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スペシャルレポート

ケーブルテレビ '98総合展示会特集(7月31日更新)


国内では唯一かつ最大のケーブルテレビ関連の展示会であるケーブルテレビ '98(以下ケーブル'98)が、(社)日本ケーブルテレビ連盟/(社)日本CATV技術協会/CATV番組供給者協議会の主催で、1998年6月10〜12日まで池袋サンシャインシティ(ワールドインポートマート4F、文化会館3F・4F)で開催された。「楽しさ満載、便利にあれこれ、ケーブルテレビ」をテーマに、関連機器、機材を展示するハードウェアゾーン、各種プログラムを紹介するソフトウェアゾーン、多チャンネル時代を迎えるにふさわしいサプライヤーゾーンなどによる総合的な展示が行なわれた。
筆者は、例年通り最終日の12日に足を運んだが、最終日は集客がピークに達することもあり、相変わらずのにぎわい。主催者側は、予定来場者数を約5万人と見込んでいたが、この規模の展示会で予定通り人が集まれば、上出来といえるだろう。

第1会場(展示ホールA)

第2会場(展示ホールB)

第3会場(展示ホールC)

昨年の展示会レポートでも書いたことではあるが、ケーブルテレビのショーが他の展示会と違うのは、ソフト・ハード共に内容が幅広いことにつきる。例えばハードの場合、チューナや変調器、デコーダー、VTRなどの放送機器の他、編集用のシステムや屋外アンテナ関連、また有線であるがための電線やアンプ(ブースター)、それらの工事のための工具や測定器、さらには今年のトレンドでもあるデータ通信用のケーブルモデムシステムや次世代ディジタルSTBに至るまで、およそ業務やサービスに関わることは総てといったところである。

このため、他の特定の分野に的を絞った大規模な展示会に比べると、内容は広く浅くなりがちになる。それでもケーブルテレビ事業者や関連業者が必要な情報を幅広く仕入れるには格好の場所となっている。

昨年同様、ケーブルモデム・システムを中心に話を進めるが、米国でMCNSと呼ぶ標準仕様がまとまったため、日本でもMCNS準拠に一部独自仕様を盛り込んだモデムを中心として、昨年以上の盛り上がりを見せた。その証拠に、大手のメーカのほとんどが、何らかの形でケーブルモデムを展示し、今年から来年にかけて大ブレイクを予感させる勢いである。昨年の展示の中心は、第2世代の非対称型ケーブルモデムと表現していたが、今年の話題は第3世代モデムと呼べそうだ。ただし、標準仕様ができたとはいっても、技術的に進歩しているわけではないので、独自仕様に自信を持つ米Com21社や米テラヨン社などは、MCNS仕様版との両サポートを表明している。
また、昨年との違いで目立ったのが、ディジタルSTBの展示だ。複数のブースでSTBが見られたが、中でもSAのブースで展示されていた米国のシステム「Explorer2000」が目を引いた。

以下に各ブースに展示されていたケーブルモデム製品のデジカメ画像を示す。詳細な情報は逐次追加更新していくので、注意してサイトチェックしていてほしい。(各画像は160×120で表示しているが、実サイズは320×240のJPEGファイルなので、パソコン上にドラッグコピーすれば、もう少し見やすくなるかも?)

フジクラのブースでは、昨年同様、米Com21社のケーブルモデムシステムが展示されていた。江東ケーブルテレビでも実験中のこのシステムは、MCNS仕様とは違う独自のものであるが、ATM技術を採用し、QoSが容易に実現できる優れものである。Com21のケーブルモデム「ComPORT」は、拡張スロットを1基持っており、テレコリターンやパラレルインターフェースなど、様々な機能が追加できるようになっている。その拡張スロットを除いた薄型のモデム(写真中央)もラインアップとして加わった。

フジクラブース[Com21システム]

このCom21のシステムは、フジクラのほかに古河電工、日立電線、伊藤忠が国内の販売代理店になっており、海外製品の中では最もサポートの厚いものとなっている。江東ケーブルテレビでは実験システムとして導入しているが、東京・港区のケーブルテレビジョン東京(CTT)や山梨・甲府の日本ネットワークサービス(NNS)などは正式に採用を決めている。実際に利用している者として、管理ソフト「NMAPS」の日本語版を早期に期待したい。

フジクラブース[Com21システム・センター装置]

NECのケーブルモデムシステム「モデキャット」は、MCNS準拠(ITU-T J.112 AnnexC[日本仕様])の新製品で、既に報道発表も行なわれている。昨年まで展示され、実際に実験に使用していた独自仕様のケーブルモデムは、ビデオデッキ程の大きさであったが、モデキャットは非常にコンパクトでスリムになった。通信速度は、下りmax30Mbps/上りmax4.6Mbpsの標準的な非対称型仕様である。

NECブース[モデキャットCM5500T]

モデキャットの管理端末は、UNIXベースで、ソフトウェアが完全に日本語化されており(当たり前だけど)、このことだけでも、多くの事業者に採用されるの条件となるだろう。このソフトウェアは、HPのOpenViewをベースに構築されており、障害、保守管理や登録機能などが総てGUIで提供されるため、使い勝手は良好だ。

NECブース[モデキャット・ネットワークマネジメントシステム]

東芝のMCNSケーブルモデムシステムは、センター装置とのセットで参考出品として展示されていた。通信速度は、下り43Mbps MAX(帯域88-860MHz)/上り10Mbps MAX(帯域10-50MHz)で、INCA(INcreased CApacity & INgress CAncellation)という技術で上り流合雑音対策を行なうなど、積極的に開発に取り組んでいるようだ。

東芝ブースのMCNSケーブルモデム

マスプロの通信に対する取り組みは、他社と異なる。通常は10-50MHzの上り映像帯域の一部を通信に割り当てるが、同社は650-770MHzに通信専用の上り帯域を設けることで、より上り流合雑音の影響を受けにくい安定したシステムを提供できるとしている。なお、下り通信帯域は450-550MHzを想定している。この550+Rシステム対応として、参考出品で独自仕様のケーブルモデムが展示されていた。

マスプロブース[550+Rシステム]

パイオニアの量産型ケーブルモデムBT-M100は、他社のものに比べてかなり大きく、小型のビデオデッキ並みだ。ただし色と形からは、それほどの威圧感は感じられない。また、電源部を本体に内蔵しているため、ACアダプタータイプのものより電源コードのとり回しは楽だ。
同社のケーブルモデムシステム「SmartLeaf」は、MCNSとは全く別の独自仕様によるものだ。上り通信速度を128Kbpsに抑える代わりに、60CH分の帯域を保証することで、安定した、しかも上り流合雑音にも強いシステムになるとしている。なお、このSmartLeafは、トーメンサイバービジネスが販売とシステム構築をサポートしている。

パイオニアブース[SmartLeaf]

ソニーで参考出品されたケーブルモデムCMR-1000は、MCNS(DOCSIS)仕様で、シスコのUBR(ユニバーサル・ブロードバンド・ルータ)との組み合わせでシステムとして機能する。これは、昨年末に米国ウェスタンショーで発表された、シスコとのMCNSパートナーシップに関する事業の一環となるものだ。そのため仕様は、下り[30Mbps/64QAM、42Mbps/256QAM]、上り[5Mbps/QPSK、10Mbps/16QAM]と標準的なものになっている。ソニーでは、今夏にサンプルを出荷、年末には量産に入るとしている。

SONYブース[CMR-1000]

富士通ブースで参考出展されたケーブルモデムは、モデムきょう体の右側にシスコのマークが入っていることから、ソニーと同様の方法で市場投入するものと思われる。ぱっと見た目には、モックアップのようであった。富士通は、昨年まで独自仕様のケーブルモデムシステムを展示していたが、やはりコストダウンを狙った標準仕様の採用ということなのだろうか?

富士通ブース[MCNSケーブルモデム]

松下電器は、独自仕様のケーブルモデムシステム「CommuniCable」を持っているが、MCNS対応のモデムも展示していた(おそらくモックアップであろうと思われる)。独自システムの方は、センター側の回線制御装置(LCU)と64値QAM変調器、それに加入者宅のケーブルモデムで構成され、LCU1台で最大2000台のモデムを収容できるという。

松下ブース[MCNSケーブルモデム]

General Instruments(GI)のブースに展示されていたケーブルモデム「SURFboard SB1200」は、テレコ・リターンを採用し、ダウンロード時1.5Mbpsの通信速度を実現するシステムだ。米国の場合、市内電話が定額のため、上りに電話回線を利用するケーブルモデムシステムが使われるのは、別に不思議なことではない。このシステムの魅力は、既存のケーブルネットワークを、ほとんど無改修でサービスが提供できることだ。特に古いマンションなどで威力を発揮する。ただ問題は、上りに電話回線を利用するため、ユーザにどうやってコスト的なアピールができるかどろう。

GIブース[SURFboard]

愛知電子は、米国ランシティのケーブルモデムを古くから提供してきたベンダーである。武蔵野三鷹ケーブルテレビやケーブルテレビ四日市などが、第1世代といわれるランシティの対称型10Mbpsケーブルモデムを採用、既に事業化して2年が経っているが、ランシティのシステムもMCNSのDOCSIS完全準拠の製品に移行するようだ。なお、ランシティを買収したBay Networksであるが、6月15日に今度はNorthern Telecomが、91億ドルでBayを買収することを明らかにした。これはネットワーキング分野における過去最大規模の買収の1つと言われ、これによってデータネットワーキング世界の勢力図は、Bay、Cisco Systems、Cabletron Systems、3Comの4社支配体制からNorthern Telecom、Lucent Technologies、そしてCiscoの3社を軸とする構図へと変わるそうだ。

愛知電子ブース

日本アンテナのブースで展示されていたのは、宇宙通信(株)が提供するDirecPCサービス。このダイレクトインターネットサービスは、個人で利用する場合、受信アンテナ、PCボード、ソフトウェアのアクセス・キット(49,800円)が必要。月額利用料は400Kbpsのダウンロードで、データ量150MBで5,500円から、となっている。もちろん上りは電話回線だ。それ以外に、ケーブルテレビ会社が利用する場合のソリューションも提供されている。この場合、海外サイトからのダウンロードが高速になるようだが、それだけでは魅力薄だろう。

日本アンテナブース[DirecPC]

ケーブルテレビの伝送路で双方向サービスを実現する場合の技術的な問題点の1つに、上り流合雑音があるが、集合住宅の双方向化は最もやっかいな問題だ。特に古い集合住宅の場合、規模にもよるが、ケーブルモデムをそのまま接続するだけでは利用できない施設がほとんどである。この場合の対応策として、今までは施設のテレビ系統改修か、Telcoリターンのどちらかであったが、これらにxDSL技術という選択肢が加わった。xDSLは、既存の電話線(銅線)を利用して高速のデータ通信を実現する技術の総称であり、一般には非対称通信のADSLとして知られているものだ。

T&Bブース[xDSL]

ADSLモデムシステムは、米国はもちろん、日本でも注目されている技術であるが、他のシステムに比べて高価なこともあり、国内での大規模な導入事例はこれまでなかった。しかし、通信速度を1Mbps程度まで落とすことでコストダウンを図ったシステムが各社から出そろい、現実味を帯びてきた。
T&Bのブースでは、米国パラダイン社のxDSLモデムシステム「Hotwire MVL」が展示された。上り/下りともに最大768Kbpsの伝送が可能なこのシステムを、集合住宅内の電話配線のみといったクローズドな部分に利用し、集合住宅本体には、ケーブルモデムで接続することで、流合雑音問題を回避することができる。

T&Bブース[xDSL]

宅内の利用者は、ケーブルモデムではなく、電話回線に接続する「MVLモデム」を使ってもらうことになるが、通信路はあくまでケーブルテレビ会社経由というわけだ。担当者によると、ライン単価(1回線当たりの導入コスト)は7-8万円程度になるという。集合住宅問題をどう回避していくかは、この辺もトレードオフの1項目となるのだろう。
住友電工のブースで展示されていたADSLモデムシステム「MegaBit Gear」も同様の用途に向くものだ。こちらは、上り最大640Kbps、下り最大7Mbpsの非対称型であるが、電話回線の品質によって伝送速度が落ちるため、実質的には「Hotwire MVL」と大差ないと見てよいだろう。

住友電工ブース[ADSL]

今回の展示会では、複数のブースでディジタルセットトップボックスが出展されていたが、伊藤忠のブースではSAのExplorer2000のデモを見ることができた。ディジタルならではのMPEG2映像やEPG(電子番組表)のみならず、従来からのアナログ映像受信も可能となっている。また下り30-40Mbps、上り1.5Mbpsのケーブルモデム機能を内蔵しており、これ1台であらゆる情報にアクセスできる、ハードウェア・ポータルと呼べるものだ。近い将来のディジタルな社会を垣間みることができるが、問題は国内におけるディジタル放送対応の遅れと、コストであろう。

伊藤忠ブース[Explorer2000]

World Gateサービスに利用される双方向ホームターミナル(HT)の説明を受けた。見た目はSA社の従来からのHTと同じであるが、ワイヤレスのキーボードが(オプションで)利用できるのが特徴。ヘッドエンドに設置されたサーバシステムを介してインターネットに接続することが可能で、画像やデータの展開処理はサーバシステムが一括して行なう。このためホームターミナル側は、ビューワとデータ送信の機能のみを持った簡易なシステムとすることができ、これは利用者側にとってのコスト低下に寄与するかもしれない。ただし、HT側の負荷を軽減する代わりに、サーバ側へ全ユーザの負荷が集中するので、ユーザ数が増えた時のシステムの安定性に若干の不安が残る。
通信部分については、下り128kbps/上り30kbpsと実用的な速度を確保、電子メールは着信をHT本体のLEDにより確認できる。また、EPGによる番組予約やVODにも対応しており、さらにアナログ/ディジタル両放送に対応しているため、事業者側から見ても魅力的に仕上がっている。

伊藤忠ブース[World Gate]

 

(この項つづく/中村光則)


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