■■■SUNの舞台評■■■



宝塚雪組公演

観劇日:1999年1月 29日(金)18時
    G列7番(当日券 購入)

雪組公演 バウ・ミュージカル「心中・恋の大和路」

        近松門左衛門「冥途の飛脚」より

劇場 :日本青年館 大ホール


        脚本・演出:菅沼 潤
           演出:谷 正純

        亀屋忠兵衛:汐風幸
           梅川:貴咲美里
      丹波屋八右衛門:朝海ひかる
        かもん太夫:灯 奈美
           与平:未来優希
       他・雪組「心中・恋の大和路」組



物語=公演プログラムより。

大阪の飛脚問屋・亀屋忠兵衛は、新町の遊女梅川と馴染みになったが、梅川が他の男に身請けされると聞き、丹波屋八右衛門へ渡すべき為替五十両を身請けの手付金として、槌屋の女将に支払ってしまう。
このことを知った八右衛門は、一旦は忠兵衛を許したものの、できることなら梅川との縁を切らせ、まっとうな商人に立ち直らせてやりたいと思案し、新町の槌屋へ出掛けて行き、

「忠兵衛は他人の金を
 梅川の身請け金の手付けとして支払うような大騙りだ。
 お前たちも盗んだ金を受け取ればお咎めがある。
 忠兵衛が来たら追い返して下さい」と頼み込んだ。

ちょうどそこへ梅川に会いにやってきた忠兵衛は、八右衛門に向かって
「裏切り者」と叫び、持っていた為替金三百両の封印を切り、
「梅川の身請けの金だ。受けとれ!」と女将の前に突き出した。
客からの預かり金を使い込めば、所詮死罪は免れない。
忠兵衛は、最早これまでと、梅川を連れて親許の大和新口村をさして落ちて行く。

=以下、追加。
大阪の飛脚問屋たちは
「飛脚問屋仲間の忠兵衛を、このまま逃がしては
 自分たちの信用にもかかわる。
 自分たちで見つけ出して役人に突き出すのが得策」と忠兵衛を追う。

忠兵衛と梅川は新口村に着いたが、忠兵衛の父親の落胆に
(忠兵衛は亀屋に養子として迎えられていた)
自分たちの罪の深さを知り涙す。
そこに、飛脚問屋たちとは別に忠兵衛を追っていた八右衛門が現れる。
八右衛門は続いて追い付いた飛脚問屋を身をもって押しとどめ
「早く行け」と忠兵衛と梅川を逃がす。
「どかねば切る」と、
刀を手にする飛脚問屋たちにとり囲まれた八右衛門は
「逃がしてやれ、裁きはこの降り続く雪がしてくれる」
と皆に言い、問屋たちは、刀を鞘に収める。

降りしきり、積もる雪の中、忠兵衛と梅川は歩く、歩く・・・・





宝塚、自己更新、ひさしぶり!

期待して観に行ったわけじゃないけれど、
片岡仁佐衛門の娘が近松演るんじゃ行かないわけにはいかんでしょう。

しかし、開演前に青年館の喫茶店でウェイトレスのおばちゃんとの会話。

W「宝塚もレビューとか演ればいいのに」
S「青年館では無理でしょう」
W「でも、不景気なんだからねえ、
  もっとパーッとしたののほうがいいよ。
  こんな不景気なのやってないで」
S「不景気ですか、今やってるのは」
W「そうよ、席いっぱい空いてるわよ。こないだのも・・・」
S「こないだのって?」
W「無法松なんてやんのよ」
S「あれも駄目ですか」
W「駄目よ」

なんて言うもんだから
「そんな不景気な話しなのか・・・
 まあ、心中ものだものなあ」と思いつつ
「やっぱり思ったとおり席あるのか、
 当日券でもいい席ありそうだな
(当日券買うつもりで私来たので)
 でも・・・観たら後悔するのかも・・・」
と、劇場に向かったのだ。

しかし、しかしっっっっっ!
いやあ、いい舞台だった。
汐風幸! さすが片岡仁佐衛門の娘だね。
いや、見直した。芝居が上手い。
大向うから「松島屋」の屋号がかかったのも楽しい。

いい脚本だよ。
八右衛門をああいう設定(冒頭の「物語」読んでね)
にもってくるなんて、うーん、凄いね。
八右衛門って、いやなやつなんだよね、原作は。
蜷川幸雄さんの「近松心中物語」でもそうだし。

汐風幸の忠兵衛の情けなさが、また愛敬があっていいんだなあ。
八右衛門との前半の絡みは
「仲いいなあ、こいつら」みたいな微笑ましさいっぱいで。

朝海ひかる、八右衛門を好演。
ようこそ雪組へ。

だから、八右衛門の思いが逆方向にいってしまった「封印切り」の場面は二重の悲劇性があった。

舞台装置も「やられた」って感じです。雪の表現が御見事。
ロープを幾筋も垂らして舞台に下ろし、降り積もった雪にもし、
上げて、垂れ籠める雲とする。
そして、降り積もった新雪を忠兵衛と梅川が踏み分けるラストでは、
舞台一面の白布が空気を含みふくらんだ上を歩く。
その布の所どころを天井から糸で釣り上げ、
道のりと共に場面を変える。

演じ手もよかった。娘役さんたちに感心。
忠兵衛と梅川の新口村への道行の途中。
道頓堀の喧騒のあと、ポカンとした静寂の舞台(この構成も素晴しい)
とそこへ、薄を手に女の子が一人歌う。
松雪可奈子というその生徒は、
その一時の空虚さと日溜りを実によく体現していた。

新口村で、忠兵衛と梅川を迎えた忠兵衛の兄の嫁(忠兵衛とは面識なし)
のおかねは、最初二人を噂の「大阪から逃げてきた罪人」と思うが、
二人の咄嗟の嘘に安心して
「そんな人達きたら、もううち怖くてたまらんわあ」的なことを、
立板に水の勢いで喋りまくる。
それがまた愛敬があって可笑しくて、
その一気台詞の後、劇場全体に笑いと拍手が沸き上がりましたもの。
私もその一人。

その「芸」に感動して思わず拍手が起こる。
約束事ではなく。
これは素晴しいことだ。なかなかない。
役者は森央かずみ。その名前を覚えておこう。

そういうことで、こんな素敵な舞台を空席だらけなんて勿体ないよ。
みんな、行こう。






以下にメールでご指摘がありました方のメール文を掲載いたします。


うーん。私、観劇感想文にいいかげんなこと書いてました。
反省。
以下の文を読んでください。
メールをくださったKさん、ありがとうございます。


はじめまして。ホームページの「心中・恋の大和路」評、拝見しました。

私も1月29日の夜に観ました。
金曜の夜で、1000DAYS劇場の公演がなかったせいか、
客席も華やかで、休憩時間も楽しい公演でした。

もう一回観たいものだと思っていたのですが、
たまたま今日の午後、時間があいたので、千秋楽の公演も観てきました。

忠三郎のご新造が
「だんなさん、片岡仁左衛門そっくり」と声をかけるアドリブもあって、
前回と同じところで泣いたり笑ったり、
新しい発見もしながら楽しみました。

ところで、八右衛門が、忠兵衛を思う友人であるのは、
原作(「冥途の飛脚」)を踏襲したものです。
(さすがに、忠兵衛のために新口村まで赴くまではしませんが)
何度か行われた改作のときか、歌舞伎にうつされるときかわかりませんが、八右衛門を、忠兵衛と梅川をめぐって争う恋敵とする変更があって、歌舞伎ではその型で上演しているようです。
映画の「浪花の恋の物語」でも、なんとか止めようとするが果たせず、
諦めて帰っていく八右衛門を千秋実が演じていました。

1年前に国立劇場小劇場で「冥途の飛脚」がかかったときは、
元の、善人の八右衛門でやっていました。
映像の記録をとっているはずですから、機会があったら、ご覧になるといいでしょう。
歌舞伎とも宝塚とも違う、
喜劇から悲劇への転換のおもしろさがあります。


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