ヤッホー! ザ・TCB・バンド
―TCBバンドが参加しているCD達―
第1回
"A Black and White Night Live"
/ Roy Orbison and Friends

"A Black and White Night Live"
/ Roy Orbison and Friends
『ア・ブラック・アンド・ホワイト・ナイト・ライブ』
 /ロイ・オービソン・アンド・フレンズ
(VJD-32243)

TRACK LISTING:
1. ONLY THE LONELY
2. IN DREAMS
3. DREAM BABY
4. LEAH
5. MOVE ON DOWN THE LINE
6. CRYING
7. MEAN WOMAN BLUES
8. RUNNING SCARED
9. BLUE BAYOU
10. CANDY MAN
11. UPTOWN
12. OOBY DOOBY
13. THE COMEDIANS
14. (ALL I CAN DO IS) DREAM YOU
15. IT'S OVER
16. OH PRETTY WOMAN

/

musicians

ROY ORBISON vocals and guitar

the coconut grove band:
JAMES BURTON guitar
GLENN D. HARDIN piano
JERRY SCHEFF bass
RON TUTT drums
ALEX ACUNA percussion
T BONE BURNETT guitar
ELVIS COSTELLO guitar, organ, harmonica and vocals
JOHN DAVID SOUTHER guitar
BRUCE SPRINGSTEEN guitar and vocals
MIKE UTLEY keyboards
TOM WAITS guitar and organ

strings:
SID PAGE concert master
PAVEL FARKAS violin
EZRA KLIGER violin
JIMBO ROSS viola
PETER HATCH viola

singers:
JACKSON BROWNE
K.D.LANG
BONNIE RAITT
STEVEN SOLES
JOHN DAVID SOUTHER
JENNIFER WARNES


 TCBバンド・4人の侍が全員参加している、ロイ・オービソンの1987年 9月30日に行われたコンサートのライヴ・アルバムです。
 ロイ・オービソンの美しい歌声。
 そして、バック・バンドには、ジェイムス・バートン(ギター)、グレン・D・ハーディン(ピアノ)、ジェリー・シェフ(ベース)、ロニー・タット(ドラム)ほか、強者揃いの素晴らしい演奏を聴くことができます。
 バーバラ・オービソンとT・ボーン・バーネットが企画したオービソン&フレンズのスペシャル・ライヴを収録したCDです。

ロイ・オービソン(1936〜1988) アメリカ、テキサス出身。
ビロードの手触りのような、独特な美しい声を持つ、すばらしい歌手。
 シンガーソングライター。ロックンローラー。
ロイ・オービソンの歌う、あのフェイマスな名曲「オー・プリティ・ウーマン」を知らない人はいないといっても、よいでしょう。このCDでも、グランド・フィナーレで、この曲を披露しています。

 はじめに、ロイ・オービソンのエルヴィスに絡む話をいたしましょう。
 ロイ・オービソンは、1955年5月末、南部をツアー中のエルヴィスと、テキサス州オデッサの地元TV番組で共演しているそうです。
 同年には、ロイの録音した「トライン・トゥ・ゲット・トゥ・ユー(おまえが欲しくて)」もあります。
 また、エルヴィスの2作目の映画『さまよう青春』の挿入歌「ミーン・ウーマン・ブルース」(1957年)を、ロイはカヴァーしており、1963年に全米5位まで上昇するヒットを飛ばしています。この曲も、このCDで披露されています。

エルヴィスは、すばらしい歌い手であるロイ・オービソンに、一目も二目も置いていたようで、歌をうまく歌えないときには「誰かロイ・オービソンを呼んできてくれ。歌い方を習いたいんだ。」と、まわりの人達に言っていたそうです。
 また、ロイ・オービソンの、大ヒット曲「オンリー・ザ・ロンリー」(1960年、全米2位、全英1位)、「ランニング・スケアード」(1961年、全米1位)の一部を、エルヴィスが、ふと口ずさんでいる音源があります。
「オンリー・ザ・ロンリー」は、『サスピシャス・マインド/メンフィス1969アンソロジー』Disc2-6「イット・キープス・ライト・オン(オルタネイト・テイク2)」で聴くことができます。
「ランニング・スケアード」は、『ウォーク・ア・マイル・イン・マイ・シューズ/ジ・エッセンシャル70'S・マスターズ』Disc3-15「明日は来ない」で聴くことができます。
いずれも、エルヴィスは、曲に入る前に、その一節を、ちらりと歌っており、たいへん興味深い音源です。初めてこれを聴いたわたしは、吃驚しました。ロイの曲を歌うエルヴィスに新鮮な驚きがあったからです。
 この偉大なる2曲も、今回紹介するこのCDにより、元祖ロイのライヴ・ヴァージョンで楽しむことができます。

エルヴィスとロイ・オービソンといえば、50年代にサン・レコードからデビューしたこと、60年代エルヴィスのナッシュビル・スタジオ・ミュージシャンと、ロイのそれが同じであること、など、多くの共通点があります。
そして、極めつけ、このCDでは、69年以降のエルヴィスのライヴ等で活躍した、70年代エルヴィスの代名詞ともいえるTCBバンドのメンバーが、なんと1987年のロイ・オービソンの後ろをしっかりと固めているのです。これには、驚きました。
 エルヴィス亡き後の時代である80年代に、TCBバンドの連中の演奏をバックにロイ・オービソンが歌うなんて、なんだか、エルヴィスの後をロイが引き継いでいるような感慨のある、すばらしいライヴであります。まるで、400 メートルリレーの第三走者である70年代のエルヴィスから、第四走者80年代のロイ・オービソンに、綺麗にバトンが渡されたかのようです。
 さらに、エルヴィス・フリークのブルース・スプリングスティーンもこのステージに立っているので、一段とそんな感じを受けます。まるで、ロイ・オービソンやTCBバンドやスプリングスティーンが、エルヴィスに捧げているかのような感じも抱いてしまう、そんなライブです。

またさらに驚いたのは、ロイを慕いこのコンサートに参加した、そのほかのミュージシャンの豪華な顔ぶれであります。
 ブルース・スプリングスティーンは前述しました。さらに、K・D・ラング、トム・ウェイツ、ボニー・レイット、エルヴィス・コステロ、ジャクソン・ブラウン、J・D・サウザー、T・ボーン・バーネット、ジェニファー・ウォーンズ…
どうです、驚いたでしょう。ゴゥジャスでしょう。まるで、ウルトラマンと、ビジンダーと、バルタン星人と、ゴー・ピンクと、仮面ライダーと、マジンガーZと、ジャイアント・ロボと、仮面の忍者赤影と、ウルトラの母と……(ハハ)が共演したような、賑わいぶりです。

 私は、とりわけ以前から、ブルース・スプリングスティーンが好きでしたので、このCDの所々で聴ける彼のあのしゃがれ声に、思わず、頬がゆるみました。
 スプリングスティーンのエルヴィス好きは有名ですね。彼も、私やあなたと同じく、かなりなエルヴィス狂のようです。
 スプリングスティーンが、ロックン・ロールに初めて接したのは、「エド・サリヴァン・ショー」に出演したエルヴィスをテレビで見たことだったそうです。「9歳の頃、エルヴィス・プレスリーのようになりたいと思わない人がいるなんて俺には想像できなかったんだ。」と、彼は、回想しています。
 1976年、エルヴィス逢いたさにグレースランドのフェンスをよじ登ったスプリングスティーンが、警備のおじさんにつかまったというエピソードもあります。
 また、ブルース・スプリングスティーンの傑作アルバム『明日なき暴走』(1975年、全米1位)のジャケットには、ギター&黒の革ジャンにエルヴィスのバッチを付けた、とてもよい表情をした髭の彼がいます。
 「ラスベガス万才」のカヴァーもしており、音源化されていますし(『ザ・ラスト・テンプテイション・オヴ・エルヴィス』)、ライヴでは「思い出の指環」「好きにならずにいられない」などのエルヴィスの曲も、熱唱しているようです。
 スプリングスティーンの未発表曲を集めた4枚組アルバム『トラックス』収録曲「ジョニー・バイ‐バイ」では、エルヴィスの死について、歌っております。

 そんな彼は、エルヴィスと同様に、ロイ・オービソンもかなり好きなようです。
 前述したアルバム『明日なき暴走』のオープニング・ナンバー「涙のサンダーロード」という曲の詩のなかには、なんとロイが登場します。「Roy Orbison singing for the lonely Hey that's me and I want you only(孤独な人のために歌うロイ・オービソン…)」とスプリングスティーンは歌っております。
 また、その『明日なき暴走』を録音するためにスタジオ入りしたときは、「ボブ・ディランが書くような言葉を、フィル・スペクター風のサウンドに乗って、ロイ・オービソンのように歌いたい。」とスプリングスティーンは考えていたそうです。そして、「とりわけ僕は、ロイのように歌いたいという気持ちを強く持っていた。でも、誰も、彼のようには歌えないことを、知っているんだ。」と言っております。
 また、彼は「孤独で暗い気持ちになった時、彼のバラードほど心にしみわたるものはない。」とも言っております。私も、まったく同じ気持ちです。
 そんな敬愛するロイ・オービソンと、さらにはエルヴィスのバック・バンドであったTCBバンドと、このCDの音源である、1987年9月のコンサートで同じステージに立てたのですから、ブルース・スプリングスティーンの喜びようは、相当なものだったと想像できます。

 私には、「声の好きな三大アーティスト」がいます。エルヴィス・プレスリー、ロイ・オービソン、ジョン・レノンです。この三人の「声」が、とても、好きなのです。
 歌声が好きなのはもちろんなのですが、それを乗り越えたところにある「声」そのものが好きなのであります。したがって、この三人の場合、たとえば、楽曲があまり好きなタイプのものでなく、他の歌手なら飛ばしてしまうような曲であっても、その「声」自体で、私は楽しむことができます。

 中学生時代、私が、ビートルズに目覚め、超はまっていた頃の話です。
 ビートルズの曲は、ほとんど好きで聴き狂っていたのですが、例外的に、なぜか「ミスター・ムーンライト」は、好きになれませんでした。その曲調が、その当時の青二才の私には古くさく感じられたため、どうも好きになれなかったのです。正直に言って、この曲の順番が来たら、飛ばしていました。
 しかし、その後、さらにビートルズを聴き込んでゆき、入門者から中級者ぐらいになった頃に、「ジョン・レノンの声」が「生理的」に好きな自分に気づきました。ジョンの声に含まれている「哀しみ」が、ある日突然わかったのです。その日を境に、ジョンが歌っていれば、ただそれだけで、いいという状態になりました。
 件の「ミスター・ムーンライト」も、それがわかってからというもの、自分の中で超名曲へと生まれ変わり、とても好きな曲に変身しました。この曲のジョン・レノンの「声」だけで、もう、たまらないのです。最初のジョンのシャウト一発で、ノックダウンしてしまう私がいます。
 そんなジョン・レノンもまた、ロイ・オービソンが好きだったそうです。ビートルズ初期の名曲「プリーズ・プリーズ・ミー」は、もともと、もっとテンポの遅い曲で、ジョンはロイの作風を真似て書いたそうです。


 ジョン・レノンとエルヴィスについては、次のジョンの言葉を引用しておきます。
 「エルヴィス以前には、何もなかった。」
 「エルヴィスを聴くまで、私は何からも影響されたことはなかった。もしエルヴィスがいなかったら、ビートルズは存在しなかった。」

 さて、この三人については、声そのものが好きなので、私は、歌声のみならず、曲間のしゃべり声や、インタビューの声を聞くだけでも、やられてしまいます。
 映画『ハネムーン・イン・ヴェガス』のサントラ盤に、U2のボノがエルヴィスをカヴァーした「好きにならずにいられない」が収録されています。(大瀧詠一さんは、このボノのボーカルに涙したそうです。その気持ち、すごくよくわかります。)この曲のとてもシンプルな演奏には、エルヴィスのインタビューにおける「声」が、イントロから最後まで全編にわたって流れております。私は、ボノのオクターブの広い、感動的な歌にも感涙しましたが、それ以上に、ここでのエルヴィスの「声」に、落涙してしまいました。
 また、エルヴィス没後20周年の1997年に発売されたグレイトな4枚組CD『プラチナム』。このDisk4の最後の最後。「マイ・ウェイ」の次に、突如現れる「ジェイシーズ・スピーチ」があります。ここで「So every dream that I ever dreamed has come true a hundred times …」というエルヴィスの声が流れた途端、切迫した感情を一気にこぼれ落としてしまう自分がありました。涙が頬を伝い、滝の如く流れ出しました。エルヴィスの歌声のみならず、その話し声だけで、ダメになってしまう自分があります。それは、まるで、天上から奏でられる、天使の声のようでもありました。
 エルヴィスの、声が内包する、その「痛み」や「哀しみ」などに対して、自分自身が共鳴するために、そういう風に参ってしまうのでしょうか。
 あたかも、鳴っていない音叉が、鳴っている音叉に近づいていって、少しずつ振動し始めるように。
 その振動は、やがて、キラキラとダイヤモンド・ダストのように輝き始め、さまよい人のように空中で踊りだし、シャボン玉のようにゆっくりと地面に降り立ち、最後に、時間のように四月の雪と連れだって儚く溶けてゆく…

 ロイ・オービソンの声は、独特な哀愁を湛えたその優美なたたずまいから、ヴェルヴェット・ヴォイスなどと呼ばれております。
 ほんとうによい声です。この声で、哀しみを歌わせたら、左にはジョン・レノンを先頭にずらっと並ぶ物がいるかもしれませんが、右に出るものは、エルヴィスぐらいではないでしょうか。エルヴィスが、ロイを絶賛するのも頷けます。
 もともとサン・レコードよりデビューした時から美しかったロイ・オービソンの声ですが、さらに、後期では、それに悲運だった彼の人生(*)が加わります。(このことも、エルヴィスに似ていますね。)滲むようにそのことが現れた、そんな後期の彼の声が、特にまた一段と、私の心の奥に響くのであります。
 このCDでは、そんな後期の彼の、声----復活して、最後の全盛期の絶頂期にいた時の、彼の虹色の声を、聴くことが出来ます。
(* 1966年6月、ロイと妻のクローデットが帰宅途中交通事故に遭い、クローデットは亡くなった。
   1968年9月、ロイが旅行中に自宅が火事で焼け、息子2人が死亡した。)


妻クローデット、息子デ・ウェインと。1963年。

 
 さて、このライヴCDで披露される曲ですが、これがまたすごいんですよ。
 往年の彼のヒット曲のオン・パレードです。グレイテスト・ヒッツ・オブ・ロイ・オービソンな曲の数々が、次々と、これでもかこれでもかと、私達の前に提示されます。
 それにプラスして、サンでの初めてのシングル(SUN242)の両面の曲「OOBY DOOBY/GO!GO!GO!(Move On Down The Line)」2曲というプレゼントもあります。
 そして、(残念ながら、結果的にロイの遺作アルバムとなってしまった)当時の最新作である『ミステリー・ガール』からも2曲演奏しています。まさに、頭の先からしっぽまで、びっちりクリームの詰まった鯛焼きのような、グレイトな曲ぞろいのCDであります。
 それは、まさにウルトラマンと、ビジンダーと、バルタン星人と、ゴー・ピンクと、…もう止めた方がよいですね。

 正直申しますと、私は、初めてこのCDを聴いたとき、その演奏に、とても重たいものを感じました。ロイ・オービソンの、私が持つある種軽やかなイメージに対し、TCBバンドのリズム・セクション2名(ロニー&ジェリー)の演奏が、そぐわないように、感じたのです。NHKアニメ『おじゃる丸』のテーマ曲を初めて聞いたとき、その曲を、北島三郎さんが歌っていることに、奇異な感じを受けたのと、それはよく似ていました。
 これは、たぶんに、ジェリー・シェフの懐の深いベースと、ロニー・タットの力強く重いドラムがなせる所以でしょう。そのようなリズム隊をバックに歌うロイ・オービソンに、どうも慣れないせいか、「ちょっとロイを聴こうかな」と思っても、当初は、すすんでこのCDに手を伸ばすことはなく、他のロイ・オービソンのCDをかけておりました。
 しかし、そう感じたのも、最初のうちだけで、その後何度かこのCDを聴くうちに、このパワフルな新しい演奏で歌うロイ・オービソンにも慣れて来ました。
 いやそれにも増して、今度は、聴き込むごとに、これは、なんだかとんでもなく凄い演奏だということが、だんだんわかってきました。とてもカラフルで素晴らしい演奏だ!ということが、認識されてきたのです。凡百ではない音楽が、そこにあることにやっと気付いたのです。
 サブちゃんの歌うアニメ『おじゃる丸』のテーマ曲が、その後素敵に感じられるようになったように、今では、TCBバンドのリズム隊をバックにしたロイ・オービソンも、なかなかよい味があるものだと、感じ入っております。まさに、歩のない将棋は負け将棋。このCD、すっかり私の愛聴盤へと変身してしまいました。
 はじめにちょっと聴いただけで、すぐにわかり、好きになるものもある反面、はじめは全然その良さがわからなかったものが、だんだんとわかって、好きになるものがあります。私にとって、このCDは、まさに後者のタイプだったのです。
 (私の場合、アーティストでいえば、前者は、カーペンターズ、ビートルズ、クイーンなどです。後者はローリング・ストーンズ、ロキシー・ミュージック、ブルース・スプリングスティーンなどです。
 エルヴィス・プレスリーという人物は、前者でもあり、後者でもあり、私にとって、希有で、とても深いアーティストであります。)
 このCDには、聴く度に、その演奏に新しい発見があり、デートする度にドキドキしちゃう若いカップルのような、この胸のときめきが、あるようです。

 以上、総論でございました。次に、各論に移ります。
 このCDでの、The TCB Band の、いやここでは the coconut grove band と称したメンバーの 各々の演奏について、私なりに感じたことなどを、つれづれなるままに硯に向かってみましょう。

 どかどかとした暴れ太鼓は、タイプとして、ロイ・オービソンの曲には、似合いません。よって、ロニー・タットも、ここでは、的確なリズム・キープに徹しています。つったた、つった・つったた、つった・とリズムを刻んでおります。ただそれだけのことなのですが、そこは、名手ロニーのこと。ただ者ではありません。そのハイハットと、スネアの音が、実に見事なのであります。
 匠の技を聴かせてくれます。彼の肉体と化したスティックの先から繰り出される音は、まろやかに丸く見えますが、その中身は力強く尖(とんが)っており、一音一音確実なのであります。見事なビートが、トンビがくるりと環を描くように、くるりくるりとグルーヴしております。スネアの裏のバネが、いい音で鳴っています。
 このCD全編に渡って、そんな素敵なロニーのドラムの音を聴く事ができる私達は、幸せです。
しかし、やはり我慢できないのでしょうか、ロニー・タット。たまに、その暴れん坊の片鱗を見せるところがあり、そんなタットが、またとてもかわいらしいのです。
 「ドリーム・ベイビー」でのブレイク後(3:05)からラストまでのプレイ。「ミーン・ウーマン・ブルース」での、間奏におけるロイ・オービソンのうがい(!)の後からラストまでのドラミング。これらで、彼のその暴れん坊将軍ぶりを聴くことが可能です。特に、ロイのうがいにより、観客が大いに盛り上がった後の、ロニー・タットのスネアの連打(2:33)には、おおいに興奮させられます。うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
 「ランニング・スケアード」「ザ・コメディアンズ」での、日本人の心の琴線に触れる水戸黄門のテーマのようなドラムも、またいいですね。だっ・だだだ、だっ・だだだ、という、我々の魂を揺さぶってくれる、ロニーのその叩きっぷりは、ディープ・パープル『ライヴ・イン・ジャパン』の「チャイルド・イン・タイム」における、ドラム奏者イアン・ペイスも、かなわないのではないでしょうか。
 翻って、「クライング」では、ロニーのリリカルでデリケートなリム打ちを、「ブルー・バイユー」では、しっとりとしたハイハットを、聴くことができます。ロイの震えるような声と調和して聴かれるそれは、私達のハンカチーフを綺麗に濡らしてしまうことでしょう。

 さて、このロニー・タットのドラムと対になって、トムとジェリーのような・ばっちグッーなコンビネイションを聴かせてくれる、ジェリー・シェフのベースが、またとってもワンダフルです。
 1曲目「オンリー・ザ・ロンリー」サビのところで、ロイが「There goes my baby」と歌った後での、ロニーとジェリーの、「だ、だ、だ、だっ」。
 いやー、よいですー。この部分を聴くと、夥しい数の、幸福の黄色いハンカチを、夕張の青空の下でみる思いがいたします。念を押すような、ロニーのバス・ドラとジェリーのベースが、渾然一体と溶け合い、最高のリズムを差し出してくれます。そのリズムには、ぶっとい心(芯)があります。「ミーン・ウーマン・ブルース」のロイの出だしの歌の後、突然、扉を開いたように始まる演奏のところでも、それは顕著であります。
 ジェリー・シェフの、エルヴィスのバックでもお馴染みの、どーん、どーん、と、腹に響く、深いベースには、いつも惚れ惚れとさせられてしまう自分があります。
 このCDでは、珍しく、彼の、おそらくそうであろうウッドベースを聴くことができます。
 「ドリーム・ベイビー」では、その後の展開を予言するかのような、ジェリー・シェフの決定的なベース音により、曲が始まります。途中で現れる、ロニーとのバスドラと融合して上下するベース・ラインもとてもよい。
 「ムーブ・オン・ダウン・ザ・ライン」のイントロで、彼のベースは、ゆっくりと、ロックン・ロールの森の中へと分け入って進んでゆきます。
 「オンリー・ザ・ロンリー」「リー」「クライング」「ブルー・バイユー」での、ゆったりとしたバッキングは、私達を暖炉のある暖かな部屋へと導いてくれ、そして、凍った心をゆっくりと溶かしてくれます。
 「キャンディ・マン」「ウービィー・ドービィ」ほかでの、ロケンローなベース・ラインも、いとよし。
 「ザ・コメディアンズ」での思考し沈降するベース・ラインにも、ロダンの彫像のように味わい深いものがあります。(ロイ・オービソンの遺作アルバム『ミステリー・ガール』に収録されている、この曲のスタジオ・ヴァージョンでも、ジェリー・シェフはベースを弾いています。)
 オーラス「オー・プリティ・ウーマン」で聞かれるあの有名なフレーズを、ユニゾンで弾く彼のベースからは、心躍る姿のシルエットが真夏の地に楽しげに映し出され、その見上げるところにある太陽が、水銀柱の中の液体をぐんぐんと昇らせていくのを感じます。

 先にも書いたように、このコンサートでは、多くの有名ミュージシャンが参加しております。クレジットを見ていただいておわかりのように、ロイ・オービソン自らのほか、多くの方々がギターを抱えております。その数多(あまた)あるギターの音の中から、ジェイムス・バートンのギターを発見するのは、困難かなと思いました。でも、すぐにわかりました。左側に位置するのが、おそらくジェイムスのギターでしょう。(違ってたら、ごめん。)随所で、すばらしいプレイを聴かせてくれます。
 「オンリー・ザ・ロンリー」「イン・ドリームズ」「リー」「イッツ・オーバー」での、さわやかに、時に激しくかき鳴らされるバッキング・アコースティック・ギター。
 特に「オンリー・ザ・ロンリー」での、フレットと弦をこする音(1:53ほか)や、「リー」の2:17から2:22のところで下降する、はばたいていた羽を休めるようなアコギの音の美しさは、どうでしょう。
 「ムーブ・オン・ダウン・ザ・ライン」「ミーン・ウーマン・ブルース」「アップタウン」「(オール・アイ・キャン・ドゥ・イズ)ドリーム・ユー」での、ジェイムスのトレード・マークである、あのテレキャスターによる、彼特有のパキパキ音=いわゆるひとつのいかすバートン印のソロ。
 「キャンディ・マン」でのイントロでハーモニカとハモる粋な江戸っ子ギター。(ジェイムスは、江戸っ子じゃぁ、ねぇか。)
 「ドリーム・ベイビー」「ブルー・バイユー」での、燻し銀のオブリガート。
 「クライング」「ザ・コメディアンズ」での、口数が少なく出しゃばらない、的を得たエレクトリック・ギター・バッキング。
 「ウービィー・ドービィ」「オー・プリティ・ウーマン」での、楽しいギター・バトル。
 いやあーこりゃーもう、絶品ですぞ、旦那。ちょちょぎれるぜ、涙。おいら、とってもごきげんっす。
 「スージーQ」から始まり、リッキー・ネルソンを通り、エルヴィス、そしてジョン・デンバーを経た彼のギターの長い旅が、ここにおいて沸点に到達したと言っても、過言ではありません。すばらしいジェイムスのギター・プレイの数々を、このCDで、聴くことができます。ジェイムス・バートンの最高傑作といっても、いいすぎではないでしょう。
 ジェイムス、貴方のリード・ギターで、島田も揺れる。
 ジェイムスの春一番なギターが、官能の嵐として吹き荒れ、花吹雪となって舞い躍る。そして柔らかく暖かい広大な大地いっぱいに咲き乱れる、赤、青、黄色のチューリップ畑に降り注ぐかのように、豊かな色彩となって、私の心の中で、満開となるのであります。

 さて、このライヴCD。音だけでなく映像の方もビデオ、LD、DVD等であるようなのですが、残念ながら私もってません。以前に、そのごく一部(テレビで少しだけ見た「オー・プリティ・ウーマン」のショート・ヴァージョン1曲のみ)をちょっとだけしか見たことがないのです。
 そのわずかな記憶をたどると…
 …渋くてかっこいいモノクロ映像の中、他の黒い衣装を着たミュージシャンに対して、ジェイムス・バートンと、ロニー・タットだけ白いジャケットを着ており、それが、とてもまぶしくて印象的でした。
 ロニーは、TAMAのドラム・セットを使用しておりました。ジェリー・シェフは、やはりウッド・ベースでした。ジェイムスは、やはり、あのバートン印の、あの柄の、あのテレキャスでした。グレン・D・ハーディンは、右端上方のピアノのところにいる人物がそうなのかなあと思いましたが、この1曲だけの映像では、よく確認できませんでした。(ああ、このライヴ映像、全部見たーい!)

(筆者注:この拙稿を書いた数年後、このビデオ、DVDが再発され、ついに全部見ることができました!)

 さて、その1曲の映像ではよく確認できなかったグレン・D・ハーディンですが(笑)、CDで聴くと大活躍していることがわかります。
 まずオープニング「オンリー・ザ・ロンリー」で、きょっ、きょ、きょ・きょっ、きょっ、と、かわいい宝石のようなリズムを、ピアノで刻んでおります。私は、そんな彼のピアノに、「プリティ・プチ・ジュエリーなリズムの、かわいいグレンなピアノ」と、密かに心の中で名付けました。
 「ドリーム・ベイビー」でのバッキング・リズムも、いかすグレンなピアノ・プレイです。
 「イン・ドリームズ」「リー」「クライング」「ランニング・スケアード」「イッツ・オーバー」での彼のピアノは、美しいタッチで、流麗なストリングスとともに、ビューティフルな旋律を、白と黒の鍵盤から奏でております。エミルー・ハリスや、ジョン・デンバーとのセッションでは、そのピアノ・プレイとともに、ストリングス・アレンジも行っているグレンです。彼のピアノと、弦との相性は、山羊座と牡牛座のペアのように、とてもよいものがあります。「ブルー・バイユー」でのピアノもまたビューティフル綺麗です。
 「ムーブ・オン・ダウン・ザ・ライン」「ミーン・ウーマン・ブルース」「(オール・アイ・キャン・ドゥ・イズ)ドリーム・ユー」での、ロケンローなピアノ・プレイも、グッーっす。
 「アップタウン」での玉を転がすかのようなイントロのピアノ、そして途中数カ所で聴かれる駆け下るピアノ。「キャンディ・マン」での、ドラスティックでドラマティックなR&Rピアノ。その鍵盤をすべるグレンの指先は、楽しげに弾んでいます。
 ロックン・ロールから、バラードまで、なんでも上手に弾きこなすそんな愛すべきグレンに、つい頬擦りしたくなってしまうのは、私ひとりではないでしょう。

 あいやぁー、すばらしい!グレイト!ワンダフル!ブラボー・ブラボー!スーパー!エクセレント!
 ザ・TCB・バンドの演奏に、拍手喝采だぜー!
 ヤッホー! ザ・TCB・バぁぁぁぁあああンド!

 エピローグ。
 そして私は、「クライング」「ランニング・スケアード」「イッツ・オーバー」のロイ・オービソンの歌声に、またしても、クライングするのでした。
 「孤独で暗い気持ちになった時、彼のバラードほど心にしみわたるものはない。」by Bruce Springsteen

(筆者注:この文章は、1989年に発売された日本盤CDに基づいて作成しました。)
(norimakiさんに、本原稿作成にあたり多大なるご協力、お力添えをいただきました。画面をお借りして、深く感謝申し上げます。)

ロイ・オービソン主演映画『The Fastest Guitar Alive』(1967)のポスター。
『オン・ステージ』のエルヴィスはこれを真似てた?!

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