リチャード・ハーマン・ジュニア


◆『第45航空団』(新潮社、800円)

 個人的ハマリ度:A(AA、A、B、Cの4ランク評価)

 イランの指導者がツデー党によって暗殺された。ツデー党はイスラム人民軍を名乗り、湾岸戦争に
よって力の落ちたイラクに対して聖戦を発動しようとしていた。中東における紛争の拡大を懸念した
アメリカ大統領は、イギリス駐留のアメリカ空軍第45航空団をサウジアラビアのアサンヤ岬基地に展
開させ、イスラム人民軍のイラク侵攻に対する阻止攻撃を行うよう命じた。だが、かつてのベトナム
戦争の再現を恐れたアメリカ世論により、大統領は1個航空団以上の戦力を投入する事が出来なくな
った上に、中東諸国の非協力的な態度により第45航空団は孤立して戦う事態に陥った。

【コメント】
 シチュエーションに若干の無理を感じたものの、作者のリチャード・ハーマン・ジュニアがベトナ
ム戦争で実戦経験のある戦闘機パイロットだっただけあって、航空機戦闘の描写は実に迫力があり、
その分野においてはトム・クランシーをも凌いでいると感じました。非常に面白かった作品です。


◆『ウォーロード作戦』(新潮社・781円)

 個人的ハマリ度:A(AA、A、B、Cの4ランク評価)

 イスラム連合軍のイラク侵攻を阻止したアメリカ空軍第45航空団だったが、イスラム軍の猛攻の
中、サウジアラビアのアサンヤ岬基地から撤退する際、基地に取り残された300名近い地上要員が
イスラム軍の捕虜となってしまった。停戦後、アメリカが捕虜の返還の交渉を進めているさ中、捕虜
を抱え込んでいるイランに対しリビアが金銭による捕虜の買い取りを申し出る事態が発生した。この
卑劣な行為に対し、アメリカはイランに捕虜を引き渡さないよう圧力を加えたが、帰ってきた答えは
莫大な金額の請求であった。交渉による捕虜の引き渡しはもはや不可能であると悟ったアメリカ大統
領は、統合参謀本部に対し、捕虜の奪還作戦の立案を命じた。

【コメント】
 『第45航空団』の続編です。本作では、前作でサウジアラビアのアサンヤ岬基地で戦った第45
航空団の生き残りのメンバーを中核として、F−15C、F−15E、C−130輸送機、AC−1
30ガンシップ、陸軍レインジャー部隊などから構成される捕虜奪還部隊 "アルファ任務部隊" が、
イランのケルマンシャーにある捕虜収容所に奇襲攻撃を敢行します。当初のアメリカ政府の計画では、
捕虜の奪還作戦は、陸軍デルタ・フォースや空軍特殊作戦航空団を含むアメリカ軍の最精鋭部隊を結
集して編成された奪還任務部隊が行う事になっており、"アルファ任務部隊" は、奪還任務部隊の存
在を敵の目から隠す目的で編成されたオトリ部隊の役目を果たす事になっていて、陸軍レインジャー
部隊や、腕は良いが一般部隊ではハミ出し者扱いされているような者たちで構成されていました。こ
のひとクセもふたクセもあるようなメンバー構成がなかなか見ものでした。


◆『最終作戦トリニティ』(新潮社・781円)

 個人的ハマリ度:A(AA、A、B、Cの4ランク評価)

 湾岸戦争の深手から立ち直ったイラクは、新型の強力な毒ガスを密かに開発すると共に、かつて第
4次中東戦争でイスラエルと戦ったシリア、エジプトと連合し、イスラエル侵攻を画策していた。モ
サドの諜報活動により、イラクの不穏な動きを察知したイスラエルは、自国への侵攻に対しては、核
兵器使用による報復も辞さない決意を固めた。中東の緊張が高まる中、アメリカ合衆国は、同盟関係
にあるイスラエルと、石油産出国であるアラブ諸国双方に対する政治的ジレンマに陥り、戦争を防ぐ
ための打開策が打てぬまま、ついに戦端は開かれてしまい、シリア軍の戦車部隊が国境を越え、イス
ラエルへと侵入した。

【コメント】
 "第45航空団シリーズ" の第3弾。『ウォーロード作戦』と同じく、またしても舞台は中東です。
イスラエルとアラブ諸国との反目は世界的に知られていますが、本作でのアメリカは、政治的理由に
より両者の間に挟まれて身動きが取れなくなっており、戦争を防ぐ事も大規模な介入も出来なくなっ
ていますが、その辺の政治的駆け引きの描写は、なかなかよく書かれていました。本作で主として戦
いを繰り広げるのはイスラエルとアラブ諸国の軍隊であり、アメリカ軍は、例によって第45航空団
のみが限定的に介入します。ちなみに、本作での45航空団使用機種は、F−15Eストライクイー
グルになっています。