ベロセットに採用されているクラッチ機構は、一般的な機構とは少し異なりますが、ドライブスプロケットの交換が
極めて簡単で,走行条件に合せてギヤ比の設定も自由度が高いものです。
本項ではその構造の理解と戦前モデルで(MAC〜1940)採用されている、単板コルクインサートタイプの
クラッチのリペアを取り扱います。
コルクの調達には、海外の部品商から購入、国内のコルク加工会社から購入(筆者は以前国内で
製作を依頼した、今回使用したコルクはその時に発注したあった物を使用した)
そして、手作業でワインコルクから切り出すことも有効であるが相当な愛情表現でありましょう。
コルクそのものは優れた天然素材で今日でもワイン、酒の蓋、理化学容器の蓋にも、多数使われている。
クラッチインサートには、現在は天然コルクが適していると思われます。
筆者の場合、当時の素材と同等品を使用することも、楽しみの一つであるのである。
構造の理解(文中のアルファベットは右下図の名称と対応しています)
多くのクラッチはクラッチの主軸の中心に操作用のプッシュロッドを位置させていますその結果、ドライブスプロケットは
クラッチ本体よりも内側に位置せざるを得ない配置となります。
ベロセットのクラッチはドライブスプロケットを一番外側に位置させるために、クラッチ主軸(メインシャフト、スリーブギヤ)を中空にすることが出来ないので
クラッチ主軸の後ろ側に操作ロッド(G)を位置させ、クラッチ本体に貫通している3本のプッシュロッド(I)を環状のリング、スラストベアリング(J、H)を介して押すことで、動力の断続操作を行っています。
クラッチの調整は、スプリングホルダ(M)とスリーブギヤナット(左上写真スプリングホルダ手前の部品)に位置関係で間のスプリング
(16本、スラクストンは20本)の張力を調整します、それに伴いクラッチワイヤの張りが変化するのでアジャスタ(B)も調整します。
スプリングホルダの回転方向は左図のドライブスプロケットを取り外すのは大変なので、ドライブスプロケットにはスプリングホルダの調整用の穴が開いていて
そこに棒を挿入して、後輪を回転させるとスプリングホルダが一緒に回転して、スプリングの張力を調整出来る仕組みになっています。
リペア
本項目で取り扱うのは、単板コルクインサートタイプを扱います、適応はMACについては1940年まで、MOV全モデルが適応します
リペアする個体の状況
約15年ほど以前に、コルクインサートを交換した数年後、1度コルクの脱脂を行ったが、近年クラッチの滑りが激しく
今回リペアするに至った。
クラッチの分解
上左、ドライブチェーン、ドライブスプロケットプライマリチェーンカバーを外した状態。
上中、スリーブギヤナットを外した状態、16本のスプリングが見える。
上右、フロントプレートを外す、コルクインサート、スラストピンx3(I)が見える、
このときにスラストピンがスプリングホルダに付着して出てくることがあるので、注意する。
下左、プライマリチェーン、チェーンホイルを外すすとバックプレートが現れる。
下右、バックプレートを外すと、クラッチ操作部(J、H)
組み立ては逆の順序で行う、そしてスリーブギヤナットは確実に締め付ける。
コルクインサートなどの状態
外したチェンホイルのコルク自体は炭化などは認められないが、厚みはかなり減少していた。
減少の原因は摩擦による減量、圧縮によるもの両方であろうと思われる。
まず脱脂作業のみを行い、再度組み付けた場合キックスタータでの踏み抜きでもすべり自体は
解消した、が、チェーンホイル、フロント、バックプレートを仔細観察の結果、摩擦面ではない
部位に若干の金属の接触痕が認められたため(注1)、コルクインサートを交換することとした。
コルクの表面は使用品の滑らかな面と新品の荒れた面が対照的である。
その他、コルクホールの端部の面取りが不十分な部分が有ったので両面同様に面取りカッタを
用いて面取りを行い、細く裂いた布やすりで鋭利な角、バリを取り除いた。
左、研磨時の仕上げ不足と思われるバリ。
中、新たに面取り加工を追加
右、面取りの角を布やすりで除去
注1、以前にチェーンホイルを研磨した際に研磨代の分ほかの部分の高さとの整合性が失われたため
摩擦面以外での金属接触が発生していたが、これは怪我の巧妙で通常はコルクが減ると摩擦面が
接触してしまうので、場合によっては、フロント、バックプレート、チェーンホイルに重大な
損傷が発生する可能性があったが、現状では摩擦面が当たる前に別部分が接触するので
コルクの減りを知らせる効果を偶然にも得たことになる。
新しいコルクの挿入と馴染み出し作業
新しいコルクをチェーンホイルに組み込み、コルク面の高さを出来るだけ合せて、一応プレスで押えて馴染ませる、
コルクに組み込み時には、暫く水に浸すか煮ると柔らかくなり、割れの発生を防ぐこと出来る。
仕上げにはコルクの面と高さを揃えるために、紙やすりなどを用いて研磨する。
左、新しいコルクを組み込んだチェーンホイル
右、念のためプレスで馴染みを出すために軽く圧縮(最終的には実装状態での馴らしと
調整を要する)
参考文献