旭川市国民健康保険条例事件
- 本件は,平成6年4月12日に被上告人旭川市 を保険者とする国民健康保険の一般被保険者の資格を取得した世帯主である上告人が,平成6年度から同8年度までの各年度分の国民健康保険の保険料について,被上告人市から
賦課処分を受け,また,被上告人旭川市長から所定の減免事由に該当しないとして減免しない旨の通知を受けたことから,被上告人市に対し各賦課処分の取消し及び無効確認
を,被上告人市長に対し各減免非該当処分の取消し及び無効確認をそれぞれ求める事案でした。
- 国又は地方公共団体が,課税権に基づき,その経費に充てるための資金を調達する目的をもって,特別の給付に対する反対給付としてでなく,一定の要件に該
当するすべての者に対して課する金銭給付は,その形式のいかんにかかわらず,憲法84条に規定する租税に当たるというべきである。 と租税の一般的定義をまず述べています。
- 市町村が行う国民健康保険の保険料は,被保険者において保険給 付を受け得ることに対する反対給付として徴収されるものであり, 被上告人市における国民健康保険事業に要する経費の約3分の2は公的資金によっ
て賄われているが,これによって,保険料と保険給付を受け得る地位とのけん連性 が断ち切られるものではないとしています。国民健康保険が強制加入とされ,保険料が強
制徴収されるのは,保険給付を受ける被保険者をなるべく保険事故を生ずべき者の全部とし,保険事故により生ずる個人の経済的損害を加入者相互において分担すべ
きであるとする社会保険としての国民健康保険の目的及び性質に由来するものとい うべきであり、上記保険料に憲法84条の規定が直接に適用されることはないとい
うべきとしています。
- 一方、国民健康保険税は,目的税であって,上記の反対給付 として徴収されるものであるが,形式が税である以上は,憲法84条の規定が適用 されることとなるとし、国民健康保険税は租税であるとしています。
- もっとも,憲法84条は,課税要件及び租税の賦課徴収の手続が法律で明確に定められるべきことを規定するものであり,直接的には,租税について法律によ る規律の在り方を定めるものであるが,同条は,国民に対して義務を課し又は権利
を制限するには法律の根拠を要するという法原則を租税について厳格化した形で明 文化したものというべきであり、したがって,国,地方公共団体等が賦課徴収する 租税以外の公課であっても,その性質に応じて,法律又は法律の範囲内で制定され た条例によって適正な規律がされるべきものと解すべきであり,憲法84条に規定
する租税ではないという理由だけから,そのすべてが当然に同条に現れた上記のよ うな法原則のらち外にあると判断することは相当ではないとしています。
- すなわち,租税以外の公課であっても,賦課徴収の強制の度合い等の点において租税に類似する性質を有す るものについては,憲法84条の趣旨が及ぶと解すべきであるが,その場合であっ
ても,租税以外の公課は,租税とその性質が共通する点や異なる点があり,また, 賦課徴収の目的に応じて多種多様であるから,賦課要件が法律又は条例にどの程度
明確に定められるべきかなどその規律の在り方については,当該公課の性質,賦課 徴収の目的,その強制の度合い等を総合考慮して判断すべきものであるとします。
- 市町村が行う国民健康保険は,保険料を徴収する方式のものであっても,強制加 入とされ,保険料が強制徴収され,賦課徴収の強制の度合いにおいては租税に類似する性質を有するものであるから,これについても憲法84条の趣旨が及ぶと解す
べきであるが,他方において,保険料の使途は,国民健康保険事業に要する費用に限定されているのであって,法81条の委任に基づき条例において賦課要件がどの程度明確に定められるべきかは,賦課徴収の強制の度合いのほか,社会保険として
の国民健康保険の目的,特質等をも総合考慮して判断する必要があるとします。
- 本件条例は,保険料率算定の基礎となる賦課総額の算定基準を明確に 規定した上で,その算定に必要な上記の費用及び収入の各見込額並びに予定収納率 の推計に関する専門的及び技術的な細目にかかわる事項を,被上告人市長の合理的な選択にゆだねたものであり,また,上記見込額等の推計については,国民健康保険事業特別会計の予算及び決算の審議を通じて議会による民主的統制が及ぶものと いうことができ,本件条例が,保険料率算定の基礎となる賦課総額の算定基準を定めた上で,被上告人市長に対し,同基準に基づい て保険料率を決定し,決定した保険料率を告示の方式により公示することを委任し たことをもって,法81条に違反するということはできず,また,これが憲法84 条の趣旨に反するということもできないとしています。
- 賦課総額の算定基準及び賦課総額に基づく保険料率の算定方法は,本 件条例によって賦課期日までに明らかにされているのであって,この算定基準にの
っとって収支均衡を図る観点から決定される賦課総額に基づいて算定される保険料 率についてはし意的な判断が加わる余地はなく,これが賦課期日後に決定されたと
しても法的安定が害されるものではないといえ、被上告人市長が本件条例1 2条3項の規定に基づき平成6年度から同8年度までの各年度の保険料率をそれぞ
れ各年度の賦課期日後に告示したことは,憲法84条の趣旨に反するものとはいえ ないとしています。
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