フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー

 1821年〜1881年。ロシア文学界の巨匠であり、夏目漱石、島村藤村、芥川龍之介などの日本文学界
の巨匠たちを含め、世界的に文学に影響を与えたと言われています。

 処女作は、『貧しき人々』。その他、代表作として、『地下室の手記』、『罪と罰』、『悪霊』、
『カラマーゾフの兄弟』などを執筆。


タイトル罪と罰
出版社岩波文庫
コードISBN:4-00-326135-6、4-00-326136-4、4-00-326137-2
定 価上・下巻各760円、中巻700円
コメント ドストエフスキーが1866年に書き上げた長編小説です。上、中、下の3巻構成で総計
1200ページを越える長編であり、「長い」、「暗い」、「重い」と言われるロシア文
学作品を地で行くような、ずっしりと重い作品でした。物語の導入部は、大学を中退
した革命家気取りの思考の持主である主人公が、貧困から来る栄養失調が元で患った
熱病に冒された精神状態で「世直し」を衝動的に思い立ち、そのための資金を調達す
る目的で強欲な金貸しの老婆を殺害すると言うストーリーで始まります。導入部は上
巻の前半で終わり、後は、罪を犯した主人公の心の葛藤と、主人公に迫って行く司法
との綱渡り的な駆け引きが延々と続きます。一種、サスペンス的な作品ではあります
が、世界的な文学作品だけに、登場人物達の思想や作中の会話などは重々しく描かれ
ており、テレビの火曜サスペンス劇場における同様なストーリーの作品とは明らかに
違います。本作では、罪を犯した主人公の心の葛藤を大筋として、最終的に人の真の
愛の形が描かれていたように私には思えました。ただし、個人的には、不自然と思え
る設定が余りにも多すぎるように見えた作品でもありました。いくつか例をあげるな
らば、まず、おせっかいを通り越して、ストーカーばりに主人公の世話を焼く友人。
息子の事以外には、ほとんど盲目的と言って良い母親。「汝、隣人を汝と同じように
愛せよ」と言うキリストの言葉を体現したかのような、他人のためだけに文字通り身
を犠牲にして働く少女。単なる女好きの俗物として登場したのに、最後は財産を他人
を助けるために散財した挙げ句に自殺してしまう男。これらの登場人物達の思想や行
動が、最終的に主人公が導き出した結論に大きな影響を及ぼす事になるのです。これ
ら登場人物達の、余りにも極端な行動には、いささか無理を感じざるを得ませんでし
た。個人的には、確かに高尚な作品であるとの印象は受けましたが、本作からは、こ
れまで読んで来た作品のように「教義的」な言葉を見い出すことがほとんどありませ
んでした。