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アップル・ウォッチ

1997年4月27日・MacOS7.6で何が変わったのか


97年3月下旬から日本でもMacOS7.6の出荷が始まった。ハーモニー(開発コード名)と呼ばれていたOSであるが、コープランド(MacOS8)計画がまだ存在した頃に予定されていた内容とは違い、System7.5のマイナーバージョンアップのような存在となっている。look and feelがまったく変わっていないこともあり、Mac関連雑誌では必ずしもアップグレードを薦めてはいないのが現状だ。大半はMacOS8(開発コード名:テンポ)を待つのが賢明との評価を下しているが、早くもアップルコンピュータは、より安定性を向上させたMacOS7.6.1アップデートプログラムを発表している。(MacOS7.6.1は5月1日より無償でダウンロード可能とのことだ)

果たしてMacOS7.6に今すぐバージョンアップすべきか?
筆者の環境で得た経験をもとに、この質問に答えることを試みる。結論から先にいえば、勿論すぐにバージョンアップすべきである。


大きく進歩したサポート体制

筆者が購入しようと決めたのは3月末であるが、なぜ3月末まで待っていたのかは聞かないでほしい。ただ4月1日から消費税が5%にアップするため、何としてもそれまでにと思い立ったのが3月30日。アップルのホームページから申し込み用紙をダウンロードし、必要事項を記入してFAXしたのが3月31日の午前中である。
筆者は漢字Talk6時代(1990年)からのユーザである。当時のOSアップデート方法には、店頭販売という選択肢はなく、アップルジャパンへ申し込みのみであった。信じられないことであるが、申し込んでから2〜3カ月待つのは当たり前だったのである。だから今でもアップルのサポート体制をその程度にしか見ていない。

もう少し話すと、OSの店頭販売が正式に始まったのは漢字Talk7.5からである。なぜもっと早くそうしなかったのか、納得できない点は多いが、ショップでOSを購入できるという当たり前の環境が、Macユーザの手にもやっと得られることとなった。
その後、漢字Talk7.5.1、7.5.3と有償バージョンアップが実施されたが、ここでまた一部(あるいは多くの)のユーザが店頭で購入できなくなるケースが出てきた。つまり、漢字 Talk7.5以前(漢字 Talk7 リリース7.1、漢字 Talk6.x.x 等)のユーザは店頭購入できるが、漢字Talk7.5以降のユーザは、郵便かFAXで直接サポートセンターへ申込まなければならなくなった。この煩わしさで、筆者はこの時期のバージョンアップをWebや雑誌付録のアップデートプログラムのみで済ませている。漢字Talk7.5.3と7.5.5は、OSのアップデートのみならば無償で受けられる方法が採られたからだ。

話をMacOS7.6に戻すが、MacOS7.6も基本的に店頭販売と直接申込の2通りの方法が採られている。店頭販売は漢字 Talk7.5以前のユーザに対してのみで、漢字Talk7.5以降のユーザは郵便かFAXでの申込である。(ちなみに、漢字Talk7.5以降のユーザでも店頭購入することは可能である。ただし、6000〜7000円ほど高くついてしまう)
筆者が3月31日に申し込んでから、3日でMacOS7.6パッケージが自宅に届いたときには、正直いって驚いた。現在アップルのソフトウェアの販売・サポートはクラリスが行なっているが、こうも変わるものなのかと感心してしまった。 筆者は仕事がらWindows95やDOSも扱うが、マイクロソフトやジャストシステムのサポートでも、これほど早くは対応してくれなかったことを考えると、筆者としても前言を撤回せざるを得ない。

例えば、マイクロソフトのAccess2.0からAccess95へアップグレードするとき、Access2.0上で作成したデータをAccess95上へ完全に移行することができなかった。これはデータ・インポート機能が、ある特定の条件下では正しく移行できず、インポートができなくなるという問題であった。しかもまずいことに、Access2.0から95へデータ変換してしまうと、Access2.0形式のデータへ戻すことができなくなってしまう。
これに対して、カスタマーサポートの担当者からは「残念ながらAccess95が対応していません」というつれない回答である。そして別の方法を指示されたが、それでも解決できず、結局あきらめてデータ・インポートの部分は手入力ということになった。これは明らかにAccess95のバグであり、ふざけた話である。Accessのユーザインターフェースの酷さも相まって、筆者がAccessをますます嫌いになったのはいうまでもない。

ジャストシステムの話も面白いので、ここで話しておこう。一太郎7は、リリース2というマイナーバージョンアップで、起動時間を短縮するために常駐型プログラムとなった。この方式は現在の一太郎8でも変わっていない。常駐型は確かに起動は速くなるが、一太郎を使っていないとき、搭載メモリの少ないパソコン(以下PC)では逆に速度の低下を招く。
これが嫌だったので、筆者は一太郎の常駐を解除するために、Windows95のスタートアッププログラム・リストの中から一太郎のショートカットを削除した(Macではシステムフォルダ内の起動項目フォルダの中から、エイリアス・アイコンを削除した、に相当する)。
それ以降、一太郎が起動できなくなったのである。後でよく調べてみると、常駐の解除は一太郎の使用中に、メニューから選ばなければいけないということがわかった。結局サポートセンターへ問い合わせることになり、約1カ月の奮闘の末、何とか解決することができた。
原因は、たった1つのダイナミック・リンク・ライブラリ(.dllファイル)が置き換えられたことによるトラブルだったが、少なくとも筆者がスタートアップの中からショートカットを削除するという操作は、正しいアプローチだったと考えている。にもかかわらず、このようなトラブルが起こるのはプログラムのバグであり、ジャストシステム側の問題といえる。事実、筆者はこの問題の再現性を確認している。

筆者は現在のところ遭遇していないが、アップルに関する問題もとても多いようである。いずれにせよ、これらソフトウェアの問題はユーザに対する迅速な対応と告知がすべてである。アップルのサポートは、スピードという点で第一関門を突破したといえるが、他の点でも他社を抽んでてもらいたい。


はっきりとわかる速度の向上

筆者の環境は、PowerMacではない。680LC40/33MHzのLC630でRAM20MB、内蔵HD240MB、外付けHD240MBという、今となってはかなり厳しいハードウェア環境である。今回、内蔵HDにMacOS7.6をインストールし、外付けHDは漢字Talk7.5.5のままである。LC630のSCSIは低速なので、外付けHDの漢字Talk7.5.5と内蔵IDEドライブのMacOS7.6を単純に速度比較することはできないが、内蔵HDで漢字Talk7.5.5を使っていた時の経験的な体感速度をベースとした。

体感速度はなぜか向上している。前評判は決してよくはなかったし、雑誌でも漢字Talk7.5.5と同程度と評価されているが、不思議と速くなっているのがよくわかる。特に旧型機で効果が出るのは有り難いことだ。具体的には、ソフトウェアの起動時間が若干速くなったが、ディスクI/Oの高速化(ファイルの読み書き)が最も大きいようである。また細かいところでは、共有設定で開始ボタンを押してからファイル共有が完了するまでの時間も改善されている。PPPの接続までの時間も短縮された。ファインダーの操作も以前よりはきびきびとしている。
全体としては満足な仕上がりである。勿論もっと速いにこしたことはないのだが。
MacOS7.6はPowerPCのネイティブ化率が一段と増しているので、PowerMacを使っているユーザは、68040搭載機よりもより恩恵を受けられるはずだ。

MacOS7.6は対応MPUをPowerPCと68040に絞っているが、英語版では68030もサポートされている。そこで試しに68030搭載のPowerBook165cへインストールしてみたが、問題なく動作することが確認できた。ただし「Appleシステム・プロフィール」など機種に依存するソフトウェアは、残念ながら動かなかった。


細かな機能向上

多くの雑誌で取り上げられていることなので、今さら細かく分析しても仕方がないが、2〜3取り上げてみよう。
機能拡張マネージャが新しくなったことはご存じだと思うが、唯一使いやすくなったと筆者が感じる点は、それぞれの機能拡張書類やコントロールパネル書類が、何の目的で使われているのか、その中身がその場で分かるようになったことである。これによって、要・不要をその場で判断できるようになり、システムのメモリの浪費を防ぐことができるようになった。ただ、このような機能がどれだけ多くのユーザに利用されるかは疑問である。

[コマンド]+[シフト]+[3]キーで画面全体のスクリーンショットが撮られることは以前からあったことだが、[コマンド]+[シフト]+[4]キーで任意の画面範囲のスクリーンショットが撮られるようになった。実は、スクリーンショットは意外とよく使う機能で、企業内で教育用資料を作成するときなどに重宝する。その他、何でも好きな画面の必要なエリアのみをPICTファイルに保存できるは有り難い。必要な機会は意外と多いのである。

MacOS7.6をインストールすると、Appleシステム・プロフィールと呼ぶアプリケーションがアップルメニューに登録される。これはPCのシステム状態を調べてユーザに明示するソフトウェアであるが、この手のプログラムは特に新しいものではなく、今さらという感もある。

結局、特に目立つところで向上しているわけではなく、見えない部分で改善・進化しているため、アップグレードの価値を見いだすには実際に使ってみるしかない。マーケティングとして考えると、アップルはこういう部分を改善すべきである。たった1つでも構わないから目立つ新機能を用意すれば、同じものを売るにしても随分と違っていたのではないか。


一方で安定性は?

基本的な部分はなにも変わっていない。MacOSは一枚岩の上に成り立つシステムなのである。下位互換性が徹底して図られたため、多くの制約を背負って現在に至っているが、決して悪いシステムというわけではない。ただ、モダンなOSが備えるプロテクトメモリやプリエンプティブ・マルチタスク機能を持っていないため、マスコミから酷評されている。確かに、単一のアプリケーションを使っているだけなら安定しているのに、複数のアプリケーションを切り替えながら使ったり、メモリを大量に消費するような使い方をすると、システムエラーに陥りやすい。結論をいうと、MacOS7.6になってもシステムエラーの頻度は、漢字Talk7.5.5の時と少しも変わらない。ただし、良くもなっていないが悪くもなっていない。ならば筆者は許せるわけだ。


MacOS7.6は買いか?

冒頭にも述べたが、買いであるといえる。変化は少なかったが、より安心して使えるものに仕上がっているからだ(安定性は変わらないが、速度は向上している)。
それに、間もなく無償配布されるMacOS7.6.1は、システムの安定性が若干向上しているらしい。はっきり分かっていることは、PowerMacでのタイプ11のエラーがほとんどなくなり、代わりにタイプ1かタイプ2のエラーに割り当てられるようになることである。タイプ11エラーは680LC40エミュレーション関連で起こるシステムエラーで、再起動を要求されるためデータを保存することができない。しかし、タイプ1・タイプ2エラーは、エラーで強制終了したアプリケーション以外の、アプリケーションで作成中のデータは、保存することが可能である。その他、数多くのバグフィックスが行なわれたMacOS7.6.1へのアップデートは、MacOS7.6ユーザのみが受けられることとなっている。

MacOS7.6には初めて標準機能となったOpenDocや、高速ネットワークアーキテクチャのOpen Transportなど、従来個別に提供されてきたシステムソフトウェアを、1枚のCD-ROMで手に入れることができることもそれなりに魅力である。また、Apple Internetスタータキットが付いてくるのもうれしい。スタータキットには、Netscape Navigator 3.01 [ja]やクラリスメール Lite1.1が入っており、単体で購入すれば、5,000円以上するパッケージである。さらに、電話回線を使って遠隔地からApple Talkネットワークに接続できる、Apple Remote Accessクライアントが標準で添付されるようになっている。これも以前には7000円程度で単体販売されていたものである。
漢字Talk7.5以降のユーザで9,000円、漢字Talk7.5以前のユーザで15,000〜17,000円程度のアップグレード料金だから、実質の出費は割安になっており、満足に値するものと筆者は考える。


次の主役、MacOS8

次のアップグレードは「テンポ」の開発コード名で知られるMacOS8である。以前はMacOS7.7とされていたが、米AppleはPowerPCネイティブのコープランド・ファインダーを採用したOSとなるため、MacOS8と呼ぶことを正式に決定した。目玉はマルチスレッドの新ファインダーである。多くの雑誌で既に紹介されていることなので、ここでの説明は省略させてもらうが、気になる点は68040搭載機がどの様に扱われるのかということだ。
大幅な機能強化のなされた新ファインダーは、負荷もそれなりに高くなるため、最低でもPowerPCが必要といわれている。最悪のパターンは68040MPUが見切られることであるが、68040ユーザが未だ多いことをアップルは忘れてはならない。少なくとも、MacOSについては、68040MPUをサポートすることで、安心できるPowerMacへの移行期間を、ユーザに与えて欲しい。

(この項おわり/Mike)


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