「材料の不思議」

表題:導電性酸化物における電気伝導度とゼーベック係数の関係
The relation betweenn electrical conductivity and Seebeck coefficient in electrical conductive oxides

著者名:西山 伸・服部豪夫
Shin Nishiyama and Takeo Hattori

所属:千葉大学 工学部 機能材料工学科

263 千葉市稲毛区弥生町1-33

Faculty of Engineering, Chiba University

1-33, Yayoicho Inageku Chiba 263, Japan

  1. はじめに

著者らは酸化物半導体を熱電変換材料として用いる方法について研究している1,2)。熱電変換は小規模、静的、制御性の良さといった特徴を持つ、熱と電気の相互変換方法として近年盛んに研究されているが、その変換効率が十分とは言えない難点がある。現在、Bi2Te33,4), FeSi25)およびSi-Ge系材料6)などが実用化されており、酸化物半導体材料でこれらを上回る性能の材料の探索が目下の課題である。変換効率の高い材料を得るためには、例えば熱電発電では、発生する起電力が高く内部で消費される電力が少ない方が良い。つまり、その材料の電気伝導度が高く、ゼーベック係数が高く、さらに熱伝導率が低いことが望ましい。しかし、電気伝導度とゼーベック係数は拮抗する関係にある。キャリアの密度を高くして電気伝導度を高くするとゼーベック係数が低くなり、逆にゼーベック係数の高い材料は電気伝導度が低い。このように、新しい材料探索においては、その物質の電気伝導度とゼーベック係数の関係が非常に重要となる。

  1. 典型的半導体のJonker Plot

一般に、材料の電気伝導度(s)はキャリアの濃度(c)とキャリアの移動度(m)に比例する。つまり、電子の電荷をeとすると

(1)

となる。一方、キャリアが1種類の半導体で、試料内の温度勾配によって熱励起により発生するキャリアの濃度が異なり、その拡散が熱起電力の原因であると仮定すると、ゼーベック係数aは次の式で表すことができる7)

(2)

ここで、kはボルツマン定数、Aは定数、Nは伝導帯または荷電子帯の有効状態密度で、m*を電子の有効質量、hをプランク常数としてと表される量である。(1)式および(2)式からcを消去し整理すると

(3)

となる。ただし、aおよびb

(4)

である。この結果より、alogsに対してプロットすると、傾き-aの右下がりの直線となることが分かる。ここで、一例として、電子の有効質量と電子質量の比(m*/m)1と仮定し、m = 2×107WK1m1, A=2としたときの、800℃における電気伝導度とゼーベック係数の関係を図1に示す。このプロットはJonker Plotと呼ばれており、一連の材料において、キャリア濃度のみを変化させた時の電気伝導度とゼーベック係数の関係を表している。このJonker Plotの直線が右上であるほど熱電変換効率の高い材料であると言え、このプロットは熱電材料の評価を行う際に有用である。

一方、熱電材料の性能は次式で定義される性能指数Zを用いて評価することができる。

(5)

この値が大きい材料ほど変換効率の高い材料である。ここで、熱伝導率kの影響が小さいとみなすと、分子のa2sが熱電変換の性能を決定する。この値はPower Factorと呼ばれている。このPower Factorが一定となる曲線を1Jonker Plot上に示す。これより、この曲線は右下がりであり、Jonker Plotを形成する材料が最も高いPower Factorを持つ条件は曲線がPlot上の直線と接する場合であることが分かる。ここでPower Factor一定の曲線を

a2s = P (6)

とする。この式と(3)式からsを消去すると、

(7)

となる。ここで、a, a, b, Pを任意の単位で除して無次元数に置き換えると、

(8)

と書ける。ここで、左辺をaの関数としてf(a)とおくと、

(9)

(10)

となる。ここで、直線と曲線が接している時はdf(a)/da = 0であるから、この時、

(11)

であり、(4)式が成り立つ場合にはa=172mVK-1となる。またs

(12)

となり、この時得られる最大のPower Factor(a2s)maxは、abの算出時にasの単位をそれぞれとで表しているならば

(13)

となる。従ってJonker Plotを見ればその物質の最適キャリア濃度における最高のPower Factorを知ることができる。

  1. 酸化物材料のJonker Plot

2ZnSb2O6焼結体のゼーベック係数の温度依存性を示す8)。この物質はn型の半導体であり、ゼーベック係数の値は負であるので、縦軸に-aをとると分かりやすい。この図より、ゼーベック係数が温度と共に増加する傾向があることが分かる。通常の熱活性半導体では温度が高いほどキャリアの濃度が増大しaの値は小さくなるが、この測定結果はこれとは異なっている。従って、典型的な半導体を基に導いた(2)式はこの場合は成り立たない。

3800℃におけるZnSb2O6およびZnサイトをCu5%、あるいはAl510%置換した試料の電気伝導度とゼーベック係数の測定結果のJonker Plotを示す8)。ここに、一連の物質による電気伝導度とゼーベック係数の関係の例を見ることができる。この結果より、ゼーベック係数の温度依存性が典型的でないにもかかわらず、電気伝導度とゼーベック係数の関係に、(3)式が成立していることが分かる。つまり、Jonker Plotによる材料の評価と最適条件の決定は、(2)式の前提となっているキャリアの拡散による熱起電力以外の場合にも実用的であるといえる。この結果に(11)式を適用することにより、a170mVK-1程度となるように置換材料や置換量を調節することで、この系の最も高い熱電変換効率を持つ材料を設計できることが分かる。また、図3の直線よりa = 198, b = 330が得られ、これらを(13)式に代入することにより最大のPower Factorの値がおよそである事が導かれる。

このZnSb2O6焼結体の相対密度は55%程度であった。この密度を向上させることにより高い電気伝導度が得られると考えられる。その際の評価をJonker Plotを用いて行うことにより最適なキャリア濃度での比較を行うことができる。このように、熱電変換材料の探索や改良においてJonker Plotによる評価は非常に有用である。

参考文献

1) 西山伸, 桜井修, 篠崎和夫, 水谷惟恭, セラミックス論文誌, 100, 187(1992).

2) S. Nishiyama, D. Sakaguchi, and T. Hattori, Solid State Commun., 94, 279(1995).

3) H. J. Goldsmit and R. H. Douglas, Brit. J. Appl. Phys., 5, 386(1954).

4) 青木昌治, 菅義夫, 応用物理, 29, 363 (1960).

5) I. Nishida, Phys.Rev., B7, 2710 (1973).

6) P. A. O'Rioda, Proc. 4th IECEC (1982) p.15.

7) 日本化学会編, 化学総説No.37, "機能性セラミックスの設計" (1982) pp.72.

8) 西山伸, 服部豪夫, 34回セラミックス基礎科学討論会講演要旨集 (1996) p. 358.

Figure Captions

Fig. 1. A schematic graph of the Jonker plot line and the constant power factor curve.

Fig. 2. Relationship between Seebeck coefficient and temperature of ZnSb2O6 in O2 and N2 gas.

Fig. 3. Jonker Plot of ZnSb2O6, Zn0.95Cu0.05Sb2O6, and Zn1-xAlxSb2-x/5O6 (x = 0.05, 0.10).