U-kiの読書日記(98/5/25～98/6/7)

U-kiの読書日記(98/5/25～98/6/7)

『８００』（マガジンハウス）川島誠、購入＆読了＋３！- 98/06/08 00:00:00
本日の調子:ながくつしたのアベベなみ

コメント:
＃６月６日（祝うべき良い日）
さて、ヒラノさん＠ねころが～るさんが血涙を流さんばかりにオススメの
『800 TWO LAP RUNNERS』を読む。まーず、売ってなくてこまったのよこれが。
三省堂にてＧＥＴ！字が少なそうだったので読み始まるってゆうか、書き出しがスガスガシー！感じだったので読む。
開始１０分後、俺は深夜の自室で叫んでいた。
「龍二ィ！ガンバレェ！」
もう女子高生ののりでさ。
・・・これは、二人の男の子、ってゆうか「男子」のひと夏のメモリアルである。
おお！なんか期間的には恋愛シミュレーションと一緒じゃん！
そして二人のまったく異なる、あるいは正反対といっていい属性の男子の一人称で話は進んでゆく。二人が共有するのは学年と時間と４００ｍトラック２周分だけである。
一見ばらばらな二人の物語が一つに収束するさまはディレーニィのマルチプレックス小説に似た者があるが、俺としてはもっと簡単な図で顕わせるように思えた。



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まったく噛み合わない方向性を持った二人。でも二人とも８００ｍの選手で誰よりも早く走りたいと思ってる。共有しているのは時間だけ。そうだ。二つの位相のずれた正弦波。これがこの物語の真相だ。
高校一年生の陸上競技の男子選手二人。実力もほぼ拮抗。いいことも悪い事も生きていればさざなみのようにやってくる。これが人生。まったく相反するように見えても同じ高校生ランナーである。育った環境が違うだけ。考え方が違うだけ。悩んだり苦しんだり、喜んだりするのは一緒。というわけだ。二人がクロスするのは陸上競技場であったり、夏の海辺であったり、女の子の上であったりする。同じ方向に走っているのだ。進路を妨害することも、甘んじて後ろを追うことも、並んで走る事も、衝突することもある。そうだ、８００ｍ競技は人生の縮図なのだ。いや、俺は思う。すべてのスポーツには人生の縮図があると。それはドラマなのだ。
世の中にはいろんな二種類の人間がいる。男と女、理系と文系、文化部と運動部。うーん、まどろっこしい。自分はちょびっとだが体育会系の部にも属していて、岡村靖幸の歌うところの「優勝できなかったスポーツマン」の心がわかる。スポーツをやって、勝つ事の喜びと負ける事の悔しみを知っている。それはその酸いと甘いを知らない人種とはまったく違う存在だと思っている。俺は野球やサッカーが嫌いだ。やるのはもっと嫌いだ。だがね、見て文句いってるだけの連中とは違う精神を持っているつもりだ。
８００はそーゆー人種の神経をビビッとさかなでするのだ。いやらしいくらいに。
勝つ事と負ける事に大差はない、なんて悟りは孔子が赤いチャンチャンコ着て「わかったよ！」とかいったのと同じ頃にわかればいい。高校一年生なんてー蒼い時期には勝ってはガッツ石松の２０倍のガッツポーズでおたけびをあげ、負けては鼻血を出して下唇をかみ切らんばかりに悔しがればいいのである。
中沢君は強い自分にナルシスな毒の強い環境で育った雑草くんです。すてきなことに曲がっていません。結構めずらしいタイプです。
広瀬君は自分を制御できると信じきってるサイボーグです。無農薬野菜なので虫がついちゃったりしますが、虫がついてない農薬漬け野菜よりずっと健康です。彼も虫食いはありますがすっきりまっすぐ育っています。
そんなまっすぐな二人を見ると、「ああ、俺もまっすぐでいたかった」自分がもはや針金でぐーるぐるの盆栽状態なのでうらやましくなったりします。
性に開放的な二人ではありますが、「大胆な性描写」なんて書くほどじゃないですな。渡辺淳一のねちっこいのにくらべればドリアンの前のアボガドです。むしろ多くの私立中高一環男子校や理系まっしぐらで無農薬野菜で精神盆栽男の群れの方が不健全だというものです。おまえら全員フィリピンでゴーゴーバー以外快楽のない工場立ち上げとかにいって修行しろ！・・・話がそれた。ま、性の描写は噂に聞くほどじゃございません。あれだったらチーズに生えたカビの方が不潔ですな。
二人の男子高校生がトラックを周回するように、春から夏、秋へと季節はめぐってゆきます。別に目玉が飛び出るほどトキメキな出来事もないし、臓腑を握られるような悲しい出来事もなく、季節が移ってゆきます。だが、その文章の牽引力は一瞬たりとも俺をはなさないのだった。
そして、ラストはまさに上の図のように二つの波がクロスして？？？のまま終わる。
ああ、知ってるぜ、俺はこれに似た話を！『１９分２５秒』（集英社）引間徹、だ。
片足義足のサイボーグ男がただひたすら競歩をする話。彼に引き寄せられ一緒に走る決意をする男、彼に夢を託すもと陸上選手、そして咳止めシロップを飲んで笑う少女。うーん、勢いで読み返してみて、全然重なる部分がないけど、やっぱり牽引されちゃうんだよな。
人はどこかにむかって走り続けているのかもしれないねー。
とかおもいつつ、かつて広瀬的だった俺は中沢的な生き方にあこがれてつっぱしり、そしてかつて広瀬的だった自分を懐かしんでいる。そうだね、俺も所詮は正弦波なのだ。
人は一所にとどまる事も出来る。だが、思いきりうねって進むこともできる。
俺は、そのうねり、すすむことに美しさを感じる。
スポーツマンを応援する皆の気持ちも、その美しさに惹かれるからではないのか？
人はだれしもスポーツマンである必要はない。ただ、スポーツマンシップにのっとって生きる事は出きる。部屋にこもってプレステやって、レンタルのビデオ見てるだけじゃ、人生終わりだ。たまにはディスコにいってバーボンソーダを飲んで、失った恋のために涙を流せ。死んだ者のために涙を流せ。そして女の子には優しい声で「好きだ」ってささやけ。それが力いっぱい生きてるってことにつながってゆくのだからさ。
あんたの人生、まだ２周目、残ってるよ！＞＞そーゆー気分になれる話だ。読め。

＃６月７日
で、途中で何事も止められない俺は徹夜。明け方気持ち悪くなる。
で、起きて読んだのが後輩のＲから「僕の哲学書です」と薦められて借りてきた
『できるかな』（扶桑社）西原理恵子、である。
いやー、笑った、笑った。あんまり笑いすぎて天候＆体調不良の俺は一日中寝ておったよ。うむ。（苦笑）
サイバラの本はたしか学生の時に友人の珍さんに勧められて読んで、「うーん、普通」と思っていた。まだきっと下品でなかった俺が拒んだのだ（笑）。いまはまるで問題無し！超ＯＫ！『鳥頭紀行』も一緒に借りてきたのだが、動燃こきおろし&タイ篇の『できるかな』の方が５倍良かった。プルトくんとか書いてんじゃねーよ（笑）
サイバラ先生は以前にまして下品になってた。結婚したの？？
前も写真みて「いい」とかいってたが俺は三十路過ぎた彼女見ても「カワイイ」と思った。毒の強さも俺と五分だしネ！
ってゆうか、姫野カオルコも永野のりこも「ＯＫ！」とかいってるので、要するに守備範囲３６０度！なのかもしれない。うむむ。
とにかく俺が学生のときからだーいぶ変わった事を知らされ、同時に「このまま日本にいたらイカン！クーロン黒沢はんを追ってタイにいかな！」とか思うのであった。
Ｒよ。わかったぜ、お前の人生哲学がよ！

俺のベストＳＦの解説国内版を書くためだけに『エメラルド妖麗伝』（光文文庫）竹河聖、を購入＆再読。うーん、すっげー字が少ない（笑）まー少年漫画だね、ようするに。でもさー霊体だの精霊だの呼び方変わってるけど、緑色でキラキラ光るスタンド出して狼女だの亡霊騎士だのと闘う話、なんてーのがあったら読まないわけにいかないじゃない。ラスト鯱が死んじゃうなんてすっかり忘れてて泣きそうだったもんな。
全巻そろえようと思うと結構大変だよな。こーゆー読み捨て形式の文庫や新書って。
『黒豹スペースコンバット』とかは読んで捨ててもいいんだけどな（笑）
これも一気読み。

『エイダ』（早川文庫ＪＡ）山田正紀、読了。- 98/06/06 00:00:00
本日の調子:雨の日のリルケなみ

コメント:
＃６月５日
しまった。実はかなり俺内部で革命的に評価が上がっている。
実は昨日(6/5)の朝３時に読んでしまっていたのだ。分けて読むことが我慢できずに。
ここでまた宗教や神話や神や正義や価値観について語るのもどうかとは思うが、そういったものに振り回された事が結果的に今の俺を形作り、本を読む事にもなっているのだから少し時間をかけて大目に文章を書いてみてもいいのではないかと思う。

なるほど、解説を読んでわかったが、「エイダ」のＳＦＭでの連載はかなり長期に不定期に行われていたのだ。ＳＦＭを購読し始めたのが大学でた９２年あたり。初めの頃の読みこぼしがあるのだ。家のＳＦＭ全部ひっぱりだして文庫と内容比べるほどパワーがないのでそれはやめておく。「未来兵団２００８」戦闘シーンと、苦痛に喘ぐエイダと、バベッジの部分しか覚えていなかったのも無理はあるまい。こんなばらけた連載では物語り全体を把握できない。各連載を一篇の短編として読み、階差機関関連の部分だけ覚えていたというわけだ。一冊の本となったエイダの「物語」の威力を当時の俺が感じられるはずもなかった。

『エイダ』は人間が物語を作り、物語が世界を作る、というお話であるが、最近一部で話題のディレーニィが観客参加型のメタフィクションを書いているが、山田正紀はそこまではちょっと到達していないので逆にわかりやすい。分散した章が折りたたまれてひとところに収束していく様はディレーニィ並みの匠の技といえよう。
『アインシュタイン交点』よりもわかりやすかったし、シュレディンガーの猫(『ヨナ・キット』)とかビッグバンの話（『タウ・ゼロ』）とか物語の人物が登場（『白き日旅立てば不死』）とか、とにかくこのひと月かふた月の間に読んだ本が皆この本を読むためのしたごしらえであったような気がするからすごい。たまにはこういう運命じみた行為を楽しむのもよかろうて。
では、神と詩と歯車機械であると感じた俺はそれにそって感想を述べる。

ところで、俺は高校時代から大学時代にかけて２つの「俺の物語」を持っていた。人生、とかゆーのではなく、要するに未発表の長編小説（大学ノート２、３冊分）である。
それらは結局、一つの物語として円環するのだが、ま、二度と発表する気がないので詳しくは話さない。一つは『Battle Ax』という、当時ゼラズニィをそんなに読んでいなかったが『ドラゴンランス戦記』をちゃんと科学考証する、みたいな話で書いていたが、そのうち「天竜鬼神衆」に始まり、インド神話をひっくるめて最後ゾロアスター教の二元論へもってゆく凄い話で最後は漫画「デビルマン」に落ち着くのだった。その「物語」を書くために一生懸命、宗教、哲学、神学、神話の本を読んだ。ムーとかサラブックスとか矢追純一からデニケンまで読んだ。俺は本当の「神」が欲しかったのだ。誰のためにではなく、俺自身のために。
俺が『エイダ』を評価するのは日本で本格的にゾロアスター教について記述した数少ない作品の一つだから、というのがあるかもしれない。ゾロアスター教は実は俺の神狩りの旅において非常に重要な位置を占める存在だったのだ。
光と闇、正義と悪。二元論は悩み多き青年にも分かり易い世界構造だった。
だがそこにはいろいろな世界の縮図があったのだ。
アフラ＝マズダ、アンラ＝マンユ（作品中は「アングラ＝マンニュ」と記述）なんてー単語を見るのも久しぶりだった。『エイダ』は、学生時代、姿ある神＝天使の実在を求める俺の「神狩り」の心の旅を思い出させるキーワードがちりばめられていた。
拝火教、あるいはマズダ教は紀元前６世紀頃、ゾロアスターその人、３０歳の時にアフラ＝マズダの天啓を受けた事により彼の手で「宗教」の形としてまとめられたもので、それ以前から光の絶対神と闇の悪魔の闘いはイランの人々の目の前で展開されていたのだ。彼が二元論を一元論的にまとめあげたのである。
ツァラトゥストラ（「国が変われば名前も変わるわ」（タウ・ゼロより）とは良く言ったものだ）はこう語った。「神」はアフラ＝マズダのみ、と。
そうするとゾロアスター教はキリスト教やイスラム教のような一神教である。これは森羅万象に神が宿るという原始的な多神教崇拝に対して一歩進んだ考え方であった。
で、俺を震撼させた真実、というのはアフラ＝マズダ配下の天使、またアンラ＝マンユの配下の悪魔たちの姿である。キリスト教においても「神」とは姿なき存在である。見えるのは神の子、イエスと天使たちである。悪魔は天使と同等のあつかいであり、彼らは人間の前で闘いを繰り広げる。
アフラ＝マズダ配下の光の天使は最初、ミスラやアナーヒタといった古代イランの神々であり、それに敵対するは「悪魔」と化したヒンドゥー教の古代インドの神々であった。雷神インドラ（帝釈天）なぞはかなり手強い敵だったに違いないが、時が経つにつれ、著名なインドのディーヴァ神群はアフラの天使群の下級層に配置されてしまった！のだ。
かくして名と姿のあるものはすべてアフラ＝マズダの支配下となり、いつしか姿なき善の光も翼をもった人の姿でレリーフが作られるようになるとそれに対してアンラ＝マンユ（アーリマン）は怪獣から姿のない観念的な悪となった。結果、人々はアフラ＝マズダを凌駕する絶対新神ズルワン・アカラナを善悪を乗せうる器として求めたのだ。
イランの絶対神アフラ＝火の神はインドではアスラ＝水の神、ディーヴァ神群（天）の一人にすぎなくなる。ディーヴァ（天使、天）がところかわればダイヴァ、デヴィル（悪魔）になることを知った。そしてササン王朝に入り、帝王政治と結びつくと、悪魔だったものも天使として支配され、てしまうのだ。すべての救済をうたうキリスト教も権力と結びつけば多くの血を流すものなのだ。そして免罪符は金を払って買うのも事実だったのだ。
神はいる。だが、それ以外のものは流動的にその位置を変えてゆくものなのだ。神話や伝承から観念的に絶対な存在ではない、人類の上位種族としての姿ある神（あるいは天使）の実像を追い求めた結果、行き着いたのがゾロアスター教での善・悪二元論と一神教化に伴う天使・悪魔の扱いであった。そう、つまり悪とは異教徒であり、支配の道具としてならば善も悪も名を与え天使に貶めてしまう。そう、すべては卑しい人間が人間のために生み出した存在なのだ、と俺は悟ったのだった。少なくとも神話の神の実存を追う旅はイランの砂漠で終わったのだった。結果俺は有神論者で無宗教者になった。ま、それはどうでもいいか。
『ソフィの世界』も哲学と宗教をとてもわかりやすく解説した良い本だったが、山田正紀も実に最初の章であっさりと俺を感心させた真実を語っているのだった。

神についてはここまで。では次に「詩」の話をしよう。詩だ。「死」だ。「うた」だ。俳句だ、川柳だ（笑）
「泣け、バビロンのほとりに泣いた者のために」
その涙を流したものとはユダヤ教「詩篇」１３７篇にて「われらは、バビロンの流れのほとりに座り、シオンを思い出して涙を流した」と詠われることからわかるように捕囚されたユダヤ人のことである。バイロンの詩といいつつ古代ユダヤの詩を山田センセはとりあげているのだ。無論、意図してやっているのであろう。
詩、詩集なんてしばらく読んでいない。銀色夏生とかけっこうあったのにいま、本棚見ると一冊もない。矢野徹センセの『地球０年』も捨てたぐらいだからしかたないか。海外ＳＦ以外は本の一握りの本しかないのだ。引越しは人間を身軽にするのだ（笑）
９３年に「男の詩集」とか出したりしたが、恥ずかしいので忘れた事にする。
「草の葉」とかランボォとかボードレェルもう読めないよな。チュウヤとかケンジとかもな。あれは悩んでオセンチになっていた高校生だったから読めたんだ。いまは「センチメンタル・ジャーニー」とかで十分オセンチになれるからそれでいいんだ。人生の空白はギャルゲーで埋めるんだ。でも幻冬社文庫で銀色夏生とかあるとやっぱ手にとってるよなー。バイロンは読めないが夏生くらいの通俗さだったら読めるよな。再チャレンジするか？『ＭＹ詩集』でも買ってポエミー作るか？デュエットさん募集！（＜－何人わかるんだこのネタ？）
ま、とにかく再び詩に親しみたくなったことは確かだな、うん。
あと数年で２１世紀のこのご時勢に「詩集」を読んでる人ってどれくらいいるのだろう。かつて「人生はポエジー」とか詠った覚えのある身としてはいささか気になるのである。

最後にディファレンス・エンジンである。歯車機械である。
集英社の漫画『ＢＲＡＩＮＳ～コンピュータに賭けた男たち』の華々しい第１章がチャールズ・バベッジの話である。９５年前後はなぜか「バベッジ熱」とでもいうべきものが吹き荒れていた。ギブスン＆スターリングの『ディファレンス・エンジン』然り、『エイダ』然り。
何がきっかけか覚えていない。「タイガー計算機」「階差機関」「分析機関」そして、アラン・チューリング。そうだ、西垣通センセの言語と思考とコンピュータの話をなぜか多く読むようになり「チューリング・テスト」とか「バベッジ」とかが俺の内部で出現したんだと思う。『ペシミスティック・サイボーグ』『思考機械』などちくまや青土社の本に始まり、『チューリング・マン』『皇帝の新しい心』などのみすず書房の本を購読するにいたって、「ああ、こんなハードカヴァの本が買えるなんて、俺って大人じゃん」とか思ったものだ。特に人間の思考・心を量子物理として研究・解説しようという試みである『皇帝の新しい心』（ロジャー・ペンローズ）は一部ではホーキング対抗馬として絶賛されている。ご存知なければ一読することをオススメする。
話がそれすぎた。でも間違ってはいないのである。「エイダ」ではフランケンシュタインという人造生命を作り出す話を書いたメアリー・シェリーはこう語る。
「その機械は、人間の替わりに計算をする機械で、いってみれば人間の頭脳を機械に移し替えるようなものだとか－わたくしの『フランケンシュタイン』の怪物のようですわね」
そうなのだ、人工知能の夢を俺が追っていたのは、人間の心のデジタイズ化、それを夢見ていたからなのだ。思考がデジタイズ出来る。そう、人間とコンピュータの相似性のこっけいな単純化モデル－人間の脳を模したコンピュータが歯車で作れる－それが「階差機関」だったのだ。そしてそれがもつ意味は「人間とは歯車のようなもので構成されている」という俺版「人間機械論」の証明機器だったのである。
山田センセはエイダ執筆時にペンローズの学説を知っていたのかはなはだ疑問である。もし知っていたのであれば問題無いが、知らなかったのであれば「エイダ」は、『皇帝の新しい心』と同等の価値のある本になるのだ！これは凄い。エイダの中の「量子コンピュータ」だの「粒子と波動の宇宙」だの、正直あんまり俺的には楽しくないのだが、思考＝粒子の動き＝量子物理＝世界という「理屈付け」で世界を思考が、物語が作るという「学説」をうちたててしまったことに俺は脱帽してしまうのだった。
本を読むのにサブコンテクストは必要だ。バベッジとエイダについては漫画『ＢＲＡＩＮＳ』１巻とちくまプリマーブックス98『バベッジのコンピュータ』をオススメしておく。

最後に、『エイダ』は確かに凄い作品だ！一冊の文庫になった価値はある。俺の内部順位も塗り替えてしまった。一冊の本でこれだけいろいろ思いわずらわされたのも久しぶりだ。ただ、うーん、なぜか両手離しで賞賛できない部分がある。すばらしい作品も一点の傷や汚れが目に付いて－うーん、ＴＦＴ液晶のドット落ち、たった一点が目立つ所にあるとすごーくがっかりな、あの感覚が『エイダ』にはある。
スパイラーと４人の人類の接触シーン、ここかな？これがなければよかったのかな？と思う。ゾロアスター教に限らず、光と闇は一方のみの勝利では終わらない。光りがない所に影はなく、その逆もまた然り。つまるところ、人間は根本的なことろで陳腐な二元論から脱出できず、善悪の闘いを続けさせることでその「状態」を維持する道を選んだ、というのが俺の世界観である。創造神ブラフマンでも破壊神シヴァでもなく維持神ビシュヌを絶対神に選んだ男の思考である。無限に続く２つの力のせめぎあいのその一瞬のカットバック、というのはわかるのだけど、なんとなく陳腐なんだよな、ココ。
という個人的な愚痴でまくを閉じるのも申し訳ない。思うことをつらつら書いたら、話がまとまらなかったあげくにもう書く事がなくなってしまった。
『エイダ』は広く・深い物語だ。でも副読本や予備知識なしに楽しめるように作品中に説明が十分に入っている。それほどシンボリズム中毒にならずに済むでしょう。
日本人作家の久々のアタリＳＦ。読むべし！！

『処女惑星』（創元ＳＦ文庫）ポール・アンダースン、読了。- 98/06/03 00:00:00
本日の調子:夏のサンタクロースなみ

コメント:
＃６月２日
『処女惑星』。しまった、俺はタイトルから何を期待していたんだろう。駄目だ。ポール・アンダースンがナポレオン文庫みたいな話を書くわけないじゃん。
女だけのアマゾネス惑星に漂着した＜男＞宇宙飛行士、それに関わる遺伝子的に同一な美人のいとこ二人。で、話はターザンだのペルシダーだのコナンと同じような雰囲気。特にドキワクも色気もない。変な宇宙人もガジェットもなし。
結果、俺的にまるでダメ。
ま、＜男＞様とか、えっへん、とかなかなか訳は変で楽しかったんだが。こんなのに２日もかけちゃ駄目。(ってゆうかつまんないので「ＭＯＯＮ．」を繰り返していたのだ。)
ほんとに『タウ・ゼロ』と同じ作家なのかと思うくらい人間の描写がダメ。そーいや最近読み返した『天翔ける十字軍』も似たテイストだったが、＜殿＞！が連呼され「剣は核ミサイルよりも強し！」で、フランスの替わりに異星を征服してしまう騎士団というグンバツすぎる設定が文章の無味乾燥さを潤していた。「ハイ・クルセイド」という原題通りのタイトルでビデオも出ているのでそれ見ればよろし。

『アンナミラーズで制服を』（双葉文庫）森伸之、見る。- 98/06/02 00:00:00
本日の調子:晴れた日のるりこさんなみ

コメント:
＃６月１日
さて、今日のお題は『処女惑星』（ポール・アンダースン）にしようかな。
あれ、なんだこれは！といって本屋で『アンナミラーズで制服を』を手に取る。
ってゆうか買ってそのまま読んだ。
感想。「お、俺、もう我慢がぁ～（以下５万字省略）」
違うんだ、みんな誤解だ！俺がいくら制服マニアでPiaキャロットの店長的存在でも森伸之の制服イラストの本なんて一冊も持ってないんだよ！ギャルゲーだって始めたの最近だしー。部員の皆は俺の文字列スキャン能力知ってるよな？、俺がたまたまつかんだら87pの『未来世紀ブラジル』って文字をスキャンしちゃったんで読んじゃったんだよ。ホントだよ、ちらっと見て戻そうと思ったけど、ブラジルっていわれたら買うしかないじゃん。
いや、いろんな意味であたりの「エッセイ」だった。とり・みきの『大雑学事典』同様、双葉社のあたり本である。
そーゆーわけで、ただ制服を見るために立川の「不二家ブロンズ・パロット」へ進軍したことを懐かしく思う。

なんか、だんだんＳＦ読書日記じゃなくなってるよな、ここ・・・

晴れ時々、神風- 98/06/01 00:00:00
本日の調子:酒入る前はアジモフなみ

コメント:
＃５月３０日
今日はＳＦ研の新歓コンパ。胃が痛くて早起きする。酒は無理か？
で、週間・月刊ＡＳＣＩＩを起きて読む。あー最近通勤電車でも文庫読んでるのでパソコン雑誌を読むのが遅れる。６月になったらもっとＳＦ熱は冷めるだろうか？
で、近所本屋でちくま文庫『スロー・ラーナー』（ピンチョン）が売れ残っていたので買いにいく。その際、コバルト文庫『機械の耳』(小松由加子)を発見。衝動買い＆マック（マクド？）でコーヒー飲みながら読む。ううむ、昔の妹の部屋で盗み読んでいたりぼんオリジナルとかのテイストだな。オセンチ＆ほのぼの。
さらに後輩に渡るはずなのをなだめすかしてまきあげたコバルト文庫『魔女も恋をする』を電車の中で読む。こういう良心的なファンタシィもたまには炭酸飲料のようでよいな。（二十歳過ぎてからはＨＣ以外ほとんど飲まない）

さらに別の後輩からＭＧコミックを借りる。
『幻の豹』はシベリア抑留や民族問題を取り上げていてなかなかグッド。
『碧の孤狼』の「キ－１０８改帰還せず」はヘイバーマン的でグッド。
『蒼空の咆哮』の「海の陸鷲」は思考停止寸前のギャフン落ち。涙が止まらない。
加えて、深夜に「Winds of God」を見て国粋魂むき出しなところに、 立原あゆみ『銀翼』も読んでしまって、「なぜ神風部隊でもシロガネマジ？」とか思って熱涙を流す。

＃５月３１日
めずらしく早起き（９時）。
右翼的漫画で頭が和んだところに、「心に届くＡＶＧ」というコピーの付いた噂の電波系ギャルゲー、
「ＭＯＯＮ．」をやってあまりにＳＦで幻想文学でエヴァ２５、６話なシナリオにぶっとぶ。革命的なリテラルはエロビデオのパッケージ上や宣伝ビラのなかにきらびやかに埋まっていたりする。これも「なぜエロゲーなのだ！」と血涙を流して悔しがるほど秀逸なシナリオだ。絶対志茂田カゲキの~~２００倍~~２億倍面白いよ！
ま、大槻ケンヂ『新興宗教オモイデ教』や『ドグラ・マグラ』的テイストが個人的には大好物なので過大評価してるかもしれんがな。
全地球人類に推奨！！

『白き日旅立てば不死』（角川文庫）荒巻義雄、読了。- 98/05/30 00:00:00
本日の調子:クランチ中のマーテルなみ

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＃５月２９日
荒巻義雄の単行本で、＜ビッグウォーズ＞や＜要塞シリーズ＞でないもの、というと『白壁の文字は夕陽に映える』とこの『白き日旅立てば不死』である。「白壁…」は少なくとも２冊の本でタイトルを見ている。そして学生時代に田舎の古本屋で買って読み、確かに面白いと思った。で、気になるのが「白き日…」の方である。家を漁ってみたがどこにも紹介文はない。まるでこの小説の主人公のように「記憶自慢」の俺が欠落した記憶に振り回されている。思い出せない気分の悪さと思い出した時のスッキリさを俺はだれよりも良く知っているだから、いますごくすっきりしていない。
そして言おう、これはまさに名作・傑作だ。村上春樹の『ねじまき鳥クロニクル』に匹敵する。それでいて明確なＳＦだ。ＳＦになにができるか、という命題に対してこの本を答えとして提出することを推奨するッ。
人生は回るルーレットの如し。世界は不連続の連続体。白く美しい幻想の裏に横たわる黒い現実。最初は「幻想小説」なのかと思ったら畳み掛けるように数学が、虚数が、世界を支配する。絵画という名の音楽。作曲家という名の画家。産業革命のなかったヨーロッパ。サド文学の中を生きる女たち。追憶の中の少女。目の前にある娼婦。
俺も目を開いたまま夢を見る事ができた頃を思い出す。メビウスの環。不死。
いつだったろうか、「メビウスの環」が英語ではMebius Band そう、「メビウスの帯」と表記することを知ったあたりから、輪廻や円環という思想の堂々巡りから抜け出て現実と対峙できる自分が見つかったのだと思う。大人になる前に読んでおきたかった。今の俺は作中の主人公、白樹と同じくらいの歳になっていたから。彼の後悔の根源である追憶の年代に読んでけば俺の犯した間違いの一つか二つは消えていたんだろうか、と思う。
本を読んで現実の自己に感情がフィードバックされるのなんてすげー久しぶり。「ねじまき鳥」が売れた本で評価もされてるのに、俺が生まれたちょっと後に発表されたこの作品が評価されていないのはなんとも悲しい。
ハルキ文庫になってくれないかしら？

『優しい侵略者』（早川ＳＦ文庫）キース・ローマー購入＆読了- 98/05/29 00:00:00
本日の調子:アレの日なみ

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＃５月２８日
キース・ローマー、前に何度も見かけたがまだ売っているだろうか？自分のスキャン能力を頼りに２件ほど西荻の古本屋をまわる。あったけどげ、500円。最近厳しいねぇ。ついでに矢野徹『折り紙宇宙船の伝説』川又千秋『反在士の鏡』も買う。いずれも500円。ああ、ここ５年前ははサンリオが５００円だったのに。いまじゃ『ジョン・コリア奇談集』が3500円だってよ。やるせねぇな。
感想。うーむ、手を出さなかったのはブラウン系ユーモアＳＦだったからだ。初めてソノラマ文庫読んだ頃、「こーゆーかっこ良くないのはなぁ」といってヨコジュンのショートショートやカドカワの新書に逃げていった記憶がある。「ベルゼルガ」「エリアル」あたりがでるまでソノラマは読まなくなったのだった。ま、いい経験になりましたな。いちおー笑えたし。
その後、『プリズマティカ』と『時は準宝石の…』の収録作品の違いを見ようと奥からハードカヴァをひきずりだす。で、意外とダブってないことに驚き、ケンさんページのベストに溝口さんが>「エンパイアスター」を一位にしていたのを思い出し再読。いやー、コメット・ジョーが話の円環に気付くあたりでブルッときた。たしかに前読んだとき（９年前）よりおもしろかった。『アインシュタイン交点』がさんざん待たされたのに楽しめなかったことが最近の心象を悪くしていた理由らしい。
『プリズマティカ』は『魔法の国が消えてゆく』と同様に「イラスト・ノベル」といって挿し絵付きの出版物と記憶していたがヴィジュアル・ノベル と書いてあった（笑）そーか、これが元祖ＶＮかぁ。

「ジェフティは５つ」（ハーラン・エリスン）を読む- 98/05/28 00:00:00
本日の調子:コードウエイナーじいさんなみ

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＃５月２７日
会社の昼休み、飯を抜いて神保町へ。ブックパワーにて＜アンバーシリーズ＞購入。ＳＦＭもならべてあったので７９年１０月号をスキャン。発見！３００円で購入。うちの近所は２５０円だったのでどっこいだ。
『白き日旅立てば不死』（荒巻義雄）を読みはじめたが、早速「ジェフティは５つ」を読む。
思わず読後、ぶるっときた。くそう、このぶるっとはもう古本屋でしか手に入らないものなんだろうか。ゼラズニィ読み返した時もかなり来たけど、未読の小説でいいのがあるとやっぱ違うよなーとか思った。
自分のレトロコレクターな部分をかなり刺激された作品。７０年代特撮番組や「ミクロマン」グッズなどに作品中の単語を置換するだけで涙がでそうになる。オチも相変わらずのエリスン節でドリフの金たらい的な印象を受ける。これを読んでいなかったのは人生の不幸だ。

『ヨナ・キット』（サンリオＳＦ文庫）イアン・ワトスン読了。- 98/05/27 00:00:00
本日の調子:ハーラン・エリスンなみ

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＃５月２６日
いやー、なんか難しい話なんでもっと時間かかるかと思ったんですが、理解不能な理論をスポイル。カットバック風に挿入されるクジラの思考などに押されてあれよあれよと読み進み、読了。結果、
「世界一の切腹ＳＦ！」

ひでーよ、ソムトウだって半分はふざけてたんだよ。『キャッチワールド』なみの真剣さでクジラに切腹させてんじゃねーよ！
あと、俺の大好きな三島由紀夫センセイの割腹を気軽に語るな！
はぁはぁ、ちょっと興奮しちゃったね。しかし、日本の描写詳しすぎ。来てるね、こりゃ。
書かれたのが７５年。お、キャッチワールドと同期じゃん。『スターシップと俳句』が８１年だからワトスンの作品の影響をスチャリトクルが受けた可能性はあるな。
おそるべし７０年代イギリスＳＦ！
初期の設定やまじめに馬鹿をするあたりかなり『スターシップと俳句』に迫るが、このおっさん自分がエンターテイメント小説書いてること忘れちゃってるよ。理論先行型だってのは知てるけど、途中だれる。そこが残念。「死の宇宙感」や「思考コンプレックス」やライフスキャン＆マインド・トランスファなど個人的に興味のある技術をこの年代にとりあげてたのは凄いかな？いや、みんなホログラム・メモリーに夢をかけてたようなつまり「アポロ」から「ハイテク」の８０年代への中途半端な架け橋の７０年代の象徴的なテクノロジー理論の羅列かもしれない。
そして、とどめに俳句を詠むことも忘れない（馬路か？）
・・・鯨の目　茶碗の光　映りたる・・・

『マーシャン・インカ』読まないと駄目かな、こりゃ？

『５分後の世界』（幻冬舎文庫）村上龍、読了- 98/05/26 00:00:00
本日の調子:デッカードなみ

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＃５月２５日
いやー、村上龍、良い仕事しますな。作家の仕事をしています。
３月に読んだ『ラブ＆ポップ』でも感じた事だが、偽りのない現実の羅列は空想科学小説ばかり読んでる俺に、頬に不意に当てられた缶ジュースのようなショックを与える。昔は粗野な感じがあったけど、いまはまさに「術」をつくしてる感触がありますな。
うーむ、例えば戦闘シーン。一つも改行のない作品って筒井康隆あたりがやってたような。それが圧倒的にリアルに切迫した「戦場」を描き出す。『ラブ＆ポップ』で使われた「実在の商品名の羅列」に似ている気がする。
「弱い奴は死ね」。『愛と幻想のファシズム』の村上龍は健在だ。だが、単純に蛮刀を振るっていた彼はそこにいない。高岡早紀が主人公のダンスの映画も取ったし、やはり自分でかいてるように『コインロッカーベイビーズ』の手法とはまったく違う技の冴えが見える。俺も年を取ったが、彼も年を取りそして変化－＞成長しているのだ。
もっと評価されるべき作品だと思う。ただし、続編の『ヒュウガ・ウイルス』に手を出すか、それはわからない。おいしいお菓子も二つ目は味が落ちるというものだ。

さて、次に控えてるのは『ヨナ・キット』。や、やばいよ、またクジラだよ～。

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