U-kiの読書日記

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『グラン・ヴァカンス 廃園の天使 I 』(ハヤカワSFシリーズJコレクション)飛浩隆、読了。 - 02/09/27 00:00:00
本日の調子: 首にエラのある水棲サイボーグなみ。

コメント:
#9月26日

鳴き砂の浜へ、<硝視体>(グラス・アイ)をひろいにいこう。
久々に、読んで心の躍った出だしの一文である。
<硝視体>と書いて(グラス・アイ)と読ませ、<視体>と書いて(アイ)と読ませる略し方の<硝子>に似た魔法の石。これが焦点を結びながら物語を紡いでゆく。
そして冒頭に早くも登場する<流れ硝視>(ドリフト・グラス)という、聞き覚えのあるキーワード。サミュエル・R・ディレーニィの傑作短編「ドリフトグラス」。あれも浜辺の話だった。
ジュールというほんとうの十二歳の少年であるかのような存在。彼はAI。
この作品の読み始めの感想は、マイ・オールタイムベストSF短編のジョン・ヴァーリィ「さようなら、ロビンソン・クルーソー」に一番近い。冥王星の地下に作られた人工の夏の浜辺、<パシフィカ>ディズニーランドのラロトンガ・リーフ。
好きな作品と類似しているということは、同じように好きになれるか、あるいはそれに嫌悪を覚えるかだ。最初は不安だったが、それが懸念に過ぎないことが次第にわかってくる。
夏。港町。リゾート。仮想リゾート、<数値海岸>(コスタ・デル・ヌメロ)。わくわくする言葉の並びである。なんといっても英語の題名がBIT-SEIN BEACH(ビット・ザイン・ビーチ)である。漢字では最終章の「微在汀線」があてられるらしい。まさにどこの国の言葉でもない「語」の美しさがあるというものだ。
舞台となる街の景色はマイクル・コニィ不朽の名作『ハローサマー、グッドバイ』の港町パラークシを思い出させる。この作品も地球ではないどこかの世界の人間ではないモノの物語だ。
<数値海岸>には「ゲスト」である人間が訪れなくなって千年の間、同じ一日が過ごされているという。SF界で<リゾート>と云えば人工の砂の海、J・G・バラードの『ヴァーミリオン・サンズ』だろう。彼は他に「終着の浜辺」で人工物と人間との対立を描き、「永遠の一日」では地球の自転すら止めて永遠に同じ日の同じ時間を過ごす場所を描いている。
気の遠くなるような仕掛けが序盤から次々とパッと鮮やかに展開されてゆく。
ネットワークのどこかに存在する、仮想リゾート<数値海岸>の一区画<夏の区界>。南欧の港町を模したそこでは人間の訪問が途絶えてから1000年ものあいだ、取り残されたAIたちが、同じ夏の一日を繰り返していた。だが、「永遠の夏休み」は突如として終焉の時を迎える。謎のプログラム<蜘蛛>の大群が、街のすべてを無力化しはじめたのである。こうして、わずかに生き残ったAIたちの、絶望に満ちた一夜が始まる。
この紹介文、読んでなかったんだけど読んじゃっても一緒でしょう。物語の前半はこの紹介文の内容をジェットコースター的にすり抜ける感じなのだ。いや、本当に予備知識ゼロ、この紹介文も読まなかったのでジェットコースター状態だったヨ!
頽廃、官能、残酷、繊細、天国に地獄……。このグラン・ギニョールにはすべてがある。あなたの人生さえもが──。
山田正紀の帯の文句である。最初何かありきたりな誉め言葉だよな、とか思っていたのだが、まったくこの言葉通りだったのでビックリした。
「ギニョールって何さ、教えてセニョール?」とか思ったのだがそこもまったくその言葉通りでいやはやまいった、山田正紀先生!と思った次第。
第一章「不在の夏」だけでも頽廃と繊細と天国が描かれきっている。そしてアッという間に官能と残酷の支配する地獄の章に入っていくのは圧巻である。あまりホラーとか読まないんだけど、暗黒面の描写は牧野修の世界に近いかもしれない。イントロの鮮烈さとあまりにもコントラストが強すぎてビックリしてしまうのだけれども。
天国と地獄を描いてみせながら、物語の本質はまったく別のところにあるのでこの本の後半はそれを描くのに費やされている。読んでいくうちにこれは仮想と現実との闘いであり、それはAIvs人間=創造物vs創造主の闘いであり、人間vs神の闘いと同じではないか、なんて読みもあったのだが見事に裏切られる。(まだその伏線は完結していないので外れているとも云えないのだが)
そして、あっと驚く幕引き。まぁ、三部作ということで続編への伏線引きのあと放置されっぱなしの「天使」などのキーもあり、オールクリアーとは云えないのだが、俺的にはOK・問題なしのおセンチさ漂うラスト。少年が少年期と決別する瞬間──たまりませんな。
個人的に燃えたのが蜘蛛の糸のレースを<鉱泉ホテル>に張り巡らせての<蜘蛛>との攻防。
まさに『花京院典明−結界の死闘−』!
この結界は触れれば探知され、攻撃が発射されるッ!くらえっ!半径20メートルのエメラルド・スプラッシュをッーッ!!

ぬがーっ、燃えーっ!激燃え!しかも、弾丸をッ!発芽させるッ!──ゴールド・エクスペリエンス!──なエフェクトに至っては悶絶ッ!
そうだよ、プログラムで出来た世界ではスタンド能力自由自在だよーっ、たまんねーっ!
なんか頭文字「J」の登場人物が多いのもJOJOティックで良い。勝手に「ジョルノー」とか「ジョリーン」とか適当に叫んで「スタンドを戻せーッ!」とか云うとイイ気になれること請け合いdeath(笑)。
まぁ、そんなところにドキワクしているのは多分俺だけだと思うので、普通の人はそれ以外の部分を存分にお楽しみあれ。
AIたちのふるまいは非人間的存在ではなくただの人間のキャラクターとして見てとれるので、あまりSF的な要素を求めない人にもオススメできるし、物語の収束の仕方は非人間世界のそれであるのでSF的なギミックを楽しめる方にオススメできる。(AIがAIであることを自覚してるのでなんとも言い難い風合いになっている)
とにかく真新しい要素は無いのだが、その分いろんな人に安心してオススメできて、いろんな人と深く語り合ってみたい、そんな一冊である。
買え!
そして読め!
やはり口惜しいのが<廃園の天使三部作>の序章に過ぎないのでこれ一冊で完結していないということ、ただそれだけ。まぁ、<ワイルド・カード>も序章が一番面白くて好きだったので間違って完結しなくてもOKかな。でも完結しなかったら許さないのでそこんとこハヤカワさん、よろしくー。
【→bk1】


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