マレー・スミス

タイトル悪魔の参謀
出版社文春文庫
定 価上巻650円・下巻631円
個人的ハマリ度(AA、A、B、Cの4ランクにて評価)
ダイジェスト 闘争資金が底をついたIRAは、資金を獲得するためコロンビアの麻薬カル
テルと手を結ぶと言う苦渋の選択を迫られていた。一方、ヨーロッパの麻薬
汚染を懸念したイギリス政府は、秘密情報局(SIS)に対して、早急にコ
ロンビアの麻薬カルテルの動向を掴むように指示を下した。SIS南米局長
デーヴィッド・ジャーディンは、潜入工作員として2名の新人を徴募したが、
政府から与えられた、わずか7週間と言う短い準備期間に頭を悩ませていた。
その頃、IRAと麻薬カルテルの計画は着々と進み、ニューヨーク、ロンド
ン、ダブリン、メデジンの世界4都市を股に掛けた大規模な麻薬輸送計画が
進行しつつあった。
コメント スパイ小説 "デーヴィッド・ジャーディン・シリーズ" の第1作です。マレ
ー・スミスの作品としては、第3作の『キリング・タイム』を先に読んで気
に入っていたのですが、処女作であるこの『悪魔の参謀』も、完成度の高さ
は第3作と何ら変わらず、とても新人とは思えない堂々たる文面でした。本
作では、イギリスSISが麻薬カルテルに工作員を潜入させるための準備期
間を描くために、上・下巻を通じたページ数の実に4分の3を費やしていま
す。また、ストーリー冒頭に描かれている複線である事件を作中の登場人物
達が突き止めていく筋書に関しても、決して性急な展開にはなっておらず、
むしろじれったいとも思えるほど、きちんと手順を踏んでおり、それらが本
作にストーリーの厚みを醸し出しています。非常に面白い作品でした。

タイトルストーン・ダンサー
出版社文春文庫
定 価上巻544円・下巻505円
個人的ハマリ度(AA、A、B、Cの4ランクにて評価)
ダイジェスト コンピュータのシステム・エンジニアを装った二人組が、USクレジット・
エクスプレス社のサンクトペテルブルク支店を訪れ、システムに侵入して口
座から1億5700万ドルを盗み出した。その後も二人組は、巧妙な手口を使い、
さまざまな国の大手企業から巨額の金を盗み続けたが、各国の当局は、二人
組の犯罪を単に額面の大きな搾取事件と見なしていた。その頃、イギリス秘
密情報局(SIS)のデーヴィッド・ジャーディンは、反りの合わないSI
S長官の差し金によって、西側情報活動合同運営委員会のSIS代表と言う
閉職に追いやられていた。その彼の元に、ベイルートの秘密情報員から緊急
の来訪要請があった。委員会の退屈な仕事にうんざりしていたジャーディン
は、ベイルートへと飛んだが、そこで彼は、正体不明の男達によって拉致さ
れてしまった。とある別荘地の邸宅に連れ込まれたジャーディンは、現れた
男から、国際的な金融犯罪を行っている二人組の片割れが、元モサドの敏腕
工作員である事を知らされた。単なる巨額搾取事件と思われていた二人組の
犯罪の背後には、巨大な謀略が秘められていたのである。
コメント スパイ小説 "デーヴィッド・ジャーディン・シリーズ" の第2作です。読み
始めた時は、敏腕の元モサド工作員による単なる金融犯罪がテーマかと思い
きや、読み進んで行く内に、段々とスケールが大きくなって行くストーリー
展開には感心させられました。いつもながら、急ぐ事なく、きちんと手順を
踏んで物語の核心に迫って行く作風でしたが、読む上でのもどかしさは微塵
も感じられませんでした。最後があっけなかったのが、少々、残念なところ
でした。

タイトルキリング・タイム
出版社文春文庫
定 価上巻571円・下巻543円
個人的ハマリ度(AA、A、B、Cの4ランクにて評価)
ダイジェスト イランがアメリカ国内での大規模テロをリビアのテロ組織アブ・ニダルに依
頼したとの情報を得たイギリス秘密情報局(SIS)工作管理本部長デーヴ
ィッド・ジャーディンだったが、イラン中枢部に確保している情報源が露呈
するのを恐れたジャーディンは、このテロ情報を見過ごすか否かの決断を迫
られていた。その頃、新たにSISに徴募されたジェームズ・ガントは、情
報伝達部門で働いている最中、このテロに関する間接的な情報を目にする事
となった。テロの情報をアメリカのCIAに伝えようとしないジャーディン
の態度に憤りを感じたガントは、考えられないような行動に出てしまう。
コメント スパイ小説 "デーヴィッド・ジャーディン・シリーズ" の第3作です。マレ
ー・スミスの作品を読むのは本作が初めてなのですが、なかなか面白い作品
でした。スパイ小説で私がトップに名を挙げているのはトム・クランシーで
すが、クランシーが比較的限られた登場人物で深く掘り下げたストーリーの
書き方をするのに対し、マレー・スミスの作品は、キーとなるキャラを順次
登場させ、まるでパズルを組み合わせるが如くストーリーを組み立てて行く
作風でした。本作の登場キャラ達は、なかなか味のある性格設定が成されて
います。