U-kiの読書日記(01/1/4～01/1/29)

U-kiの読書日記(01/1/4～01/1/29)

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『屈折リーベ』（JETSコミックス）西川魯介、読む。 - 01/01/30 00:00:00
本日の調子: コタツを直視したスコープ鶴崎なみ。

コメント:
＃１月２９日
今回の西川魯介はエロ抜きッス。なにしろマジメにキャプテンで連載してた作品を一冊にまとめたもンスからね。この自称「本邦初の眼鏡っ娘純情マンガ」が彼の初連載であり、連載時期は９６年頃。俺が某放送局の仕事が落ち着いてＳＦ研の部室にまた出入りするようになったころ、一緒にセクシー・エクスプローラーをやってた後輩二号が狂ったように「ゆうきさん！見てくださいよ、変態ですよ！変態！眼鏡に頬ずりしたり、嘗めたりしてるんスよ！しかも名前がロスケですよ！狂ってます！読んでください！」とか云われて読んだのだったと思う。確かに強烈な印象で、この作品で西川魯介の名が俺の脳に刻み込まれたわけである。（実は９３年に「すべて機械じかけ」の時に出会っていたのだけどね）
秋保宣利は究極の眼鏡フェチである。（しかもポエム大好き。ここらへんの設定が永野のりこ臭さを感じさせる）どのぐらい変態かというと、「データ採取」の名のもとに、夜道で様々なタイプの女子をジグモのようにマンホールに潜んで待ち伏せて捕らえ、色んな眼鏡をとっかえひっかえかけてさんざ観察したらリリースするという手口を使うほど。
彼のデータ採取の結果、目を付けられたのが理論派、暴力派で堅物の先輩女子、大滝鈴奈である。秋保はポエムを唱えながら彼女に殴られつつもアタックしまくり、恋に不慣れな鈴奈の心はしだいに秋保に傾いていく……が、どうも秋保が好きなのは自分ではなくて「眼鏡そのものなのでは！？」という猜疑心からどうにも心を許せない、というか鉄拳制裁が下ってしまう。そんな二人の前に秋保に横恋慕するサバゲマニア（ってゆうか、実際爆薬使ってるんだけど）少女、唐臼がつっかかってきて大騒動になる、という具合である。（この唐臼は『昇天コマンド』の唐臼と同一人物らしい）
そして、何故か眼鏡を外した鈴奈の顔を見てみたい、と秋保少年が思って、見てしまったからさぁ、大変。二人の恋はさらにややこしくなるのだった。というお話。
まぁ、結局ありきたりなラストを迎えるんですが、究極の眼鏡フェチ（かつ純情）マンガとしては確かに貴重なので一見の価値有りでございます。読むべし！！

備忘：西川魯介作品に詳しいページ

『かめくん』（徳間デュアル文庫）北野勇作、読了。 - 01/01/25 00:00:00
本日の調子: 「南海の大決戦」のエビラなみ。

コメント:
＃１月２４日
簡単すぎる。あっけなさすぎる。
単純すぎる。そのまますぎる。
で、洒落が効きすぎている。
そんな感じだ。
いや、かめくんの文体というか語のセンスというか、作品全体の雰囲気が。例えば「ザリガニイ」「ウナギ電気」「ＬＯＶＥ─カメ人間になりたくて」さらには猫の名前「猫」とか。（昔、ウチの近所の変わり者のお爺さんが飼い犬に「犬」という名を付けて小屋にも＜犬＞と書いていたのを思い出しちゃったよ）
いや、誉めてるんですよ。実際、電車の中で何度もツッコミをいれ、何度か吹き出し、部屋では大声で笑った。
スミマセン、特に「哀愁軌道」のシーンは、ちょっと前に紅白の小林幸子ＶＳ美川憲一の衣装合戦なんぞを何年かぶりにじっくり見たんでちょっとあの表記がツボに入ってしまってのたうってしまったッス。オービット・コマンド（by谷甲州）の皆さんへの哀歌ですな（笑）。今回紅組の勝ちだったのも一致してるしさ。あ、戦闘がスポンサー付きになってからの必殺技にも笑いました。はー、おかしい。
お正月のピカチュウやら木星行き路面電車のくだりが妙に「今風」かつマニアックで良いッスね。あといろんなＳＦ小説や映画が引用されるのも嬉しい。（さりげなく「ＪＭ」ごっこまで出てきたときは大喜びしましたぜ）
かめくんは推論が好きだね。俺は「思った」が多いのが最近気にくわないので、まねさせてもらおうかな。実際は「感じた」「考えた」の混ざった感触なんだけど。おそらくかめくんは正しい。俺は人間は自然言語で動くマシーンだと思ってるし、自然言語は何らかの形で感覚器を通して脳に入ってきた情報で、俺達はその切り貼りを作ってるだけにすぎなくて、本当の自分の思考だの言葉だのなんてのはなくて全ては「引用」なのだ、と云いきってしまってもいいと俺は思っている。そう、あとはその切り貼りの仕方、引用の仕方、って部分だけが最後の「人間性」というか「個性」というか、「我思う故に我有り」なデカルト主義にいつまでもしがみついてる俺の最後の砦なんだけれどもね。
我々とかめくんと、一体何が違うというのだろう。たまには夕日の川縁で「我とはなんぞや？」とかやってみてもいいんじゃないでしょうか？ま、高校生くらいの時は年中そればっかやって、ループしてフリーズこきまくってましたけどね。
しかしなぁ、ネタバレなんで色替えしますが、ラスト付近で【ＶＫテストをかめくん自身が実施する場面で大喜びした瞬間じゃなくて数分後になってようやく、そうだ、こいつは最初からレプリカメ、と名乗っている＝レプリカントの役割そのまんまであって、作品自身も作中に出てくる『アンドロイドは電気羊の夢を見るか？』あるいは映画『ブレードランナー』（特にディレクターズカット版）に見られる非常にディック的な世界と自己に対する懐疑を問題にしてるじゃないか！ということに気が付いて】なんだかとってもやられたぜ、ベイベぇ、畜生！というマジな感嘆の声をあげてしまったのでした。
この宇宙のすべては、たったふたつの要素に分けることができる。
すなわち、甲羅の内と外。
とか云っておきながら、最後では【その内と外の同一性を示唆して、その区別の曖昧さ示している】んだから、深いよ。間違いなくＳＦだよ。のほほんとした雰囲気というか、語り口にごまかされちゃいけねぇな、と自らをいさめたのでありました。＜胡蝶の夢＞と＜金閣寺の中に金閣寺の模型＞は俺の永遠のテーマでもあるのにね、気が付くのにこんなに遅れちゃうなんてさ。やはり独自の語り口のおかげで騙されたというか、うまく加工されているせいだろうなぁ、と推論する（笑）。
コレは確かにスバラシイ小説だ。特に最終章あたりでは色々考えさせられたあげくに、ラストにはじーんと熱いモノがこみあげてしまった。色々なＳＦの引用もあるけれども、それを排除しても立派にＳＦしているのだが、これは小松左京賞を取る作品ではないな、と思ってしまった。非常に残念なことではあるがこれは俺から見ても、そして世間一般に見ても「小松左京的ＳＦ」が求めてるテイストからはずいぶんとポイントがずれているためである。いや、それが悪いわけではなくてそれがこの作品が賞をとれなかったどうしようもない理由であるということを云いたかっただけなんですけどね。
だがしかし、こうして無事出版された以上、ＳＦを読む人間には是非読んでもらいたい、＜一冊のＳＦ＞となったわけである。
のほほんとした文章の中に秘められた、深い深い無限亀甲型の世界に君は気が付くことができるか？読め！

『タイム・トルーパー』（世界文化社SEBUNコミックス）小林源文、読む。 - 01/01/24 00:00:00
本日の調子: 戦国自衛隊員なみ。

コメント:
＃１月２３日
ついにタイムトルーパーも新装版が出てしまった。
とりあえずタイトルが「トゥルーパー」になっていなかったことにホッとする。
スマン！何度読んでもカッコイイものはカッコイイのだ！そして俺は戦争の大好きなオトコノコなのだ！許してくれ。源文漫画とファイヤー・フォックスは何度見ても飽きないのだ。
俺用語辞典にもしっかり載ってしまうくらいこのタイトルは重要なのだ。説明書きには「主に歴史を改変するために自主的に時間移動して戦闘するシチュエーションを指す時に使用」と書いてあるが、それは俺の用法であって、実際この物語の登場人物たちは自主的に時間移動して戦ってはいない。それは「歴史上そうなっているから」というタイムパラドックスの必然性から強制的に２０世紀にタイムトルーピングされたのだ。
「人型兵器（もしくは兵士）を降下させることを俺は『トルーピング』と勝手に呼称してるが、彼らは＜時間軸を降下＞してきた兵士と解釈できるわけで、タイムトルーパーだけ扱いが別で特別な思い入れがあることを御理解いただきたい。
２２世紀の未来から第１２４軌道降下兵中隊Ａ分隊の５人は火星から月面ドームへの降下戦闘訓練と偽って１９４４年６月６日、第二次世界大戦中のドイツに送られた。そう、歴史に記録された「謎の５人の兵士の活躍でドイツでの原爆開発が阻止された」という史実を実現させるために。ノルウェーのテレマークへと向かうのだった。
とにかく彼らの間違った２０世紀解釈の会話は抱腹絶倒モノ。源文漫画で未来を描いたものには必ず出てくる表現なんだけどね。例えば「戦車が地上を走るか？あれは農耕用トラクターだ。あの長いパイプは種まき用のものだ」「（爆撃を受けて）公害だ！有毒物質をまきちらしているぞ！」とかね。あと傑作なのは「これがバリヤーのスイッチさ！」（ワイパーが動く）とか。
彼らはウェルズの『宇宙戦争』のおかげで無事宇宙人と認定され、ドイツ軍から追われながらも「歴史干渉」を実行しようと決意して行動する。彼らの装備はプロテクターと高性能ヘルメットとレーザーガンのみ。ちょっとメカメカしてないのが淋しい。
中に純日本人直系の兵士が居て、核施設が破壊されるのを見て「いいぞ、これで僕の先祖は核攻撃されないぞ」と云うのが印象的。
そしてラスト、見事なタイムパラドックスの整合性に驚かされることでしょう。時間ＳＦモノとしても良くできてる。ＳＦ＝風刺ってのも充分に生きている。
さぁ、君んとこの近所のコンビニでも売ってるはずぢゃ。未読の者は全員義務なので買って読むように。

『みずいろ全２巻』（ヤングキングコミックス）大石まさる、読む。 - 01/01/23 00:00:00
本日の調子: 「海がきこえる」の杜崎くんなみ。

コメント:
＃１月２２日
あいや、１巻から半年で終了ですか。ま、あんまり長く夏が続いても困るので丁度良い感じもしますがな。作者も「夏も２年近く続くと大変ですな」と云っております。
俺的には淡々と夏が過ぎ、主人公の加藤君が冬を迎えるまでを描いた２巻よりはやはり、『海がきこえる』ティックな展開とお色気サービスシーン満点の１巻を読んだときの方が断然テンション高いんですけどね。１巻読んだときの感想でも読んでくださいな。
外伝の未来編なんかもあるんですけど、俺としてはもう夏が終わって淡々と冬を過ごし、ヒロイン清美の家族関係も徐々に修復されて丸く収まって、加藤君はちょっとも成長しないで風来坊のまんまで終わってしまってＬＯＶＥ度が低いのがちょっと不満でした。この絵柄で癒しは不要。もっとＬＯＶＥとかおセンチとかが欲しかったのに、作者はのほほんと「水の色って何色だろう？」って感じでお話を薦めて終わらせてしまいましたな。
アワーズで連載中の猫とねずみの話も個人的には萌えないので、第一作品集である『空からこぼれた物語』風のＳＦとおセンチが混じった人間のお話を連載してくれないかなぁ、と期待して今回はお終い。いや、ホントに好きなんですよ、乳でかめな美少女……じゃなくて大石まさる先生のほのぼのタッチの絵柄がね。ファンではあり続けますよ、俺は。

『冬の教室』（徳間デュアル文庫）大塚英志、読了。 - 01/01/22 00:00:00
本日の調子: ♪走～れ、トロイカ～、シベリア送り～

コメント:
＃１月２１日
大塚英志、という名前を最近良く見かけるし、原作に彼の名前が入った作品も何冊か所有していたりするので、「サイコで伝奇な元編集者な人」なんだなぁというイメージがあった。
表紙が鶴田謙二のすっげーイイ感じだったのがこの本を手に取るきっかけだったんだけど、まさかソレを餌に３日で書き上げられた作品が本作だとは思いもしなかった。大塚氏はそれはそれは鶴謙さんの大ファンだそうで……まぁ、その経緯はあとがきに詳しいのでそこを読んでください。いや、小説としてっつーか、作品の完成度低いし、確かに表紙と同じ最初の折り込みカラーイラスト以外はイラスト一枚も入ってないし、何かヘンだとは思ったんだけどね、いやはや。
「ノベライズでしか書かない」という大塚氏の忠実なスタイルを今回も踏襲してるそうで、これは白倉由美が作った朗読ドラマがベースになっているという。少女が大人になってしまう前に殺してしまうという殺人犯「大江公彦」サーガの一片になっているのだそうだ。
お話はそれはもう、とても静かで、退屈で、ゆっくりと過ぎてゆく。死ですらロマンチックに感じるほどに。それは冬の冷たさと雪の重みと図書館というか本の持つ寡黙さとで紡がれているけれど、最後の最後までそれで通してくれるはずもなく、物語は終盤、一枚一枚真実のヴェールをはがされていく。

近未来、氷河期が訪れたような永遠の冬につつまれた街、東京で主人公・千野はヒロイン・嶝崎人魚と出会う。彼の持っていた琥珀には青い花弁が閉じこめられており、その花びらがどうやら人魚に夏を想起させるらしく、掌の琥珀を通じて千野と人魚は冬と本と死が支配する冬の東京で今日もすれ違う。どうして東京がそんな風になったのか、どうしてこの街は時が静止したように新しい事が何も起きず、図書館では１９８９年の新聞が毎日正しく差し替えられているのか。それは最後の最後の方になるまでわからない。図書館司書をやってる政府の下級官僚・赤坂せつ奈との会話の中でどうやら千野は『バトル・ロワイアル』を彷彿とさせる＜十七歳の儀式＞と呼ばれる生き残りゲームの生き残りで、その特権を生かして１８歳最後の学生生活を送るためにこの街にやってきて、そして人魚に出会ったのだ。
「死はここではたった一つの権利よ」人魚はそううそぶく。この冬の街では自殺や自然死はごくあたりまえの、そう雪が降るのと同じくらいありふれたことだった。だが、その街で少女が殺される。死が当たり前の街が震えた。「他人に殺される」という「新しい出来事」はこの街にはなかったことなのだ。そして殺された少女のダイイング・メッセージは「大江公彦に殺された」というものだった。生まれたばかりの人魚を３年間監禁していた、そして６人の少女を殺したという殺人犯、それが大江公彦だった。彼がこの街に戻ってきたのか？深まる謎の中、生徒の死体はまた一つ、雪の中に横たわるのだった。

この作品は大塚英志という人の個人的な思い入れだけで描かれた、「ずっと冬が続いている東京」の＜冬の教室＞の光景である。いや、作者の個人的な思い入れ無しに作られる作品というものがあるのかどうか、俺自身、よくわからない。職業作家というのは「ここに居る私を見て」ではなくて「ここにある作品を見て」と提示するものなのかも知れないのだが。ま、もし俺が作家だとしたら前者の要素を完全にスポイルすることはできないので今回の大塚氏のやり口もありありだとは思う。
そして、俺のように鶴田謙二の表紙でパッと手に取って読んでしまうのもありな一冊ではないか、と思う。あまり強くオススメはしないけどね。

『失踪ＨＯＬＩＤＡＹ』（角川スニーカー文庫）乙一、読了。 - 01/01/20 00:00:00
本日の調子: 失踪した若人あきらなみ。

コメント:
＃１月１９日
表題作はとりあえずどうでもいい。併録されてる「しあわせは子猫のかたち」を読めっ！
そして、開・け・て・く・だ・さ・い。
　せつなさへの扉をッ！！！
いやぁ、久々に読後におセンチ度がマキシマムになって感情炸裂したなぁ。ええわ。
まぁ、今やってるドラえもん映画に例えれば、俺にとってはこの作品がメイン。表題作は同時上映の『がんばれ！ジャイアン!!』のようなモノ。（いや、内容も頑張れ、ジャイアン！な内容なのだけれども）
俺は犬萌えな人で、猫萌えじゃないんだけどねぇ、実家で三日間、充分に猫と戯れてしまったから猫の仕草の描写なんかにはちょっと感情移入度高まってる時に読んでしまったからかもしれないねぇ。あと猫を飼ったことが２回ほどあるが両方とも今は悲しい思い出になっているんで、それも俺のおセンチ度に拍車をかけているかもしれんねぇ。両方とも仔猫だったしねぇ。
「家を出て、一人暮らしをしたいと思ったのは、ただ一人きりになりたかったからだ。自分を知る者のだれもいない見知らぬ土地へ行き、孤独に死ぬことを切望した。大学をわざわざ実家から遠い場所に決めたのはそういう理由からだ。」
ふむん、ここまではやさぐれてた１８の時の俺とまるで一緒である。地元の国公立の大学（栃木と茨城）に受かっていたのに金のかかる私立の大学に行くというのはそれなりの決意があるからである。＜孤独に死ぬことを切望する＞のと＜自殺する＞ことはイコールではない。まぁ、若い頃はそんな気分に浸ってそのまま生きてしまうもんなんである。しかしねぇ、その頃はまさかそれから２１世紀まで生きて「一人は嫌ぁ！」とか叫ぶようになるとは微塵も思って無かっただろうけどな（苦笑）。
まぁ、この物語の主人公がそんな気分で決めた新しい住居は、大家が不動産業に手を出したばかりの庭師で地主の次男坊が始めたばかりの大学よりちょっと離れた位置にある新築のアパートではなく、伯父の所有する＜人死に＞が出たばかりの古い家だった。
前に済んでいたのは雪村サキ、という写真が趣味の若い女性だったらしいが物取りに通り魔的に刺されて死んでしまったのだという。そして近くには酔った大学生が溺れて死んだという池がある。なんとも陰鬱で幸先の悪いスタートで、暗くてナイーヴな思春期まっさかりの主人公にうってつけの舞台設定ではないか。
そして、彼はその古い家で暗くじめじめとした生活を始めるわけであるが─俺もこの頃は、暗くてじめじめしていそうな隅っこの方とかが大好きで、日光や生け花などは天敵であった─なんとその古い家でスタンド現象……もとい、ポルターガイスト現象のようなものが次々と発生し始めたのである。生きるに覇気のない主人公はそれを村上春樹の描く小説の主人公の様に「やれやれ」と云って受け入れ、やがて雪村が飼っていたとおぼしき子猫と彼女のスタ…いや、＜見えない彼女＞との奇妙でそれでいて不思議で優しい共同生活が始まったのだった。その生活は、すさみきった彼の心にとってそっと暖かく触れてくるものであった。
いやー、この奇妙なスタンド女性との生活描写だけで泣ける。いや、あんまりすさんだことのない野郎だと単に「気味悪りぃ～」で終わりかもしれんけど、すさんだことのある人間にはなにかこう、たまんねぇものがある。なにしろ、孤独に生活したまま誰かに癒してもらえるのだ。ＳＦ大会で野尻氏は「私は癒しなどというものは嫌いです」と云った。それは癒されたことのない人間の張っている虚勢にすぎないと思う。ま、野尻氏に恨みがあるわけではないので特にそれ以上つっこまないが。とにかく、すさみきっていて＜世界とうまくやっていけない＞彼は世界のカタチも削れず、自分の形も削れずに、ひーひー云ってたわけだけど、子猫とスタンド女のおかげで幸せな夢を見られるまでに恢復するのである。ちょっとここらへんは胸がずきずきしてしまう。
一応、２つの死があって、無論それは事件であって、彼はそれの周りにちらばるものに糸を通して＜解決＞してしまうというフツーのミステリっぽい展開はあるんだけどとにかくそんなものはどうでもいい！って感じかな。俺だってわかったんだからホントにどうでもいいのである。しかし、犯人の男についてはどうでも良くなかったりする。本気と書いてマジで死んで欲しい、と思ってしまったがまぁ、やっぱりどうでもいいか、と思う。
そして、もう一つの＜死＞と共に物語は終局を迎える。一通の手紙と共に。そして、最後の一文に読者である俺は涙してしまうのである。自分と相容れない世界でも生きる力を得られるまでに恢復した主人公の姿に涙してしまうのである。
少しでも生きるのに苦しさを感じたことがある人だったらこの５０ページぽっきりの短編を読んでやってくれ。それが俺からのお願いだ。

んで、残り１８０ページの表題作は作者の最長記録作品というものだ。
最初はわがままジャイアン娘の狂言誘拐の話になんでここまで付き合わねばならんのじゃー、という感じであまりの平々凡々ぶりな描写が続くので退屈を通り越して鼻息で吹き飛ばしてお終いにしようかとも思ったのだが……ラストの２０ページでやられた、ということにようやく気が付いたのでした。うぬぬ、ただの狂言誘拐じゃなかったのね。やはり俺はミステリ読みではなかったのだなぁ、と痛感。いや、これが俺の未熟さ故なのか、作者が上手いのかわかんないんだけどね。たぶん両方だと思う。
やはりこの作品もどっちかっつーと、＜事件＞の方はどうでも良い感じで、ジャイアン娘がラストに狭い部屋のコタツに収まって感じる「幸せ」の描写が良いのではないか、と思うデスね。
あと蛇足で云わせてもらえれば、この作品を読後、「ジャイアンみたいなツラしても、ゴウダタケシとは限らない」という『猛毒』というバンドの安部譲二の歌の１フレーズがぐるぐるまわって離れなかったことと、ＢＳ朝日の仕事をやってるときはおやつ食べ放題状態でその間食が俺をデブらせた一因だと思っているのだが、やっぱり「カントリーマアム」や「キットカット」をろくに運動もせずに食べ過ぎれば、お嬢様の外見もジャイアン風になるのではないでしょうか、という余計なことだけだったりする。

ＹＡ文庫の場合って表紙やイラストの力が大きいと思うけど、今回はあまり関係なかったな。乙一はもう筆力で選ぶ作家の一人になってますからね。（あとがきも面白かったし）次もスニーカー文庫で出るんだろうか。いや、どこから出れば良いってもんじゃないですけどね、なんかあまりにも「ヤング向け」って感じじゃないからさ。まぁ、とにかく良い話だった。次回作にも期待度大。

『Ｂ．Ａ．Ｄ．全３巻』（少年チャンピオンコミックス）鈴木ダイ、読む。 - 01/01/19 00:00:00
本日の調子: ダイって聞いて、ＣＰＵを思う俺はダメ人間death。

コメント:
＃１月１８日
本屋で偶然見かけてパワードスーツっぽい表紙に惹かれて試しに１巻買って見たのだが、面白かったので発売日チェックして全巻購入。うみゅー、この手の話にしては３巻でキレイに収まっているんで計画通りな印象を受ける。打ち切りじゃなくて最初からこんな感じでやろうとしてたのかなって感じを受けるのだが、真意は定かではない。
タイトルの「Ｂ．Ａ．Ｄ．」には複数の意味が込められている。無論「最悪だ」に始まって、この＜始末屋＞達の担ってる役割が、「依頼者との交渉・武器の開発・作戦の指揮を行う」ＢＲＡＩＮ、「あらゆる武器の操作、発射、目標の分析などを行う」ＤＩＳＣＨＡＲＧＥＲ、「主に障害の除去・仲間の防護・格闘、肉弾戦破壊を行う」ＡＲＭＯＲ、それぞれの頭文字を取っている。あとは、主人公のプロレスラー・蘭紅蓮が使った必殺技「バック・アブソルート・ドロップ」の頭文字とかね。
お話はこんな風に始まる。
悪役（ヒール）で売っているが、５３１戦不敗のレスラー、蘭紅蓮は世界最強の格闘家Ｋ・Ｊとの試合でブチ切れて投げ技＜ＢＡＤ＞をかまして殺してしまう。
一年後、投げ技が使えなくなった紅蓮は賭けストリートファイトを打撃技だけで勝ち抜き暮らしてた。そんな彼に目をつけたのが、ハイテク犯罪の非合法の＜始末屋＞でＩＱ２００以上のマッドサイエンティスト少女・神威あきらと人殺しの元刑事・断道のコンビだった。彼らは＜始末屋＞チームを組むために必要な人材として紅蓮をマークしていたのだ。
断道に投げ技を決められ、戦意喪失した紅蓮は＜始末屋＞としてスカウトされると同時にその役割を果たせるかどうか、いきなり実戦でのテストをさせられる。新素材ＫＭＩであきらの作った世界最強の装甲を着せられて。
その内容は警視庁科学捜査研究所が作った対テロ・暴動特殊機動隊用試作特殊装甲（パワード・スーツっぽいロボット兵器）３体の暴走を取り押さえろ、というモノ。この敵が強い強い。いきなり紅蓮は大ピンチ。だが、彼には「そこ」こそが彼にふさわしい戦場─リング─の様に感じられたのだった。
で、断道、実は脳以外は完全に機械というパーフェクト・サイボーグ（ライダーＺＸだね）で、卑怯なまでに武装が強力で体は故障するたびに換えまくりなので卑怯このうえなくって、とてもラブリーdeath。ミサイル・ナックルとか嬉しい装備もついてるしね。
んで無茶な方法ながらも任務を無事完了した紅蓮。ここで１巻は終わり。
そんな彼に覇羅生とみちひろの同業他社コンビ、＜インプルーダンス＞が接触してくる。紅蓮と覇羅生は地下鉄線路上でマトリックスなみのの殴り合いを演じる。表紙見るとアーマー着て殴り合ってくれそうな雰囲気だったんだけどね、それはなし。
んでもって突然、あきらをさらにマッドでサイコな科学者である父・神威源二の使者がさらいにくる。一人は鮫と遺伝子レベルで融合された刺客・ケイコ。そしてもう一人の巨漢はなんと死んだはずのＫ・Ｊが神威博士の手で改造されて復活したものだった。
強力な二人の前になすすべなくあきらは奪取されてしまう。
そこで松田勇作風の風貌の断道の刑事時代の過去から今に至るまでの話が語られる。彼がどうして機械の体になり、あきらとカムイコーポレーションを逃げ出して＜始末屋＞になったかを。ここが結構泣ける。ここで２巻は終わり。
さて、インプルーダンスの二人の協力をお金で取り付けて、紅蓮たちはいざ、カムイコーポレーションに乗り込んで行く。そこで元ボクサーの覇羅生、みちひろ失った怒りのためにスター・プラチナも真っ青なほどオラッてます（笑）。
で、断道を機械の体にした張本人で姿を消せるという技をもつ卑怯な中ボスキャラ・巽と遭遇。巽、ディオ様が第一部で口にしたのと同じセリフ口走ってます（笑）。断道、生体ボディになったにもかかわらず、ミスタ並みの射撃能力であっさり巽を撃破。
ここで、あきらがさらわれた理由＆出生の秘密などが明らかになる。ま、やっぱ大ボスはあっけなく逝ってしまうんですがね（笑）。遺伝子暴走したＫ・Ｊを前に、意外な紅蓮の秘密がわかって最終決戦へとなだれ込む。
そして表紙の３年後の３人組の姿に落ち着いてお話はお終い。
とにかく面白かった。内容ほとんど書いちゃってスマンな感じだけど、スタンド無しのＪＯＪＯみたいでパワードスーツものとしてもプロレスものとしても半端だけど一応ＳＦで戦闘モノなんでそこらへんＯＫな人には強くオススメするッス。はい。

『祈りの海』（ハヤカワ文庫）グレッグ・イーガン、読了。 - 01/01/16 00:00:00
本日の調子: 水中あぐらで粘った信者なみ。

コメント:
＃１月１５日
なんだよこれ、１１作も入ってんのかよ。どうりでなかなか読み終わんないはずだよ！
というわけで各作品の感想を列挙。

・貸金庫…なんか「ここがウィネトカならきみはジュディ」みたいな話でヴァーリィあたりが書きそうな話だなぁ、とか思っていたんだけど、ラスト付近の地図をプロットしていくあたりでもう背筋がゾクゾクって感じ。やっぱＳＦはこうでなくっちゃね、という一編。出だしと最後の文章もイイしねぇ。これが冒頭ってのは正解かも。
・キューティ…うーん、これなら東野司の「こんにちは赤ちゃん」の方がオレは好きだな。ってゆうか、亜細亜製のパチモンには気を付けましょうってゆー小説、とか云ったら読みが浅すぎるって怒られるかな？ちなみに数年前のオカモト・ゴムの「男の人も妊娠してみればいいのに」というキャッチコピーで腹膨らませた男性が並んでいる広告が好きでした。ちなみに最近マジで結婚を半ば諦めつつも自分の子供は欲しいという気分が強まっているのであまりこの作品の主人公を笑えなかったりする。
・ぼくになることを…いやぁ、６年前に『銃夢』でノヴァ先生に「これがザレム人の秘密です」「コギト・エルゴ・スムなんてなんの慰めにもなりませんね、この場合」というレクチャーというかショックを受けていなかったら間違いなくこれをベストに持ってくるんだけどねぇ。しかしセカンド・インパクトとはいえ、このアイディアは好きなので俺的には結構上位に位置していますな、この作品。あー、『バーチャライズド・マン』で初めてライフ・スキャンのアイディアに触れたときも同じ感動があったけどね。＜石＞があるのはイイ。俺も大賛成だ。でもその目的がねぇ、普通すぎるのがちょっと、って感じかな。
・繭…最初読んでてどこに着地するのかが一番わからなかった作品かもしれない。同性愛とか性同一性症候群とかはなんか縁遠い問題なんであんまし共感できなかった。脳血管関門の小説を昔書いたことがあるけど、これも失敗した思い出が……。やっぱプロにはかないませんなぁ。
・百光年ダイアリー…実は俺的にベストかもしれませんな、この話。アイディアは一番のお気に入りですわ。「決められていることに、どこまで反抗できるか」は俺の永遠のテーマですからね。そして「人生どこまで定められているのか」もね。そうかー、こうやって＜行間を読む＞のではなく＜行間を生きる＞っていう話が書けるんだなぁ、とホント、純粋に感動した話であった。
・誘拐…これは『順列都市』と一部かぶってますな。今の＜インターネット人格＞みたいなものによるコミューンにも同じようなものを感じているんだよね。
・放浪者の軌道…「誰にも影響されてない。俺は俺主義で、信じているモノは新興宗教オレ教だ！」というのを通し続けるのはしんどい。高校生の頃、オレはそれをやってトコトンつかれた。不良だって人と違う格好を頑張ってして一生懸命自己主張しようとしてるわけだけど、それはそれで小さな同じ様な格好の集団ができちゃうだけだからね。ＪＯＪＯ第三部の承太郎ぐらい学生服もアレンジしないとダメってことにはもう十年も前に気が付いていたんだよね。それをＳＦされてもねぇ、って感じ。ちなみにオレが発見した誰とも一致しない学生服のアレンジ方法はシャツは第一ボタンまで留めて、学生服は襟カラーをしっかりいれて襟ホックをきちんとしめて、ズボンはノータックで登下校時には学生帽を被ること。同じ服装の人間は３年間一人も居なかったよ、うん。
・ミトコンドリア・イヴ…最初に薬学科の先輩から聞いたときも、ワクワクはしなかったんだよね、＜ミトコンドリア・イヴ＞って。母方だけから受け継がれる遺伝子があって人類のイヴがわかる。だから何？って感じで。だがそれもこの作品の様に宗教戦争っぽい味付けをされるとアラ不思議、結構面白くなってくるのね、って感じ。ホログラフィック化された系譜図のヴィジョンが印象的な一編。ああ、あとＥＰＲってガジェットに再び出会えたのも嬉しいねぇ。『銃夢』以来か。
・無限の暗殺者…アイディアというか、イメージの壮大さに感動する前に打ちひしがれてしまった。林さんが誉めるのはわかる気がするが俺的にはどうも感覚がしっくりいかなくてイマイチ好きになれない、そんな作品だった。
・イェユーカ…そうか、医者の要らない世の中ってのもナノ・テクが発達すると来る可能性があるんだ、というのがかなり驚きの話だった。んで、連想したのはバラードの「ウォー・フィーバー」。大好きな話なのよコレ。＜第三世界＞では今も飢餓と疫病で一日何万人も死んでいる。こっちは交通事故で死んでいる。少年犯罪で騒いでいる。人口の何十％が乞食をやってる国もある。世界は混沌に満ちていて、そして個人の力ではどうしようもないこともある。だからこの作品のラスト、個人の強い意志が、病という人類の天敵と思われていたモノの一つを滅ぼすことができるという、その描写が、俺の心を強く打つのだった。
・祈りの海…そうかー、オウムの人たちはこんなことをやって幸せな気持ちになっていたんだね。ってゆうか、こーゆー異星の性的な儀式の話を一本書いてみたいと思っていた時期はあるんだけどね、うまくいかなかった思い出がある。いや、俺は世界とか人物造詣とかを綿密に書いてもらうよりは、ハッとさせられる驚きや深く染みいる感動が欲しいわけで、確かに人間の脳味噌が分泌するモノこそが宗教とか信仰とかを生み出していて、そこを揺るがしてみるというのはスゴイことなのかもしれないけどいささか説教臭い感じもして素直に受け入れることができないのだった。いいじゃんか、下垂体だか副腎髄質だかが分泌してるホルモンが人間の全てだったとしても。人は何かを信じることで生きていられるわけだし、体内に神様が仕組んだそういうモノを解明したところで何も変わりはしないんだからさ。

久々にＳＦらしいＳＦのしかも個人の短編集を堪能させてもらった。テーマを決めてないアンソロジーのようなヴァリエーションの豊富さに驚く。で、作者は同一なもんだからアンソロジーとはまた違った味わいがあるわけで非常に楽しめました。大満足。なんだ、２１世紀（実際には９０年代）になってもＳＦらしいアイディア勝負のＳＦって書けるんじゃん！とソウヤーを初めて読んだ時に感じたのと同じ感触を感じたわけであります。
これもネット上で読んでる人の感想文が非常に多く目についたんだけど、さすがにこの作品のヴァリエーションで１１作もあると人の好みも様々でお気に入りにあげてる作品がかなりまちまちなのが面白かった。俺が好きなのはやはり「貸金庫」「ぼくになることを」「百光年ダイアリー」あたりかな。ＳＦマガジン読者賞を取っただけあって誰もが誉める「祈りの海」とかは、そりゃー小説としての完成度の高さは認めるけれど、俺的にはイマイチ心に響くモノがないのだった。やはりアイディア一発勝負をしていた初期の作品の方が後半に書かれた作品よりも小説としては未熟だが＜俺のＳＦな感性＞まぁ、陳腐な言葉で言えばセンス・オヴ・ワンダーな部分に触れてくるのだ。それは７０年代のヴァーリィの短編集を読んだときに感じたワクワク感に近いかもしれない。＜サイバーパンク禍＞という８０年代の大混乱の渦を迂回してようやく感覚的に直結した作品に巡り会えたって感じである。
そうだなぁ、２１世紀は昔描いてた未来予想図とは一部では一致し、一部では大きく逸脱し、誰しもが潜在的に先の見えない不安におののいてる世紀かもしれない。そこでこういったアイデンティティーの問題を主題にしたＳＦがもてはやされるのかもしれないね、しばらくの間は。だからイーガンの小説は今が旬と云えるかもしれないね、うん。
それにしてもみんな、一様に瀬名さんの解説を褒め称えてるなぁ（苦笑）。そりゃ俺も彼の解説ウマイと思ったけどさ、もっと小説の話をしようよ、もう少し深くさ。

『元気だしてね』（WINGS COMICS）東城和美、読む。 - 01/01/14 00:00:00
本日の調子: ラ・セーヌの星なみ。

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＃１月１３日
最近はおセンチな気分を味わうために、ウチにある東城和美全部読み返したりとかたまにしてます。柊あおい先生の漫画はもう卒業だ！（東城和美も卒業しろよ＞自分）
今回だって、＜黒いチューリップ＞シリーズを買おうとBook-offに行ったのになかったのでついついこの本を買ってしまったのだ。
また姉弟で一つ屋根の下でモンモンしてる話かよ！勘弁してくれよ！
嘘です。白状します。こーゆー話が大好きです。（『若者のモラル』収録の「明日の恋人」がベストですからねぇ）
まーた、このお姉さんがぽややんな人で（『青春のためいき』路線）、主人公の学校に産休先生として登場したり、結婚詐欺師に騙されたりと主人公・和哉くんの苦労は絶えることがないのであった。
いい加減、家事が得意で所帯じみてる美形高校生が年上のぽややんなお姉さんに惚れて振り回されるという展開はやめんかね？（いや、もうやめてるか？これ９３年の話だもんね）
今回はソレを冷静に監察して笑ってる次兄（美形）の他に「俺がもらうー」とか涙流して熱血してる長兄（眼鏡）がいるので笑える要素が増えてていいけどね。
ま、俺が「元気をだしたいね」って気分で買ってきてその通りの効能があったので良いんだけれどね。ふむん。
＜黒いチューリップ＞シリーズとかヘンにＳＦしてたりアクションしたりしてるヤツよりはどうしてもこの路線の方がしっくりきちゃうのよね、東城和美は。
次こそは＜黒いチューリップ＞を入手してその感想をアップしよう。うん。

『度胸星全４巻』（ヤングサンデーコミックス）山田芳裕、読む。 - 01/01/11 00:00:00
本日の調子: 「ダンプかあちゃん」って昼メロ、覚えてる人いるかな？

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＃１月１０日
いやー、この人俺の大好きな『大正野郎』の人じゃないの。しばらく見ないうちにっつーか、『デカスロン』とか長いこと描いてるウチに随分とタッチ変わったよね。作風も。（無意味に力んでいるところは一緒かもしれない）
３巻、４巻は続けてポンポンと出たからいいけど、現在一気にそろえようとすると２巻の入手が困難かも。そーゆー時、わしは迷わずネット書店で取り寄せてもらうたけどね。それにしても、４巻でキレイに終わってしまったのは残念な漫画だった。普通あんまりだらだら続くのは好きじゃないのだが、これは明らかに１０巻前後で構想を組んでたんじゃないかなぁ、と思うと人気もあったように見えたのでなんで打ち切りっぽい短縮された話になってしまったのかが謎なんだよねぇ。
話は大きく２つのパートから成り立っている。＜スキアパレッリ号＞で火星に行ったスチュアート飛行士が遭遇する謎の物体＜テセラック＞とのコミュニケーションと彼自身のサバイバルを描くパート、それから主人公・三河度胸が火星行き宇宙飛行士候補生として選抜されてゆく過程を描いたド根性パートである。
度胸のパートでのキーパーソンは、ライバルであり親友になるはったりだけで突き進む度胸と正反対のタイプの色男・筑前、相手の考えがわかるというちょっとスタンドチックな女性・市原、天才少年・石田、インテリヤクザだけど暴力主義者・武田、そして研究者夫婦の坂井輪夫妻。
第１巻では火星の過酷な環境でテセラック第一形態と遭遇し、ただ一人生き残ったスチュアート飛行士のサバイバルと度胸の第一次選抜が描かれる。絡んでくるのはまだ筑前のみ。彼のはったりでの前進と度胸の馬鹿正直さで突き進んでいくところの対比が見所。
第２巻ではテセラック第二形態に「生かされ続ける」スチュアートがテセラックとコミュニケーションしながらその謎に迫っていく。一方、「度胸一発」で一次選抜をくぐりぬけた度胸は二次選抜へ突入。その試験内容はより「宇宙飛行士の選抜」っぽくなってくる。この巻での主な相手は暴力団の若頭・武田で、彼の妨害工作から起こった水中モジュール訓練でのトラブル脱出時の度胸の迫力は圧巻である。あと閉鎖モジュール訓練での市原さんとの出会いも結構重要。それと休暇の話とか。
第３巻ではいよいよスチュアートがテセラックに攻撃を受け始め、彼はテセラックに戦いを挑み始める。度胸は石田と組んだ減圧訓練をなんとかクリアして、アメリカからやってきたＢ＆Ｂコンビが選択した最終選抜方法、シベリアでのサバイバルテストを受ける事になる。（「サバイバルテスト」っていうとどーしてもシャリバンを思い出してしまうのは俺の悲しいサガよ、）このサバイバル訓練が悪天候のためマジで生きるか死ぬかのシャレにならない事態に陥ってしまい、度胸はもう読んでるこっちの目玉がひんむかれるかと思うくらいのド根性を発揮して生き残るのだった。いやもー、そのあまりのド根性ぶりに絶対ここで落ちてもいつか度胸は火星に立つんだろうな、って確信が得られるくらい、雪の中を進む度胸の描写は迫力がある。
で、結局最終巻となった第４巻についてはあまり語りたくない。ただ、筑前と市原さんがつきあうようになったのは度胸じゃなくてもショックだったし、次々と明かされるテセラックの秘密に驚いたり、坂井輪さんの言葉に普段からあまり宇宙に興味がないって云ってる俺でも「宇宙へ行こうとする人間の意義」みたいのを感じちゃって感動したり、そして、そして、オヤジさんの言葉を胸に火星へと旅立つ度胸の姿とそれを思いやるラストのＮＡＳＤＡ教官の言葉に泣けるほど胸を熱くさせるのであった。
いやー、度胸というよりは根性の一本槍な話に見えるんですけど、どうでしょ。「選抜」ってーのは最近だと『ヒカルの碁』のプロ試験とかを読んで結構そのスリルを味わってるんだけど、ヒカルの方は落ちてもなんかまたすぐ次があるさ、って感じで割と通るのか通らないのかってスリルを味わってる感じだったんだけど、度胸の場合は落ちたら後がないから通るんだろう、と思っていても手に汗握るんだからこれは是非読んで体験していただきたい。
それにしても候補生達の、特に度胸の試練のくぐり抜け方の見せ方もさることながら、火星に＜テセラック＞という「高次元の存在」が居てそれと人類がコンタクトを取っているというトコロが単に「火星への憧れ」とかを描いたのではなく、立派な＜宇宙人ＳＦ＞になっていて好きだったのになぁ、終わってしまってとても残念。（読後に思った作品は『マン・プラス』。あれも日本じゃ打ち切りみたいなモンだしね）でもたとえ打ち切りであろうと、短縮されていようと、全４巻をもう何回か読み返してみているわけで、この４冊はそれ自身きっちり完結して読めて充分面白い。ＳＦ魂がある人は是非４冊そろえて読んでみて欲しいそんな作品だ。

『夜聖の少年』（徳間デュアル文庫）浅暮三文、読了。 - 01/01/09 00:00:00
本日の調子: 赤鼻の馴鹿さんなみ。

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＃１月８日
「燃やせ！！！」「ファイヤー！！！」
俺は自分が気に入らない、あるいは不用と感じたモノに対して良く焼却指令を下す。これは俺のオヤジという人が、発作的に良く彼が「不用」と感じたモノを裏庭の焼却場で燃やしていたことに起因すると思われる。一体何度、大切な本や玩具を灰にされて涙したことか……。それが俺の「捨てられない病」＝「貧乏性」の原因でもあるのだが。
この作品に登場する＜炎人＞（ガーディアン）がなんとも『華氏四五一度』の焚書隊員（たしかファイヤーマンなんだけど消防士じゃないのよね）にかぶりまくり。

この世界ではある一定の年齢になって体が発光し始めると＜木曜日の儀式＞で＜聖遺伝子＞を植え付けられることによって、暴力や反社会的な行動を抑制された人間にされる、という設定になっていてそれで地上はその遺伝子を持つ人間達によって一種のユートピアが構築されている。＜炎人＞は一種の不具者が、唯一世界の番人として機能するように改造された姿である。で、そんな人が居るのは地上のユートピア世界以外に地下の世界があって、そこには＜聖遺伝子＞を持っていない少年少女達＝＜土竜＞達が存在するからなのだった。（物語が進むにつれ、それ以外の種類の非適合者が居ることもわかるのだが）
ケンの率いる＜土竜＞のグループの一員、カオルはおとなしくてなんのとりえもない、そしてだいぶ成長してしまった少年だった。地下の世界では成長が進んで体の発光が始まったら＜炎人＞に見つかる確率が格段に高くなるため、発光が始まった者は人知れず地下深くに潜って孤独な死を迎える。そういう自然なルールが出来上がっていた。そのカオルはある時、地下の施設に眠る白い巨人─＜炎人＞を倒すことが出来る強大な力を持った─に出会い、彼をミトラと名付け、グループの戦力として取り入れようと提案する。ケンは彼にマリアと二人でミトラについて調べてくるよう命ずるのだった。そしてカオルはミトラの誕生の秘密を探ると同時に自分の出生の秘密にも近づいていくのであった。

全体としての感想はまさに「少年の成長を描いた、若い人向けの小説の王道」と行った感じ。＜聖遺伝者＞が迎える一種の発情期、＜ピーク＞やマリアとカオルの交合の描写なんかも入れられて、グレさん満足だったんと違いますか？じゃなくて、うん、いい味出してるんじゃないでしょうかね、コレを読む読者の年齢層を考えると。逃げて逃げて逃げまくる展開がやはり『ダブ（エ）ストン街道』や『カニスの血を嗣ぐ』の作風から脱却できていないんじゃないかなぁ、とも思いましたな。次回はもうちょっと密度の濃い作品を期待したい。ということは、今回の作品ももうちょっと密度濃くできたんじゃないかなぁ、と思ってるということである。特に遺伝子だのクローンだのについてあんまり深く突っ込む気がないんならバッサリ切っちゃうとか。でも「王道」行ってるのは確かで、前２作の時に感じた喰い足りなさみたいのは感じていないので安心して他人にもオススメできますけどね。
mutさんに云われてようやく気が付いたけど、浅暮さんは森下一仁氏の創作ワークショップに参加してるんだから、こーゆージュブナイルっつーか、ジュニア向けの作品を突然書き下ろしても不思議じゃなかったんだよね。でもＳＦセミナーとかで「浅暮さんを売れる作家に改造する企画」とかで氏の生の声を聞いていた限りだと次に来るのは中年ロマン小説、しかもバンド系のヤツがくると思っていたのでこのデュアル文庫での出版はなーんかまさに寝耳に水って感じだったんスよね。あんまりジャンルにこだわらずに作家で喰っていくためにバンバンこーゆーの書いていったらいいんとちゃいますか、グレさん？と思う俺であった。

『ジーザス全１３巻』（少年サンデーコミックス）原作：七月鏡一・作画：藤原芳秀、読む。 - 01/01/05 00:00:00
本日の調子: 味のれんのおやじなみ。

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＃１月４日
藤原芳秀の漫画、というと学生時代に読んでいた『拳児』の印象がどうしても強い。今でも世界最強の拳法は八極拳だと信じているくらいだ。で、その『拳児』が俺の大学卒業とほぼ同時期に終了して始まったのがこの『ＪＥＳＵＳ＜ジーザス＞』だった。
大学卒業と同時に漫画雑誌、ＴＶアニメなどとの縁が一気に薄れたので、この作品もたまに部室に転がってるサンデーでちらちら見てただけで全然どんな作品なのか把握してなかった。が、今回の冬コミでガンパレねたの『突発の切り貼り本』を作ろうということになって後輩連中に原稿アイディア募集したところ「いや～、＜ソックスハンター＞シナリオ、この『ジーザス』そのまんまの設定なんスよ」と後輩３号が云いだし、コミケ前夜に全巻ウチに持ってきてそのまま置いていったので、正月明けは自分の本に使われたコマがどんなシーンのコマなのか検証する意味も込めて読み始めたら結構面白くて３往復ぐらい読んでしまったのだった。

元傭兵で凄腕の殺し屋・ジーザスは巨大暴力組織＜２４＞から１トンのヘロインを強奪した。そしてその追撃を逃れるためにうり二つの替え玉死体を使って、死を装った。
ここでトラブルが二つ重なった。
奪ったヘロインを黒板の中に隠し、文房具倉庫に隠して置いたところそれが手違いで私立高校の旧校舎に取り付けられてしまったということ。回収するのは新校舎が完成して旧校舎が取り壊される１年後になってしまった。そしてもう一つは、替え玉として使った死体、藤沢真吾はなんと今春からその黒板が取り付けられた学園に新任の教師として赴任することになっていたのだ。ジーザスは覚悟を決める。ジーザスという殺し屋は死んだ。そしてヘロインの監視も兼ねて、藤沢真吾として生きようと。
だが、無意味に藤沢真吾の周辺で暴力事件が多発。ジーザスはその能力を発揮してきりぬけてしまうのだった。当然天敵、＜２４＞がそれを見逃すはずもなし。＜虎＞と呼ばれることを極度に嫌う麗人のスナイパー・御堂真奈美を学園に送り込んでくる。
のほほん美人教師・水谷小百合、不良だが根は優しい（苦笑）戸川誠治、なにかと藤沢と戸川の間に入ってくる美少女・野代幸子（少年誌連載なので乳はみせてもＨはなしなの）、ＳＭＧ携帯の過激な女ジャーナリスト・朝比奈しほりを巻き込んで、今、学園は危険がいっぱい！なのであった。

んで、俺が作った『ガンパレ切り貼り本』は「藤沢真吾」を「中村光弘」に、「１トンのヘロインが黒板に」を「１トンのくつ下が黒板に」に変えて、＜ソックス・ハンター＞シナリオのパロにしたわけですよ、御堂の「わたしを”虎”（タイガー）と呼ぶなぁぁあ！」とかはそのまま使用（爆）。そして漫画のラスト、「俺は藤沢真吾じゃない、ジーザス。殺し屋だ！」と正体をばらして大見栄切るところを「俺は中村光弘じゃない、ソックス・バトラー。ソックス・ハンターだ！」とかやっただけなんですけどね。まぁ、ジーザスの面倒を見てる飲み屋のオヤジとそのカウンターが＜味のれん＞とそのオヤジに見えないこともなかったりして、コミケに来た客は中を見て、無言で立ち去っていくか、「タイガーと呼ぶなぁ！」のコマで爆笑して即金を払ってくれるかのどちらかでしたけどね。いや、俺も今漫画と一緒に読んで、自分で云うのもなんですがええ感じですわ（笑）。
うみゅー、連載が９３年から９５年くらいの漫画をネタにしてたのか……。わかる人少ねぇだろうなぁ、とかいいつつも作った分の本は全て売り切ったのでまぁ、いいっか、という感じである。
もし俺の本読んで興味が出ちまった、という方は愛蔵版が９９年に出ているのでまだ入手は可能かも。うーん、でもBook-offで立ち読みすれば充分かもね。

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