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フランス語圏仏教学:基本参考文献+研究 tips 集

 以下、2〜30年前にフランス語圏の仏教学とかかわりをもったという特殊経験(??)に基づいて、「基本参考文献+研究 tips 集」のようなものを少し書いてみようと思います。

 まず古典インド学関係で何か分からないこと、調べたいことがあったら、最初に当たるのが
1) indeclassique picture
です。これはたしか日本語訳もありましたね。1950〜60年代の世界最高峰の学者たちが短くまとめたインド学基礎知識がいっぱい詰まっています。第3巻は参考文献だけの巻になるはずだったのが、結局は出ないままになってしまったものです。索引がないのがとても残念ですが、各項目が短く、目次が項目ごとに並んでいるので、検索にはそれほど苦労しません。第2巻の仏教の部では、中国仏教、仏典に関して Paul Demieville 先生が執筆していて、内容は基本的なことだと思いますが、それでもいまでも役に立つことがいろいろ書かれています。

 インド学関係でもう一つ、多分ちょっと珍しい本だと思いますが、とてもありがたいのは
2) litteraturesanskrite picture
という本です。これは日仏会館にありました。辞書形式の本で、サンスクリット文献の題、著者名、用語などを短い項目で説明しています。古いですが、簡単な参考文献もついています。

 これも多分わりと珍しい本でしょうが、パーリ語の仏教基本用語をフランス語で説明した小さい辞書形式の本:
3) termespali picture
というのも、仏教の勉強をはじめたころはとても頻繁に使ったものでした。

 インド学関係の小百科事典として、時々役に立ってくれるのが、
4) R. N. Saletore, Encyclopeadia of Indian Culture, New Delhi, Bangalore, Jalandhar, Sterling Publishers, I-V, 1981-1985
という本です。正直言うと、学問的にどのくらい信頼できるものか、あまり確かではないのですが、ぼくみたいな初学者にとって、出発点としては十分意味があると思います。

 古典的な神話については、言うまでもなく、
5) E. Washburn Hopkins, Epic Mythology, 1st edition Strassburg, 1915, reprint Delhi, Motilal Banarsidass, 1974
および
6) Macdonell, Vedic Mythology, 1st edition Strassburg, 1898, reprint, Delhi, Motilal Banarsidass, 1974
が基本ですが、もちろん通読できるようなものではありませんね。

 もう少し通読可能なものとしては、
7) Doniger O'Flaherty, Hindu Myths, Penguin Classics, 1975
というのがあります。これはプラーナ文献などもカバーしており、注に参考文献が挙げられているので便利です。でも、もちろん「一般読者」向けのもので、採り上げられている神話もあまり多くはないと思います。


 仏教「スコラ」哲学の基本用語で分からないことがあったら、
8) kosa picture

9) siddhi picture
の索引を引いてみるのがひとつの「手」です。[1]は倶舎論の仏訳、[2]は成唯識論の仏訳です。両方とも索引があるので便利です。たまたま関連の語句が見つかれば、勉強する暇さえあればとても役に立つことが多いと思います。

 ラ=ヴァレ=プーサンの翻訳は、「普通の翻訳」とはまるで違います。原文と突き合わせてみても、ちょっとやそっとではいったいどこを訳しているのかも分からない、という感じです。にもかかわらず、「よくよく」眺めていると、そのうち徐々に分かってきて、ええ? これがそういう意味だったの。。。! と「目からうろこが落ちる」ような経験がよくあります。もっとも、そのためには相互参照されているところをひっくり返してみる、とか、別の仏教辞典を見る、とか、相当の苦労を覚悟しなければなりません。それでも、うまく理解できれば苦労のかいがあると思います。

 ラ=ヴァレ=プーサンに比べると、ラモット先生のものはすごく分かりやすく、使いやすいです。最大の業績は、いうまでもなく『大智度論』の仏訳ですね。
10) daichidoron picture
書きかけの本の一節を引用すると

鳩摩羅什(彼自身がシルクロードのオアシス国クチャ〔亀茲〕の王家の血筋を引いていた)は、西暦紀元四〇二〜四〇六年の約四年間に、長安で『大智度論』百巻を訳出した。この百巻のうち、はじめの三十四巻および第四十九――第五十の二巻(全体のほぼ三分の一に相当し、大正蔵の組み版ではあわせて二七〇ページになる)を、二十世紀の世界の仏教学の最高峰の一人、ベルギーのE・ラモット氏が、一九四四年から一九八〇年の三十六年間かかって厖大な注を付し、全五巻、二四五一ページの書として仏訳している……。

 これはまさに、一種の仏教大百科辞典として使えます。索引がないのが残念なのですが(索引を作る、という話もあるようです)、使い方としては、まず大正蔵の索引の『大智度論』に当たる部分(第13冊)で目的の語句を探し、それが『大智度論』第34巻までにあることが分かればもうけ物! そのページに該当するページをラモット先生の仏訳で見つけ、その語句に注がついていれば、もうしめたもの、です。とくにラモット訳の最初の2巻あたりの注が圧巻です。注の多くは、『望月』に基づき、それにパーリ語、サンスクリットの文献の知見を加えたもの、という感じだと思えばいいでしょう。でも、なにしろフランス語なので漢文の読み下しを読むより何倍も分かりやすいです。

 ラモット先生の翻訳には、ほかに『維摩詰経』の訳、『首楞厳三昧経』の訳、『摂大乗論本』の訳などが有名です:
11)~13) lamotte3titres picture
 どれも詳細きわまりない注が付されており、仏教語彙/仏教思想大辞典的に使えます。『維摩詰経』仏訳は多分英訳もあったと思います。

 ラモット先生のもう一つ有名な業績は:
14) histoiredubudd picture
と題されたインド仏教史です。これは、残念ながら大乗の起源、という一番重要な章の直前までで終わっていますが、考古学の知見なども含み、基本参考文献のひとつです。これも英訳があったはずです。

 ラ=ヴァレ=プーサンとラモット先生は、今世紀を代表する仏教学者に数えられると思います。両方とも超人的な学識の持ち主で、文献に対する忠実さという意味でも驚異的なものがあります。どちらかというと、ラ=ヴァレ=プーサンの方が視野が広く、インド学プロパーの業績、あるいは密教に関する業績などがあります。ラモット先生は、初期大乗仏教、あるいは中観派哲学の専門家、と言った方がいいでしょうが、ラ=ヴァレ=プーサンのあまりにも簡潔な記述に比べて、ずっと分かりやすいですし、全部分かるまで調べる、そして調べたことはすべて記述する、という態度が徹底しています。

Posted on 98/07/23~98/07/27: Nifty:FJAMEA:11:00221~00245 by 弥永(GGA03414@nifty.ne.jp/n-iyanag@ppp.bekkoame.or.jp


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