■■■AYAの舞台評■■■



宝塚花組全国ツアー公演

観劇日:1998年11月4日(水)18:00開演

会場→グリーンホール相模大野大ホール(神奈川県)

『春ふたたび』
    作・演出:植田紳爾
      振付:花柳寿楽

『サザンクロス・レビュー』
    作・演出:草野旦

座席→2F7列22番


解説=歌劇1998/10月号より。

『春ふたたび』

二十数年前の大洪水によって離ればなれになり、
再会した母と子の愛情を描いた心温まる佳作。
昭和45年に雪組で、63年に花組で上演された作品である。

解説=歌劇1998/10月号より。

『サザンクロス・レビュー』

サザンクロス(南十字星)輝く神秘と
ロマンの香り溢れる南半球を舞台に
極彩色のカルナバルの中でドラマティックなレビューが繰り広げられる。




今回の劇評も、金子亜矢さんからです。

タモ(愛華みれ)の御披露目ってことやね。
私は1000days劇場の公演を楽しみにするとしましょう。

ってことで、亜矢さんの劇評をどうぞ。




「亜矢の観劇評」

花組全国ツアー公演
『春ふたたび』『サザンクロス・レビュー』
1998年11月4日(水)18:00開演
会場→グリーンホール相模大野大ホール(神奈川県)
座席→2F7列22番

 地方公演に行ったのは5回目だが、
今回は気に付いたことから書いてみよう。

 まず、「千ほさち」対策とでもいうべきこと。
彼女は、チケットやチラシには写っているのだが、
今回のこの公演には出演しない。
よって、急につくったらしい現地ポスターは、
なんだか右側が空いていて、
そこに白抜きで彼女が出演しない旨のことが小さくかいてあった。
その上、劇場の入り口には、
「録音禁止」と同じ大きさぐらいの看板がくくりつけてあり、
彼女が出演しないことが書かれていた。
きっと、あの看板は各地に持ち歩かれるのだろうが、
やはりチケットにデカデカと写っている人が出演しない、
というのは変なものである。

宝塚ファンとしては、
彼女の退団がいかに急であったか思い知らされたが、
一般の地元の
「宝塚というものをみてみる」
というスタンスの方々にはあの看板はどう映ったのだろうか。
色々考えさせられてしまった。

 つぎに、地方公演からスタートしたトップスター、
というのはあまり私の記憶にはないが、
「愛華みれです」のアナウンスの後に、1Fから拍手があった。
私は連れと共に「えっ」と言ってしまった。
「トップお披露目おめでとう」ということで拍手はされたのだろうが、
それなら初日の鳥取だけでするべきではないかと思った。
それとも、相模大野といえども「東京圏」なので、
「おめでとう」拍手をされたのだろうか。
普通、この手の拍手は初日だけ、と聞いていたのでこれまた考えてしまった。
ちなみに、1Fの前の方の人達はファンクラブなのであろう、
終演後もスタンディングオベイションをしておられた。

 3つめに、もろもろの料金である。
まず、チケット代は6500円だが、
芝居とショーの正味上演時間をたすと100分である。
例えば昨年観た『風と共に去りぬ』なら、
もうすこし長かったと思うのだが…。

始めから作りなおす作品だから短いのでは、と考えたが、
同じ花組の地方公演『紅はこべ』と『メガ・ヴィジョン』の二本立ても、
芝居は少なくとも今回と同じ45分ということはなかった。
よって、今回はショーが時間的にメインになってしまった。
私としては、『春ふたたび』の芝居の後に、
例の「桜のボレロ」でも入れていただきたかった。
そして、これは会場の近辺の誰もが認めたプログラムの高さ。
1000円でカラー写真ページは広告を抜いて5ページ、
稽古場の写真ナシ、インタビューなし、という寂しいものである。
ページ数が減った一因は始めの千ほさちの一件が絡んでいると思うが、
それでも寂しい。
インタビューぐらい入れられなかったのか?
大劇場のプログラムよりいい点は表紙の紙がいいことぐらいである。
値下げか、内容の充実を劇団にはお願いしたかった。

 さて、内容の方に入ろう。
『春ふたたび』。
植田先生も初期はこういう直球勝負な作品を書かれていたのだなぁ、
と前日『皇帝』を観た後だったので
「作風の変化」のようなものを感じてしまった。

さて、この作品については、前日に引き続き予習済み、
つまり昭和63年の再演を観ていた。
当時を思い出すと、お母さん役の亡き麻月鞠緒さんの名演と、
朝香じゅんさんの唯一の大劇場でのトップのお芝居ということと、
当時も2Fで観ていたのだが、与五役の真矢みきが一生懸命
「ものいいたげな」演技をしていたのが強烈に印象に残っている。
今回の再再演にあたっては、
「トップお披露目にどうしてこの作品を?」
とは、全く思わなかった。
いかにも愛華に合いそうな役であると思っていた。
この予感は嬉しいことに当たったようである。
1人白塗りで貴族の装束の愛華がでてきただけで、
はんなりとした優しい空気が劇場にただよった。
スターのオーラとでも言うべきであろうか。
台詞回しも、正統派の域をこわさず、
真矢のファンであった私としても
「やっぱり、タモさんはこういうのいいなあ」と思ってしまった。
一度立ち去ったものの、戻って来て母にすがってなき、
草履をはかせてあげる終幕は「語領主様」から「子」としての切り替えがしっかりみえた。
プログラムにある
「どんなことをしても成功させなければならない」
という植田先生の意図は、充分達成されたと思う。
一方、むしろこの作品の真の主役の母の「やす」役の城さんであるが、
ここまでじっくりとしたお芝居を見せてもらったことがなかったので、
嬉しい力演であった。
前回の麻月さんは、男役であったせいか
「強い、頑固なお母さん」であったが、
今回の城さんは「優しいなかにも芯の通ったお母さん」に感じた。
7 あとは、前回の真矢の記憶が残っている、与五役の匠であるが、
やはりもっとオーバーな「お節介な村の若者S」でいいと思った。
しかし、二番手としてはどうしても役不足の役である。
もう少し、台詞を増やすなどできなかったのか。
庄屋の息子役の春野は台詞がハッキリしていて、
最後の歌もツボをわきまえていた。
総じて、「心温まる小作品」がまたよみがえったな、
という安心感で芝居は終った。

 さて、メインとなってしまったショーに話を移そう。
まず、新場面から書くと、「エアーズロック」は、急に南アメリカでない、オーストラリアにそれもジプシーが行ってしまうのは、意図がよくわからない。
また、ストーリー性もプログラムに書いてあるほど感じられず、
いっそ「食虫花」を匠がやってみたら…、という気もした。
あとは、中詰めの「ピンク・ピンク(アキラの場面か?)」のところが、
「ピーナッツ売り」に差し替えられていたが、これはさっぱりであった。

 以下は出演者中心に書くが、先に暴言多謝、と言っておく。
でも、愛する花組の為に私の感想を続けたい。
まず、ショーになると、2Fにいると、匠に目がいってしまう。
その理由はやはりダンスなのだが、
知らない間に劇場全体にアピールする力をつけたのだな、と思った。
もう少し、2Fまで目配りが出来れば匠はショースターとしては合格点がつけられると思った。
歌は精進をまだ望むが、香寿のパートもよく歌っていたと思う。
その香寿のパートを殆ど受け継ぎ、ラインダンスまでやって、
「お疲れ様」の一言に尽きる春野であるが、歌は健闘していた。
ただ、ダンス・歌・演技すべて平均点の人なので、なにか抜きん出るものを1つ作ったほうが、スターとして大成する早道になるだろうな、と思った。
私が彼女なら、歌を頑張ってみるか。

さて、4番手としてこれまた「お疲れ様」の瀬奈であるが、
彼女も歌が上手いようだが、春野と似た「平均点」スターのように移った。
春野と違う得意分野を早く作るべきだと思う。

最後に愛華であるが、出来る限り、真矢の印象をひきづらないようにしてみたが、同じ場面で同じ衣装を着て出てくるとその違いがハッキリしてしまった。
真矢の場合
「でたーっ」
というような、いわゆるオーラが劇場中に流れたのだが、
愛華の場合この
「でたーっ」
が感じられなかった。
芝居では充分にあったのに残念である。
特に、「パタゴニア」(南アフリカ版WSSの場面)のシーンで一度引っ込んで、
また舞台後方から出て来たときに、このオーラが感じられなかった。
ダンスに関しては、もう少し手の動きを豊かにすると良くみえると思うのだが、今回は相手が鈴懸ということで、鈴懸のダンス特有の「粘り」のようなものが移って、デュエットダンスのところはぐっと良く見えた。
大鳥のダンス力を私は良くは知らないが、相手次第でデュエットダンスはかなり良くなるな、という気が月組の久世の時につづいて思った。

一番の愛華の健闘は歌である。
『SPEAKEASY』の時に、飛躍的に良くなったと思ったが、
あの作品だけで終らず、声は良く出ていた。
特に最後の「夢見て…夢見て…サザンクロス!」
と歌い上げるところが出来ていたのは嬉しかった。
ただ、この歌は間奏の時に気持ちが切れてしまっていたのが惜しまれる。
それと、2Fにいると先に書いた「ピーナッツ売り」のところ以外、
目配りがないのが気にかかる。
以上、苦言ばかり呈してしまったが、花組を愛する1ファンの気持ちとしてお許し願いたい。

 あと、「初めて歌を聴いた」というメンバーが多かったことが、このショーの特徴である。
鈴懸があれだけ歌える人とは思っていなかった。
また、渚は固いが、愛華と同様、
「でたーっ」
というオーラが歌でも薄い。
一番印象に残ったのは上の「パタゴニア」のシーンで海峡のパートを歌った真竹すぐるである。
思わず、「あの人誰?」とプログラムを見てしまった。
そういう意味で、花組の若手には歌える人がまだたくさんいるという発見ができただけで、花組ファンとしては安心した。

 以上、色々書いたがあっという間に終った地方公演であった。これで感想を終える。


−SUNの舞台観劇記へ戻る−

−タイトルへ戻る−