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アップル・ウォッチ

1998年6月8日・最近のアップルのネガティブとポジティブ


予想外の'98年第1四半期('97年10-12月期)の黒字発表で幕を開けた'98年。1月末には噂された通りのクラリス社の解体。そして、2月末のNewton開発の中止と、ネガティブなのかポジティブなのか判断の迷う話題が続く。
しかし、MacOSシステムの販売シェア下落に歯止めがかかっておらず、このシェア低下の影響はアップルを取り囲む業界にも出始めている。つまり全体的に縮小状態にあるわけだ。

例えばソフトウェアにおいては、状来Mac版のみかMac版先行で発表されたDTPや画像処理関連ソフトの大半が、最重要プラットホームをWindowsに移行しつつある。これらは元々Macが強いといわれていた分野である。
販売店においては、アメリカでは大手小売店においてCompUSA一本化が行なわれて話題を呼んだが、これはアップル自身による販売戦略だ(3月に入って、AppleはFry's Electronics内にもミニストアをオープンしている)。
日本ではどうか?Macの販売代理店では最大手のキャノン販売が、Mac市場の落ち込みに伴う大幅な売上減により、先日コンパックとの戦略的販売提携を発表した。もはやMac製品のみに頼る体制では会社を維持できないのである。
'98年2月に開催されたMac World Expo/Tokyo'98では、出展社数、会場規模ともに大幅に縮小された展示会となってしまったが、予想来場者数18万を達成できなかったものの、17万強の来場者があったわけだから、ユーザの支持はそれほど衰えてはいないようにも見える。しかし、IDCによれば、次回のExpoがクリエイティブ・ワールドという、必ずしもMacにこだわらない展示会に変貌していくと説明しているとおり、ここにもMacのみではビジネスとしての限界が見えてきたと言えるのではないか?

Mac関連の雑誌についても同様の状況が起こっている。昨年末より、米Macworld誌と米MacUser誌が統合された。購読者数の減少により、お互いに客を取り合っていては経営が成り立たなくなってきたからである。では日本ではどうだろうか?
MacUser日本語版は、ソフトバンク出版事業部が発行しているが、'98年3月をもって休刊となり、その1年前から続いていたMacintosh Wireという日刊の電子メールサービスに完全に移行した。筆者はMacintosh Wireについては既に定期購読をしているが、MacUserについてはMacintosh Wireとの内容に差が認められないため、もう半年以上購読していなかった。このソフトバンクの決定は、米国版の動きを考えると仕方がないものの、書店でしか購入できない顧客を放棄したほうがビジネス性があると判断したのである。またMacworld日本語版も、同じく'98年3月で休刊となった。その代わりとして、4月からGraphics World誌が創刊され、Macworld関連記事の一部(あるいは多く)が掲載されている。IDCのWorld誌シリーズは、Windows誌やNT誌など相次いで創刊していく中で、Macworld日本版のみ終焉を迎えることになってしまったことは非常に残念である。だが、これも現実なのだ。ちなみに筆者は、Graphics World誌の創刊号は購入したが、内容がMacworld誌とあまりにもかけ離れ、その内容の貧弱さに継続購読を止めてしまった。

'95年をピークにMacのシェアが下降し始め、'97-'98年には、そのすそ野市場にも影響を及ぼし始めている「負の循環(ネガティブ・スパイラル)」は、発散し続けるのか、それとも収束してポジティブ・スパイラルに変わるのか?その鍵は、短期的にはハードウェアとしてのG3システムや販売方法の変更など、現在のJobs暫定CEOの戦略が握っているが、長期的にはオペレーティングシステムがどう進化していくかにかかっている。

アップルの前々々CEOであり、現在は米Live Picture社のCEOであるジョン・スカリー氏は、アップル時代の経営の中で、最大の失敗はMPUにPowerPCを選択したことだと最近語っている。だが、この発言は的外れである。むしろ、氏が最も熱心であったPDAのNewtonが不振だった点を目立たなくさせるための口実と考えた方が正しいだろう。
アップルの前々CEOであったマイケル・スピンドラー氏は、PowerPC601を採用した最初のPower Macintoshを発表したとき、「プリエンプティブ・マルチタスクシステムは、高速なPowerPCシステムにおいては必要ない」として、当時の疑似マルチタスクOSを肯定していた。筆者は、そもそもの間違いはこの時点で始まっていたと考えている。最も理想的な形は、68KシリーズMPUからPowerPCへ移行するときに、マイクロカーネルやプロテクトメモリ、プリエンプティブ・マルチタスクなどのモダンなシステムを段階的にでも導入するか、あるいはラプソディのブルーボックスのような形態をとるべきだったのではないか。表面的にMacのウィンドウシステムであるFinderで覆われていれば、中身がどんなものであっても一般ユーザには分からない。それはいい。だが企業などのシステム管理者が採用する場合は、システムの安定性や信頼性など、OSのコアとなる部分が極めて重要になってくる。GUIの部分で似通ってしまったWindows95との評価で、常に指摘され酷評された部分は、このOSのコアにあたるカーネルに他ならなかったことは、当然であるとともに、我々Macユーザにとって大変残念なことであった。

と、ここまでの話は、実は'98年3月に書いた原稿を一部修正したものである。4月に入って'98年第2四半期('98年1-3月期)も黒字を維持したこと、また北米でのシェアが回復し始めたことなど、流れがポジティブに傾きだした。株価の上昇もそれを表していた。インチュイットの騒動が、再びネガティブに傾くかと思われたが、5月に入って「iMac」の発表と、それに続くWWDCでの「Mac OS X」の発表で、アップルはやっとポジティブ・スパイラルを掴んだようだ。「Mac OS X」は、ディベロッパーに受け入れられにくかったラプソディの、いわばリメイク版のようなものである。ディベロッパーにとってはアプリの移植がし易く、ユーザにとってはMacOSの延長線上として捉えられるこのOSは、頑丈で安定したカーネルと、使いやすいユーザインターフェースを備えたスーパーOSになること間違いなしだ(コープランドのように頓挫してしまったら、逆に最悪の状態になってしまうだろうが)。

「iMac」のコンセプトとデザインはグッドであるし、Mac OS Xもラプソディーよりはるかに納得を持って受け入れられるものだと思う。iMacのコンセプトは、かつてJobs氏が拡張性は不要だとして、世に送り出そうとした最初のMacintoshの時のことを思い出させる。が、「コンシューマーに家電並みの使いやすさ」を考えると、今回のiMacを見れば、Jobs氏のコンセプトも納得がいくものだ。ただし、こういう行動を起こすときは、それなりの条件が揃っていなければならない。条件は3つだ。1つは、初心者にも扱いやすいユーザインターフェースと、頑丈な基本システムを持ったソフトウェア。2つ目は、十分なスペックとパフォーマンスを持ったハードウェア。そして3つ目は、最先端のI/Oインターフェース、といったところか。1つ目のソフトウェアとはOSのことであるが、Jobs氏の示したロードマップが嘘でなければ、Mac OS Xの出荷により、来年末には他のOS同様に頑丈な土台と、現存するOSの中では最も優れたユーザインタフェースを合わせ持ったOSが誕生する。安定性と使いやすさは情報家電の必須条件だ。2つ目のハードウェアとはG3システムのことになるが、速度や反応にうるさいコンシューマーでも納得のいくパフォーマンスを備えている。しかも、生まれたての技術でもあるため息が長い点も重要なポイントだ(少なくとも、Mac OS Xの動作する条件をクリアしている)。3つ目は、既に業界標準、あるいはこれから標準に育っていくと考えられるインターフェースを備えた点である。USB、4MbpsのIrDA、100Base-TXといったインターフェースを指すわけであるが、この中でもUSBは、使いやすさにおいて特に期待されている。一部のヘビーユーザと同様に私も気になっている点として、外部記憶装置のための高速インターフェース(Wide Ultra SCSIなど)を持っていない点があげられるが、このような割り切りが必要なのかもしれない。Simple is Bestを考えると、本体に十分な容量のハードディスクを持てばよいことである。
今回のiMacの発表で批判的な意見がいくつか出ているが、共通している点はキラーアプリケーションが無いことだろう。これは最初にMacintoshが世に出た時の、MacPaintのようなソフトのバンドルを指しているわけであるが、昔と今とでは状況が全く違うという反論も分かるし、それがなければヒットしない!という意見も理解できる。そこでアップルには、8月の発売までに更に増やすとしているバンドルソフトの充実と、発売後にも新興新作ソフト無償提供の期間を設けるなど、付加価値をつけて出荷してほしい(やり方や内容は各国によって違っていてもよいと思う)。

さて、最後にOld Macのアップグレードに関するお話。私の友人が秋葉原の某Mac中古ショップ・祖父地図でPowerBook520cを超特価で入手して以来、パワーアップ計画に躍起になっている。本体購入時、680LC40-25MHz、RAM12MB、HD240MBの貧弱なスペックであったが、まず、同じ店で16MBの中古RAMを6,800円でゲットし、RAMを20MBにアップした(500シリーズはオンボード4MBで拡張スロットは1つのため、増設時にもともと載っていた8MBは使用できなくなる)。ちなみに中古の32MBは13,800円だそうだ。私が調べてみたところ、新品の32MBの秋葉原における相場は2万円前後のようだが、入手が可能なら、はっきり言って安い中古のRAMで十分であろう。
話は戻るが、彼は最近、東京ラジオデパートの地下1階エスカレータ脇のジャンクショップ・123屋で、アップル純正のプロセッサアップグレードカードを28,000円でゲットして大喜びだ。このドーターカードは、PowerPC603e-100MHzにRAM8MBをオンボードで搭載しており、文字通りこれでPowerBook520cがPowerPC PowerBookに生まれ変わる。しかも元々のドーターカードが680LC40-25MHz、オンボードRAM4MBであるため、たった28,000円でRAMも4MB増設できてしまうお得なカードだ。ニューワのNuPowerシリーズも最高PowerPC603ev-183MHzまでアップグレード可能ではあるが、いかんせん新品の相場が11万円前後であることを考えると、どちらのコストパフォーマンスが高いかは明白だ。ちなみに、このアップル純正のプロセッサアップグレードカードは、新品ではあるが、ジャンク扱いのため保証書はついていなかったとのことだ。
彼の今後の520cパワーアップ計画として、RAMの最大容量化(40MB)、ハードディスクの大容量化(純正SCSI-750MBが25,000円程度)、PCMCIAカードモジュールの搭載などを検討中とのこと。これについては、彼からの新たな情報が得られ次第、逐次報告したい。
なお、次回は久しぶりにNewtonについて話をしようかと考えている。Newtonをとりまく環境は、以前とはがらりと変わってしまったが、未だにMassagePad130を使っている筆者の心境や、使いこなしなどをまとめてみたい。

(この項おわり/Mike)


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