■■■AYAの観劇記■■■


ミュージカル

キス・ミー,ケイト


梅田コマ劇場


2003年 8月3日(日)〜 29日(金) 公演

観劇日:2003年8月15日 1階8列25(家族で観劇)

HP主人 森(=SUN)筆。

金子家、家族で観劇だそうである。

家族で観劇ってのもいいですね。
うちの森家は、何を家族で観劇しようかな。
私が演出する舞台か?
でも、そうすると私は観客ではないからな。

個々の趣味嗜好があるからな。
何にしようかな。
んー…。
寄席はどうよ。

寄席いいなあ、行きたいなあ。

ところで、金子さん。
下記のように書かれていらっしゃいます。

今回はじゃじゃ馬の役で、
凄い馬力での「♪男なんて大嫌い」のナンバーでは、
あまりの怒りように、
指揮者の先生が止めていた音をどこから始めたらいいのが分からないらしく、
呼吸が合わなくて、
一路さん「ちょっと、しっかりやってよ」
とゲキまで飛ばしていた。

これは、きっと、演出だと思う。

私は、こういうの、結構好きな類いの演出です。

ってなことで、金子さんの劇評いってみよう。





ミュージカル

キス・ミー,ケイト




作詞・作曲:コール・ポーター
訳詞:なかにし礼
脚本:ベラ&サム・スプワック
 訳:丹野郁弓
翻訳:小田島雄志(劇中劇「じゃじゃ馬ならし」)
演出:吉川徹
振付:セルジオ・トゥルヒーヨ

製作=東宝

<メインキャスト>−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

リリ/キャタリーナ(ケイト):一路真輝
   フレッド/ペトルーチオ:鈴木綜馬
    ビル/ルーセンショー:赤坂晃
      ロイス/ビアンカ:伊織直加
          ギャング:大川陽介
          ギャング:伊吹吾郎
        ハウエル将軍:沢木順
         ハッテイー:花山佳子
           ポール:本間憲一
    ハリー/バブティスタ:安宅忍

<感想>−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「寄り集まりとは思えないまとまりの取れた舞台」

 まず、全体を観て思ったことは、
「4回目からか、とても息のあった、まとまりの取れたカンパニーだな」と思った。
外部、特に東宝の舞台は、できる人が急に集まって作った、
という印象がいつもするのだが、今回はそれが感じられなかった。
幕間で予備知識のない父が
「あれは、役者同士でケンカしているのか、元夫婦の設定としてケンカしているのか、
 『じゃじゃ馬ならし』の役でケンカしているのか、さっぱり分からん」
というほどなのだから
カンパニー全員、特に主役2人の息がぴったりあっていることの象徴だろう。

 また、アンサンブルのダンサーのメンバーも、父が
「これを2公演やる日あるの? 休演日1日だけ?
 あの2幕の幕開きなんか凄いダンスなのによくやるなあ」というほど、
「♪クソ暑い」のナンバーなど揃っていてSS席で観ていると迫力たっぷりであった。

 で、私と母の予習なのだが、
1988年の宝塚花組公演と、BS2で放送されたブロードウエイバージョンは見た。
前者は主役からはじまって、初舞台生まで凄いメンバーの公演だったが、
ちょっと宝塚としては地味なミュージカルの選択のように思えた。
後者は、ハウエル将軍が急に出てきて大分変わった設定を感じたが、
曲をうまく使っているな、という印象を受けた。
今回の梅田コマのバージョンはこのブロードウエイとほぼ変わっていないと思う。
しかし、父をして
「なんか、将軍は付け足しのようなかんじがするわ」
と指摘されてしまったように、オリジナルにない役はやはり付け足しのように感じる。
しかし、2幕冒頭の「♪クソ暑い」のナンバーや
ビルの「♪ビアンカ」のナンバーの後のセットの3階までのよじ登りなど
ダンスナンバーがグレードアップしているのは現代的だと思った。

 次に訳詞であるが、大家、なかにし礼先生の訳に文句をつけるのは恐れ多いのだが、
正直88年から後に原詞を読むと、宝塚のほうの岩谷時子先生(多分)の方が
いいように思えた。
「♪パクろうシェイクスピア」は「♪学ぼうシェイクスピア」と
そう違和感を覚えないのでいいとしても、
「♪クソ暑い」は「クソ」という語感がどうも綺麗に思えなくて、
宝塚のように「♪Too Darn Hot」のままでいいのではないか、と思った。
また、プログラムを読むと訳詩のスタンス、というものが良く分かったが、
どうも直截な肉質的で、宝塚のようにある程度のところで綺麗に納めておくほうが
いいのではないかと思った。

 また、舞台装置として、下手のオケボックスの上に
舞台から下りてこられる階段が渡してあり、
金子は下手角席の5列目にいたので太川さんの
最前列角席の人にだけ言っているアドリブが聞こえたり、
またその階段から何人かがオケボックスと最前列の前で歌ったりするところは
客席との距離感を縮めるいい方法だと思った。
3階席の人にはどうかわからないが。

 それでも、観劇の次の日、家族全員遅く起きて(夜の部だったので)なんとなく
「ああ、昨日は疲れたね」といっていた。
実は、両親は初めてこの劇場の1階席で観たのだが、
やはり1階となると必死にみるらしく、金子がいつも観劇の翌日に
「頭痛いー」とわめいているのが分かったようだ。
とにかく、見応えのあるミュージカルだった。

 あとは人別に。
敬称略。
また日本語の曲名に関してはプログラムどおりに書く。


 一路真輝
初めの登場のとき母も「え、一路さんこんなふうになった?」
(これ以上書かせないでください。ファンの方に八つ裂きにされるでしょう)
と思ったのだが、歌い出したら、「やはり一路さん」だった。
今回はじゃじゃ馬の役で、凄い馬力での「♪男なんて大嫌い」のナンバーでは、
あまりの怒りように、
指揮者の先生が止めていた音をどこから始めたらいいのが分からないらしく、
呼吸が合わなくて、
一路さん「ちょっと、しっかりやってよ」
とゲキまで飛ばしていた。

また、綜馬さんとは本当に息があっていて、
「♪ヴンダバー」を歌った後のキスは本当にしているようで、
べったりと綜馬さんの唇に口紅がついていた。
いい共演者を得て幸せな方である。
歌に関しては、「♪キス・ミー,ケイト」の「いや〜」と何度も言う高音のところは
素晴らしく、とても宝塚の男役だったとは思えないほどだ。
しかし、父が言うには
「あの一路さんの高音、1日たっても耳に残っているわ。千秋楽まで持つのか。
 でもあの静かな曲(「♪ソウ・イン・ラブ」)のほうが良かったな」とのこと。
しかし、母曰く「大女優への道」を着実に歩んで行っておられるのは確かだ。


 赤坂晃
舞台歴はかなりあるようだが、舞台を拝見するのは初めてで、
「元ジャニーズといっても錦織さんぐらいやれるの」と母といって出かけたが、
なかなかだ、と思った。
とくに、上に書いたセットの3階までのよじのぼりは、やらないだろう、
と思っていたのに、しっかりやるところでは心から
「凄い!」
と思った。
ダンスの基礎も歌もできているので、ストレートプレイばかりではなく、
これからどんどんミュージカルに進出してほしい。
そして、先輩・錦織に次ぐ、東宝のミュージカル看板男優になって欲しい。


 伊織直加
宝塚で長く男役をやっていた彼女にこんなことを言うのは、
もう、ファンの方にそれこそ殺されるかもしれないが、
正直、カンパニーのなかでは下手。
「ルックスだけが勝負の頭の働かないセクシー素人女優」
「一生懸命高音出して」ます、
という姿勢がかえるだけで、まだまだ宝塚から抜けきっていない。
やはり、一路は7年先輩でトップを務めただけの違いがある。
歌も「♪あたしの愛し方」は
最後がジャズらしく歌い上げるように編曲されているように演奏は聞こえたが、
それにのっていなくて、やはり宝塚時代から弱かった歌の実力が
露呈してしまったような感じだ。
ダンスはさすが鍛えただけのことがあって、なんなくこなしていて安心してみていたし、
ウインクの飛ばし方など一路にはないところがあって、
彼女なりのよさは一杯あると思うので、これから頑張って欲しい。


 沢木順
いきなり登場のある意味、とんちんかんな人物なのだが、
この人にしてもらうには出番が少なく、もったいないような気がして、
もっと舞台人とちぐはぐな場面があればいいと思った。
それでもしっかり印象を残すところはさすがだ。


 花山佳子
彼女の第一声の歌は舞台の始まりを実感させる。
相変わらずの確実な歌唱力だ。
今回は、「♪クソ暑い」でも踊る場面があって新たな一面を見た感じだ。


 本間憲一
とにかく見せ場は2幕冒頭の「♪クソ暑い」だろう。
ブロードウエイでは黒人の男性がやっていたが、ダンサーの本領を発揮だ。
彼を中心にアンサンブルが踊るところでは熱気を感じた。
歌も安定感が以前より出てきたような気がするので
ダンス中心の活動ばかりでなく広くミュージカル界で活躍して欲しい人材だ。


 ギャングの伊吹吾郎太川陽介
この2人組は完全に東宝ミュージカル常連の太川に軍配が上がる。
「1日の長」などというものではなく、「1年の長」を感じた。
やはり、ミュージカルというものはいきなりはやれないのだ。
この2人の見せ場の「♪パクろうシェイクスピア」は
正直、宝塚のときはげらげら笑った覚えがあるが、そう面白くなかった。
全編、太川が必死にアドリブたっぷりで面白くしようとしている努力はかえるが。


 そして鈴木綜馬
大阪人は彼のフレッドを観られて幸運だと思う。
一路との息の合ったところ、そしてプログラムにあるような「ビロードのような」声。
父は「あの人、元劇団四季?凄く歌が上手い」と感心していた。
綜馬さんは四季退団後、よく考えてみると男性役の主役、というのは
一度もなかったような気がするので、今回フレッドをどうこなされるか
興味深深で劇場に足を運んだのだが、一路さんと一歩も引かない主演男優ぶりであった。

元四季の人なので、アドリブなどないと思っていたが、
一番前の女性客の首を絞めて「ごめんなさい」とカバーするなど、余裕さえ感じさせた。
そしてあの「ビロードのような」声。
歌を聴いていてこんなに陶酔できる歌唱力を持つ人は少ないだろう。
とくに高く張り上げるところは、声量が落ちず、
のどの振動が心地よく空気を伝って聴こえる。
宝塚のときに感じなかった、フレッドのナンバー(特に「♪特別な顔」)の
高度なことが良く分かった。
これから東宝も綜馬さんには考えた役を振って欲しい。


 と色々書いてきたが、
思っていたより長い上演時間で、充実感を味わえる舞台だった。
これで感想は終わる。


<金子のよしなしごと>−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 前に少し書いたがこの公演にはぴったりなので、コール・ポーターの話を。

金子の一番好きな作曲家は、コール・ポーターである。
いかにもアメリカ的で洒落ていて耳に残る名曲が多くて、
20世紀を代表するソングライターの1人だと思う。

 なぜ、好きになったかというと、
『ザ・レビュー』(84年 月組大劇場 大地真央主演)を観にいく前に、
「歌劇」の座談会で予習していると、亡き小原先生が
「中詰めはすべてポーターでいきますから」とあった。
「はあ、どういう曲か覚えよう」と思って劇場に行ったが、
さすがに名曲「♪ビギン・ザ・ビギン」は一発で覚えられた。
そして、他の曲もどこかできいたような、なにか知っている、という感じであった。
そして、3年後、バウホールで『ドリーム・オブ・ドリームズ』
(87年 花組 大浦みずき主演)という公演があった。
これは、「歌劇」によるとすべてポーターの曲を使用した、
前半は大浦みずきの1人舞台、後半はショーといいう構成で、
「よし、どこまでコール・ポーターが分かるか観てやる」と意気込んで観劇した。
すると、ほとんどの曲を知っていた。
つまり、宝塚はポーターが好きなのである。
だから自然と聴いて覚えているのである。
確かに、成長して原語の歌詞を読むと、日本では発売禁止となるほど卑猥なところや、
学習辞書を引いてもわからない慣用句や、特に韻の踏み方など難しいのだが、
そんなことは度外視して意訳しても、
あの洒落たメロディーの魅力にはかなわないのである。

 ○学時代は、学校の近くに大きなCD店があったものだから、
「ソングブック」、いわゆる名曲集は欠かさず買っていた。
最近はあまり出ないし、日本版が再販されないので、
とうとう輸入物のエラ・フィツジェラルドのポーター集を買ってしまった。
カルトな曲もあるが、それは歌詞カードが付いてないので諦めた。

 好きな曲は?と聴かれたら難しいのであるが、
「♪Just One Of Those Things」である。
歌詞はそう難しくなくさらりとしているところが好きだ。
「♪よくあることさ」という邦訳のとおり、
ちょっとくよくよしたときにはふっと思い浮かべるが、
とても自分ではスイングして歌えない。

 その他は、勿論「♪ナイト&デイ」は宝塚ではいやというほど歌われるが、
20世紀の名曲というべきだろう。
また、「♪ビギン・ザ・ビギン」は
あの長い曲がまったく冗長に感じさせないところが素晴らしい。
もう、これ以上挙げよ、といわれればソングブック全部になってしまいそうなので
この辺にしておく。
今回はこの辺で。


□□□□□□□□□□□□□□□□□□劇評■筆者□□□□
金子亜矢
bacew609@jttk.zaq.ne.jp
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