■■■SUNの舞台評■■■



宝塚花組公演

観劇日:1998年9月10日(木)
    5:30PM開演 3列31番

劇場 :1000days劇場


    ミュージカル『SPEAKEASY』
          −シカゴの純情な悪党たち−

          作・演出:谷正純

解説=グラフ1998/4月号より。

『SPEAKEASY』は、禁酒法時代の「もぐり酒場」の意味。
イギリス古典オペラ「三文オペラ」を現代的にリメイクしたミュージカルで、1920年代のシカゴを舞台に、暗黒街の顔役マックと、彼と対立する詐欺師の総元締の妹ポーリーとの恋を縦軸に、裏社会に生きる人間の純情を描く。


    ショー『SNIPER』
       −恋の狙撃者−

        作・演出:石田昌也

解説=グラフ1998/4月号より。
これがサヨナラ公演となる花組のエンターティナー真矢みきの持つ魅力を100%引き出す、ストーリー仕立てのバラエティー・ショー。
多彩なアイディアを駆使しながら、刺激的で現代的な場面、
オーソドックなレビュー場面を織り混ぜて構成する。





ひさしぶりの宝塚の自己更新である。
しかも前から3列目。

だいたい、普段はどういう方々がこのようなスペシャルシートに座っているのであろうか?
しかし、意外に私のように
「いーよなあ、毎回こんな席に座れて」
などと言っている人達だったら笑える
(本当にそうだったら面白いのに)。


ミュージカル『SPEAKEASY』
−シカゴの純情な悪党たち−


これね、宝塚で観てるんだ、5月の末くらいに。
文学座の旅公演で大阪行ったときの空き時間に行ったのですよ。
音楽はなんといってもクルト・ヴァイルだからね、いい。

しかし、脚本がイージーだよ。
ありゃあ「軽快」でなくて「ペラペラに軽い」だけやね。
谷正純氏は台詞には裏がある、というか言葉が他人に向けられて発っせられるかぎり、嘘(裏)が潜んでいて、それは、「良い」とか「悪い」ということでなく「そういうものである」っていう明々白々な事実を忘れている。
思ったことを、思ったままに他人に発するのは子供だけだ。
そして子供にしか許されない。
子供らしいと子供っぽいは違うのだよ。

「そんなことない! マックのジェニーへの愛は秘められたものだったじゃないっっっ」
と、お怒りのあなた。
そうなんだよ、あたりまえだよ、マックは言葉にしていないもの。

例えば「大丈夫だよ」という言葉ひとつでも、
その言葉で何を伝えたいかで様々に変容するのだ。
何か言うのと、伝えるというのは、違うということだ。

初っ端から話しがズレた。
いいや、脚本のことは、やめよう。

まあ、そんなわけで、宝塚で観劇の時は
「だめだ・・・」で終わったのだが、ここ東京では、よかったのですよ。
(3列目というのが大きいのかもしれないが)
どうしてかというと、花組の皆さんがとても熟れていて、だけど慣れてなくて、お互い(劇中の役柄として)の関係が新鮮で、素晴しかった。
ああいうのを「役(台詞)が腹にはいった」と言うのだろう。
役として喜々として生きているね、舞台の上で。
観ていてうれしくなる。

千ほさちのいきなり退団発表にたまげたが、彼女もまたいい。
私は千ほさちを好きですよ。
その千ほさちが、のびのび演れるのは、真矢みきというフリーなキャラクターによる。
たいした器だ。
真矢みきは、ここ1年で本領発揮の大躍進だった。
やるだけやって退団する、それは気持ちいいものだよ。

ここんとこトップ退団早すぎる。
宝塚という芸術のひとつのジャンルで己の本領を発揮出来るというチャンスを、自ら潰しているような気がする。
劇団の思惑とかもあるだろうけどさ。

あのつまんない脚本を、公演を重ねることで、こんなに素敵なものにした花組(5月とは大違いさ)。
そしてそれは、「真矢みき」という強烈な素材が花組を染める、
という「トップのカラー」という宝塚の在り方の成功だ。

次なるトップの愛華みれ。
彼女の馬鹿パパぶり(=ジョナサン)のアドリブはいけてました。
初めて「タモ、面白いじゃん」と思った。

ジョナサン「私には夢があったんだ・・・ウエディング・ドレスに身を包んだポーリーが、私の前に立って・・・・・・」
のくだりのとこでの、歌。
あの馬鹿親父発揮のブリブリの歌にはやられた。アドリブだね。

そして、それを受けて登場するポーリー(=千ほさち)が、その歌を冷めた調子で一節ほど歌って、
「パパ・・・」
とまた冷たくぼそっと言うのは(これもアドリブ)やられた。
っと、ここまで書いて気付いたのだけど、上記のように
「やられたほど面白かった」ってのが今回東京ではあった。
でも宝塚ではなかった。
で、脚本にも書いて無い。
みんなアドリブ。
ってことは、生徒が考えたってことで、脚本家の業ではない。
谷正純氏。花組に助けて貰ったね。



ショー『SNIPER』
−恋の狙撃者−


石田昌也氏のは好みではないのですよ、岡田敬二氏のが好きなもので。
でも、これも東京のがよくなってた。格段にいい。

残念なのは、千ほさちが退めると言う前に作った作品だから、どうしても愛華みれと千ほさちが真矢みきを送り出すって感じになってることだ。
トップコンビのダンス観たかった。
しかし、『SPEAKEASY』でも思ったのだが、色気のあるラブシーンをするね、このトップコンビは。

ショーの構成として「アウシュビッツ」は長すぎる。
押し付けがましいメーッセージほどいやなものはない。

「パパラッチ」の愛華みれはよかった。
ヒゲの千ほさちもバカで(褒め言葉だよ)よかった。
真矢みきもバカだった。
しかし、ああしてちゃんとバカが出来るのは、バカじゃないからなんだけれど。

いいねやっぱり、観終わって元気になれるってのは。原点だ。


−SUNの舞台観劇記へ戻る−

−タイトルへ戻る−