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スペシャルレポート

ケーブルテレビ '97総合展示会特集(6月29日更新)


国内では唯一かつ最大のケーブルテレビ関連の展示会であるケーブルテレビ '97(以下ケーブル'97)が、(社)日本CATV技術協会/(社)日本ケーブルテレビ連盟/CATV番組供給者協議会の主催で、1997年6月11〜13日まで池袋サンシャインシティ(ワールドインポートマート、文化会館)で開催された。「未来先取り、夢実感。くらし彩る先進メディア」をテーマに、ハード・ソフト併せて118社が出展、決して広くはない会場に、各ブースがところ狭しと並べられ、筆者が訪れた最終日の13日午後は、まともに歩くことができないほどの混雑であった。
ケーブルテレビのショーが他の展示会と違うのは、ソフト・ハード共に内容が幅広いことだ。例えばハードの場合、チューナや変調器、デコーダー、VTRなどの放送機器の他、編集用のシステムや屋外アンテナ関連、また有線であるがための電線やアンプ(ブースター)、それらの工事のための工具や測定器、さらには本レポートの主旨でもあるデータ通信用のケーブルモデムシステムに至るまで、およそ業務やサービスに関わることは総てといったところである。
このため、他の特定の分野に的を絞った大規模な展示会に比べると、内容は広く浅くなりがちになる。それでもケーブルテレビ事業者や関連業者が必要な情報を幅広く仕入れるには格好の場所となっている。

「NetWorld+Interop 97 Tokyo・会場レポート」でケーブルモデム・システムの話をしたが、本展示会でケーブルモデムが展示されるようになったのは前回の展示会からである。昨年の展示会では第1世代と呼ばれる対称型ケーブルモデムが少数のブースで見られたが、今年は第2世代の非対称型ケーブルモデムが多くのブースで見られた。
以下では、N+I(NetWorld+Interop)の続編という形で、ケーブルモデム・システムに関する内容に的を絞って、会場レポートをお届けする。なお、ディジカメを持参せずに会場入りしたため、画像を一切お見せできないが、ご了承願いたい。




N+Iでもお伝えしたとおり、Com21のケーブルモデム・システムがフジクラのブースで展示されていたが、ケーブル'97ではフジクラに加えて古河電工、日立電線のブースでも展示された。特にフジクラと古河電工は、ブースの面積の多くをケーブルモデムの展示エリアに費やし、隣同士で宣伝合戦を繰り広げていた。簡単にスペックの説明をすると、上り(送信)2.56Mbps、下り(受信)30Mbpsの通信速度(容量)を持つ非対称型のシステムで、ケーブルモデムとセンターコントローラ(ケーブルテレビ会社に置かれる管理装置)の間は、ケーブルテレビの伝送路(つまり同軸ケーブル)のみを使用する、NTT料金とは無縁のシステムである。また、ケーブルモデムとセンターコントローラの間はATMネットワークで結ばれるため、ケーブルテレビ伝送路網内であれば、高速かつRSVPなどによる帯域予約サービスなども可能である。
ケーブルモデム「ComPORT」は、この手の製品の中では小型(とは言っても、通常の外付けモデムを2台重ねた程度の大きさになってしまうが)で、非常に軽量である。そのため、壁掛けのための穴がComPORT底面に用意されるなど、置場所を問わない、そして曲面を多用したデザインは、多くの利用者に気に入られることであろう。

NECのブースでは自社開発のケーブルモデム「CMT5000」が参考出展された。既に多くのケーブルテレビ会社で実験に使われているという同モデムは、上り2.3Mbps、下り30Mbpsで通信が可能な非対称型のシステムで、センターシステムとの間は、ATM交換ではなくパケット交換のネットワークとなっている。参考出展のきょう体は、非常に重く、大きさは箱形の小型VHSビデオデッキ並みである。このきょう体ではとても消費者が満足するとは思えないが、説明員に話を聞くと、製品版は全く形が異なり、正式な出荷は98年7月を予定しているとのことだ。

東芝のケーブルモデム「PCX101J」は上り2Mbps、下り8Mbpsの非対称型で、センターシステムとの間はNECと同じくパケット交換のネットワーク(Ethernet)を採用している。きょう体は邪魔にならないギリギリの大きさといったところか。この東芝自社製のケーブルモデムも、国内のケーブルテレビ会社で既に実験に使われているという実績をもっている。

モトローラの「Cyber SURFR」は、実験ではあるものの、日本では最も実績のあるケーブルモデムで、展示会開催中時点での稼働台数は日本最多の約450台となっていた。このシステムのスペックは、通信速度が上り768Kbps、下り30Mbpsの非対称型システムで、モデムの大きさは東芝製とほぼ同じ。かつてヒューレット・パッカード(HP)が「クイック・バースト」という商品名でケーブルモデム・システムを開発していた頃は、モトローラと並んで2強とされていたが、今年5月にHPが同事業から撤退したため、現在ではモトローラの存在が非常に大きくなっているのも事実である。

パイオニアのシステムも非対称型ではあるが、他社と違うのは上りの伝送速度を抑えている点である。スペックでは上り128Kbps、下り30Mbpsとなっており、上りを128Kbpsに抑える代わりに60ch分の要求信号の同時処理を実現している。また、帯域を狭く(100KHz)することでノイズにも強くなるという。
このケーブルモデムは、NEC製と同様にとても大きいが、97年7月より量産に入るケーブルモデムはより小型化されるということなので、出来映えが楽しみである。

上りの伝送方法や速度をどうするかという問題は、各社が工夫される大きな点であるが、サイエンティフィック・アトランタ(SA)のケーブルモデムは、上りに電話回線を使用する、いわゆる「テレコ・リターン」という方式を取っている。つまり、上りは28.8Kbpsという、通常モデムでは一般的な速度で要求し、下りをケーブル伝送路から1.2Mbpsで受信する。この方式は、パーフェクPCなどの衛星データ通信と非常に似ている。衛星データ通信も、下りは数Mbpsの高速受信が可能だが、上りは電話回線を使うことになる。
ケーブルテレビにおけるこの方式のメリットは、ケーブル伝送路が双方向システムになっていなくてもよいことである。また、上り側はノイズの影響を受けやすく、ケーブル伝送路の品質に左右されることから、設備投資の点でもコストダウンが見込める。
ただし、上りにNTT回線を必要とするため、ユーザ側のメリットが減ってしまうことも事実である。

松下のシステムは、上り9Mbps、下り30Mbpsの伝送速度の非対称型で、基本的な仕様は他社製と大差ない。松下は、ケーブルモデムの他にディジタル・ケーブル電話システムも展示していたが、ケーブルモデムとは全く別のシステムになっていた。なお、富士通やCom21(将来対応)のシステムは、ケーブルモデムに電話のモジュラージャックが付き、そのシステムの拡張でケーブル電話に対応できるようになっている。

N+Iの特集でも紹介した富士通のシステムは、上り2Mbps、下り8Mbpsの非対称型である。
その他、富士通のブースで非常に興味を引いたのは、参考出展されたワイヤレスCATVシステムだ。ケーブルテレビは、その名の通り「有線」のシステムだが、それが足かせとなって、引き込めないエリアや建物が多くある。具体的にいうと、たった1本の電柱が建てられないために、ケーブルがそこまで持っていけず、ケーブルテレビに加入できなかったりする。このような比較的短い距離(数十メートル)を無線で結ぶのがワイヤレスCATVシステムである。富士通のシステムは、60GHz帯の周波数を利用した双方向システムで、放送のみならずデータ通信にも対応できる。ケーブルはケーブルのメリットがあるが、そのデメリットを埋めるためのワイヤレスシステムとのハイブリット化は、ケーブルテレビ会社のこれからの課題といえよう。




(この項おわり/なかみつ)


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