ビデオ「“GRAND LOVE”A LIFE IN MUSIC」ライナー


 大半の人にとって音楽とは非日常に属するものだろう。しかしごく稀に音楽と日常を地続きのテンションで生きてしまう人間が存在する。もちろんそれは選ばれた存在だ。いうまでもなく玉置浩二もそのひとりである。

 本作はいわゆる音楽ヴィデオとは全く異なる。GRAND LOVE TOURの本番だけでなく、リハーサル、プライヴェート・ショットを大きくフィーチャーし、全編を通して見ることで客席からだけでは知ることの出来ない彼の日常の光景を伝えてくれるドキュメントだ。フルで演奏を収録しているナンバーはほとんどない。単純に彼の音楽をリスナーとして楽しみたい人には、やっかいな構成かも知れない。しかし玉置浩二の音楽のパワーに魅せられ、そのパワーがどこからやってくるのかを知りたいと思っている人には、極めて興味深い映像作品である。

 かねてから僕は玉置浩二の音楽の最大の魅力は、彼の旺盛な生命力が剥き身のままリスナーに伝わってくるところにあると思っていた。それは神経質に作り込んで反論の余地のない完成度の高さを目指すタイプの創作ではない。極論するなら瞬間に完全燃焼するヴァイタリティの謳歌である。作り事ではなく、コンプレックスをバネにしたりするわけでもない。あくまであるがままなのだ。一体どういう精神的なプロセスでそうした創作が成り立つのか、というのは僕にとって大きな謎だったが、本作でその謎が解けた。

 結論から言ってしまえば、玉置浩二にとっては裏も表もありはしない。リハーサルにおける豪快な笑い、オフにおける気さくな語り口。恐るべきことにそのエネルギーは、ステージと変わるところがない。つまりあのヴォーカルのテンションの高さは、彼にとってはただの自然体。天才の正体は、力を出し惜しみすることが出来ない男なのだ。「A LIFE IN MUSIC」とはつくづく良くできたタイトルである。


98年 ビデオ「WE CAN BELIEVE IN OUR“JUNK LAND”」レヴュー
98年 アルバム『GRAND LOVE』プレス資料〜玉置浩二論
99年 アルバム『ワインレッドの心』プレス資料
01年 玉置浩二3万字インタヴュー
05年 アルバム『今日というこの日を生きていこう』レヴュー
14年 玉置浩二ソロ・アルバム『GOLD』