■■■SUNの舞台評■■■



野望と夏草

新国立劇場 小劇場

観劇日:1998年12月16日(水)
    14:00〜(D3列 14番)

    12月18日(金)
    19:00〜(E列 12番)2幕のみ観劇

劇場 :新国立劇場 小劇場

           作:山崎正和
          演出:西川信廣

          美術:横田あつみ
          照明:山口 暁
          音楽:後藤浩明
          音響:井上正弘
          衣装:岸井克己
          振付:室町あかね
        演出助手:道場禎一
        舞台監督:水戸部雅史


@@@@ 出演 @@
        後白河帝:津嘉山正種
        平 清盛:内野聖陽
        源 義朝:井上純一
        藤原信西:三木敏彦
          九郎:たかお鷹
          いち:竹下明子
  平 時子(清盛の妻):金久美子
  平 徳子(清盛の娘):弥生みつき
  阿波内侍(信西の娘):高橋紀恵
         踊る女:鬼頭典子(他4人)
     以上、主なキャストのみ



よかった。ひさしぶりに重厚なのを楽しませていただいた。
血、性、永遠、容認、自己認識、無常、
なんてことに正面から取り組むには、
こういう様式美の世界でないと出来ないのだなと思ったよ。
様式によって、生きている日常の些末なことから
観客は解き放たれるのだ。

これはね、集中力がいった。
でも、それを保っていられる面白いストーリーだった。
この集中力が維持出来なくて、負けてしまった
(=話しの流れにおいていかれた)
観客の間違いなリズムってのがやっかいなんだろうね。
演じ手にとって。

集中力を強いるのは悪いことじゃない。
観客に楽をさせない、そうして観客と拮抗するのだこの舞台は。

いい戯曲。そして丁寧な演出。
物語を存分に楽しんだって感じです。
登場人物の各々の有りようがはっきりしていた。
30年程の歳月を、3時間に凝縮した人生の極みの瞬間だけの存在なのだが、その一言に、この舞台上では語られなかったその人物の人生も見えてくる気がした。
そういう台詞であり、そう演じていた。

「どんなに不肖の息子だとて、
 いつか死ぬほど憎んでいる親父の「血」を
 鏡の中の己の目や鼻に見つける。
 そして、それを削ぎ取ってしまいたいともがき苦しむ。」

というような台詞が後白河帝にある。
わりに好きでね、ここのところ。

残念なのは、清盛の自己認識が
結局「血」から逃れられなかった、ということかな。
演技の問題でなく、戯曲的に。
でもそうすると、結末は別になってしまう。
「血」からはどうしたって逃れられないんだけど、
だけどさっ、てとこで何かあったらいいなとおもって。

どうしてかというと、私自身の問なんだ、この「血」ってのが。
で、その答えは「野望と夏草」で語られたことまでなんだよ今のとこ。
結局「生まれ」や「血縁」以上の自己認識を持ちえなかったということ。
で、その次が見たかったなと。
そうしたら「血」に関する私の思考に新たな方向が加わっただろうに。
私の「血」に関する思考はこのところ滞っている。

なんかひさしぶりに、
素直に物語とそこからの問題提示
みたいなところで考えさせてもらえた舞台だった。楽しんだ。

役者がみんな上手いよ。
のりえさんもいいよ。内野さんもいいよ。三木さん、たかおさんいいよ。
のりちゃんも踊っておりましたな。楽しそうでよかった。
以上、文学座の役者さん達です。

だからね「こいつ下手だよ」とかいう問題がほぼない。
衣装も美術も照明も文句なし。
ここまでくると、素直に物語が楽しめる。
本来のあるべき観客になれた。
こんなのひさしぶりだよ。
なんかいつもチェックしちゃうもん無意識に。
職業病みたいに。イヤなんだけどね。

「ここの照明違うだろ」
「あの間はないよな」
なんて思って見ている自分がいてね。仕方ないのかもしれないけれど。
今回そういうのがない。素直な観客でした。

でも、観終わったあと素直に「よかったよ」と言える舞台の感想を、
出演者に言えるってのは気持ちいいもんだね。

世の中に
かしこきことも はかなきも 
思ひし解けば 
夢にぞありける

この作品を翌々日、2幕だけだが観劇出来た。
当日券の座布団席=けっこう見やすい。
「問」の答えをみつけたかったからだ。物語からの。

清盛が”血”から逃れる術はなかったのか。
後白河は他者に己を移そうとしたのか、はたしてその逆か。
死に際に清盛は己を誰の子供と思って死ぬのか。
九郎の自己認識はどこにあるのか。
阿波内侍は父殺しが清盛と知り、彼女の何が壊れたか。

血から逃れるにはどうしたらいいのか。

まだまだあるんだけどね。
ちゃんと全幕観たかった。残念

でも2幕だけでももう一回いけてよかったよ。
やっぱりいい作品だね「野望」は。

まあよし、これらの問は自分でゆっくりと考えるとしよう。

世の中は 鏡に映る 影にあれや 
あるにもあらず なきにもあらず


−SUNの舞台評へ戻る−
−タイトルへ戻る−