イラストで紹介するスピリチュアルケア理論
(村田理論について)
今まで紹介してきました生きようとする3つの力が、人間存在を安定させる働きを持つこと、さらに、いのちが限られる苦しみの中で、どのようにケアとして展開されるのかをわかりやすくイラストで表してみました。これは、村田久行先生が提唱するスピリチュアルケアの理論を図示したもので、私はこの理論を村田理論と呼んでいます。
このイラストは、04年2月、雑誌「臨床看護 2004年6月号」の特集を組むに当たり、村田先生、利根中央病院の原先生と編集会議を開いた際に、村田理論をわかりやすく説明するために私が考案したものです。(雑誌の購入はこちらから)
村田理論の優れた点は、多様な世界観、死生観であったとしても議論しあえる共通の土俵を提示できる点にあります。スピリチュアルケアに関する考え方はきわめて多様性がありますが、バリアフリーな話し合いを行える理論的枠組みとして、今後広まっていくと確信しています。ここでは概念だけを紹介しますが、実際には「聴く」ということを通してその人の存在を支える援助を行っていきます。
人の存在を、3つの柱(時間、関係、自律)で支えられた平面と仮定します。将来の目標、自分を支えてくれる大切な関係、自分の自己決定できる自由があるとき、人の存在は安定し、多少の困難と遭遇しても、平面は水平性を保つことができます。 もし、不治の病にかかり、残された時間がわずかとなった場合、将来の目標を失ってしまうだけではなく今を生きる理由を失うことになります。これは、時間の柱がおれてしまい、水平であった平面は傾いてしまう状態で表されます。これが、時間存在の柱を失ったスピリチュアルな苦しみが生じた状態です。
人は、将来を失うような人生の危機におちいった時、過去を振り返ります。今まで生きてきた道をふりかえようとします。すると、健康なときには気がつかなかた大切な何かに気づいていきます。それは、自分を支えてくれた関係性です。健康なときには気づかなかった大切な何かを知ったとき、人は今までとは違った生き方を始めます。健康なときには仕事一筋だった会社人間のお父さんが、病気になり、まもなくこの世とお別れをすると知り、人生を振り返ります。すると、健康なときには家族はいらないと思っていたお父さんが、「これまでがんばってこられたのは、家族がいたからだ。ありがとう。」と家族に優しくなることがしばしばあります。そう思えたとき、人は一人だけではなく、大切な何か(この場合には家族)との関係性ゆえに、関係存在の柱が太くなっていきます。たとえ、いのちは限られる苦しみの中にあったとしても、穏やかに今を過ごすことができます。このように、自分を支えてくれる関係性に気づいたとき、関係の柱が太まり、それまで傾いていた平面が水平に支えられることになります。 大好きな娘のために、生きていたいとがんばって治療を続けてきた患者さんが、いよいよお別れが近くなったとき、死んだらどうなってしまうのだろうと不安になりました。そのとき、先になくなった自分のお母さんのことを思い出しました。10年前になくなった患者さんのお母さんは、いつも患者さんのそばで見守ってくれているように感じていました。すると、お母さんが見守っているように、私が亡くなっても娘のそばでずっと見守ることができる...と思えたとき、死んだらすべてがおしまいであるとは思わなくなりました。一人ひとりの死生観は異なりますが、死んでもなお将来があると思えたならば、時間の柱は再構築され、不安定であった平面は水平性を保つことができるでしょう。必ずしも宗教的なアプローチだけがスピリチュアルケアの全てではないことが、この概念で説明することができます。