特許公報

特許公告日  1933年12月21日

発明者 アルバート アインシュタイン、ルドルフ ゴールドシュミット

明細書
 (訳者注:以下の翻訳文は独語公報からのほぼ直訳であり、形式的には現在 の各国の特許法に必ずしも適合しておりません。)

発明の名称 電流の変化によって生じる所定の磁性体の磁気収縮運動を利用する、特に音 声再生装置に好適な装置

発明の詳細な説明
 例えば電流が流れるコイルによって、鉄の棒中の磁気を変化させると、単に 外部に磁気作用が生じるのみでなく、その棒内部にその棒を縮めようとする力、 即ち磁気収縮力が生じる。この力がその鉄の棒自体の安定性を乱すために、その 力に比例した小さい仕事率が得られる。
 本発明の目的は、磁性体の棒の安定性を人為的に乱すことによって、その棒 を不安定にして、本来必要とされる電機子を持たない磁性体に所定の運動を行わ しめる装置を提供することである。
 本発明は、電流の変化によって生じる所定の磁性体の磁気収縮運動を利用す る、特に音声再生装置に好適な装置に関し、本発明によれば、その磁性体の反作 用として働くその運動は、そのままでは外部の力によって減衰する。そこで、そ の磁性体の構造物に連結された或る特別な部材による応力を用いて、その磁性体 の長さの変化(収縮又は膨張)を引き起こすか、又はその磁性体そのものの曲げ の応力によってその長さの変化を発生させることによって、その運動を持続させ る。

 図1は第1の実施の形態を示す。U字型の堅い鉄のヨークAの上端に、両端 に左ねじ及び右ねじを有する鉄の棒Bが、その長手方向の軸に沿って両端で同時 に締め付けることができるように連結されている。その鉄の棒Bを締め付けて、 その長手方向の応力が或る大きさに達すると、その応力は棒Bを両側に引き込む 力と釣り合うようになる。この状態では、ヨークAの2箇所の曲げ部の復元力( オイラーの公式(訳者注:この部分の意味は不明です。))が存在するため、棒 Bにより大きな運動を起こさせるためには、あと僅かの力が有れば十分である。 言い換えると、棒Bは不安定になる。そして、その曲げの力が、その棒Bの長手 方向の応力に逆らってその安定性を相殺するため、ヨークAに巻回されたコイル Dによって僅かな励磁を与えるのみで、棒Bにかなりの運動を起こすことができ る。
 (訳者注:説明はここで終わっているが、図3の実施の形態からの類推より 、図1の棒Bに設けられた凸部にスピーカの振動膜を連結し、コイルDにレコー ド等からの再生信号を供給することによって、コイルDに供給する信号が弱い場 合でも大きな再生音が得られるものと思われる。)

 図2は、更に別の実施の形態を示し、これによって本発明の技術的思想が特 に明確になるであろう。なぜなら、本例では棒Bの安定性を相殺する力は、不安 定な棒Bの内部に加えられる曲げの力ではなく、動けるように配置された棒Bに 対して或る特別な装置によって加えられる力であるからである。実用的に一定の 反発力を持つ圧縮ばねHが、点Sを中心として回転自在の「てこ」Gの頂部を、 棒Bの先端側に押し付けている。てこGは、完全な90°ではない或る角度でヨ ークAの底部に支持されている軸より形成されている。仮に、棒Bを全体として 間隔xだけ押し付けると(図2ではかなり誇張している)、ばねHの圧力によっ て、てこGは広がるように傾斜する。そして、棒Bの底部には間隔xに比例する 圧力が与えられ、それに対抗する棒Bの完全に又は部分的に復元しようとする弾 性力によって、棒Bの運動が引き起こされる。
 図1の例と異なり、この実施の形態では棒Bは折れ曲がることはない。これ は、棒Bの不安定性の原因が、外部の屈曲自在の構造物H−Gに置き換えられて いるためである。この構造物の折れ曲がりの量が大きいほど、棒Bは底部側に大 きく押し付けられる。このように大きく押し付けられるほど、棒Bの弾性的な反 作用が大きくなり、更に構造物H−Gの屈曲量が大きくなると、棒B内の応力の 内の棒Bの軸に沿った方向の成分が反転する。
 (訳者注:この実施の形態でも説明はここで終わっているが、図2に点線で 示されているように、棒Bの先端部にスピーカの振動膜を連結し、コイルDにレ コード等からの再生信号を供給することによって、再生音が得られるものと思わ れる。この例では機械的な増幅効果は殆ど見込めないため、主に特許請求の範囲 を拡張するための仮想的な実施の形態と思われる。)

 図3には更に別の実施の形態が示されている。この例の磁鉄は、図1の例と 同様に特別の力によって不安定になる。ただし、この例では曲げ応力のみならず 、伸縮応力も加えられている。磁性体の棒B1及びB2は、閉じられた磁気回路 の代用となることができ、所定の励磁を行うことによって、一方が収縮すると他 方が伸張することになり、これによって1対の力が発生する。可撓性のある連結 部材C1,C2を介して、磁性体B1,B2は天秤の棹Gに結合されている。棹 Gは、枠状のヨークAに対して1対の針金Fによって、側面方向への変位ができ ないように取り付けられていると共に、可撓性のある連結部材Mに掛けられてい る。連結部材Mは、締め付け用のねじPによってヨークAに対して上下動自在に 支持されている。締め付け用のねじPによって、部材M,C1,C2,B1,B 2は張り切った状態になる。
 (訳者注:この段落には不明確な部分があります。)ここでB1,B2に1 対の力を発生させると、棹Gは斜めになる。棹Gに対する連結部材Mの作用点N が低くなると、棹Gの擬制的な旋回点Rを軸として、作用点Nは片側に移動する 。そして、連結部材Mの張力が「てこの柄」となって、引き起こされる運動を持 続させる。
 その運動による棹Gの不安定性は、調節用のねじPによって望ましい程度に 調節される。棹Gの上部に固定されたアームO、及びこれに連結された棒Vによ って、その運動はスピーカの振動膜Wに伝達される。(訳者注:この際に、棒B 1及びB2を囲む1対のコイルDに、互いに位相が反転した音声信号が供給され るものと思われる。)

特許請求の範囲
 電流の変化によって生じる所定の磁性体の磁気収縮の運動を利用する、特に 音声再生装置に好適な装置であって、
 前記磁性体の反作用として働くと共に、そのままでは外部の力によって減衰 する前記運動を、
 前記磁性体に機械的に連結された所定の部材(図2及び図3)によって引き 起こされて、前記磁性体の長さの変化(収縮又は膨張)を引き起こす応力、又は 前記磁性体自体によって生み出される曲げの応力によって持続させることを特徴 とする装置。

 以上