ハイポンプ

構造とリペア


ハイドニューマチック搭載のシトロエンにとってハイポンプはまさに心臓とも言えるユニットです、DSの時代は斜板式の7気筒のアキシヤルポンプ、要はレシプロ式の油圧ポンプです

現行車種では5気筒となっています。

リペアの対象ハイポンプの状況

所謂時折エアを噛む個体でかつ、シャフト部からLHMの漏れのある個体

注)エアを噛む:突如として、車高が上がらないなど機能上問題のある状況


1)プーリを外す、この時ウッドラフキーの紛失に注意。

補足;プーリは鋳鉄製のため、落としたりすると破損するので注意。

2)プーリ裏の薄い鉄板製の防塵カバーを注意深く、細いドライバなどで 外す。

かなり炭化した物体がベアリングに付着しています これは組み立て時に封入されたグリースが変質し炭化したものと推測されます。

ここまで分解する途中でボール内にスラッジが入ったらしく、回転時にゴリゴリ感が有ります。

3)LHM溜りの鉄板のプレス製のお釜を外すのですがこれには専用工具を使用します、筆者は有り合せの廃物利用で製作しました。

プレスのようなもんです。

すると、中のアキシアルポンプ群のお出ましです。

写真では黒色に見えますがこれは汚れでLHMだけを見ると綺麗に見えるものですが溜まる場所は意外に汚れています。

ここからは普通のハンドツールで殆どの作業が可能ですが、最低限必要なものはしっかりとした作業台、傷防止爪付きの中型以上のバイス、ギヤプーラ、各サイズのスパナ、ソケット等です。

また分解を開始する前に出来うる限り、洗い油で外観を洗浄しておくことをお勧めします。

ここからの分解手順は斜板を固定しているナットを緩め順番に抜いて行きます。

一番外側のナットは緩み止めのリップが曲げてあるのでこれを、ノックピンポンチ等で戻てからナットを緩めます。

斜板を外す時、ピストンのプッシュロッド、ピストンを飛ばさないように注意が必要です、ピストンを保持するSSTも有ると非常に作業が楽にることでしょう。


4)ピストンを抜き取る。

この時の注意はピストン&シリンダの組み合わせは変えないようにします、パーツボックスなどを利用しキチンと仕分けしておきましょう。

5)スピンドルを抜く

ギヤプーラ、プレスなどを利用して、プーリ側から押し出します。

写真では右側のベアリングが付いていますが、実際はこのベアリングは別になって、スピンドルは抜けてきます。

6)プーリ側のベアリングを抜く

プレス、バイスなどを利用してベアリングを抜く、廃材や、各種ハンドツールなどを組み合わせ慎重にやってみました

ベアリングを抜いた後のハウジングの状態カーボンが大量に詰まっていました。

これは取り外した、スピンドルのシールなんですが、カチカチに硬化しています。

このポンプアクスルのシール機構はOリングと鋼鉄とブロンズのメタルシールから成り立っていまして、プーリ側のボールベアリングの潤滑はグリスに封入されたよって行っています。

斜板近辺の2つのボールベアリング、ニードルローラベアリングは常時LHMにて潤滑される構造になっています。

但し、プーリ側ボールベアリングのグリスも”2)”のカバーを外せばグリスの交換は可能です。


これでポンプの部品全部です、ピストン、シリンダの組み合わせは変えないようにそれぞれ分けて置いておきます。

リペアに必要な部品自体は現在も入手可能で、各シールベアリングの他、ピストン/シリンダなども

調達可能です。


アキシアルポンプの構成部品

上左に写っている部品が、内蔵されているアキシアルポンプの構成部品全体、上中は逆止弁のバルブシート。このバルブシートとチェックバルブの当たりを必要に応じて調整、修正することが必要です。

上右、このインレットホールからシリンダ内にLHMが入り、ピストンで圧縮され高圧油圧が生み出される訳です。

ポンプのストロークは10mmでボアがφ8.51ですから、1気筒あたりの吐出量は0.568ccで 7気筒の回転当たりの合計吐出量は

3.97ccとなります


核心部ピストン&シリンダの寸法

取り外した、7気筒のポンプのピストン&シリンダの寸法を調査測定してみました。

測定器は1/100ミリの測定器を使用したので1/1000ミリは目視での値です。

ピストン外径 シリンダ内径 メモ
1番 8.51- 8.51+
2番 8.51- 8.51+
3番 8.51- 8.51+
4番 8.51- 8.51+
5番 8.51- 8.51+
6番 8.51- 8.51+
7番 8.51- 8.51+

以上の様に、ピストン&シリンダのクリアランスは1/100ミリ未満であることが判ります。


ハイポンプの組み立て2002/4/2更新

部品が揃ったので 組み立ての開始です 調達した物はこの固体ポンプ単体の不具合は見受けられないので各部シールとベアリングです。

左:リペアに必要な部品群です内訳はOリング18本、ベアリングが2種類

右:面白いと言うか古式ゆかしいですね、ポンプ駆動プーリ側のボールベアリングはボールの交換が可能な形式で右上写真の中央に写っている部品(リテーナ)を外しボールを片側に寄せると全て分解出来ます

左:ポンプキャリアにシリンダを組み付けていきます、そのときシールには油を塗布して作業します

右:チェックバルブを組み込んだところで、チェックバルブの作動を確認します。


以下2002/Apr/21追加

チェックバルブの作動状況を確認後、チェックバルブの気密テストを実施します

左のように、配管を取り付け、チェックバルブの気密テストを行います。

このテストはHポンプのリペア上最も重要なポイントになり、このチェックバルブ部での気密漏れが多い場合所謂”エアを噛む”という状況に陥ります。

実際はエアを噛むのではなく、チェックバルブの機能が低下して、高圧油圧が逆流して結果として高圧油圧を生み出せない状態になると推測できます。

実際この固体後述のチェックバルブの擦り合わせをしないで組み込んだところ、盛大に気密漏れを起こしました、きっとこのまま車体に取り付けたとすると、エア噛みを再発したでしょう。

結局この固体は再度分解の憂き目に会い、チェックバルブの擦り合わせを行うこととなりました。


チェックバルブのすり合わせ

写真左:左は擦り合わせ済みのチェックバルブ、右は段付き磨耗状態のチェックバルブ

写真右:バルブコンパウンドを使い擦り合わせを行う。


各部の組み立て

チェックバルブの擦り合わせを行い、機密テストが良好になったら、各部の組み立てを分解の逆の手順で行う。

LHMリザボアの圧入とSSTの製作

写真左がLHMリザボア圧入SSTです、製作にはPVC製配管止プラグにモルタルを

盛り付け、リザボアの凸部を転写します。

乾燥後、圧塗り用のアンダコートを数回塗布し、十分に乾燥させると完成です。

これを使用してリザボアを圧入後各部の気密テストを行います。

続く・・・・・・・・・


センターシールの気密テスト

左の様に、ポンプ吐出口を塞ぎ、サクション側から加圧し、センターシール及びリザボア周辺のリークを

確認します、ここでは約3キロ程度加圧していますが、メタルシールは低圧の場合にリークし易いのと、あまり高圧で行うとリザボアが抜けることもあるので注意が必要です。

理想的には、低圧高圧両方実施するのが賢明と思われます。


参考文献 E.T.A.I-Revue Technique Tome 1 DS/ID19 1956〜1965

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