Sub Title

アップル・ウォッチ特別版

1997年11月13日・11月10日の発表に対する各紙の反応とその後


米アップルは11月10日(米国時間)、1984年にMacintoshを発表したときと同じ場所である、カリフォルニア州クパチーノ市にあるDe Anza Collegeのフリント・センターで、新型ハードウェア(デスクトップとラップトップ)と、販売に関する新戦略を発表した。ただし、噂されていたのSteve Jobs氏の正式CEO就任(現職は暫定CEO)や、アップル版ネットワークコンピュータ(NC)の発表、そのほか米オラクル社や米ピクサー社などとの合併や提携に関する発表はなかった。

アップルが発表した新型ハードウェアとは、開発コードネームG3またはアーサーと呼ばれる(アップルが9月に買収した米パワーコンピューティング社のMac互換機でも披露された)新型MPU「パワーPC750(233MHZ〜266MHZ)」を採用した、ミニタワー型、デスクトップ型、ノートブック型の3機種である。(なお、アップルが買収したのはパワーコンピューティングのMac互換機部門のみである。また、パワーコンピューティングの発表したG3採用の互換機は、ライセンスの問題で出荷されなかった)

同席上では、インテルの最新MPU「ペンティアム2」を搭載したWindowsNTマシンとG3マックとの比較デモが行なわれ、Adobeフォトショップ上の画像処理などで圧倒的な速さ(処理速度で2-3倍)を見せつけると、会場から拍手がわき起こった(らしい。筆者は直接見ていないので分からないが)。

また、販売に関する新戦略として、インターネットによるオンラインストア「アップル・ストアー」と、顧客の希望に合わせてマシンの注文ができるBTO(ビルド・トゥー・オーダー)システムを本日10日より開始すると発表した。これらの販売システムで購入できる機種は、今回発表したG3マックのみとなっているが、今後拡大していくことは容易に想像できる。G3マックは、カスタマイズが容易なボード設計になっており、BTOに向いているが、来年以降登場する新マックも同様のデザインが採用される。また、G3マックは既存の販売ルートとの並売になるが、摩擦をできる限り避けるため、アップル・ストアーでの販売価格は定価となっている。ただし、配送費用が無料のため、どの地域でも同価格で購入できるのは、大きなメリットである。

このアップル・ストアーは、当面は北米のみの展開となるが、来春には欧州や日本でも開始されるとのことだ。

Jobs氏は、先日発表したCompUSAとの提携による、CompUSA店舗内Apple店舗についても紹介し、CompUSA社長兼CEOのHal Compton氏をステージに呼び寄せ、従来の販売方式においても協力していくことを示した。

今回のアップルの発表には、発表前に株価まで上昇するほど、業界では大きな期待を持って迎えられた。筆者は、G3マックの発表があることは分かってはいたが、それがメインであるとは思っていなかった。アップルの大きな変化、構想などといった、新たな方向性の発表を期待したのだが、それらには全く触れられなかった。最初、今回の発表に落胆したが、次第にそれは間違いであると考えるようになった。Jobs氏の今回の決定は、極めて現実的で、筋の通った、そしてアップルを再生させるに必要な手段の一つを行なっている、と言えるものである。
シリコンバレー在住のベテランPCウォッチャーであるマーティン・マズナー氏は、Jobs氏のことをSPBWAと言っている。SPBWAとは、Strategic Planning By Walking Around(経営方針を歩き回る最中に決める)という意味である。8月以降のJobs氏の決定の数々を考えると、短期的にはよかったとしても、その先が全く見えないことに気づく。そして、それでも、Jobs氏の頭の中には筋の通った戦略があるのだろうと思い、その戦略を推測しようと多くの人が試みる。マーティン・マズナー氏は、そんなJobs氏を痛烈に皮肉ってSPBWAと言っているのだ。
だが、もしそうだったとしても、今回のJobs氏の決定は、収益回復の一手段として有効なものであると、筆者は肯定的に評価したい。

では、業界各紙の反応はどうか?

まず日本経済新聞は、「受注生産とオンライン販売はいずれもアップルにとって初めての試みだが、経営不振に陥っている同社の売上増加にどれだけ貢献するかは未知数」と厳しい評価。株価も結局前日より下がったと報じている。

また、朝日新聞のSilicon Valley Reportでは、「1984年にマッキントッシュを発表したのと同じ場所であるクパチーノ市のフリント・センターで、スティーブ・ジョブズ氏が熱演をふるったが、自身のCEO去就問題や噂されるネットワークコンピュータにはふれなかった」と報じている。

CNETでは、今回のアップルの新収益プランに対し、次のようなアナリストの意見を掲載している。「確かにアップルが取る必要な手段ではあるが、これでは十分ではない」「彼らは実行できるのだろうか?私たちは、目を離してはならないだろう」。また、再販業者との摩擦に対しては、「アップルの流通システムは全体的に混乱していた。今回はその再建策だった」と、楽観的に受けとめている。

ZDNetニュースによれば、この日の発表内容はおおむね予測されていた通りのもので、むしろこれ以外に予想されていた事柄の発表が行なわれなかったことに「アナリストが驚いている」と報じている。しかし、「アップルは当面、今回発表した製品や事業を実践に移すことで手一杯だろう。アップルにとって、カギとなる来四半期を乗り越えるためにも、新事業を軌道に乗せることに集中しなければならない」とも言っている。また、「今のアップルは向こう数カ月間、社内の乱れを整理することに注力すべきだ」とのアナリストの提言も載せられている。

毎日新聞デイリーニュースでは、アップル直販のメリットとして、流通マージン分の利益率アップ、既存の流通ルートとの並売で最適な販売方法の模索(摩擦をさけるため、オンライン上では定価販売)、ユーザの声がダイレクトに届き需要予測がしやくなる、の3点を挙げている。しかし、直販のみで立ち直ることは難しいとし、新しいOSの予定通りの投入や、継続的な魅力ある新規開発が必要と指摘している。

Count Macと共にマックユーザには馴染みのあるAndy Macでは、「期待はずれの発表だった」と報じている。また、来春には日本でも開始されるオンライン販売に対して「日本では混乱が生じ、多くの小売店は消えるだろう。また、今ほどの人員がアップルジャパンには必要なくなる」と指摘している。

一方でMacWEEK/USA誌は、「アップルの新しいG3搭載マシンは成功するだろう」「G3製品の投入と商品流通の変更は、市場での信頼を強化するためにアップルにとっての必要な戦略だ。アップルは必要な場所に足掛かりを築いている」とのアナリストの肯定的な意見を載せている。「この四半期に、G3マシンはアップルに利益をもたらすだろう」。しかし「普通の顧客は、マシンの速度ではなく、値段を気にしている」ともつけ加え、「1000ドルPCが存在する状況で、コンシューマー市場の顧客を取り込むのは難しいかもしれない」と指摘している。また、BTOでアップルは営業コストを削減できるだろうとしながらも、「BTO方式で在庫の問題はなくならない。問題が流通から製造部門に移るに過ぎない。難しいのは、全部品の在庫をいかに確実に揃えるかだ」とも指摘している。
また一方で、PCメーカの大半が50-100ドルの配送料金を請求するのに対し、アップルのオンライン販売が無料配送サービスを提供している点は効果があるだろうと評価している。

最後に、ロイター、毎日新聞デイリーニュースなどの各紙で、10日正午にスターとしたオンライン販売「アップル・ストア」の10日(12時間)の受注が、50万ドルを超えたと発表した。またWebのヒット数は440万以上という。これに対し、Jobs氏は「顧客がアップル・ストアとG3マックに即座に反応してくれたことに興奮している。アップルは新しい方針においても、”thinking different”を実践する」と語っている。

(この項おわり/Mike)


Back