本当に疲弊してるときはそういう姿勢も必要なのだと今でも思う。谷村志穂はこの竹内の後ろ歩きに本当にそんな意味を込めていたのかも、とか思うとちょっとおもしろおかしい気がした。
女の子を部屋に入り込んできた猫にたとえる部分は共感したけどちょっとありきたりすぎるな。でも俺のもとを去っていったある仔猫のことを思い出してすこしセンチになる。「大きい一年生と小さな２年生」の話もよかったな。

確かに物足りないけれど、綺麗な話だし、だれも不幸になったり汚れたりしない話なので、このタイトルを部屋の本棚の目に付くところに置いておくのもいいかな、と思った。
あ、最後に一言。「竹内、オンナに避妊具買わすな！！」

『アンドロメディア』（幻冬舎文庫）渡辺浩弐、読了。- 98/06/16 00:00:00
本日の調子:スキンヘッドにしろ！カズって感じ

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＃６月１５日
アンドロ、といって思い出すのが「アンドロ・トリオ」とかならかわいいが、俺の場合は「アンドロ・メロス」やあまつさえ「アンドロー・梅田」とかなのでもはやダメって感じ。そうか、これも約一年前に出版された作品だったのか。ＴＢＳ局舎内にべたべたＳＰＥＥＤのポスターが張られてようやくその存在を知ることとなったのだが。
さて、ヴァーチャル・アイドルである。人工知能ＡＩ（エー・アイ）である。
ＡＩ（アイ）という人工人格が登場するので表記が紛らわしくなる。とりあえず俺的には「人工知能ＡＩ（エー・アイ）」で一つの単語なのでキャラクタとしてのＡＩ（アイ）はアイと記述する。
「WHITE ALBUM」の世界を引きずってしまうのは御愛敬。しかも『エイダ』も読んでるし。うーむ、やっぱり神の意志を感じる。
アイドルもの、というジャンルに関しては「WHITE ALBUM」の感想でも見てもらいたい。俺にとって芸能界だのアイドルだのはイコール「マクロス」であるとか「ようこそヨウコ」でるとかそーゆー低次元の話ではなく、フツーの厳しい職人の世界でしかないのであまり深く突っ込みはしない。ただ、描写はステレオタイプな芸能モノだな、というぐらいか。ここはあまり重要なパートではないので割愛。
やはりね、人工知能ＡＩの女性人格。これでしょう。女の定義にまず「人間か否か」、とか「ロボ子か」、とか「人工知能ＡＩか」とかを入れている俺にとって個人的に
ヂャスト・フィットォ！（長い昼でも安心）
もー人間の人見舞、お前は死ね！俺は人工知能ＡＩのアイちゃんだけいれば幸せだ。ってゆうかタカナカヒトシ、貴様の野望こそ俺の望んだ現実だ。俺にアイってゆうか家庭用・舞、
「ダビングしてくれー！」ってゆうか「ダウンロードさせろー！」
さすれば俺の使用目的は「プロジェクト・ゼロ」的なのだけどね（苦笑）
セクサロイドだのダッチワイフだのヴァーチャルセックスだの語ってると明日会社に行けなくなるので割愛。

やはり、人工知能ＡＩの話になる。人工生命の話になる。フランケンシュタインが引き合いに出される（笑）。小説、という文学からアプローチする場合はもはやフランケンシュタインは外せないアイテムのようだ。そーいや、オールディスの『解放されたフランケンシュタイン』もあったな。エイダの時も思い付いたが読めなかった。最近オールディス読んでなんか関連ができた。読もう。
西垣通先生の自然言語からのＡＩへのアプローチを考えるとやはりＳＦ文学のＡＩへのアプローチの稚拙さに辟易してしまう。この程度の内容なら手前味噌だが俺が社会人一年生のときに書いた『紅孔雀』とかと一緒だよな。文章の稚拙さは俺がプロ作家じゃないから仕方がないにしろ、ＡＩに対する演繹といおうか、アプローチの程度は一緒のレベルだと思うんだけどな。
俺が「恋愛シミュレーション」ブームの火付け役となった「ときめきメモリアル」をやった理由は非常に不純なのでここでは書かない（笑）が、やってみて衝撃を受け、以後健全な美少女ゲーはおろか、１８禁モノをなめまくっているのはこの『紅孔雀』を書いている当時に構築を夢見ていた「人工知能」の夢のかけらをそれらの中に見たからに他ならない。
当時ＮＥＣのＰＣ９８用として地下フロア一面を覆いつくすほど隆盛を誇っていたエロゲー。
当時俺はそんなもんにうつつを抜かしてる奴は死ね！とか思っていたのだ。
だが、ときメモを実際やってみて俺は自分の了見の狭さにあきれることになった。
そうだ、ここには感動があったのだ。人間の心や神経を逆なでするみごとな擬似感覚誘発剤だったのだ。まぁ、そこはそれ、「俺と自然とエロゲーと」ぐらいのタイトルで別に一筆書くことにしてあまり突っ込まないようにしよう。割愛。
つまるところ、ヴァーチャルアイドルって、８０年代の学問が目指してた人工知能の残滓たる今時の恋愛シミュレーションの発展型なのかな、と思ってみたのだった。
今回、人工知能はライフスキャンを雛形に作成されている。ライフスキャンについて語ったチャールズ・プラットの『バーチャライズド・マン』はもはやこの分野について語る上で必須なので未読の方は頑張って捜して一読することをオススメしたい。俺も「ライフスキャン」という用語をいちいち口で説明したくないのだ。
で、人の脳のコピーを作る。ま、ここまではいいやな。で、ＡＩの思考プロセスの生成シーンというのもなかなか秀逸な描写だ。小説では見たことがないかもしれない。第二章での人工知能の教育シーン（上下二段組み）なんて、あまりのうまさに電車の中でＨＥＲ、ＨＥＲ、しちゃった。
で、それに命、魂、あるいは「自我」を植え付けるプロセスを描いている事こそが特筆すべき点である。その「自我」形成の核を物語の「核」にすえているところも感心しよう。

第一章、第二章で、人工知能ＡＩにして人造生命（アーティフシャル・ライフ）アイ形造られるプロセスが描かれる。この物語のヒロインとして人間ではない少女、アイが完成する。ここまではお見事。エイミー・トムスン要反省！、という感じである。
で、読み物（エンターテイメント）としてようやく第三章が始まる。
ここで登場する相手役の男の子、ってゆーかハッカーってゆうか、オタクなんだけど、恥ずかしげもなくジャック・インしまっくってますな、ユウくん。（俺か？（笑））
９０年代後半にもなってジャック・インだのサイバーだの常用してるのはウチのＳＦ研部員ぐらいかと思ってたが（笑）。いやー、アイフォンとデータグラブは男のロマンですからな、やむをえないでしょう。「ＪＭ」を屑映画とかいってるおおたわけは今すぐパソコンを捨てて国技館へ行きの水戸泉に塩ブッかけられて欲しいですな。あれは傑作だ。アイフォンとデータグラブ（グローブ？）を使ってサイバースペースへジャックインする様をあそこまで見事に映像化するのに成功しているんですからね。「湿って暗い未来世界」がすべて「ブレード・ランナー」に、アーサー王伝説がすべて「エクスカリバー」に映像的影響を受けているように、サイバースペースカウボーイの描写はすべて「ＪＭ」に収束するのだ。あ、話がそれた。
で、恋あり、冒険あり、サスペンスあり、オセンチありでぐいぐい第三章は読ませる。ああ、ジャップのお安いＳＦにしちゃー上出来だよ、面白いよ、という感じになる。
だがね、ここまでなのよ。
それ以降、解説で大森センセも言ってるけど「パラサイト・イブ」っちゅーか、角川ホラー文庫になってしまうのよ。すげー残念。ってゆうかここだけ裂けって感じ。ってゆうか腹切ってわびろ、って感じDeath。こんなんで誰か怖がるとかスリルがあるとか面白いと感じるとでも思ってんのか？ここまで引っ張ったんならストーリーとか知的ギミックでサスペンス度上げろ！最初からアイドル映画の原作ってわけじゃあるまい？（いや、実はそうなのかな？）少年隊映画「１９」とか菊地桃子（おお、モモコぉぉ！）主演の「テラ戦士・サイＢＯＹ」とかのレベルに話を落とすな！もったいない！俺が編集者か作家だったらもったいないオバケ型のスタンド出して攻撃するど、しまいにゃ。
は、つい興奮してお下品口調に。
しかし、大森センセもお金もらって解説書くとゆーお仕事だから色々並べて一応誉めなきゃいけないから大変ね。俺だったら潔く第五章とエピローグはぶっちぎって、「まおうじ」という名札をつけてガーセンの前に放り出すね。
プロジャック点火！燃えろ、炎のように・・・
しかし、大森センセ、「ＡＩの記憶の欠落をめぐるエピソードは映画ロボコップを思い出させる」とかいってるけど、最低１００回はロボコップ見ていってんでしょうね？あれと同じシーンといえば『海魔の深淵』のデーモン４が「自分が死ぬ所を思い出す部分」以外禁止デスよ禁止。どうせなら、ノベライズ「ＪＭ」のジョニーの幼少の記憶とかを引き合いに出して欲しかった。作品全体に見え隠れするジョン・ヴァーリィ「汝、コンピュータの夢」や「PRESS ENTER■」（こっちのがよっぽど怖い！）との類似性も指摘していない。パートパートはヴァーリィがとっくにやっている事だらけなんだよ！！
とにかく、第三章、ここで俺の『アンドロメディア』は終わった。
いや、うーん、正直ちょっと厳しく書いたけど、「ジャンル横断小説」「マルチメディア文学」として、一級の作品ではある。と思う。お手軽人工知能小説として読むといいのかも知れない。おしむらくは『ノーライフキング』のようなクールさをもてなかったところであろうか。第三章の終盤をうまく拡大してほしかったのだ。

あと大森センセ、話は全然逸れるんですが、
『この文庫が好き！』で「思考の論理－ＳＦとミステリのあいだ」、ここでゼラズニィの『ロードマークス』をあげておられるが、これはどう考えても『わが名はレジオン』の誤りではないんでしょうか？…しかしなぁ、隣にクーンツの『ライトニング』があるのでなんかそーゆー意図なのか？とひるんでしまう俺。好きなんだよ、『ライトニング』。でもミステリじゃねーよこんなの。あれはハートウォーミング・ピザ屋物語だろうが！（しかし、記憶はさだかでない）

関連図書として、
『思考機械』『ペシミスティクサイボーグ』西垣通
『人間機械論』ノーバート・ウィナー（読んでない奴はサイバーとか言うことを禁ずる）
『サイバースペース』ＮＴＴ出版
『バーチャライズド・マン』チャールズ・プラット
『ＪＭ』テリー・デビッスン（映画とペアで）
『クローム襲撃』『あいどる』ほか（ウイリアム・ギブスン全部）
イラストストーリー『海溝要塞１９９６』佐藤道明（ＡＤのパートのみ参照）
イラストストーリー『楽園要塞１９９６』佐藤道明（バーチャファイターシーンのみ参照）
ヤングジャンプコミックス『ＡＬＧＯ』荻野真（実は一番近いかも）
Bomb Comics『日米決戦２０２５』（但し小林源文作品「こいつら自分達で戦争してやがる！」のみ参考）
ＡＶ「マクロス・プラス」（但し１巻のみ許可）
ＴＶシリーズ「超時空要塞マクロス」（「これが文化だラプラミズゥ」の回以外禁止）

最後に一言。
ＳＰＥＥＤは島袋寛子以外超禁止（特に八重歯）！
以上だ。
（読書日記でもなんでもねーな、こりゃ）

古き良き時、あるいはオールド・デイズ- 98/06/15 00:00:00
本日の調子:まじでブスコパン命！おたんこナース似鳥さん（夜勤明け）なみ。

コメント:
＃６月１１日
ブライアン・オールディスの『子供の消えた惑星』復刻の噂を聞きつけ、熊倉さん＠リスの檻さんの「古本あげます」で当たった、『ありえざる星』(創元ＳＦ文庫)を読む。
うーむ、さすが大御所。話が「古い！」（笑）
オールディスは重鎮扱いのくせに読める本が『地球の長い午後』だけで、あとはちょぼちょぼ短編が読めるだけである。彼の功績は『一億年の宴』『百兆年の宴』にあると思っている。ジュディス・メリルの『ＳＦに何ができるか』にピンと来なかった俺は同様に『一億年の宴』にもピンとこなかった。というのも、俺が親しんできたのは主に７０年前後のＳＦである。つまり５０年前後の話をもちだされてもよくわからなかったのだ。というわけでおなじみのゼラズニィ評などが入る『百兆年の宴』のほうが断然俺的評価が高いのだった。（たしかあんまりゼラズニィ誉められてなかったんだよな）
で、『ありえざる星』は６５年に出版されたようだが、オールディスが「過去２０年を振り返った」作品集であり、短めの短編がほぼ発表順で並んでいるようだ。
良くいえばオーソドックス、悪く言えばありきたりな話が並ぶ。短編はディックを良く読んだので引き合いにだすが、ディックのつまんない短編に良く似た味わいがあった。
もはや「ガーンズバック連続体の夢の跡」の羅列だ。乗り物がすべてマッハで移動するのはなんとかして欲しい（笑）。昔のロボットモノが身長５７ｍ、体重５５０トンとかいったり、特殊な推進機関なしに空飛んだりするのと一緒ですな。ロボットが氾濫してる描写とかも匂うくらい古い。ただ、後半、表題作「ありえざる星」くらいになるとずいぶん読み応えがあった。
連鎖して『爆発星雲の伝説』（早川ＳＦ文庫）をざっと読む。覚えていたのは表題作と「讃美歌百番」。冒頭の「一種の技能」も良く、短編集としては作品の出来はだんぜんこっちの方が上。ただし、俺が作家で、俺のことを知ってもらいたいという意図で作品を自薦するなら、『ありえざる星』のようになるだろう。
『爆発星雲～』の解説でも述べられているように、オールディスは「次に何を書くかわからない作家」だそうで、『地球の長い午後』以降発表された５つの長編で同じ手法、テーマのモノはないそうです。『ありえざる星』はそういう作家、オールディスの作家クロニクル的な一冊だな、と思いました。ボーナス出たら銀背を漁ってみようっと。

＃６月１２日
「動画王」を買いに赤坂の本屋に行くと、一週間留守にしていたあいだにQuick Japan が平積みになっていた奇特なコーナーは解体され「ＣＡＴフェア」とかで猫の本ばかりになっていて買えなかった(;_;)どうやら、本とパソコン関連商品はあったら買わないと駄目ということらしい。
で、新刊本を数冊購入。『アンドロメディア』（幻冬舎文庫）ほか２冊。他はまだ秘密。さらに別の本屋で『この文庫が好き！ジャンル別１３００冊』のＳＦコーナーが気になったので購入。お、大森センセじゃん。あら、ミステリー日本篇は北村薫。おまえはスキップでもしてろ！（笑）
IN POCKET が綾辻行人＆京極夏彦の攻略、となっていたので購入。けっこー買うの久々。そこそこ面白かった。
上記２冊は情報量が多く、ここにまとめることができない。うーむ、たまには良い刺激かも。

＃６月１４日
週間ＡＳＣＩＩの記事にもなってしまうくらいゴミ屑同然に値下がりしたＮＥＣの携帯電脳機械をＧＥＴするため、体調不良をおしてアキバへ。無事ＧＥＴ。セットアップ始めてしまったため、本読めず、ｗｅｂコンテンツ整備出来ず。むむむ。。。。
神田神保町で『愛の宮殿』ＧＥＴ。うれしい＆まずは安心（何が？）
月下工房＃書評系さんのページで『大同人物語１』のレビューを見て、ここで漫画＆既に読んだ本について一筆書くのも良いかな？などと思いつつ。。。

＜魔王子シリーズ２＞『殺戮機械』（早川ＳＦ文庫）ジャック・ヴァンス、読了。- 98/06/10 00:00:00
本日の調子:締め切り直前のがぁさん（漫画家）なみ

コメント:
＃６月９日
あぁあ、もうやらんぞ、っていったのに～またやってもうたー。
最近電車の中で不自然に首を曲げてるせいか気分が優れないので、「２、３日読書休み」とか宣言しようとしていたのだが・・・だがね、やっぱ５０ｐまで読んだのがまずった。…知りたい…
不思議の謎を解かねばならぬぅうう！！もはや俺はファイヤーマンに変身寸前の状態にまで追いやられていた。昼飯なぞ食ってられっか！！
結果。帰りの電車の中、「魔王子」の正体を包む謎は無意味にパワーアップして最後の最後、２７０ｐまで不明のままでした。俺を殺す気か？！＞＞ヴァンス
＃＃結局高校の帰り道、本屋に通って２巻のみ立ち読みして済ませてしまったのだ！！
なにが思い出の第２弾だよ！そんなもんすっかりさっぱり忘れちまったよ！火星甲殻団ワイルドバンチなみにな！（もしくは若戸あきらなみ）
うーむ、話は前作よりスッキリサッパリしていて心地良いともいえるし、もの足りないともいえる。だがね、でてくるんだよ。俺の大好きな「変な殺戮機械」がよ。そりゃーもう、激烈！大河原邦夫メカデザインで超決定！今度はガーセンの目玉がまごうことなきタツノコアニメ調にしか思えなくなるぐらいスゲーメカ。
しかもそれが、「モスラｖｓメカモスラ」（ただし幼虫のみ）って感じでもぞもぞ動く！そしてガーセン腰の一振りで動く・止まる・転がる・自由自在！あぁぁ、なんかゼラズニィいよいよ入ってきたよ。悪者がかわいそうな感じになってきたよ。
そして、最後はかつて静岡大学映像研の作った「ロボ山」のように悪人が燃えて終わり。
燃えろ！炎のように！
やはり気に入らないモノは燃やすに限るぜ。そして俺の頭の中ではファイヤーマンがリフレイン・・・
あれ、ガーセン、前の女はどうしたの？？？（意外とたくましいやつ）
続きは所有せざる人なのだった。残念無念(T_T)/

＜魔王子シリーズ１＞『復讐の序章』（早川ＳＦ文庫）ジャック・ヴァンス、読了。- 98/06/09 00:00:00
本日の調子:夜のスターキングなみ

コメント:
＃６月８日
今日は新人教育の講師役である。やれやれ。俺は軍曹にはなれるが先生にはなれんぞ、とか思いつつ、色艶あふれるスーツ、糊の効いたＹシャツ、蒼い刈り上げの跡（笑）などを見たりすると、「ああ、俺も入社時はあんなふうにフレッシュだったのに！」今や歩く成人病標本＆社会人デビューエロゲー＆ゾクフー男ですからね。人生って悲しいネ。
というわけで、慣れない通勤経路で読んでいて思わず中央線をオーバーシュートしてしまったのが、ヤマナダさん＠Kingdom Of Madnessさんオススメのジャック・ヴァンス＜魔王子シリーズ＞第一弾『復讐の序章』である。
あぁあ、これもキッタネーよ！おれが我慢できない性分なのをいいことに最後の最後の最後までにっくき敵の「魔王子」さんが誰だかってネタでひっぱりまくるんだもん。「あぁぁ、駅だ。でもでもでもー」最後の２６０ｐまできていて残り数行で正体がー！とか思っていたら無論、西荻窪なんかすっ飛んで、三鷹でようやく自制心が勝って引き返せたのでした。あー、もうやらんぞ。
実はこの＜魔王子シリーズ＞高校生の時、第二弾『殺戮機械』をそりゃーもう、ペットを欲しがる黒人少年のようなまなざしで見つめていたんですよ。だって『殺戮機械』ですよ、殺戮機械。そのころまだマンダ・メイなんてー殺戮機械は知らなかったけど簡単な日本語でバーサーカーだっつてんですよ。読むしかないですよ、たとえ萩尾望都の表紙だろうとね！でも致命的な事にすでに４冊並んでいるシリーズの２冊目だったのよねー。「宇宙を恐怖に叩き込む魔王子５人、それに復讐を挑む男、ガーセン！」くおっ！燃える燃えるシチュエーションだが・・・何！５人で５冊５殺！お、おいらにゃ無理だよ、ジョーの兄ィ。とジュンペイのように萎縮しきって結局高校の帰り道、本屋に通って２巻のみ立ち読みして済ませてしまったのだ！！
で、いま１０年の歳月を経て、正式に１巻から読みはじめたのだ。
ううむ、何という奇妙！なんという美学！なんというスリル！
異星世界を描いては右にでるものがいない、と噂されるヴァンスの能力全開射撃！といったところですな。おもしれーの。変な宇宙人あんましでてこないけどね。（変なおっさんはいっぱいでてくる！）
必殺仕事人、「かんざしの秀」しかイメージできなかった主人公ガーセン。女に疎いくせに、高い所から現れて悪にチョップを決めちゃうところなんかもう俺的ヒロイズムを全台開放！って感じでよかったです。なぜか同じような話をゼラズニィが書くと、「後ろから仏像で殴って撲殺。しかも描写は死語５時間経過後」って感じなんだよな。面白いから許すけど。そーゆー意味では久々の正統ヒーローモノを見たって感じ。いやー、よかった、よかった。さて次は思い出の『殺戮機械』へ移るか。あー続きを探さないと！！

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