ソ連東部上空に配備されていたアメリカの弾道ミサイル監視衛星が通信を絶ち、同時にカムチャ
ツカ半島カバツニャにあるソ連の秘密研究施設を海上から偵察していたアメリカ空軍のRC−1
35偵察機が消息を絶つ事件が発生した。この事件がカバツニャにおいて密かに開発されている
ソ連の対弾道弾レーザーの仕業であるとつきとめた合衆国政府は、対弾道弾兵器制限条約違反と
して国連安保理事会に提訴したが、ソ連はレーザーの保有を全面的に否定した。国連での政治的
駆け引きが膠着状態に陥ったさ中、今度はアメリカ国内で試験発射した新型ICBMが大気上層
部で破壊され、同時刻にカバツニャ沖に配備されていたアメリカの情報収集船がカバツニャから
の高エネルギー発射を探知した。アメリカは再び国連でこれを追求したが、ソ連は否定。これに
対しアメリカは、対弾道弾兵器制限条約によって使用を禁じられていた対弾道弾迎撃衛星を打ち
上げたが、ソ連はこの衛星をも撃破した。激怒したアメリカ大統領は、侵攻強襲用の特殊装備を
備えた戦略爆撃機数機によるカバツニャの爆撃を命じた。
【コメント】
現代の戦略爆撃機(しかもB−52)が主役と言う珍しい作品です。作者であるデイル・ブラ
ウンは元米空軍パイロットであり、B−52やF−111に搭乗した経験があるだけに攻撃の
描写は実にリアルです。かつてパイロットであった人物が自分が乗っていた航空機のジャンル
の小説を書けば、思い入れがあるせいで必要以上に美化したりする事がありますが、本作の主
役である爆撃機は、「そこまでやるか?」と言うほどのハンディキャップを背負わされて任務
に望むハメになる上に、苦戦に次ぐ苦戦を強いられています。ストーリー冒頭のレーザーの存
在をめぐる米ソの駆け引きはトム・クランシー並みに読み応えがありましたが、ストーリー後
半で爆撃機が出撃したあたりからは、冒険小説的なご都合主義が少々感じられました。
オールド・ドッグによるカバツニャ爆撃作戦から数年後、アメリカISA(情報支援局:CIA
の補佐機関)の秘密作戦によりリトアニアから連れ出したCIS(独立国家共同体)軍士官から
オールド・ドッグがソ連から脱出する際に死亡していたと思われていた搭乗員のデイヴィット・
ルーガー中尉がソ連によって救助されて密かに洗脳され、ソ連解体後もリトアニアにあるフィシ
コウス研究所で新型のステルス爆撃機の開発に従事させられていると言う情報がもたらされた。
アメリカ政府は事実を黙殺しようするが、これを察知した統合参謀本部議長と国防長官は救出作
戦を強硬に主張し、ついに大統領は小規模な部隊による秘密救出作戦を承認した。だがその頃、
リトアニアの隣国で同国の利権を密かに狙っているベラルーシが不穏な動きを見せ始めていた。
【コメント】
『オールド・ドッグ出撃せよ』の後年にあたる作品です。ルーガーが生きていたと言うのは少
々ご都合主義と思われ、アメリカ軍のリトアニアへの関与の仕方もいささか強硬過ぎるきらい
はあるものの、デイル・ブラウンが得意とする戦闘シーンの描写は一読の価値はありました。
アメリカ空軍ハイ・テクノロジー航空宇宙兵器センター(HAWC)で開発中だった、人間とコンピ
ュータが直接インターフェースを行う最新技術を搭載した実験戦闘機『ドリーム・スター』が、
ソ連の送り込んだモグラ(長期潜入工作員)によって盗み出された。KGBの支援を得た『ドリ
ーム・スター』は、アメリカ空軍の追跡を撃破して中米ニカラグアにあるソ連軍基地へと逃げ込
んでしまった。さらにソ連本土へと『ドリーム・スター』を運ぼうとするソ連とアメリカの間で
政府を巻き込んだ駆け引きが始まった。
【コメント】
『オールド・ドッグ出撃せよ』の続作です。本作では2機種の戦闘機が主役メカとして登場し
ます。1機種はもちろん『ドリーム・スター』で、もう1機種は本作の表題にある "チーター"
で、これはF−15Eストライクイーグルの先進技術実験改装型で、"チーター" は、それに
付けられたニックネームです。人間とコンピューターが "直接" インターフェースを行うと言
う "ANTARES" テクノロジーなるものの現実性はこの際置いといて、作中のニカラグアにおけ
る駆け引きでのアメリカは、少々やり過ぎているように思えました。
麻薬密輸が盛んに行われている地域で知られるアメリカ合衆国のフロリダにおいて、麻薬を運ん
でいると思われる輸送機を要撃した合衆国沿岸警備隊所属のファルコン哨戒機が輸送機から銃撃
を受けて撃墜され、それに続いて輸送機の荷物投下地点を急襲した合衆国関税局の武装捜査官チ
ームが乗ったブラックホーク・ヘリまでもが破壊される事件が発生した。ほどなくして、今度は、
不審な行動をとる貨物船を臨検しようとした沿岸警備隊の監視艦が貨物船からの突然の銃撃を受
けて多数の死者を出す事件が起こった。沿岸警備隊の当該管区司令官であるハードキャッスル少
将は、麻薬阻止を目的とした準軍事的な組織を緊急に設立する必要性を大統領に進言し、沿岸警
備隊、関税局、DEAなどから選抜メンバーを集め、空軍から特殊作戦機の供与を受けて合衆国
国境警備隊 "ハマーヘッズ" を設立し、本格的な麻薬阻止作戦を開始した。
【コメント】
『オールド・ドッグ出撃せよ』シリーズの続作であり、"オールド・ドック" での主要キャラ
である米空軍のエリオット中将とマクラナハン少佐も登場しますが、彼らは本作ではオブザー
バー的立場であり、主人公は南米からの麻薬密輸と戦う合衆国沿岸警備隊と関税局の面々です。
非軍事である麻薬密輸を題材としているため、物語を通じて派手な戦闘シーンは少ないのです
が、合衆国政府内部での政治的駆け引きの描写を含め、なかなか読み応えのある作品でした。
国際的テロリストのアンリー・カゾーは、航空機を使った武器密輸で資金を調達しつつ、アメリ
カへのテロの機会を密かに伺っていた。国内において、カゾーの動きを察知したアメリカ司法当
局は逮捕作戦を敢行するが、用心深いカゾーが仕掛けていた罠により次々と犠牲者が出てしまっ
た。輸送機でなおも逃走を続けるカゾーに対し、当局は空軍の戦闘機を投入して彼を追い詰めた
が、これに怒ったカゾーは積荷の爆発物を投下して空港を爆破した上に当局の追跡を振り切った。
執拗な追跡を生き延びた事に自らの強運を見出したカゾーは、アメリカへの復讐の時が来たと確
信し、民間輸送機を使った空港の爆撃テロを開始した。これに対し、アメリカ政府は軍を動員す
ると共に空路の監視を強化し、アメリカの空は、民間機をも巻き込んだ一触触発の状態に陥った。
【コメント】
作品的には『ハマーヘッズ緊急出動』の続作に当たり、メイン・キャラとして、イアン・ハー
ドキャッスルが登場しますが、"ハマーヘッズ" ことアメリカ国境警備隊は、ある事件での失
態が元で世論の弾劾を受けて解隊され、ハードキャッスルも隊を退役してしまっています。本
作のテーマである民間機輸送機を使った空港の爆撃テロなどは、現実離れした絵空事のように
思われますが、1日に1万7000機以上の航空機が飛び交い、さらに数多くの臨時便やフライト
・プラン事後承認などが認められているアメリカの空においては、キレたテロリストが本気に
なれば、あながち有り得そうだと思いました。
フィリピンで国民投票により米軍基地の返還が可決され、フィリピン駐留の全米軍は国外へ退去
する事となった。米軍の撤退がほぼ完了した頃、中国とフィリピンの双方が領有権を主張してい
た南シナ海の南沙諸島において、中立地帯に設置されたフィリピンの石油掘削はしけを中国の哨
戒艦隊が撃沈する事件が発生した。事件後も引き揚げようとしない中国艦隊に対し、フィリピン
軍は、海、空軍部隊によって攻撃を加え、窮地に陥った中国艦隊司令官は戦術核兵器を使用して
フィリピン艦隊を殲滅してしまった。時のフィリピン大統領を快く思わず、フィリピンの共産化
を目論んでいた第一副大統領テギナは、この事件を利用し、中国艦隊司令官に協力を依頼し、ク
ーデターを決行した。中国首脳部は、この機会を利用してフィリピンを勢力下に納めるべく大規
模な軍を派遣し始め、アメリカ大統領はついに介入を決意した。
【コメント】
"オールド・ドッグ・シリーズ" の1作で、時系列的には『ハマーヘッズ緊急出動』より後年
にあたる作品。本作では主役爆撃機は最新鋭のB−2ステルス爆撃機となっており、戦闘のス
ケールは "オールド・ドッグ" より大きくなり、アメリカ空軍も、B−52、B−1、B−2、
F−111などで編成される1個混成爆撃航空団が登場します。従来作と同様、アメリカ爆撃
機部隊は天下無敵扱いはされておらず、限られた時間の中で、巧みな防御を敷く中国の海、空
軍を相手に苦戦を強いられていたのが印象的でした。個人的には、中国艦隊の戦闘能力が少々
強力すぎるように感じました。
エリツィンの後を継いでロシア大統領となったヴェリチコは、ソ連邦の再興を目論み、手始めと
してかつての連邦構成国のひとつであり国内においてルーマニア系住民とロシア系住民の紛争問
題を抱えるモルドヴァに、「ロシア系住民の保護」を大義名分として特殊部隊を載せた輸送機を
派遣した。輸送機は、軍用機の領空侵入を禁止していた、かつてのソ連邦構成国ウクライナ上空
を通過してモルドヴァへ向かったが、モルドヴァ侵入と同時に撃墜されてしまった。この事件を
きっかけに、ルーマニアはモルドヴァ支援を表明して軍隊を進駐させ、ウクライナも全軍に警戒
態勢を発してロシア国境の防備を強化し、東欧の緊張感は一気に高まった。そのさ中、ウクライ
ナにロシアの爆撃機部隊が現れ、ウクライナ空軍はからくもこれを阻止したが、これに激怒した
ヴェリチコ大統領は、ついに戦術核兵器による攻撃を命じた。
【コメント】
相変わらず珍しいテーマが得意なデイル・ブラウンならではの作品で、東欧(CIS圏)問題
が舞台となっています。現代においては、地球滅亡の引き金となりかねない核の使用は有り得
ないと言うのが一般的な考え方ですが、過激な思想を持つ指導者が核兵器保有国の元首の座に
就けば、あながちありそうなシチュエーションだと思いました。本作におけるアメリカ大統領
は、軍事的行動に関しては少々消極的すぎると思われましたが、作品的には面白かったと思い
ます。本作での "主役メカ" は、F-111を改装し偵察能力を付加したRF-111G "ヴァンパイアー"
偵察爆撃機です。ちなみに、本作は "オールド・ドッグ・シリーズ" でも "ハマーヘッズ・シ
リーズ" でもありませんが、"ハマーヘッズ・シリーズ" の1作である『頭上の脅威』と同じ
アメリカ大統領が登場するところから、先の2シリーズと同一の世界を舞台にして描かれてい
るようです。