ドラマーKOKIのイルサンタバンサ
(日常茶飯事)




第2回 料理もグルーヴだ!

 ミュージシャンの中には結構料理好きがいる。好きなだけでなく腕がいいのだ。
 例えば、ヤポネシアン・ボールズ・ファウンデーションのメンバー山口洋の料理は、スグにでも店を開ける程のプロ級の味である。噂には聞いていたが、去年、蔵王で合宿中にアサリなんかの入ったトマトベースのパスタ(世間では何と呼ぶの?)を食したんだけど激ウマだった。その感激を素直に口に出して「ウマい、ウマい」と云いながら食べると、山口洋の表情は、まるで職人のそれのように柔和に微笑みをたたえるのであった。何でも、プロの料理用具の宝庫・浅草合羽橋を巡ると喜びのあまり時間を忘れるらしいし、自宅の冷蔵庫には何時間もかけて作ったトマトソースが作り置きされ、ふと窓際に目をやるとバジルなんかが育てられてたりするのだからタダモンじゃない。

 実は塚本晃も料理人である。魚の三枚おろし・・・なーんてできちゃう。彼は「My中華鍋」を持っていて、「チンゲン菜と角切りベーコンの炒め物」みたいなものをチャッチャッと作っちゃう。手の込んだものというより、飲んでいて「何かもう一品欲しいかなぁ」とか云いながら彼が台所に行くと、冷蔵庫にある買い置きのものから手際よくまさにチャッチャッと作ってきてくれるんだ。泊まり込みのレコーディングで深酒しても、翌朝起きると、あったかいご飯に味噌汁、焼き魚&納豆におひたし・・・ってな朝食が塚本晃によって用意されてたりしてカンドーもの!嫁さんにしたいくらいだ。ははは。

 さてオレ自身は料理は殆どしないしウンチクも語れないんだけど、ある店に通い出したら徹底的に行き倒す、という習性(?)があるかも。それはもしかすると、こんなエピソードに起因するのかもしれない・・・。(ちょっと大袈裟なフリ)

 オレの故郷・秋田で、小さい頃、家族みんなが愛した食べ物は近所の蕎麦屋「田中屋」の蕎麦だった。実はオレ、秋田名物「稲庭うどん」なるものを食べた記憶が無い。エーーーッ信じらんな〜い、と云われそうだが、北海道の人だってジンギスカンを食べたことのない人だっているだろうし、沖縄の人だってゴーヤーを未だ食べたことのない人がいるはずダッ。ま、とにかくウチの家族は、うどんより蕎麦だったのよ。しかも「田中屋」の蕎麦ね。どんなに好きだったかというと、例えば年末年始、4人家族で50玉ほど「田中屋」に注文して配達してもらう。年越し蕎麦に限らず明けて正月になっても昼は蕎麦を食す。飽きることなくモリモリ食べてたなぁ。今思えば「田中屋」はごく普通の蕎麦屋だったし、蕎麦通を唸らせるような「こだわり」があったかどうかは定かでないんだけど(けなしてるワケではございません、あくまでおぼろげな記憶レベルの話)、師走の慌ただしさの中、賑々しく運ばれ、みんなでワイワイ云いながら喉ごしのいい蕎麦をすすることに、ガキながら幸せを感じていたのかもしれないね。 あー、「田中屋」って今でもあるのかなぁ。今度田舎に帰ったら訪ねたいなぁ。

 そんなこんなでオレ、蕎麦は大好きです。だって、死ぬ間際になって「今、何を食べたいですか?」と最後の晩餐を訊かれたら、すかさず「天ぷら蕎麦を喰いたい」って云うもん、絶対。

 てなワケで、徹底的に「行きつける」ことが身に付いたオレにとって、馴染みの店ってのは2,3件あれば十分。飲みに行く時も「はしご」するより、1件目で腰を据えて飲む方が好きです。

 ウチの近所にリーズナブルな値段で寿司を食べさせてくれる店がある。ひとりで行ってもヘンに干渉せず放っといてくれる自由さが気に入ってよく訪れる。そこに行くのは大体いつも深夜0時頃だなぁ。カウンターのみの店にその時間座っているのは、飲んだ後「シメ」に立ち寄ったサラリーマン、タクシーの運転手、スナックのママとその客、などといったごくごく普通にある深夜の飲食店の風景だ。

 オレは店を「固定化」する方が楽なんだけど、オーダーする料理も決まってることが多い。その寿司屋さんでも、まず飲み物はビールから入り熱燗に移ってゆっくりやる。食べ物は「ゲソのミソわた煮」「ムツの照り焼き」「厚焼き卵」が必須メニュー。元気が欲しいときは「マグロのスタミナ焼き(ステーキ風)」をプラスし、また野菜不足を感じたときには、大根ときゅうりをスティック状にしたものにシラス干しをふりかけ明太子ソースで仕上げた特製サラダも欠かせない。いよいよ寿司にいくとなっても、まずはイワシそしてアジと庶民的。続いてマグロ、時々エンガワも加わって、あとはアナゴとうずら納豆にいって赤だしを飲めば結構満足したりする。(安上がり!?)その間およそ1時間半。お腹を満たせる幸せもさることながら、「いつものメニュー」でゆったり出来るその空間が有り難いんだな。

 オレが静かに飲むのが好きだと知ってか知らずか、これだけ顔馴染みでも店の板さんたちは特に話しかけてこない。でもさ、さすがにこの間、カウンターに座った途端「じゃ、ゲソのミソわた煮からいっときましょーか」って、さり気なく云われたよ。


 そうそう、料理を作ることに関してはからっきしダメなオレだけど、唯一自信をもって作れるチョー簡単料理があった。題して「納豆キムチ」。鍋に、白菜キムチと豆腐と豚肉をお互いの隙間を埋め合うように重ねてゆく。だし汁は要らない。キムチと豆腐の水分だけで弱火にてグツグツ。豚肉が煮えたころに、よ〜くかき混ぜた納豆をまんべんなくのせて出来上がり。辛さと香りが放っておいても旨味を引き出してくれるからカンタン激ウマ!こだわりはひとつだけ。キムチは新宿にある「韓国広場」という店のものに限るのだ。相当ウマいよ、ここのキムチ!

2002年6月    KOKI