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微生物と非科学
2005,2,21
「確かに重金属が減っていくんです。これは質量保存則では説明できないものです。」
ある堆肥化促進微生物の説明を受けた時の担当者の言葉である。
「ダイオキシンが半減するのです...120℃の超高温でも生育できます...」
と謎めいた言葉が続き、説明のいたるところに"科学では説明できない"、"微生物の学会では取り上げてもらえない"と発言していた。
そして極めつけは
「言葉(報告書)では説明しきれないので実際に見に来てください。」
である。
私がほしかったのは客観的な分析データである。重金属やダイオキシン類のサンプリングが正しかったか、120℃の高温に達する経過などで、できれば標準区を設定した比較調査があれば非常に画期的なものであったと思った。
世の中にはなんら科学的根拠もないのに、目の前の"現象"だけを捉えて不思議がらせる手法がある。彼らは大概"科学では説明できないもの"と説明する。仮に科学者と名乗る人がこのような言葉を発した場合、このような人を"似非(エセ)科学者"とも言う。
少なくともまともな科学者ならば、
「確かに私の実験ではこうなりました。しかしエネルギー保存則に反するので何らかの手違いがあったのかもしれません。」
「○○理論に反しているのですが、何度も追試験をした結果であり、××研究所でもこのような結果が出ているため、○○理論の更なる検証が必要と思われる。」
というようかなり控えめな発言になるはずである。後者の場合で○○理論を否定しているのは、少なくとも○○理論が質量保存則やエネルギー保存則ではなく、完全に説明し切れていない最近の理論であることが条件である。
このように科学とは検証に検証を重ね、ゆるぎない理論を積み重ねてきたものである。途中である理論に少しでもほころびがあると、すぐにそれを崩してさらに強固な理論に置き換えていく。
似非科学者といわれる人は徹底的な検証を行わず、すぐに"科学では説明できない"といってしまうものである。科学的に説明するよりも、この一言で済ませるほうがはるかに楽である。なぜならば一連の研究は数年から十数年はかかってしまうからである。そして無残にも失敗することもある。
さらに似非科学者は実験手法を公開しなかったり、詳細なデータを開示しない。まともな科学者であれば例え失敗した実験であっても、極めて客観的な考察と共に発表する。とにかくやったことは全て見せることが基本である。また、失敗事例を出すことにより他の科学者からの批評をもらうこともできる。
また、ある実験結果が全く偶然であることもありえる。偶然であるから、ある確率の元では何度も重なることもある。つまり何度検証しても同じような結果が出るということである。統計学的には無制限に試行すればほんの少しの違いであっても差が出てくることもある。しかし検体数が極端に少ない場合は、何回かの結果が同じになってしまうこともあるし、一方が他方よりも多くなったり少なくなったりすることもある。
例えばダイオキシン類の分析だが、この物質の存在確率はきわめて低く数ppt(数兆分の1)オーダーであり、かつ1検体の分析費が数万円から数十万円と高価である。よって通常は2〜3検体しか分析できない。それが上がった下がったと一喜一憂するのは滑稽である。それにここまで濃度が低いと2倍程度の違いは誤差範囲になってしまう。しかし似非科学者にかかると
「ダイオキシンが半減するのです...」
となってしまう。
確かに白色腐朽菌を初めとしてダイオキシン類を分解する微生物は発見されている。ただしそれらは厳格な条件で実験が実施されている。例えば、サンプル物質はダイオキシン類というような漠然としたものではなく、2-PCDD、2,3-PCDD 、1,2,3-PCDDというように単体のダイオキシンで、濃度も1ppmと極めて高濃度である。ダイオキシン類分解微生物は、ある特定の塩素配列のダイオキシンのベンゼン環のうちの、ある特定の部位のみを切断する酵素を生成する。それ以外にPCBやDDTなど人体に有害な物質で難分解性のものを分解する微生物も発見されているが、やはり分解する分子配列の位置などは決まっている。微生物は極めて科学的に合理的に仕事をするものである。
ところで私は、ある極めて不思議な実験を目にしたことがある。
この実験は科学者が行ったわけではなく、何度も話をしたことのある面識のある人が行ったものである。その人は、そんな実験で私を騙しても何の特にもならない。このような素人が行った実験だったから、なおさら真実味があって不思議であったのだ。
ペットボトル(2L)に水道水がたっぷり入っており、蓋が閉まっている。その中には水だけではなく"米ぬか"とある種の"微生物"が入っているという。米ぬかは水に溶けないので時間が経つと下に沈む。それを蓋をしたままおもむろに振ると底のほうから泡が多量出でてくる。彼に言わせるとその微生物が米ぬかを分解して、一瞬のうちにガスを発生させたという。
その微生物とは"EM菌"である。
ガスではないのだが、高効率のエタノール発生微生物は、RITE(財団法人 地球環境産業技術研究機構)で研究されている。この菌はRITE菌といわれており、ある条件で瞬時にエタノールを発生させ、このエタノールは燃料電池等に利用できる。まさに廃棄物(バイオマス)を燃料とした小型発電装置である。なにせペットボトル程度のリアクターで十分なエタノールを得ることができるそうだ。しかしまだまだ実験レベルで、実現までに10〜20年かかるそうである。
それが10〜20年後の近未来ではなく、EM菌の力により私の目の当たりでガスが瞬時に発生した。
これはあくまでも推測なのだが、米ぬかに付着しているでんぷん(でんぷんは極めて分解しやすい有機物である)がEM菌の中のある種の微生物の出す酵素により強力に分解したとも考えられる。
EM菌で有名な比嘉教授がどんな方かは分からないが、(古い著書を読むと微生物に関してはかなり知見のある方と思われる)EM菌の中にこのような"仕掛け"を入れておいたとも推測される。その仕掛けはある特別な状態において特定の物質のみを協力に分解するというものである。(もしこのような巧みな仕掛けが考えられるのならば比嘉教授はある意味ではまっとうな科学者なのだろう)
ところで微生物に関してはまだまだ分からないことが多いらしい。
超高温や超低温で生育するもの、高圧でも大丈夫であったり、酸の中で生きたり...
特に興味のある微生物は"超貧栄養"の中で生育するものである。この微生物は極度に養分の少ないところでしか"生育できない"。つまり寒天培養を行おうとすると死滅してしまうのである。どんなところに住んでいるかというと、全く栄養のない(最低限水分は必要である)臭いだけで生きていく。つまり空気中のわずかなアンモニアを餌として生きているのである。自分の回りのアンモニアがなくなるとアンモニア濃度がさらに薄くなり、当然回りから流れ込むということで彼らは生きているのである。このような微生物は発見がかなり困難であるらしい。
微生物の世界は非常に不思議なものであり、まだ科学的に解明されていないものも多いと思う。しかし、例え目の前で不思議な現象が起こっていても"科学では説明できないもの"としてしまうのではなく、何らかの"仮説"を立て説明することが必要なのではないだろうか。
それを「不可思議」なものとして疑いもなく信じてしまうのは、大変楽なことには違いないが。